第二話
フォア・アンジェ(1)
旗艦レクスチーヌの発着
「まともになってきたな」
スチュアート・クロノは少年が緊急発進にも耐えられる技能を一応は獲得したと判断する。
「あと二回やらせたら帰投させろ」
「了解」
オペレーターのリムニーは視線を合わせて頷いた。
保護要請の出ていたラティーナ・ロムウェルを収容したフォア・アンジェは、レクスチーヌをゴート本星の大気圏から離脱させた。戦闘を行っていた地域を抜けてターナ
「機体の状況は?」
横に逃がしてあった2D情報パネルがリムニーの前へと滑ってくる。オペレーター用
「頭部アンテナ類が一部欠損しています。機動データの何割かはのちに抜き上げるしかありません」
「やらかしてくれる」
「それと、
他に意識を振り向けようとしかけていたスチュアートは二度見する。
「何だって!?」
「今は機体AIが学習して推力調整を行っていますが、当初はパイロットがσ・ルーンを介して調整していたようです」
「それであの機動をしているっていうのか?」
彼は何か得体の知れないものを見ているような気がしてならない。
初めてユーゴ・クランブリッドという少年を見た時にはひどく驚いた。怖ろしく旧式のアームドスキンを使って、ザナストの戦闘空母が繰り出す機動部隊を相手に一機で戦っていたのが、まだあどけなささえ感じさせる少年だったからだ。
てっきり要人を警護する訓練を受けたボディーガードか何かだと思っていた彼は面喰う。冷静には振る舞ったが、胸の内では何が何だか分からなかった。
「そりゃそうでしょうよ、隊長」
振り返ると、オリガン・ダンクトが腕組みして窓外のアル・スピアの飛行状態を眺めている。
「自分があんな状況に放り出されたらどうします? ましてや、最初の一戦、あのアクス・アチェスを前にしていた時はσ・ルーンさえ使ってなかったって言うんですぜ? 自分だったら一分と掛からずに死ねる自信があります」
「変な自信を持つな」
「あれは異常です。極めて特殊な訓練を受けていたって言われても納得できる」
余計に混乱するようなことを言ってくるので、困ったスチュアートは頭を掻きむしる。
「そんな奴が発進操作一つできないって言うのかよ?」
「アンバランスなところが面白いですよね」
カザックのガンカメラ映像を分析すると、二十数機にも及ぶグエンダルを相手に森林での戦闘を演じて、実に六機もの敵を撃墜している。戦果だけ見ればエース級のパイロットが上手に立ち回れば不可能ではない数である。
ただ、不可解なことにユーゴはカメラに写っていない敵を狙撃しているのである。一度なら偶然で片付けられるが、幾度も動きを先読みしたかのような奇妙な射撃を見せていたのだ。
(駄目だ。解らないことだらけで頭がこんがらがる)
レズロ・ロパの一件から完全に調子がくるっている。
対消滅弾頭まで使用した巨大テロなどを起こせば、世論に強い影響を与えてしまう。現在はフォア・アンジェが
だからこそザナストが活動しているのを知っていながら、防衛基地を置いただけで試験移住計画などといった踏み込んだ施策も行われてきた。派手な行動は自分の首を絞めてしまう結果を招く。
(そもそも奴らの装備はなぜにあれほど充実している? こんな状態の惑星の地下でそれほど力を蓄えられたものか?)
当初は、地下秘密基地の多くに分散して潜んでいたと思われるゴート軍の残党が、組織的な武力を有するのは難しいと分析されていたのだ。食料調達もままならない中、技術開発など至難の業だろう。
しかし、現実には部隊行動が可能なほどの力を見せ、彼らフォア・アンジェのような対策チームが必要になったのだ。裏に何かあるとしか思えないが、バックに付くような国家もいないと思われる。
「異常事態だな」
スチュアートはつい言葉にして漏らしてしまった。
「異常なのはあなた方です! どうして平気で少年を戦場へと駆り立てようというのですか!」
「だから、何度も言いますが、お嬢さん。あいつのほうからアームドスキンを貸せと言ってきたんですってば」
「それを諫めるのが大人の振る舞いなのではないですか!」
至極ごもっともな意見をぶつけられてしまう。
(そいつが一番、訳が分からないんだって!)
心の中で泣き言を漏らす。
ユーゴにアル・スピアを与えるのは上からの指示なのだからだ。
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