惑乱のアルミナ(12)
中破して帰投する友軍機に、ガラントの一家を乗せた車輛を託して旗艦ベゼルドラナンへと届けてもらう。離脱の援護をしながら飛び上がるとナビゲーションとともに通信が入った。
「ゼムナ軍が到着しちゃったよ、お兄ちゃん。敵部隊約400」
カーソルの方向にゼビアルを振り向かせると遠く進撃してくるアームドスキン部隊が見える。
「来やがったな。
「かなり追い出したよ。時間が経つごとに市民からの抗議が殺到して出ていくしかなかったみたいだけど」
「そりゃそうだろうよ」
土台無理な作戦である。
「おっさんの家族の受け入れを頼む。
「気を付けてね」
ビル上の狙撃手を沈黙させつつ移動する。オイドレ市上空の制空権も奪取した状況でゼムナ軍が襲来した。
「都市を盾にするなど貴様はライナックなどではない!」
ビームと罵声が飛んできた。
「うるせえぞ、腰ぎんちゃく。きゃんきゃん吠えたって怖ろしくもねえ」
「その愚弄、命であがなえ!」
「黙れって。何でこんなことになってんのかアルミナ軍に訊いてもらえ、そっちの坊ちゃんにな」
更に騒ぎ立ててくるが無視する。エクセリオンの挙動は状況確認のようなので突っ込まないでおいた。
「司令官はゼフォーン軍に押し込まれてのことだと言っているが虚言だろうな。それならばもっと市街地に被害が出ているはずだ」
こちらの司令官クリスティンは冷静に分析している。
「閣下?」
「熱くなるな。我々は公正でなくてはならない」
「申し訳ありません」
返事にも苦渋が混じっている。
「だが、ここで戦いたくないものだな。市街が近すぎる。北の荒野に移動を頼む」
「無理言うなよ。まだ潜んでやがるのに背を向けろってんのか? そいつは連中に言ってくれ」
「もっともだ」
リューン自身は転進する。クリスティン率いる軍相手にオイドレ市上空で戦闘する気にはなれない。誘爆させないよう加減が必要になる。
「リューン君、情勢は変化した。今ならば講和の道もある。この大陸から退いてもらえないか?」
風向きは読めているらしい。
「聞けねえな。講和っていっても相手は実質四家だろうが。信用できる相手に見えんのか? だとしたら節穴だがよ」
「否めない。それでも戦場を大きくするよりは建設的な選択肢だ」
「てめぇの都合を押し付けんじゃねえよ。こいつらは現体制が維持される限り、安心して眠れるなんて思ってねえんだって」
事なかれを通されても、何時ぶり返されるか分からないでは困る。
在アルミナ大使の選任や監視団の派遣などの提案があるが、四家はその程度で黙る玉ではないと思っている。とても首を縦には触れない。
「こいつは戦いたいだけなのです、閣下。説得など無理かと」
「お前みたいな弱い犬の相手ばかりなら楽なんだけどよ」
「ほざいていろ。閣下のご高配を無碍にしたのを後悔させてやる」
北側に回り込むゼムナ軍に応じて
力任せに叩きつけられたイムニのオルドランのブレードを撥ね上げる。円弧を描いて走らせた斬撃は後退して躱され、放たれたビームを左のフォトンブレードで微塵にした。
エクセリオンからのビームも大剣で両断すると水色を目指してペダルを踏み込む。左下から滑り込ませた閃光は打ち落とされるが、その間に小剣の刺突を頭部へと送り込んだ。
首を振って躱したクリスティンはショルダーカノンを放ってくる。
「厄介な!」
有効な砲撃の加わったゼビアルに苦慮するクリスティン。
「面白くなっただろうが」
「戦闘を楽しんだことなど無い」
「はっ、本能に抗うなよ。牙を剥け、牙を! 英雄とか祭り上げられて鈍ってんじゃねえのか? 俺らは戦うしか能のねえ野獣だぜ!」
紳士面の相手を煽り立てる。
「違う! ライナックはそんなんじゃない!」
「違わねえよ! この身体は武器以外の何でもねえって分からねえか?」
その時、上下左右からゼムナ軍の二―グレンが迫る。イムニもエクセリオンを擦り抜けるように前に出てきた。彼の作戦だろう。
上からの斬撃に大剣を向けて絡ませる。左の刺突を小剣で弾くと、機体をひねって右の敵機のコクピットを狙う。だが僅かに逸らされ首を貫くに留まり、グリップを掴まれた。
「今だ! やれ! これで終わりだ!」
下からの斬撃を防ぐ手段はないと思ったのだろう。
「やられっかよ!」
「なにぃ!」
リューンは小剣からあっさりと手を放す。ゼビアルの前腕の両側面に装備されている
そこから発生したフォトンブレードが下方の二―グレンを両断。大剣で左の敵機を薙ぐと、上の敵は拡散ビームで撃破した。
「貴様ぁ!」
「今度はお前だ」
イムニと斬り結ぶ。
「待て!」
オイドレ市の中央に炎が大きく広がっている。アルミナ機が相手を誤って誘爆させたらしいとクリスティンが告げる。
「市長からゼムナ軍にまで抗議が来た。停戦して救助に向かうぞ、イムニ」
「りょ、了解です」
「ダイナに退かせる。勝手にやってろ」
もう一人のライナックは感謝だけを告げてきた。
◇ ◇ ◇
「ガラント!」
「殿下!」
エムストリが呼び掛けると壮年の宙士が駆け寄ってきて抱き締められる。抱擁からは彼を心配する気持ちが伝わってきた。
「お詫び申し上げます。心細い思いをさせてしまって」
「構わないよ。大事なのはこれからなんだ」
王子の成長を喜ぶように力がこめられた。
※ 次回更新は『ゼムナ戦記 神話の時代』第十五話「破壊神のさだめ(前編)」になります。
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