フォア・アンジェ(6)
ブリーフィングでパイロットに伝えられたのは、おそらく戦闘になるであろうという結論だった。
レクスチーヌが衛星ツーラの公転軌道まで達しても、到着までに間に割り込まれてしまう軌道要素が示される。ザナストの艦艇はゴート本星の自転を利用してショートカットできる地点に上がってきた。まさか大気圏外まで追ってこないだろうと不用意に離脱したのが悔やまれる結果になる。
実機のコクピットを使用して行われたシミュレーションで、ユーゴは大した成果を上げられなかった。ラティーナを安心させたいがために請願したのだが、所属パイロットの誰一人にも彼は勝てなかった。
全員が精鋭のフォア・アンジェなのだから仕方ないとも言える。ガルドワ軍でも優秀な者が引き抜かれて編成されたカウンターチームなのだから。それでも皆の評価は平均点に届いていないというものだった。
「ちょっと期待外れだったかなぁ。戦果を見る限りはもっとやれる子だと思ったんだけど」
歯に衣着せぬメレーネに、スチュアートは肩を竦める。
「あんなものだろう。ほとんど訓練らしい訓練も受けていない少年だぞ? 何を期待していた」
「そーお? 偶然の産物にしてはでき過ぎじゃない?」
「どちらにせよ厳しいのは分かった。あいつはレクスチーヌの直掩に回す」
幾分かは安全な配置にせざるを得ない。
(本当なら出さないのが正解なんだろうが、それだと上は納得しないだろうし)
どうせ連携訓練も足りないのだから、順当な判断だと思っておく。
(そのほうがお嬢さんも満足してくれるだろうし、ちょうどいい)
彼にとっては或る種都合のいい結果だった。
この結果に一番喜んだのはラティーナである。ユーゴも彼女によって一番守りやすい位置に配置されるのだと説得された。
◇ ◇ ◇
「重力場レーダーに感! 距離4000
レーダー監視員の声が飛ぶ。
「衛星レーザースキャンが観測した予想位置とほぼ変わらんな」
「やはり阻むように動いています。目標は我々でしょう」
フォリナン艦長はスチュアートと確認する。
「補給部隊と合流するまでに当たりたくなかったんですけどね」
「致し方あるまい。迎撃準備」
「了解」
衛星軌道に駐屯して活動していたところを駆り出された戦闘空母レクスチーヌは定期補給を受けられなかった。不足分を補充する補給部隊がツーラから向かってきているのだが、合流する前に邀撃を受ける形になってしまったのだ。
「全機発進準備」
アームドスキン
「お前ら、食った分と撃った分は働けよ! そうしないと次が無いぞ!」
「了解!」
隊長スチュアートの発破に皆が応じるが、ユーゴはそのノリに付いてきていない。
「ユーゴ、お前は艦の傍で守備要員だ。来た奴を迎え撃てばいい。詳しいことはボストに聞け」
「はい」
部隊回線のウインドウには少し緊張した少年の顔が映っている。
(仕方ないだろうな。集団戦闘なんて初めてだ)
自らを省みて口の端に笑みが上る。
(こいつを働かせたくなきゃ、俺たちでやるしかない)
三倍する敵艦隊を前にスチュアートは気合を入れた。
◇ ◇ ◇
遠く戦闘光が瞬いている。そこには彼の娘も加わっているというのに、艦長のフォリナンは冷静に見つめていた。反して、同じ艦橋にいるラティーナ・ロムウェルは不安そうな面持ちを透明金属窓の外へと向け続けている。
(少年が心配か)
やむをえまいと思う。彼とは家族のように接してきたと聞いた。
当の少年はレクスチーヌの前方に控えたアル・スピアの中に居る。
「おい、何やってる!」
部隊回線が流れる艦橋に怒号が響いた。
「敵を呼び込む必要なんてない! なぜ撃った!」
ユーゴの乗る27番機が突如としてビームカノンを発砲したのだ。
(気が急いたか)
光芒は彼方へと去っていく。
若気の至りのようなものだと感じる。僚機が制止しているので構うまい。
「着弾光確認!」
「なに?」
レーダー監視員の報告にフォリナンも唖然とした。
◇ ◇ ◇
グエンダル三機は戦闘集団から離れて回り込もうと画策している。
元より七十機ものアームドスキンで二十数機の敵を相手すればいい作戦だ。しかも、艦隊にはあのアクス・アチェスもいる。楽勝だ。
しかし、普通に勝っても戦果は誇れない。何らかの働きを示さなくてはいけない。敵を動揺させる方策として背後からの急襲を狙い、本隊から離れて行動している。
「いいぞ、このまま回り込め」
二機の僚機を引き連れて戦闘宙域へと接近しようとしている。
「上手くいきそうですね」
「奴らにすれば周りは敵だらけ。数なんて数えていられない。これだけターナ
その時、コクピットに警報音が響いたのが無線越しに聞こえた。
「直撃警報!」
突如として襲ってきたビームが一機に直撃する。咄嗟にジェットシールドを展開するも、ビームが掠めて分散し、グエンダルの両脚大腿部を焼き切った。
「うわああっ!」
悲鳴とともにロールを始める僚機。
「どこからだ!」
「敵艦のほうです!」
「馬鹿を言うな! どれだけ離れていると思っている!」
しかし、再び迫ったビームはロールする僚機の胴体を貫通し、光球へと変えてしまった。
(何が起こっている?)
全く理解が追い付いていないでいた。
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