42……神の畏怖に塗れたもの

「電気を灯せ。呪術師に、テネヴェの秘密を見せてやろう」


(でんき?)聞き覚えのない言葉に耳を疑っていると、王座の後の壁が動き、光が当てられ始めた。しかも、神への干渉もなく、耀が部屋を満たし始めた。


(テネヴェは室内に光を起こせるの? 信じられない……え)


 ――これは、なに。


 時代に不似合いな加工品

オーパーツ

。電気の前には、火影と思いきや、真っ赤なオベリスクが聳えていた。巨大なオベリスクは天を衝くように真っ直ぐに伸びていた。


 外で見えたオベリスクだ。階段を少しずつ昇り、近づいていた事実に今更気付く。


(赤く錆び付いたような色。こんな不吉なオベリスクは見た覚えがない。マアト神のオベリスク? 見つければなんとかなるって、イザークが言っていた)


 イザークはまだむっつりと腕を組んだまま、言葉を発する素振りを見せない。


「マアト神の名を刻んだオベリスク。幾人もの術士が解こうとして、皆がオベリスクとなった様子です――衛兵、その男に刃を向けておけ。邪魔されるも厄介だ。呪術で御身を。イアと言ったか」


 ティティはイザークを振り返った。いつもなら抵抗するが、その素振りもない。「行けば?」の威圧の態度。


(何よ、らしくない。わたしは戻りたくても神殿に戻れないのに、ばか。でも、離れるの怖いな……)


「どうしてイザークに剣を向けるの?」


「保険です。貴方にはある呪術を解いて欲しい。だが、そいつは邪魔をする悪魔だ。だから、牽制を。殺さないだけ有り難く思えばいい。貴方が命令を聞かぬなら、すぐにでも兄は死ぬでしょうね。ちょうどひとしずくで死ぬサソリの毒を試したかった」


〝でないと、殺されたさ。これから逢う人間に、言葉は通用しねえよ〟


 イザークの弱気な呟きを思い出した。そうだ、イザークはこと、クフ王に関してはいつもの強気を発揮しない。でも、イザークが縛られていては、いざとなった時――。


 不安に捲かれ、考えた挙げ句、「らしくない」とぽそっと呟いて、ティティはクフに向き直った。


 らしくない、はティティ自身へ。でも、そうしないと、イザークがどうなるか。

 ティティは手をぺたりと床につけた。らしくない態度を取った。


「行くから、イザークの縄を解いて。お願い。言うこと、きくから。サソリなんか止めて。なんでも、言うことを聞くから」


 窺いながら仰ぎ見たクフの顔は忘れられない。

 斜め上にある表情は人の情など感じられない、神の畏怖に塗れたものだった。

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