狂える神(7)
フォア・アンジェの戦闘空母レクスチーヌとオルテーヌは命令のあった任地へと到着している。往路で飛び込みの指令が多めだったので時間が掛かったが、ようやく本来の調査に入る。
フォア・アンジェにとってそれはいつものこと。レズロ・ロパの件など緊急も緊急で、結果的に本来の任務を先送りにしてツーラに戻っている。そうでなければ基本的に単艦では行動できないほど危険と隣合わせなのである。
「ルシエンヌもこっちに向かってるの、父さん?」
メレーネ・ボッホは父である艦長フォリナンに問い掛けている。
「補修と補給が済んで合流予定だ」
「三隻揃うのも久しぶりな気がするー。しかもこんな掴みどころのない任務で」
「こら、そんなに言うものではない。ズーマ・ラジの住民は不安に怯えているのだぞ?」
試験移住地ズーマ・ラジは襲撃を受けたことのない平和な場所だ。ただ、防衛基地が哨戒範囲を広げると問題点が露わになる。
北側に向かったアームドスキンがザナストの戦闘艦らしき艦影を確認する頻度が高いのだ。現状、戦闘は行われた事実はないが問題視されている。
「要請が来たのだって基地の隊員から情報が漏れちゃったからでしょ?」
本来は基地だけで警戒しておくような情報である。
「その通りだが、責めるのは酷だろう? 隊員も家族での移住者が多いのだ」
「まあね。ここだけでは済まないここだけの話なんてざらだもん」
彼女も、父親からフォローを頼まれる代わりにユーゴの現状に関して説明を受けている。秘密に関わる部分もだ。状況次第で伝えなければならない秘密というのもあると理解している。
そんな調査要請なので後回しにされ続けてきたのである。実はレズロ・ロパの時に先送りにした任務がこれなのだ。比較的ゆったりとした空気が流れているのは否めない。
「哨戒班の組はあれで良かったの?」
マルチナの組んだペアの素案には修正を加えて戻してある。
「うん、あたしがユーゴくんと組むよ。フィメイラは頼りになるし」
「よろしく頼むわ」
後半は方便だ。メレーネの気持ちを汲んでくれる。
「フレアはオリガンに振られたからボストと組むって」
「人聞きの悪いことを言わないでください! 僕は隊長と一緒にスクランブル待機班に入るだけですって!」
哨戒中のペアが敵影を認めた場合のスクランブル班も準備される。常に待機が要求されるので負荷が高い。彼はそちらに回るので非難されるのは不本意なのだろう。
「冗談、冗談」
オリガンはからかいやすい性格をしている。
「歳上を何だと思っているんです?」
「待ってー!」
「あー、もー。ユーゴくん、チルチルは追い掛けたって絶対に捕まえられないよ!」
幼児退行したかのような少年は要員の着いた卓を縫うように駆け回っている。犬が自分の尻尾を追いかけているような、あどけなささえ感じる行動に誰も注意しない。それぞれに口に出せない思いを胸に閉じ込めているだけだ。
(酷だな。本当の神様はどこにも居ないんだ)
居ればとっくに彼は救われているだろう。
珍しく雲の切れ間から差し込む陽光にも感動は覚えない。
◇ ◇ ◇
「何にも無い。代わり映えもしないのに毎日まいにち……」
女性パイロットは不平を零す。
「だから外れ任務だと言ったろう? あと一週間もすれば一度ジレルドットに戻れるさ。次は手柄も立てられて美味いものにもありつける指令が下るって」
「そう願いたいものだわ」
この巡回指令はザナスト内でも特殊なもの。理由も告げられないままに、ただ警戒だけを続けなくてはならない。
例え侵略者どもが侵入してきたとしても身を隠すよう要求される。警戒すべきは地表の変化のみだと命じられていた。
地表といっても本当に何も無い場所だ。ここに地下施設があるという話は聞いたことがない。
壊滅作戦で氷塊の落下地点となった所為で巨大なクレーターと化している。爆心地は広く雪原に覆われ、がれきの外輪山は白い山嶺の連なりへと変化。
その周囲には盛んに植林が行われたようだが、氷塊落下点は大戦の記憶のように残されていることが多い。
「こんなとこに誰が好きこのんで来るっていうの? 侵略者の基地の連中が暇つぶしに覗きに来るくらいじゃない」
見通しの良い雪原は彼らも活動がしにくい。発見されやすく、拠点の建設には不向きとしか思えない。
「上の考えることなんて分からないって。こんな場所にも何か思いがあるんじゃないか? 俺たちには思い付かないような」
「そんな夢みたいな……」
時に吹雪が荒れ狂う地表に魅力を感じない。少なくとも彼女が生きている間に気候は変化しないだろう。そこに住みたいだなんて欠片も思えなかった。
「レーダーに感!」
男が鋭く叫んだ。反対側に近い山嶺に反応がある。
「また基地の連中!? 性懲りもなく!」
「二機編隊が複数。違う、後ろに戦闘空母が2! フォア・アンジェだ!」
「どうしてこんなところに?」
この巡回指令で発見され過ぎたのだろうとも思う。侵略者の注意を引くには十分すぎるほどの報告例が残っている。
「どうするのさ!」
即座に山影へと隠れたが、向こうからも発見されている可能性はある。
「指令は、侵略者にここを調査させるなということだ。まずは報告する」
「それならわざと姿を見せて引きつけたほうがよくない?」
「こっちは母艦一隻だけだぞ? 勝手にそんな判断を下せるか」
山影から外輪山の外へと逃れた二機は、高度を下げて母艦へと戻っていった。
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