血の意味(11)

 エクセリオンのショルダーカノンが咆哮し、ゼビアルのフォトンブレードがそれをエネルギーの奔流に変えていく。近距離でのリューンとクリスティンの戦闘は次元の違いを感じさせ、割って入る気持ちなど起こさせないほどだ。


「くだらねえ理念なんか掲げてねえで俺に勝ちたいって言え! その欲こそがてめぇの原動力だって思いたくねえだけだろ!」

 リューンは相手の深奥に無遠慮に打ち込むような言葉を紡ぐ。

「違う! 私はっ! 人類の平和を願っているだけだと何度も言った!」

「ああん? 平和のために余所の惑星ほしを穴ぼこだらけにして、平和のために俺を殺すってんのか? どんな理屈だよ!」

 クリスティンの粉飾が鼻について仕方がない。

「神ではない以上できることには限りがある! この天賦の才を秩序に捧げるのがライナックというものだ!」

「そんなお上品なもんかよ! 戦気眼せんきがん持ちなんぞ、戦場でこの暴力装置アームドスキンに乗って殺し合うしかねえ役立たずじゃねえか!」


 時差で放たれた左右のショルダーカノンを順に叩き斬り、ヒップカノンで拡散ビームを浴びせる。命中するもエクセリオンは素早く機体を横滑りさせて、ビームコートの蒸散と装甲表面を焼かれるだけに留めた。

 ゼビアルのフォトンブレードが更に装甲へと切り傷を増やしていくが、間合いが近いだけビームブレードによる擦過傷も多い。二人の機体は同時に装甲内に封入されている冷却ジェルの白い蒸気を隙間から噴出させる。


「ぬうああぁー!」

「おぉらぁー!」

 力の限りの斬撃が二機の間で激突。


 リューンが切り返したブレードで右の手首を刎ねる。クリスティンは気にせずに切断面で殴り付けてきた。

 腕で外へと滑らせながらそのまま肘を打ち込む。衝撃でショルダーカノンの射線はずれ、ビームは上空へと流れる。残った右手の手首を返して斬り上げるとエクセリオンの胸部に斜めに斬線が刻まれた。


「墜ちろー!」

「負けて堪るかー!」


 左のショルダーカノンを放つと同時にエクセリオンを加速させ、射線にブレードの突きを重ねてきた。ビームを斬り裂けば、勢いを失ったフォトンブレードは弾かれて突きが機体に届くだろう。

 リューンは僅かにゼビアルを横に流し、ビームがショルダーガードの先端を焼くに任せる。そして、差し向けた右の爪から力場を伸張させた。刃は首の根元に突き刺さり、頭部が後方に回転して落ちる。


「これで終わりだぜー!」

「まだぁ!」

 左の爪に形成されたフォトンブレードがコクピットへと伸びる。輝線は感じているだろうがモニターはまだ死んだままのはずだ。

「くおぉー!」

「クリスティン様ぁー!」

 黄緑色のオルドバンが真ん中へと割って入ってくる。

「邪魔すんなぁー!」

「ぐはぁっ!」

 フォトンブレードは鳩尾辺りを貫いている。


 コクピット直撃ではない。少し下だが悲鳴を聞いた限りではかすめているようだ。リューンは突撃して右のブレードを袈裟に落とし、イムニのオルドバンを斜めに斬り裂く。しかし、エクセリオンが抱きかかえて移動した分だけ浅いと感じた。


「イムニぃー!」


 コクピットの上部が切り取られて中が露わになっている。最初の一撃で緩衝アームの基部が破壊され、次の斬撃で床に放り出されたようだ。

 衝撃でヘルメットのバイザーが割れ、ひどく流血している。全身も強く打っているだろうと思われた。

 クリスティンは細心の注意を払って副官をコクピットから救い出している。鳩尾への攻撃でオルドバンはいつ誘爆するか知れない。


「さっさと何とかしろ」

 オレンジ髪の少年は一旦矛を収めている。

「続けんぞ」

「早く治療しないとイムニが死んでしまう」

「そいつだって覚悟の上だろうがよ」

 共用回線には涙声が流れてきていた。

「もうたくさんだ……。私の負けでいい。命の恩人の彼を喪いたくない。見逃してくれ」

「だがよ」

「ゼムナ軍は撤退させる。この紛争から手を引く。約束する」

 リューンは大きく息を吐くと舌打ちした。


 行ってしまえとばかりに右手を振る。クリスティンは感謝を口にすると、即座に機体を反転させた。

 エクセリオン敗北の衝撃が戦場を支配する中、ゼムナ軍全体に撤退信号が走り、全機が戦闘を中止して帰投していく。ゼフォーン解放軍XFiでも、経緯を見ていたダイナ将軍から追撃不要の命令が放たれた。


 アルミナにおけるゼムナの援軍の戦闘は終焉を迎えた。


   ◇      ◇      ◇


 ゼムナ軍の撤退でアルミナ戦線のほうも戦闘が終了し、軍は防衛ラインを大きく後退させていった。それから三日経っている。


「『アルミナ紛争において、当該国の主張はゴート講和条約に一部抵触していると確認された。これによって我らゼムナ軍は援軍派遣を中止し、撤収することを決定した』だって」

 艦橋ブリッジのシートにふんぞり返っているリューンにフィーナは情報パネルの内容を読み上げる。

「体裁を整えたってやつだ。艦隊には公式文書作成専門の役人も乗ってたんだろ」

「大国となると取り繕うのも大変よねー」

「だが、それが大人の政治というものだからな」

 横でパンに嚙り付いていたヴェートが解説してくれる。


(まあ、いいや。お兄ちゃんの完全勝利だもん。機体ゼビアルは結構ボロボロだったけど)

 帰投時は少し心配したが中身は無傷だった。


「一山越えたってところかしらね?」

「ああ、あとは王制府の馬鹿どもを締めりゃ終わりだ」


 兄は意地の悪い笑みでエルシに応じていた。



※ 次回更新は『ゼムナ戦記 神話の時代』最終第十六話「破壊神のさだめ(後編)」になります。

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