第7章:天に聳えよ テネヴェ――― オベリスクⅡ――

49……鮮血に染まるオベリスク

 多神教の礼拝堂は静寂。何日の夜を一緒に越えただろう――。

 その度にイザークの存在に救われて。気付いて時間を見送る。ずっと続くと信じてる。


***


「イザーク、お風呂、入りたい」


 ティティは手を繋いだまま、イザークを窺った。お風呂、と言えど、水浴びだが、呪術者には欠かせない。体に纏わり付く邪気を落とすためだ。


「風呂? ティ、クフに頼んでやるが、クフはオベリスクを何とかしろと言ってくる」


「やるわよ」短く告げて、ティティは真っ直ぐに世界を見詰めた。


「この問題が片付いたら、父母を追うの。合流したら、今度こそ兄に文句を言いに行くの。国から出てって貰いたいわ」


「俺との結婚はどうする。テネヴェか、それとも、ラムセスを追い出し……俺は王になるつもりはないから、テネヴェもアケトアテンもご免だが」


 さらりと告げられて、ティティは心ごとかちんと固まった。今度はぶくぶくと熱いマグマが迫り上がってくる。ティティの髪の反り返ったコブラの尻尾をイジリながら、イザークはしゃあしゃあと続けた。


(昨晩の余韻が……わかってて言ってるんでしょうね。驚かせたみたいだし)


 塩湖に映ったイザークの横顔は、凛々しく、見惚れている前で口元がニヤとなった。


「俺のことでいっぱいになっていれば、悪意なんぞに負けねえ。貴女は強い女性だが、時にヨロヨロするからな。……体、きつくない? 途中から夢中で」


「うん、大丈夫みたい。まだ驚いてる感じはするけど、落ち着いて来た」


 イザークはゆっくりと足を止めた。赤いオベリスクは光に当たり、鮮血をより浮き上がらせていた。


「ティ、全部終わったら、世界の商品を見に行かないか。地域で生活も違えば、作られるものもそりゃあ違って面白いもんだ」


(和ませてくれてるね)ティティは大きい手に指を差し込むようにして、強く力を込めた。手首と手首が自然と触れ合う。うん、この繋ぎ方のほうが、より近くていい。


「ん、楽しそう。小芝居して、まんまと商品を手に入れるイザーク」


 たわいない談笑は、やがて打ち切られた。イザークは、神殿の前に立つ神官たちに歩み寄っていった。

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