混沌の宙域(7)
「敵艦隊急速接近! 重力場レーダーの反応は10! もうすぐ光学観測範囲に入ってきます!」
警報が鳴り響き、
(十隻!? それほどの大戦力をこのタイミングで?)
本拠地探索は停滞してしまっている。敵方に急ぐ理由は無いように思える。それなのに動くということは、ザナストは準備を終えて本格攻勢に出てくるということか?
「迎撃しなさい」
多くを語る必要はないだろう。
「アームドスキン隊展開! 近衛隊に二機を合わせて直掩を。その他は発進後に編隊を組んで前進ののち迎撃。放出後はエヴァーグリーンは後退。発進急げ」
「全艦に合わせるよう通達」
マルチナの指示に補足するだけで事足りる。大きく息を吐いて気を取り直したラティーナは光学観測パネルを睨んだ。
◇ ◇ ◇
「ザナスト艦隊の強襲だと!? なぜこの機に?」
特務隊司令エイボルンは苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てた。
「敵指揮官に伝達。密約により特務との交戦は禁じられているはずだと言ってやれ。どこのもの知らずが仕掛けてきた」
確かにザナストと
「応答ありません。無視されています」
それは無情な応え。
「繰り返せ。指示あるまで続けろ。各艦アームドスキン隊発進準備。ターナ
「了解しました」
(連中め、何を焦っている。我らの離反で本拠地の場所が察知されたとでも思ったのか? 移動するだけの話だろうが)
資材及び技術提供をしたのがハザルクでも、機動要塞の利点を理解していないほど愚かとは考えられない。
「戦闘光確認!」
少し意外な報告に振り向く。
「討伐艦隊か。仕掛けが早いな」
「違います。アーセロイです! 8番艦アーセロイが攻撃を受けています!」
「なんだと? 8番艦は
敵味方の判別もできないほどに混乱しているのだろうか。
「ですが攻撃されています。救援要請受信! 司令、救援を!」
「くっ、アームドスキン隊緊急発進させろ」
「ああっ、爆沈します!」
識別は困難な距離でありながら、光学観測はできる範囲で大型の閃光が弾ける。エイボルンにはザナストの意図が全く理解できない。何を思ってアーセロイまで攻撃対象にしたのか。
「アームドスキン隊展開させろ。まさかこちらにまで攻撃はすまいが備えておけ」
事態は混迷の度を増してきた。
「了解」
「通信に応答は?」
「ありません」
判断に迷う。
「討伐艦隊は迎撃に移っているな。状況を見て……」
「離脱したら協力はできない。それはラーナを見捨てるってことだもんね。約束を違えてる。どうするのかな?」
「むぅ……」
ブルネットの少年は試すように彼を見る。
「共闘しろと言うのかね?」
「それが方針のはずだけどね」
「分かった」
ユーゴは「それじゃあ僕も迎撃に出るよ」と言って
何か動かされているような気がしてきたエイボルン。戦術工作の専門家が十五の少年に手玉に取られているとは思いたくはなかった。
◇ ◇ ◇
「あれで動くしかないよね?」
『で、あろうな』
リヴェリオンのハッチを閉めたユーゴは問い掛けた。
立ち上がった2D投映コンソールが起動手順を伝えるのにちらりと目をやりつつ
『
少し大人な女性を模した機械音声が準備完了を伝えてきた。
『リヴェリオン、発進可能です』
「了解。出るよ」
離脱を認めるわけにはいかない。ザナストにしては大規模な艦隊を繰り出してきている。自分も出撃するにしても、討伐艦隊だけで迎撃すれば損害は大きいだろう。互いに確執はあろうとここは共闘すべきである。
(多いな)
システムが表示の取捨選択をしてくれていなければモニター正面は敵性ターゲットシンボルで真っ赤に埋められてしまうだろう。意識のギアを一つ上げる。
(当てるよ)
フランカーが回転して前方を指向。遠距離砲撃は一機のホリアンダルのジェットシールドへと吸い込まれ拡散される。そこへもう一射。高集束ビームで不安定になったシールドを貫いて敵機に突き刺さり、装甲内で集束度の下がった重金属イオンが爆発的に膨張。後方へと内部部品をぶちまける。
僚機の爆散で躊躇し速度を緩めた敵軍に向け、ターナ
回り込むような軌道を取るグエンダルの一団。編隊を組んで正面からビームを浴びせてくる一団もいる。幻惑する気なのか、三機が一列となって突進してくるホリアンダルの編隊をみつけ標的に選んだ。
「斬り裂け」
旋回した左フランカーから高集束イオンビームが放たれる。薄紫の細い光条は列の左へと抜けていくが、そこから機体をひねって薙ぎ払う。三機が同時に上下に両断されて爆散。誘爆した
二百を超える敵アームドスキンを前に、リヴェリオンはその火力をいかんなく発揮していた。
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