本星決戦(6)

 多くの人間が運動している場所を、大きな男が群れを成して走っている。気になったペコは横並びに走ってみたがあまり興味を示されない。


「なんか見られてるぞ」

「邪魔だからあっちに行け」

「絡んでくるようなら蹴ってやるか」

 どうも邪険にされている。

「やめるんだぞ、馬鹿ども。それは剣王のペットだ。下手なことをしたらボコボコにされちまうからな?」

「ですが小隊長、相手はパイロット組ですよ? 陸戦隊の俺たちがやられるなんて」

「その甘い考えを改めろ。あいつの反射神経は人間離れしてる。そのうえ喧嘩慣れしてるから、壊さない程度の人間の痛めつけ方まで熟知してるぞ」


 この人間は以前、別の群れが挑んで負けたのを知っているらしい。それ以来、この大きな人間の群れはご主人と喧嘩しなくなった。


「ワン!」

 良く知っている人間を見つけた。時々遊んでくれるデイビットという人間。

「リューンは元気か?」

「ワンワン!」

「よそで遊んでもらうんだ、ペコ。訓練中はピリピリしてるから」

 ひと際大きなデイブだが、優しく押しやってくる。

「クゥン?」

「また遊ぼうな」

「ワン!」


 ご主人と一緒の時なら遊んでくれそうなので諦めてそこを離れる。


   ◇      ◇      ◇


 隣にある大きな部屋へと向かった。そこにはテーブルがいっぱいあって、人間もいっぱいいる。食べたり飲んだりしている人間が多く、和やかな時が多い。


「お? どうした、ペコ? 独り歩きしてるのか?」

 話し掛けられた。ご主人とも仲の良い、優しい触り方をしてくれる人間の一人だ。

「ワン!」

「珍しいな」

「いつもはリューンかフィーナのところにいるのにね。あんたも犬が好きなのを嗅ぎつけたんじゃない、ダイト」

 男のほうはモルダイト。女はアルタミラだ。

「こいつには匂いを嗅ぐ機能も付いているのか?」

「エルシが作ったんだよ。かなり高性能なはずさ」

「ワンワン!」

 抱き上げられた。匂いセンサーはそれほど優秀じゃないけど、σシグマ・ルーンを着けている相手なら位置情報は拾える。

「あー、ペコだ! なんでー? お腹……、は減らないか」

「そりゃそうさ。ロボット犬なんだから燃料電池で動いているんだろう?」

「ですよね? それにしてもよくできています」


 別のテーブルにいた人間も寄ってきた。全員がご主人とよく一緒にいる仲間の人間。ミントにピート、フレディがペコに触ってくる。

 可愛がってくれるチェスカやペルセの顔も見える。囲まれて楽しくなってきた。はしゃいで何度も吠える。


「夏のペコは冷たくて気持ちいい」

 ペルセに抱き締められる。

「ずるい。私にも抱かせてよー」

「うん。順番」

「ほんとに気持ちいい」

 チェスカのふくよかな胸に包まれ、ペコも気持ちがいい。

「クウゥン」

「ペコは可愛いね。ご主人はあんなに可愛くないのにね?」

「リューンに可愛さを求めるのが間違いさ」

 どっと笑いが起こった。

「でも、チェスカが一番構ってもらえてる。不公平」

「でっ! い、要らないもん、そんな贔屓! ペルセにあげる!」

「ペルセはあまり構ってもらえない。駄目な子ほど可愛いっていう。わたしが優秀だからいけない」

 チェスカは一瞬何を言われたか分からずに呆けたがすぐに気付いた。

「私は駄目な子じゃない!」

「チェスカは偏ってるしー」

「ミントまで!」

 押しの弱さが頼りなさに見えるとか、戦闘中でも敵が逃げ腰になると命中率が下がるなどとからかわれている。


 和やかな雰囲気に楽しくなったペコは、いつもフィーナとしている遊びを披露する。テーブルの上のクッキーを咥え上げるとペルセに差し出した。理解した彼女はそれを口で受け止め、そのあと撫でまわしてくれる。接触センサーの伝えてきた感触に快感を覚えて強く頭をこすりつけた。


「ワンワン!」

 同じ遊びを求められて女性陣全員にクッキーを配り終えるとテーブルを飛び降りて別れを告げる。

「リューンのところに行くの? じゃあね」

「ワン!」


   ◇      ◇      ◇


 広い場所をお決まりのコースを辿っていく。そこにはペコと同じくご主人が大事にしている機械がある。銀色の巨大な人の形の機械。パシュランと名付けられているそれを見上げた。


「ペコ」

 持ち上げられたが、誰だかは分かっている。フランソワだ。

「リューンならさっきまでいたけど汗を流しに行ったよ。追いかけてみな」

「クゥーン」

 ご主人の居場所は分かっている。遊びに来ただけなのだ。


 大柄なフランソワだが、ペコのような機械の扱いは非常に細やかで優しい。彼女が自分を調整してくれたあとはとてもボディの動きが軽やかだ。なのでペコもフランソワが大好きだし、時々こうして甘えに来る。


「会いに来てくれたのかい。ありがとう」

 撫でると同時に各所の関節の具合も触っている。

「悪いところは無さそうだねぇ。でも重力下だと負荷が掛かるから二週間置きくらいには調整したほうがいいさね?」

「ワフン」

「いい子だね。あー、あっちに悪い子がいるよ」


 ここでよく見る少年がスキンスーツを着た少女に追い掛け回されている。騒がしい声の発信源はこの二人らしい。


「わたしのルフェングも見てくれるって言ったじゃない!」

 喚いているのは確かネイツェという、元は同じ集団にいた少女。

「見てるって! 一機に関わっている時間が短いだけだから!」

「そんなこと言って、あの美人のジャーグばっかり触ってるんでしょ!」

「こら、ピスト! 格納庫はデート場所じゃないよ!」

 フランソワの怒声が飛ぶ。

「ひぃ! 違うんですってばー!」


 彼女の声はどこか楽しそうで、本当に怒っていないとすぐに分かった。

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