ジレルドット攻略戦(8)
優美なフォルムを持つアル・ティミスが中央に立ち、少し低い位置に長大なシールドカノンを捧げ持つアル・ゼノンが両脇を固める。そして、前方には白く勇壮な印象を持つリヴェリオンが泰然と浮いている。
その作戦開始の合図はガルドワ軍の本気を漂わせている。そうルフリットは感じていた。
エヴァーグリーンとアイアンブルーが横並びになり、直掩を務めるジークロアが前方に位置する。その前にはフォア・アンジェの三隻。レクスチーヌが最前に陣取り、オルテーヌとルシエンヌが左右を占める。鏃のようになった陣形は殊にその意味を感じさせた。
「なあ、コリン」
伝わるかどうかは分からないが正直に話してみる。
「これって最初から決まってた流れな気がしてきたんだけど?」
「え、なんで?」
「だってさ、あそこに
言われたコルネリアは目を丸くしてキョロキョロする。
「本当だ……」
「なんか神話になぞらえた戦いがこれから始まるって感じがするんだよな」
「ルットにしては気の利いた例えじゃない。夕べ、眠れなかったりしたの?」
らしくないと皮肉られた。
「たまにはおれだってさ……」
睡眠は充分だ。休暇をユーゴと三人で思い切り楽しんだ。昨夜は両親に自分の意気を語ったりもした。何があっても後悔などしない。そう思って今日この場所に居るのだ。
「変な前振りしないの。ユーゴと三人で組んで何の不安があるって言うの? わたしは何一つ心配してないよ。いつも通り『いってきます』って出てきただけだもん」
彼女は悠然と構えている。
「だよな。あいつと一緒ならおれたちは無敵だぜ」
「それは言い過ぎ。油断しないの! ほら、来たよ」
白い機体が筋を引いてやってくる。その力強さは何にも代えがたかった。
「行こう」
そう言って振り返った背中を大きく感じる。
「おう!」
「うん、一緒に」
(おれたちは神話の戦いに臨むんだ!)
目の前の少年が何と呼ばれているかは知らないままにルフリットは集中力を高めていた。
◇ ◇ ◇
「二人とのデータリンク、深めにできる?」
『ターゲッティングまで連動させよう』
リヴェリオンには
そのターゲッティングを使って随伴するアル・スピア二機にも彼の認識している敵手を伝える方法を採ろうとしているのだ。
(籠城戦をする気は毛頭なさそう。でも、これは罠)
センターポールの発着口は開放されたままで、そこから迎撃のアームドスキンが上がってきている。しかし、広範囲に点在する隔壁らしき箇所にも強い敵意を感じられる
「おい、このターゲットは?」
ルフリットがいち早く違和感に気付く。
「そこに潜んでる。通過したら飛び出して撃ってくるよ」
「伏兵がいるの」
「今のうちに撃ったほうがよくないか?」
安全策を提案される。
「駄目。下は居住区。そこで撃破したら落ちてから誘爆するかも」
「ぐっ、汚いな」
「待てばいいの。向こうは気付いてるって知らないんだから確実に飛び出してくるでしょ!」
二人は突然撃たれる恐怖と戦いながら上空を通過する。案の定、通り過ぎたと同時に積雪を跳ね除けながら三機が姿を現した。
その時には二機は反転してビームカノンを構えている。リヴェリオンに至っては宙返りすると、慣性のままに頭を下にして飛行している。
意表を突かれた相手はなすがままにビームに貫かれて弾けとぶと爆炎を振り撒く火球に変わった。
「上手くいったでしょ?」
「ドキドキしたぜ」
彼らのやることを見ていた友軍は背後からの狙撃を警戒する。その所為で待ち伏せ作戦は功を奏さず、伏兵は撃破されていった。
「まだまだだよ。今度は前」
「息つく暇もないじゃん」
「覚悟の上じゃないの?」
センターポールの開口部は円形を八分割した隔壁でできている。伏兵の失敗を悟った敵アームドスキン部隊はそこまで後退し、隔壁を遮蔽物にして砲撃をくわえてきている。
「フランカー!」
ユーゴの意思に応えた固定武装が前方を指向、照準する。収束度の高いビームが隔壁を貫くと、裏側で閃光が瞬いた。
友軍機のビームも一撃で隔壁を貫くほどではないが、攻撃が繰り返されるごとに破損していき、ついには貫く一撃も現れ始める。堪らず飛び出してくる敵機は突っ込んでくるが、討伐軍の砲火の前に炎の花を開かせていた。
「突入するよ」
二人に声を掛ける。
「行くか!」
「付いていくから」
一部の僚機が伏兵や迎撃部隊との乱戦に入る中、ユーゴを先頭にルフリットとコルネリアはセンターポール内へと侵入していく。
開口部から見下ろす縦穴は直径が600mはある。編隊を組んだままでも十分に通過できる広さ。それは敵にもいえることで、そこにも迎撃部隊が配置されていた。
だが、今度は見える敵である。二人も必要以上の緊張感は持たずに済みそうだと少年は思う。
「やはり来たか、小僧!」
聞き覚えのある声が共用回線を振るわせる。
「アクス・アチェス!」
「借りは返させてもらう!」
ユーゴはそこに鈍色の敵を認めていた。
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