戦気眼VS戦気眼(8)

(部隊の展開が遅いな)

 現場指揮官やパイロットの内心の迷いを読み切れなかったクリスティンはそう感じるだけに留まっていた。

(先陣を切って敵にダメージを与えるか? 無理はすべきじゃないな。相手の練度を考えれば万が一もある。そうなれば士気は回復できないほど落ちるだろう)

 彼自身も動くに動けないでいる。


「閣下、皆は迷っています。剣王を退けられなかった状況を怖れているのです」

 副官からの個別専用回線だ。

「しかし、それは……」

「はい。予定通りの行動ではありました。が、それを知らない者には不安材料になってしまったのです。自分が離されて完全に一対一になったのも良くなかった。状況次第では閣下でさえ抑え込まれると思ってしまったようです」


 本来はイムニが随伴機を牽制しつつ剣王と接触する計画だった。ところが彼も抑え込まれてクリスティンを孤立させてしまったのが良くないと訴えてくる。


(相手を強者と意識させてしまったか。侮るのはもっての外だが必要以上に怖れるのも良くないな。ここは示してみせねばなるまい)

 表情を引き締めてみせる。徐々に濃くなるターナミストにウインドウの画像は不鮮明になっていくが意図は伝わったようで副官も頷いた。


「全軍、敵を討て! ゼムナ軍の正義を知らしめよ!」

 出力を高めて発信した指令は各機が中継して全体に染みわたる。覇気が甦ってくるのが感じられた。

「お見事にございます、閣下」

「茶番だが効果はある」


 クリスティンにはもう一つやらねばならなことがある。実際に剣王リューン・ライナックを下して見せ、自分こそが真のライナックだと知らしめなくてはならない。

 威勢そのままに接近してくる銀色のアームドスキン、パシュランを撃退、可能なら撃破するのがベストだろう。ただ、彼の内では本当なら確保して、実際に対面で話してみたいという思いも募っていた。


「やけにのんびりじゃねえか。怖気づいたのかよ」

 当の本人は人の気も知らずに突っ掛かってくる。

「侮ってもらっては困るね。勝ってみせねばならないと思っていたところだよ」

「抜かしやがる!」

「大口でないと見せねばな!」


 言葉とともに放ったビームは下に滑ったパシュランの頭上を通過。両手に薄黄色い長大なブレードを握った機体は接近戦に持ち込もうと迫ってくる。

 そこへエクセリオンの両肩のバルカンを浴びせて出足を止める。さすがに全ては躱し切れないだろうしブレードを振るう速度にも限界があるだろう。

 大きく間合いを外したパシュランにカノンインターバル明けの一射をくわえる。左に流れて躱したが、そこにはイムニが待ち構えていた。


「図に乗るなぁ!」

 初撃を躱されながらもブレードを合わせる。

「貴様のようなはぐれ者と真なるライナックでは格が違うと知れ!」

「そのはぐれ者に一杯食わされといて偉そうに言うんじゃねえよ」

「戯言を!」


 結んだ左のブレードを下へ払われたイムニは砲口を突き出す。それはリューンが拳甲で押し上げ、ビームは上方へと流れていった。

 斜め下からの斬撃を弾いて逃がすも、上から左のブレードが落ちてくる。パルスジェットが一斉に光を放ってぎりぎりで後退して避けた。

 やはり接近戦では分が悪いと感じる。そう思った瞬間、パシュランが右へと流れ、残像を貫くように細い狙撃ビームが襲い来る。


「同じ手を食うか!」

 イムニは予想していたようにジェットシールドで弾いている。

「同じ手だと思ってるとまた引っ掛かるぜ」

「なんだとぉ!」


 待っていたかのように敵の編隊が滑り込んでくる。それも先の戦闘のオレンジ色のジャーグ二機だけでなく一機を加え、更に鮮やかな緑のジャーグ二機までが追加されていた。


「大盤振る舞いだぜ。将軍ダイナ本人を抜いてダイナ隊が勢揃いなんだからな。喜べよ!」

「ぐうぅっ!」

 重なる連撃に副官は苦鳴を漏らす。

「イムニっ!」

「おい、てめぇの相手は俺だろうが?」

「むぅ、どうもそういう運命らしいね」

 挨拶代わりの二連撃をブレードとジェットシールドで弾く。

「そんなドラマみたいに小奇麗じゃねえぞ」

「ああ、実戦は泥臭いもんさ」

「分かってんなら付き合えよ」


 パシュランの頭部、スリットの奥のカメラアイが爛々と輝いているように見える。少年は自分を活かせる戦場に生きがいを感じているのかと思わせた。


「リューン君、恨み言に命を懸けるのは建設的ではないと思わないか?」

 ブレードが噛み合って火花を散らし、ビームは虚空を貫いて流れていく。

「検証はできていないが君の言ったことは筋が通っている。それが本当なら別の道があるんじゃないかと僕は思っている」

「血ぃ流さねえ方法があるってか?」

「考えてみたことはないのかい?」

 ビームがジェットシールドを削り、腕の反動を使った斬撃がエクセリオンの脇腹を削る。

「あいつら見てみろよ。必死だろうが。抑圧されてそれを跳ね返すのに全部を賭けてんだよ。燃え尽きても構わねえと思ってんだよ」

「同情の余地はある。何とかしたいと……」

「同情なんか求めてねえんだよ。自分で勝ち取らなきゃ気が済まねえところまで来てんだよ。俺が肩入れする気持ちが分かんねえか?」


 剣王は怒りの深さを僚機になぞらえて伝えてくる。自分こそが力を示して打ち壊さなければ終わらないというように。


「分かんねえなら叩き潰して教え込んでやるよ!」

「君はぁっ!」

「閣下ぁー!」


 ブレードを競り合わせつつ砲口を肘で逃がしたパシュランが膝を入れようとしている。衝撃に備えたクリスティンは、銀色のアームドスキンの頭部が薙ぎ払われるのを見た。応援部隊に敵編隊を任せたイムニがリューンの背後から襲い掛かったのだ。


 頭部の上半分を失ったパシュランは一瞬固まった。

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