第185話 10階層ボス戦2
どれくらい時間が経っただろうか。俺ともう一人の俺も地面に転がったままぼんやりとしている。何もないところにいると時間の経過もよくわからないということを初めて知った。時計を確認するとまだ15分ほどしか経っていなかったのだから。
「これはあれか…死ぬ覚悟がないと願いは叶わないってやつ?」
まあどっちしにても帰りたいのならもう一人の俺を倒すしかないんだろうが…自分を殺すとかほんと簡便してほしい。
「健太とファーナさんも同じ目に合っているのかな…」
だとすると俺だけ帰れないとかやばいんじゃねぇか? 色んな意味で。俺は体を起こしもう一人の自分を眺めた。ひどい顔をしている。今実際に俺がそんな顔をしてるってことだ。
「あー…痛いんだろうな」
短剣でちょっと頬を切っただけでも結構痛かった。そう思うと短剣で切りつける気にはなれない。震える手をぎゅっと握りしめ震える膝を押さえつけ俺は立ち上がる。
「はぁ…『プチメテオ』!」
ランダムに降り注ぐ魔法をぎゅっと目を閉じ俺は避けることをやめた。見てしまうと逃げたくなってしまうからだ。ジュッとたまに肌が焼ける感触を我慢する。ちょっと火傷をするだけだ…それだって治癒の杖で直せばいい。ほんの少し痛みに耐えればいい。
「ぐぅ…っ『プチメテオ』!」
魔法の切れ目にちらりともう一人の自分を見たが相変わらずひどい顔をしていた。肌が焦げる匂い、髪が焼ける匂いが漂う。今までこのダンジョンで倒してきた魔物たちが頭の中にちらつく。生き物を殺すことの残酷さを身をもって知る。相手が殺しに向かってくる以上倒さなければこっちがやられるだろう。倒すことが出来なかったゴブリンを思い出した。
「まだ…か『プチメテオ』!」
思ったよりも俺は頑丈なようだ。治癒の杖の回復効果が切れてしまった。後はリュックに入っている数本の回復剤しかない。それを取り出すためにも魔法で割られないようにするためにももう目は閉じていられない。
目の前のもう一人の自分が目に入った。火傷が痛々しい…俺が一気に倒せない結果だ。ちゃんと回復して痛くないはずなのに見ていると自分が痛い気持ちになってくるから不思議だ。もう目はそらさない…
立っているのがつらそうに見える。でももう一人の自分は必死に立ち続けている。なら俺が座ればいい。そうしたらもう一人の自分も座れるから。
「『プチメテオ』…」
そろそろ終わるだろうか…布で出来た服がもうボロボロだ。もちろん俺もおなじだけどな。
「あ…」
すーっと視界が白くなっていく。いや…もう一人の自分が消えていってるのかもしれない。色々考えさせられたな…なんかちょっとだけ悲しくなった。また元の真っ白な空間に戻ると目の前が眩しくて目を開けていられなくなって、俺は目を閉じた。
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