ハザルク(8)
横殴りのビームの雨をシールドカノンの傘で弾き飛ばす。彼の立場ではそうそう躱すわけにはいかないのだ。
「ひょおー、久々に熱いねぇー!」
レイモンドは拡散して消えるビームの向こうの敵を睨み付けながら口の端を上げる。
「言っている場合か、レン。エヴァーグリーンの後退速度が出るまでもたせろ」
「分かってるさぁ、エド。ただね、直掩なんて地味な仕事はこんな時じゃなきゃ目立てやしないじゃないか」
「馬鹿が。直掩が目立つようではいかんのだ」
確かにもっともだ。
性格的な軽さはあれど、確実な仕事はするレイモンド。それでもたまには羽目を外したくなるというものだ。
人間性としてはどちらかといえばフォア・アンジェの連中に近いと思う。多少おふざけが過ぎようが、メリハリさえあれば問題を感じないタイプ。エドゥアルドと組んでいなければ、もしかしたら彼らの一員だったのではないかとも思っていた。
「ぬるいぜ」
間合いに入り込もうとするホリアンダルに射線を移す。
「その程度の牽制で崩せてるとでも思ったのかい?」
一射目は躱したが、二連装の砲身が吐き出したもう一射は躱せず
ゴートから上がってきた伏兵はアームドスキン部隊の防衛ラインに引っ掛かっている。主力を引き出した気だったろうが、討伐艦隊の頭脳はそれほど迂闊ではなかった。主力が母船を気にして士気が落ちるような羽目にはならない。
「頃合いだ。艦隊に合わせて後退しつつ削り落とすぞ」
あまり距離が離れて間隙に入り込ませないように下がる。
「りょーかいっ! こいつら、的になりにきたのかって感じじゃん。俺たちに稼がせてどうしようって言うんだ?」
「演習成績じゃない実撃墜数を上げておけ。そうでなくとも僚友の少年には大きく水を開けられているぞ」
「いやいや、協定者と競うとか欲張り過ぎでなくない?」
扱いの難しいシールドカノンを振って敵機を捉えトリガー。
「そのくらいの覇気は見せろということだ」
「戦場の主役は譲っておくさ。ドラマの主役ならオレのほうが向いているけどね」
男の魅力では自分のほうが上だと言い張る。
「少年のほうが女性にも人気が出そうだが?」
「それ、言っちゃう?」
レイモンドが
「んん? なんだありゃ?」
光が筋を引き、奇襲部隊の横腹に迫っている。
「残念ながら主役交代らしいぞ」
「あっちゃー! ヒーローの登場か」
薄紫の光の糸が敵部隊を薙ぐと三つの閃光が弾ける。イオンジェットが閃き、青い機体がくるくると踊りながら光芒を放つと死が振り撒かれる。白と青のコンビネーションが戦場を席巻していた。
焦燥に駆られた敵機が不用意に二人の前にも飛び出してくる。仕事が楽になったレイモンドは苦笑いを隠せない。
「あっという間に空気を変えられちゃったな」
「あれがゼムナの遺志に選ばれた歴史を変える存在だという意味だろう」
「脇役は切ないねぇ」
母艦から反転攻勢の命令がない以上、殲滅戦にはならない。敵の意図は窺い知れないが、本気で叩きに来ているとも思えない。ここは撤退を決意させる程度に削れば終了だろう。
「人気が無くても、どこかにオレを応援してる娘がいると信じてもうひと頑張りいきますか」
ガイドを排出して、新しい弾体ロッドをカノンに叩き込む。
「少なくとも、あのオペレータの娘はお前のファンだと思うぞ」
「お? 俄然やる気が出てきちゃいましたよー!」
エドゥアルドはレイモンドの乗せ方を心得ている。それは彼にも分かっているので乗せられておく。
そんな二人の息はぴったりだ。互いに背中を預けていれば少しも不安を感じない。良くも悪くも腐れ縁。荒んだ戦場でも腐らずにいられるのは認めあっていられるからと思う。
堅実な防壁を前に、敵部隊は撤退の気配を見せ始めた。
◇ ◇ ◇
拳を合わせている二人を見て自然と笑みがこぼれる。彼女も良く知っている戦場の光景だ。互いの健闘を讃え合い、そして生き残ったのを喜び合う。
一般人から見れば不謹慎だと
ただし、今のジーンの横には息子の姿がある。十五の少年だ。そんな光景は彼女の現役時代にはなかった。それはこの争乱の罪深さを思い出させる。
「あれ? ラーナだ」
司令官自らが
「どうしたのかな?」
『労いか?』
「彼女なりの感謝かもね」
護衛を兼ねた秘書官ジャクリーンも連れているので問題はないが、普段はやらないことだ。ましてや帰投したばかりのパイロットは気が立っている。騒動の元になりかねない。
「お疲れのところすみません」
ラティーナは声を掛けてくる。
「今回の攻撃は軌道要塞移動のための時間稼ぎだと見解が一致しました。今後の対応を話し合いたいので、おば様とユーゴにはもう少しお付き合い願えないかと?」
「そういうこと」
「うん、いいよー」
それを告げるためにわざわざ足を運んだらしい。彼女らしい気遣いだ。
護衛に戻ったエドゥアルドたちと一団となって会議室へと足を向ける。通路を進んだところで再び珍しい人物が待っていた。
「どうしたのかしら、ミード副艦長?」
「オービット副司令も直接来るそうです。第一会議室へどうぞ」
「そう。ありがとう」
ラルサス・ミードは手で示しながら道を譲る。一団に加わるつもりのようだ。
(ん?)
通り過ぎた時に、背中に何か押し当てられる感触。
ジーンの胸を二条の光が突き抜けていた。
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