その4 おっさん会議継続中

「今の私からのお願い2件はまだ試案だ。実際は議会の委員会を通してからではないと正式な決定は出来ない。でも心づもりだけはしておいてくれ」

 アトラスティアは王国であり国王の政治的権力は大きいが、でも絶対的では無い。

 三権のうち司法権は裁判所にあたる判定院が持っているし、立法は議会と国王による連帯責任だ。

 ちなみに行政は国王及び各領の領主(公爵から男爵までの貴族)の担当。

 そして他勢力の領主の自領併合や王家構成員の婚姻は予算と同様に立法に準じる扱いとなり、議会に設置された委員会を通す必要がある。

 まあ国王が立案した件について否決されることはあまり無いようだけれども。

 そんな訳で考えるというか覚悟を決める時間は残されているようだ。


「でもその前に、まずは明日の議会ですね」

「そうだな。ナールセスやアマルテア派もそれなりの準備をしておろう。逃げ出していなければだがな」

 国王ルティは頷く。


「議場内までは魔法でお連れ出来ますが、議場そのものでは魔法を使えません。議場への出入りは無論厳重に行われているでしょうが、王弟が敵である以上、その気になれば小型の暗殺具程度は持ち込めない事は無いでしょう」

 例えば小型の毒矢等だ。

 大体は魔法で予知して防げるだろう。

 万が一の際も私の魔法で毒を除去あるいは分解出来る自信はある。

 でも物事に絶対は無い。


「わかっている。だが奴らも魔法禁止になっている議場に入れる魔法があるとは思ってはいないだろう。まずは議場内に入る前に仕留めようとする筈だ」

 確かにその方が楽だ。

 議場だとどうしても証拠は残るし。


「出入りを止められない時点で諦めてくれればいいのですけれどね。無論私も姿を消した上で別空間から警戒しますが」


 国王ルティは頷く。

「それで充分で、それ以上は不可能だろう。念の為に勅書を2通作成してある。ナールセスとタシロの訴追に関するものだ。いざ儂が倒れても、これで議内に蔓延るアマルテア派も一掃できよう」

 全く国王陛下というのは大変な仕事だよなと思う。

 まあ今回はできる限り手を貸すつもりではあるけれど。


「当日はまず、私と陛下だけが向こうへ移動して、議会でひととおり済んだ後、安全を確認した上で皆さんを王宮へ帰すという手筈でいいでしょうか」

「それが一番安全だな。王宮よりここが安全だろう」

 私もそう思う。


「そもそもどうやって一家ごと捕まったんですか」

「寝ている最中にいきなり移動魔法で独房に移動させられたからな。良くわからないというのが本当のところだ。後宮部分の魔法無効魔法陣の幾つかを何らかの方法で無効化したのだろう。そうとしか考えられない」

「ならその辺の方法論がわからなければ、王宮全体も安全な場所ではありませんね」

「ああ。だから出来れば安全が確認出来るまで、私以外の王族はここで匿っていただけると助かる」

 長めにペンションをキープしておいて正解だったようだ。

 後で食事の件についてオーナーと話しておこう。


「それでは明日はここの時間で9時20分に私と国王ルティで移動。議会開会直前に国王ルティに姿を現して貰うという予定でいいですね」

「ああ、その辺は夕食時に皆に話しておこう」

 国王ルティはそう言ってつまみを口に運ぶ。

 今目の前にあるのはガーリックチーズパン。

 フランスパンにガーリックバターをのせて焼いて、チーズをのせたものだ。

 オーナーがサービスでささっと作ってくれたものだが、なかなか美味い。


「ただ、この世界にいると向こうに帰りたくなくなるな。なんと言っても食べ物が美味い。この酒もつまみも美味いしな」

「アトラスティアが無事落ち着いたら、月に一度くらいはお土産を持って伺いましょうか」

「そうしてくれると有り難い。皇太子シャープールもジーナに色々頼んでいたようだしな」

 そう言えばジーナ、大体の時は皇太子のいる処に付いていたからな。

 昨日のDVD鑑賞時間にも作業をしながら2人で色々話していたし。

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