破壊神のさだめ(前編)(6)
まともな反撃はできていない。白い機影を確認したのも数度に留まり、組織的な攻撃など不可能な状態に置かれている。
「5番、9番、11番機は遮蔽物を利用しつつ撤収しろ」
隊長は中破した僚機に後退を命じる。
「誰かあの白いアームドスキン以外を見たか?」
「確認できておりません!」
「自分もです」
(一機、なのか? 確かに
基本的には友軍機のはず。
(なぜ攻撃してくる?
作戦上、
「あ? うおお! そんな馬鹿なー!」
アームドスキンが隠れられるようなサイズの氷塊が磨かれたかのような断面を見せて割れる。その陰に居た3番機は左腕と左の脚部の半分を失っていた。
「3番、下がれ! 確認、請う! こちら、ガルドワ軍近衛艦隊所属S15部隊!」
指示と同時に攻撃機へと呼び掛けを行う。
「我々は貴官の攻撃対象ではないと考えられる。直ちに攻撃を中止し応答願う!」
様々な部隊回線で試みるも応答は得られない。
反応が特務艦隊だった場合を考えて偵察及び離脱のために部隊行動をしていたが、僚機は一機また一機と中破させられて後退を余儀なくさせられる。これ以上の損害は離脱も困難になるであろう状況に隊長は判断を強いられた。
「撤退する。全機離脱しろ」
決断を電波に変えて部隊回線へと流す。
「探索を打ち切って艦隊司令の判断を仰ぐ。警戒しつつ後退」
「了解」
応答確認をしている間にも小さな爆炎を認める。ビームカノンかジェットチャンバーの誘爆だろう。
隊長機はイオンジェットを噴かして加速すると反転した。隊員の離脱支援のために両手に握らせたビームカノンを最前まで不明機が居たと思われる方向へと向ける。
「来……る!」
側方から感じたプレッシャーに従い、ビームカノンを指し向ける。
「ちっ!」
ビームは白い影だけを貫いて虚空へ。残像だ。
「ぐおっ!」
白い閃光が行き過ぎると球面モニターがブラックアウトした。
「ここまでかぁー!」
頭部を失い隙だらけの状態。無念に咆哮する。
しかし、機体各部のサブカメラが合成映像を作り出した頃には視界を埋めているのは元の氷塊だらけの宇宙空間だけであった。襲撃してきた不明機の気配さえしない。
(生き残ったのか。なん……だったんだ?)
自分の荒い息遣いと背筋に感じる冷や汗の感触が夢などではなかったと証明してくれる。
隊長機は慣性のままに所属艦のほうへと流れ、僚機が収容してくれるまで身動き一つできなかった。
◇ ◇ ◇
特務艦隊旗艦フロスゴーの
距離は
「微弱な
待ち侘びた通信士の報告が届いた。
「遭遇戦か。ザナストも偵察部隊を入れていたのだな」
「敵対者の
「監視を続けよ」
存在を察知されたくなくとも慌てて離脱しようとすればジェット光を放ってしまう。見つけてくださいと言っているようなものだ。ここは沈黙の一手である。
ただし、現状だけは極力把握しておく必要がある。そのためにエイボルンは状況が終了するまで艦橋に詰めているつもりだった。
「イオンジェット光! 接近してきます!」
「まだ動くな。アームドスキン隊発進準備」
憮然とした面持ちで指示する。
「
「確認急げ。レーザースキャンは打つな」
「急速接近! 位置、把握されてます! 映像出します!」
微細な塵の混じった灰色の氷塊を縫うように接近するアームドスキンが2D投映パネルに映し出される。その機影は全体に白い色をしていた。
(リヴェリオンだと? どうして近衛の偵察部隊を襲った?)
頭には疑問しか浮かばない。
「指示あるまで迎撃待て」
敵対はしてこないはずだ。
「回線開け。真意を問う」
「回線、繋ぎます」
伏兵の警戒中かとも思ったが、それなら近衛の部隊とは敵対すまい。だとすれば目的はおのずと知れてくる。
「クランブリット宙士、何か?」
接続の表示を確認してから問い掛ける。
「挨拶だなぁ。お礼くらい期待してたのに」
「偵察隊の撃退は本艦隊のためだというのか」
「見つかるわけにはいかないでしょ? どうせ何か運んでるんだろうし」
図星を指される。
「援護には感謝する。だが、討伐艦隊での立場を悪くする行動は避けることを勧める」
「心配しなくたって僕を外すのは無理ってものだよ。君たちがあいつらに渡した破壊の槍の所為でね」
「警戒されるなと言っているのだ。我がほうと通じていると知られないほうが動きやすいだろう」
乾いた笑い声が聞こえてくる。
「ラーナもオービットもそんな間抜けじゃない。とうに警戒されてるよ。僕の意図が読めないだけ」
「必要以上にという意味が分からないか?」
「なら、早くホーリーブライトと接触しなよ。そうすればこんな面倒な手妻は要らなくなる」
「言われなくても考えている」
パネル内の少年は肩を竦め「頼むよ」と言った。それと同時に白いアームドスキンは身をひるがえす。
(あんな少年だったか?)
報告書との印象の違いが彼の中に引っ掛かりを生む。
少なくともエイボルンの好まざるタイプであるのは間違いなかった。
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