63……神に背いて永遠に

 喉が焼け付きそう。声帯が裂ける程、念を込めた呪声ヘカに見えぬ眼が反応する。ぼんやりと人影が炎になって揺れた。炎はイザークの容の火影になった。薄れた向こうに灼熱の空が見えた。


 ――ティティ?


 炎が揺れた。ティティは赤く融けた光炎に頭を撫でられた。


「イザーク! ううん、イホメト! わたしを引き寄せて。そっちへ行きたいの」


(業火の中イザークが腕を伸ばしている。もう飛び込める近さ……逢いたかった)


「今、行く! そっちに、行きたい」絞り出した声の背後。心の奥底で声が響いた。


〝彼は、罪の逃げ場所にきみとの恋愛を選んだに過ぎない〟


〝本当に?〟〝愛している。真実かどうか、測ろうか――……〟


 突如マアト神の声が炎を揺らした。ティティは小さく蹲った。


「わたし、行けない……だって、神さまが……わたしたちの愛を拒絶するの……」


 ティティは腕を伸ばせなかった。ほんの一瞬の緩みに、無数の翅が降ってきて、イザークとティティの間を遮断した。マアトの翅が、大きく膨らんで大気を埋め尽くす。


(マアト神の翅! イザーク、埋もれていく!)


「ティティ、ティティインカ――っ! 邪魔、すんな!」


 イザークは翅を掻き分け、ティティに千切れるほどの勢いで腕を伸ばした。ティティも手を伸ばした。(指先、触れる)業火が喉を鳴らすティティの頬を焼き、イザークの腕をも焼く。でも焼かれても構わない。サアラの牽制の腕が伸びてきた。


「ティティインカ、引け。マアトにはまだ敵わぬ!」


「うああああああああああああ……ティティ、もうちょっと、だ……。今更なんだ。神になど負けるか。俺は悪でいいさ! 良い子になって神に可愛がられるよりいい!」


「お願い、邪魔をしないで! お願い、あたしたちを認めて! マアト神!」


 イザークの二の腕が伸びてきた。「――ッラァ!」勢いよく引き寄せられた。懐かしい感触。サアラの腕が消えた。炎に捲かれて、もう永遠に離れたくない――。

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