機動要塞ジレルドーン(6)
「分析出ました。やはりT7824小惑星のようです。基部に当たる岩塊形状が、記録されていた小惑星の形状の一部と87.4%一致しています」
(どっちからの提案だったのかまでは判然としないけど、元からこの要塞を建造する計画があっての移送失敗事案だったってことね)
父レイオットから聞いていた懸念がここにきて浮上してくる。
(資源を欲するのは艦艇やアームドスキンの建造に充てるという推測もあった。でも、三年以上も前からの計画ってことは、或る程度は
そう考えるのが順当だろう。
ジーン・メレルの離反やゼムナの遺志の介入は明らかに計算外だとしても、この局面を実験の場とするのは規定事項だったのだと思われる。もしかしたらプロト
(或る意味成功しているのよね。トニオが失われたから、ザナストに本来
「もっとも油断する時……」
思わず漏れ出してしまう。
「はい? 何でしょう、閣下」
「あ、いえ……、こちらのことです。計算結果はまだですか?」
「今出たところです」
艦長のマルチナが反応したのを別件で誤魔化したが、データを待っていたのも事実である。
「調査段階の試算埋蔵量から算出したT7824小惑星の資源量と、保有戦力及び外観から試算した起動要塞の構造材の総量を鑑みると、かなり不足しているように思われるようですね」
「つまりジレルドーンの内包する艦艇とアームドスキンはゴートで建造した分だけだと思っても?」
「それは早計かもしれません。別な視点で考察もできます」
彼女なりの予想があるようだ。
「聞かせて」
「例えば構造材を削減して捻出する方法です」
重力下の建造物ではない。構造強度は大きく下げることも可能。特に外殻に当たる装甲板などが挙げられる。
戦闘艦艇などは相応の装甲を有している。直撃はともかく、ビームが擦過する程度で破壊されるようでは困るし、何より住空間として小型デブリから乗員を守れるくらいの強度は不可欠。高めの安全率が設定されている。
ただし、要塞を単なる拠点として捉え、その装甲厚を最低限のものとしたならば相当量の資源削減が可能だろうとマルチナは説明する。
「曲がりなりにも要塞よ。それでは本末転倒ではないかしら?」
理屈は理解できても、設計思想として考えにくい。
「拠点機能として、アームドスキンなど主要戦力の整備・補給・補修が可能であれば構わないと考えたのだとしたらどうでしょう? 住環境を軽視しているならば無くもないかと」
「なるほど。重力場レーダーの反応はどう見えますか?」
ラティーナは
「艦長のおっしゃった通り、容量の割に質量が低いように見えます。基部となっている岩塊の比重が全体を下げているとも考えられますが」
「確定はできないみたいですね」
「一撃当てれば判明します。無理を命じるのには度胸が要りますけど」
一発のビームでの破砕痕で装甲厚は測れる。ただ、そこへ至るまでの敵の層も厚く、戦況が優位に進まないと難しそうだ。
(防御を二の次とするなんて愚策に思える。でも、ザナストの今の世代は常に厳環境下で生き延びてきた。もし住環境が適当で拠点機能が十分ならば装甲が薄いくらい怖れるまでもないという思想に至っても変じゃないかも)
マルチナもこの条件を踏まえて導き出した予想なのかもしれない。彼女とて、その厳環境下での活動経験が長い。ザナスト寄りの思考もできて不思議ではない。
「確かめるのは機会があればでいいでしょう。当面は敵戦力を削るしかありません」
司令官としての判断を伝える。
「リヴェリオンが主力に崩しをかけてトランキオを抑えてくれています。今のうちに勝負を決めますよ。厳密な戦線の維持は不要。抜かれたのならば直掩で対処すると伝えなさい。直掩、気を引き締めて。火器管制、頼みますよ」
了解の応答が各所から上がる。
アームドスキンの戦闘宙域を抜けて向かってくる敵機が見え始める。呼応して討伐艦隊の砲座も光を吐き出す。牽制にしかならないビームは侵入速度を緩めるくらいにしか働かないが、直掩機が撃破に向かう時間は作れる。
「来ます! 速い! トランキオ!」
「リヴェリオンは!?」
「追尾しています! ですが抜けてきた敵機を撃破しつつで遅れ気味!」
「トランキオ以外は直掩機に任せろと伝えなさい!」
マルチナの指示でオペレータが吠える。
(命令が裏目に出た? ユーゴが集中できるよう先に伝えるべきだった。失敗した。どうすればいいの? 何をするにももう間に合わない)
自分の失策にラティーナは青褪めた。
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