ジレルドット攻略戦(9)

「内部に侵入!」

 オペレータからの報告に傾聴する。

「居住区内で敵アームドスキンは確認できません」

「潜伏している可能性は?」

「住民の姿が確認できるそうです。避難していないところをみると戦闘を想定していないのではないかとの報告です」

 2D情報パネルに取り囲まれた中でラティーナは眉根を寄せる。


(数が少ない。半ば放棄されている? でも、住人が残っているって)

 様々な可能性が頭をよぎる。


「閣下、想定される新拠点への移転が中途半端な状態なのかもしれません」

 正面の小さめのパネルからオービットが推測を伝えてくる。

「そうなのかしらね。それは時期の問題?」

「何とも申せません」

 情報を掴んだのがギリギリだったための状況かと尋ねる。

「想定ならできますが、如何にも情報が少ないとしか」

「そうね。そのまま警戒待機。センターポールに侵入した部隊が後背を襲われないように!」

 指示を飛ばす。


(敵はいない公算が高いのに戦力を割かれる。これも作戦?)

 嫌な予感ばかりが先に立つ。司令官の苦悩が彼女に押し寄せる。


「センターポールへのデータリンク確立! 報告、リヴェリオンがアクス・アチェスと接触した模様です!」

 ハッと顔をあげる。

「いたの!? 援護は?」

「三十一機が侵入に成功。連携して対応しています。順次合流を指示しますが迎撃部隊の抵抗も激しく、厳しい状況です」

「センターポール内への多数の投入は同士討ちフレンドリーファイアの危険も増加させます。現場の判断に任せましょう」

 オービットの提案があり、そこへフォリナンも加わる。

「スチュアート・クロノも侵入に成功しています。任せてもよろしいかと」

「分かりました。彼に一任すると伝えてください」


(こちらで中の状況が明確に掴めない以上、あまり口出しすべきではないわね。彼の経験値なら大丈夫と思うしかない)

 侵入作戦の難しさを痛感している。


 結局のところラティーナは素人。皆の判断の最終的な可否だけ決定すればいいのだと自分に言い聞かせる。それでもあれこれと考えてしまうのは仕方がない。


(大丈夫よね、ユーゴ?)


 信頼する少年に思いを馳せる。


   ◇      ◇      ◇


 一射は躱したが、もう一射のビームはジェットシールドで弾く。直径600mは広く思えるが、20m強のアームドスキンが飛び回るには少し足りない。そこへ数十機が侵入したのだから手狭に感じても仕方ない。


(開放して待ち構えていたのも向こうの策。一気に数で押し切られないようにってことか)

 不用意に躱せば自機がブラインドを作り出しそうで動きにくい。


「無理するな、ユーゴ。フォーメーションで押していけばいい」

 スチュアートなら味方同士で邪魔しない方法を心得ている。

「アクスは僕を狙ってきます。その間に敵の排除を」

「分かった。孤立するな」

「二人が付いてきてくれるから」

 今は周りを見る余裕もできた。


(データリンク来た。居住区に敵影なし? なのにこの迎撃の数?)

 壁面の向こうに広がっている居住区には多くの人が認識できる。ユーゴはその中に区別できない敵機も混じっているだろうと思っていたのだ。


『内部のデータが読み取れた』

 降下するほどにターナミストも薄くなり、電波での侵入も可能になったようだ。

『拠点の変更が計画されている。既に移転が進んでいるようだ』

「そういうこと。移転先の場所分かる、リヴェル? 破棄される前に押さえたいんだけど」

『宇宙要塞だ。設計図上、機動力も確認できる。現在地にあまり意味は無いぞ』

 設計図データだけでもエヴァーグリーンに送っておくようお願いする。


 それでもジレルドットを放置はできない。ここもまだ機能する生産拠点たり得るのだ。


「放棄するならどうして住人を残してる、アクス!」

 試しに問い掛けてみる。

「掴んだか。それにその機体、協定者になったという情報は本当らしいな」

「答える気もないと?」

「隠すようなことではない。必要無くなったのだよ」

 怖ろしい答えが返ってきた。

「戦力と技術力を支えるだけの人間が必要だった。それは充分に増えた。必要以上の人間は食料を浪費するだけだ」


 フランカーを指向させるとアクスは壁面を背負うように移動する。貫通するだけの威力があるのを悟られている。そして、彼が平気で攻撃できないことも。

 仕方なく収束度で劣るビームカノンで牽制すると搔い潜って接近してくる。左手をブレードグリップに持ち替えて受け止めた。


「それならば手狭な場所に押し込められるより、この厳寒の地でも生き延びたほうがいいだろう?」

 切り捨てるというのだ。

「それが自分を支えてくれた同胞への仕打ちか!」

「戦える者とそうでない者を区別しただけだ。連中は自活し増えることしかできない。勝ち抜くには贅肉は不要だと言っている」

「命を邪魔扱いするな!」


 斬り掛かろうとすると、アクスは大破して落下してきた僚機を盾にして逃げる。誘い込む意図は見え見えなのだが、それに乗るしかない。あまり突出しないよう意識する。


「挑発に乗らないで、ユーゴ」

「そうだぞ。おれも援護するから」


 忠告に感謝する。それでなくとも周囲の敵機を遠ざけて場所を作ってくれているのだ。


「うん、ありがとう」

 こんなに力強いことはない。

「あれが噂のアクス・アチェスか。三人で追い詰めようぜ」

「データリンク、信じてるから」

 勇気が湧いてくる。

「来い。貴様の墓標には贅沢過ぎるほどの大きさだぞ、小僧」

「ここで終わらせてやる!」


 薄暗闇に溶けていく鈍色のホリアンダルをユーゴたちは追った。

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