ジレルドット攻略戦(7)
各艦のブリーフィングルームをリンクさせて全体ブリーフィングが行われる。それぞれに艦長以下、パイロット、オペレータ、整備班長などが集合して活発な意見交換を求められた。
「配置に関しては以上。基本戦術は以下になります」
大型情報パネルを前にオービットが説明し、適宜ラティーナも質問に答える予定になっている。
「相手の対応によって流動的ではありますが、最終的にはセンターポールと呼ばれるこの縦穴を利用して下部兵器工廠まで移動。破壊もしくは制圧を目標とします。敵生産拠点を使用できなくするのが今回の作戦です」
「その構造図によりますとセンターポールは開閉式となっていますが、敵が籠城を選択した場合はどうなるのでしょう? それ以外にもアームドスキンくらいであれば発着できる通路はあると思うのですが」
「通路は存在するようです。ただし、それは階層を区切る隔壁のような物なので、利用は難しいと考えています」
捕虜からの情報を集積して作成した概要構造図では最上階層は居住区となっている。元は旧地下都市を居住地としていたのが合併して現在の状態になったと考えられるので、民間人を盾として利用する意図はないと思われる。単なる必然だろう。
ただ、そこからの突入は居住区での戦闘を意味するので回避する決定をラティーナが下していた。そうなればセンターポールを降下するしか突入する方法が無くなる。重厚な開閉式発着口を封鎖された場合を懸念する声にオービットは答える。
「その場合は強行突入を計画しています」
既に検討されており、配置がパネルに表示された。
「周囲の敵を排除しつつリヴェリオンが当該目標上空まで移動し、ブレイザーカノンを使用し開閉隔壁を破壊。のちに各部隊による突入の手順になります」
「センターポール降下の成否を判断をしたのは当初よりリヴェリオンの火力を考慮したからです。心配はありません」
ラティーナが続けて説明する。
「理解いたしました」
「クランブリッド二金宙士、その時はよろしい?」
「了解。でも、今回のブレイザーカノンの使用はそれだけ。施設内部では絶対に使わないよ」
彼女が問えば少年は条件付きで承諾する。
民間人が居住する固定施設での不使用はユーゴが堅持する条件である。それだけの威力があるということだ。
「それで構いません。突入口を作るだけが目的です」
ラティーナとユーゴで事前に打ち合わせておいた内容の反復。周知する目的の発言に過ぎない。
「突入によりセンターポールを下部に向けて制圧していく手順となります。かなり激しい抵抗が予想されますので、ここも激戦となる公算が大きいと考えています」
「センターポール内を制圧したら空挺機甲車を降下させるのですか?」
説明を続けるオービットに陸戦隊からの質問が飛ぶ。
「いえ、降下するのはアームドスキン隊だけです。陸戦隊は居住区への投入を考えています。目的は制圧でなく、武装解除と誘導です。こちらは閣下よりの指示待ちです。それまでに降下する隔壁をアームドスキン隊が確保します」
「了解!」
彼らは行けと言われたところに行くのを旨としているので反論はない。
その後も作戦参謀的立ち位置にある副司令オービットが各部門からの質問に答えながら進行する。状況が流動的だけに指針に留まるのは否めない。
「先ほどプローブからの最終情報が入ってきました」
発見されないよう電波発信しないプローブは、雲が切れた時に人工衛星へとレーザー通信を送る。なので情報は不定期になる。
「現在センターポールの口は閉じていますが、36時間以内に何度か開放されています。傾向は変わらず、発進する艦がほとんどです」
その情報には現場でも各艦の情報パネルでもざわめきが起こる。
「やはり本作戦を察知されている可能性は高いと思われますか?」
「いや、察知しているのなら戦力を集中するのではないかな? 何らかの大規模攻撃に警戒が必要かと。本社に注意喚起はされたのでしょうか?」
「いえ、この傾向は戦力をいずこかに移動させているとの意見の一致を見ています」
戦力離散の情報はラティーナとオービット、もう一人の副司令フォリナンで共有されていた。三人が三人とも艦隊による攻撃が予期されていると判断したのである。
(艦隊の運用は私とオービットに一任されている。逐一本社に報告を送っているわけでもない。今回の作戦も承認は得ているけど、具体的な期日まではお父様にしか伝えていない)
ラティーナは組織からの漏洩を気にして軍本部にも伝えていないのだ。
(それでも把握されているということは、艦隊内部にも情報源があるということ。それも気になるけど、問題は戦力の移動先がある点。新拠点の可能性が濃厚になってきてしまったわ)
放置しているのはそれを確認したかったのも一つの要因。
どこかの宇宙空間に集結する可能性はある。しかし、補給艦やドック艦だけで艦隊を含めた大戦力の維持は困難。どこかに拠点がなくてはならない。
「追跡は?」
移動先を把握したいラティーナはそこに注力させている。
「申し訳ございません。雲の厚い場所を選んで移動しているためロストしてしまいました」
「仕方ないわ。常套手段だもの」
そうやってザナストは監視衛星の目を搔い潜ってきたのだ。
「では、作戦開始は予定通り二時間後の11時ちょうどです! 皆の奮闘を期待します!」
「はっ!」
司令官の激励に総員が立ち上がって敬礼した。
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