64……炎の変容。融けて世界がひとつになる。

 炎の中で、良く知っている唇を涙ながら重ねた。もう口づけしか考えられなくて、強請るように腕を首に巻き付けた。ユラユラとぼやける業火の中、ティティは告げた。


(このまままた、一つになりたい、ここで、して)

(きっと炎が隠してくれるさ。神に反逆してやろうか)


 炎の中、一瞬でイザークはティティに入り込んだ。霊体同士。互いに肉体を覚えている。透きとおる交わりはどこか不思議で、炎の色をしていた。


 灼熱になったイザークを受け入れたティティインカの髪が空間でふわりと舞い上がる。

 繋がって、とろけて。

 融けて、溶けていくその様は、黄金の変容を思わせた。


(はうん……そう、これ……あたし、何度も貴方を想って、した……)


 自分で自分を慰める。誰か相手が欲しいなど思わずに要られた。あの日に受けた灼熱の愛。罪人だけが持つ、炎に中を焼かれて、全てを預けた。

 赫と黒だけの世界で、貴方と愛は透けた虹色――。


『足元、みろよ』


 無数の星屑が瞬いている。それはぽん、と小さくはじけて大気に消えてゆくのだが。


(ティティ!)

(不思議……あたし、大人になったはずなのに……甘えたくなるなんて。ねえ、世界がひとつになってるよ)


(俺と、貴女が結ばれているからな)



(すごいね……結ばれるって。お互いの世界がひとつになるんだわ)


 しかし、逢瀬は一瞬だった。


「きゃあ!」声と同時にティティは突如起こった磁気嵐で業火から引き剥がされた。


『無闇に世界を繋げられては困る。罪人アザエル、諱を利用するなどもってのほかだ。その上、汝らは神の世界で交尾をする。許せたものではない』


(マアト神!)マアト神は無間の大地で、イザークを引き摺り堕ろすと、剣を向けた。


『永遠に、鳥籠へ。裏切り者と一緒に吊るし、永遠に滅す』


「いや! イザーク! イザーク――っ!」

***


 テネヴェの崩れた床。サアラの姿はない。全ての諱が綺麗に剥がされたオベリスクは元通り、マアト神を湛えるべく、白銀に輝いていた。本来の慰霊碑の役目に戻った白銀のオベリスク。前でティティは、声弱く、名を口にして、ふらふらと立ち上がる。

 辺りにはマアトの黒翅だけが舞い散っていた。

 絢爛豪華だった宮殿は見る影もない。


「サアラさま? イザーク? ネフトさま……」


 無人の神殿にティティの声だけが響く。(誰もいない)ティティは泣き崩れた。

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