52……イザークの欠片を探して

 ティティのコブラ頭はボロボロになった。撫でてくれる手はもはやない。

 涙は出なかった。泣かせてくれるのは、イザークだけだから涙なんか出やしない。


 クフは背中を向けた。また、笑っている。


「邪魔な兄は消えた。これで国は僕のもの」


 ティティはズカズカと歩くと、手を振り上げた。頬を叩かれたクフは驚き、ティティは涙目で世界を見つめた。


「イザークを取り返しに行く。マアト神は言ったわ。奪いに来いと」


「そう」とクフは肩を竦めた。ティティに悪の福音を囁いた。


「アケト・アテンとの戦いが始まる。テネヴェにて、呪術師の職を与える。いつまでもここにいたいなら、そうすればいい。戻らない罪人

アザエル

の男を信じ、黒い翅を抱き締めて。つがいを探していればいい。僕は忙しいんだ」


***


 ティティはいつまでも、太陽のない、月のない空の下で消えたイザークの面影を追った。決意が出来るまで。空が、明るくなるまで。オベリスクに寄り掛かり、一歩も動かなかった。数日経つと、根負けした様子のクフが自ら迎えに来た。


「強情を張りますね。これでは、僕が悪人みたいでしょうが。望みは?」


「過去を、知りたいの。ここにはイザークの欠片がある。紐解いて、神から取り返すの……それには、このオベリスクを」


 倒れ込んだティティをクフが抱き留めた。


「面白い。裁かれた罪人

アザエル

を捜しに行くって? 呪術師を生かせ。なんとしてもだ」


〝俺のことでいっぱいになっていれば、悪意なんぞに負けねえ。貴女は強い女性だが、時にヨロヨロするからな。……体、きつくない? 途中から夢中で〟


(もうヨロヨロしないわ。支えてくれる腕がないもの。夢中にさせる貴方がいない)


「我の姿を見た人間は天秤にかける。それが神と人との古き約束だったな――」



 神の謎の一言と共に、ティティの少女時代は終わりを告げようとしていた。





 ――『愛しているなら、奪いに来い。――天秤の前で、待つとしよう』――




愛を貫く王子と宝玉呪術師は、古代神に反逆する!第一部 完




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