第183話 ドーナツ

 ここはどこだろうか? 10階層へ移動したことは間違いないはずなんだけど…そもそも真っ白で何も見えてないのか無いのかわからない。最初に移動したケンタもいないし後から来ているはずのヨシオもいない。


「ケンター ヨシオー?」


 私の声が響くだけで他に音は聞こえない。聞こえないというのは間違いかな。私が動くたびにぶつかり合う装備の音くらいはしてる。


「『罠発見』…」


 どうやら罠はないらしい。どのくらいの範囲がわかるのか知らないんだけどね。移動するたびにこまめに調べれば問題はないからいいと思う。それよりも現状どうしたらいいのかわからない。なんで2人はいないのか。なんで私は1人なのか…


「とりあえずおやつ食べよう」


 9階層のボス戦の前にも食べたけどね。考えてもわからないんだしおやつ食べてもいいよね。仕方ない仕方ない。あーでも後これ1個で終わりか~ 私はまんまるいドーナツを指で挟み持ち上げ眺める。まあまたケンタに貰おう。


「あ…っ」


 ドーナツがーーーっ 手が滑って落としてコロコロと…


「きゃっ」


 ごつんと私の頭が何かにぶつかった。頭を押さえ顔を上げると目の前には私がいた。ドーナツに手を伸ばすと目の前の私も手を伸ばす。


「…え?」


 なにこれ。私ってば私とドーナツの取り合い?? どういうこと? というかいくら私が相手でもドーナツは譲らないよ!

 私は弓を構え数歩下がる。もちろん相手も同じように動いた。どうやらドーナツは譲るきはないらしい。弓に番えた矢を私は放った。相手も同じように放つがそれはもちろんわかっていたので横に飛んで躱す。流石私同じ動きをする。躱されてしまった。


「ぬぬぬ…」


 でもよく見ると相手の矢は飛んできていない。そうか…私の矢は鞄の中にある。動きはまねできるけど鞄の中身はまねできていないのね。あくまでも相手はただのまねっこ、ということはどんどん矢を撃ってしまえばいい。


「ドーナツは渡さないんだからねっ」


 私は次々と矢を放つ。1本2本3本…相手の矢が飛んでこないとわかっていてもついつい躱してしまう。あーもうっ わかっているのに何でよけちゃうかな! 相手に攻撃を通すには私が避けちゃダメなのに…


「あーもうっ 『罠設置』!」


 相手の目の前に罠を出した。これで私が1歩前に出れば落ちるはず。


「よし…っ」


 これで同じ動きされても問題なし。私が上から矢を撃てば相手も下に向けて矢を撃つはず…ね? あたりだ。なら遠慮なく確実に狙って私は相手の体に向けて矢を放った。


「こふ…っ?」


 何これ…血が胸から口から…熱くて痛いっ 目の前が歪んでかすむ…だんだん目を開けているのがつらくなってきて最後には何も見えなくなった。

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