協定者(7)

 フォア・アンジェに差し向けた戦力が失われたのは大きな痛手だったようだ。ザナストは現状、動きをひそめている。

 時間の取れた討伐艦隊は移動を重ねて、再建中のレズロ・ロパに支援物資を届けるとともにサディナ・ボードウィンの遺体の収容も行った。その後に大気圏を離脱し今は衛星軌道より高い位置で停泊している。


「じゃあね……」

 サディナとフィメイラの遺体、それに回収したナゼル・アシューを搭載した輸送艇をユーゴは見送っている。しばらく隣を飛んだあと手を振って別れを告げ、リヴェリオンを反転させた。

「早く行かなきゃ」

『忙しいな』

「いっぱい迷惑かけたからできることはやらないと」

 リヴェルも身体を動かして切り替えるのには理解を示してくれている。


 この後は何かエヴァーグリーンで意見調整の場が設けられるらしく、フォリナンとマルチナをレクスチーヌから送り届ける役目を買って出ていた。全艦から艦長とアームドスキン隊長が集められていて、少年も参加を求められていたのでついでともいえる。


 格納庫ハンガー内を縦断して奥まったところまで誘導される。そこには見慣れない機体が何機も格納されている。


「あれがリストにあったアル・ゼノンでしょうか?」

 サブシートでマルチナが問い掛けている。

「おそらくそうだな。レクスチーヌにも五機が配備されると聞いている」

「アル・スピアの発展型?」

『そのようだ。同時に開発に入ったようだが先に投入された同型機のデータを反映して改善されたとあるな』

 機密情報の暴露にフォリナンたちも苦笑するしかない。

「あれは? 奥のオレンジと白の」

「アル・ティミスだと思うわ。ラティーナさんの専用機」


 勇壮さよりも優美さを重視したようなフォルムを待つアームドスキンは少々装飾過多に見える。用途を鑑みれば納得できると二人は言う。


「そっかぁ」

 いよいよ現実だとユーゴは感じる。ラティーナは本気でアームドスキンに乗るつもりのようだ。


 アル・ゼノンの並ぶ一角にスペースが空いており、そこへと誘導される。機体を空中で回転させてそのまま降着させると周囲からどよめきが聞こえる。

 注目を浴びるのは仕方がない。ここ数日でユーゴは嫌というほど理解した。変わってしまった自分の立場というものを。


 案内された会議室でも痛感する。当たり前のように自分の席が用意されている。しかも、ラティーナの近くという重要人物が占めるはずの位置に。

 これからは難しいことは上の人が考えてくれるとは言えないのだろう。当然のように意見を求められるものと思っていなくてはならない。

 まあ、意見を求められるのが彼なのかリヴェルなのかは微妙なところだ。もしかしたら添え物だと思われている可能性もある。


 あまり深刻に考えなくてもいいかとユーゴは思った。


   ◇      ◇      ◇


「再編作業等、慌ただしい状態も解消される頃合いだと考えてお集まりいただきました。今後の方針は通達の通りです。忌憚のない意見を求めています」

 開始の号令の後にラティーナは穏やかな声音で告げる。

「ザナスト本拠地の攻略作戦と有りましたが、判明したのでしょうか?」

「いくつかの情報から位置は確定しつつあります。現在は裏付け調査中です。無用に刺激しないよう意図的に接近は避けていますが、作戦決行はそう遠くないと考えておいてください」

 発言者であるルシエンヌ艦長は感謝を口にし着席する。

「では、本艦隊に関して本社はどうお考えなのかお聞きしたい」

 次にフォリナンが挙手する。

「ガルドワ正規軍、それもこのような新造戦艦が動いたということは、国際社会への影響も大きい。他国からの干渉を避けるべく秘密裏の出動だったのでしょうか?」


 フォア・アンジェには事前に討伐艦隊の編成が伝えられていなかった。それにいささかの不信感を抱いての発言だろう。この二隻の戦艦の到着を知っていれば、前回の作戦で無理をせず時間稼ぎをする方法もあったのだ。


「エヴァーグリーン及びアイアンブルーの作戦行動を極秘裏に行ったのは、社内での反発を避けるためです。国際情勢へ向けた情報管理とは別の意図。端的にいえば既成事実にしたかっただけなのです」

 代わってオービットが答えた。社内・・が何を指すのかは暗に伝わるようラティーナは目配せを送っておく。

「会長は何らかの決意を秘めておられると思ってよろしいか?」

「そう考えてくださっても結構です」

 彼女はもちろん、オービットもその内容まで聞いている。

「しかし、こうも大胆に動けば騒ぎ立てる国もあるかと思われます。どの程度の情報管理が必要なのかは示していただきたい」

「そうですね。アルミナなどはゼムナと並んで人類圏の警察を自負しております。声高に本社を批判してくるかと?」

「皆さんも同様にお考えのように今のゼムナ政府は利がなくば動きません。アルミナ政府は動く可能性がありますが、会長はそれでも構わないとお考えです」


 オービットの断言に議場はさざめく。会長は大胆な決断をしたようだと覚る。


『アルミナも動けない』

 そこへリヴェルが口を挟んだ。

「それはどういうことなのでしょうか?」

『ゼフォーンに注力するのが精一杯だろう』

 彼女の疑問に答えてくれるが、にわかに信じがたい。ゼフォーンとは国力に大きな隔たりができている。

「反抗鎮圧など難しくないと思いますが?」

『ゼフォーンには我の子ユーゴと同じくエルシの子がいる。容易ではないぞ』

「な……!」

 その場の全員が絶句した。

「ゼフォーンにも協定者が!?」


 リヴェルの発言は、人類の変革の時代を示唆し皆に衝撃を与えた。

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