第173話『残念さん』


せやさかい・173


『残念さん』頼子    






 日本生まれの日本育ちなので気に留めることも無かった。


 お地蔵さん。




 堺は古い街なので、番地で言うと〇丁目に一つというぐらいにお地蔵さんがある。


 いや、堺ぐらいに古い街って日本中にあって、そういう街も〇丁目単位でお地蔵さんがある。


 だから珍しがることってないんだけども、ソフィアには発見だったんだ。


「えーとね、日本の仏教にも地獄があってね、地獄って『ヘル』のことね。その地獄で苦しんでいる亡者……」


「亡者? 何です?」


「あ……デッドパーソン……かな? それを救ってくださるホトケ?」


「……罪を得てヘルに落とされた者を助けると言うのは……脱獄ほう助ではないですか?」


 グヌヌ……お地蔵さんを知らないのに、法律や犯罪関係の日本語は知ってるんだ。


「いや、だからね、地獄で十分反省したり、犯した罪の重さ以上に地獄でほったらかしにされていたりね(^_^;)」


「ああ、無実の罪ですね! 冤罪デス!」


「そーだよ、それとかね……」


 当たり前だと思っていたことを外人に説明するのは難しい。いや、わたしも半分外国人なんだけど、意識は日本人。矛先を変えることにする。


「えと、子どものうちに死ぬのは、昔の日本では罪深いことだと思われていたんだ」


「え、罪を犯した子どもですか? 窃盗とか殺人とか器物損壊とか?」


「いや、親よりも先に死ぬのは不孝だと思われてた」


「ああ、それは不幸でしょ! 子どもが死ぬのは、いつの時代でも不幸デス!」


「その不幸じゃなくて、不孝」


「?」


 同音異義の説明は難しい(-_-;)。


「Um……undutiful child(親不孝の子ども)だわよ」


「え? 親より先に死んだら、親不孝? それは、子育てにかかった費用を回収できないということ? 子ども親の所有物と思っていた封建時代の悪い考えデス!」


「いや、そーじゃなくて」


 これは手におえない。


「ま、それは、また説明……そうだ、また、如来寺のテイ兄ちゃんに聞こう!」


 そう、こういうことは坊さんが専門だ。如来寺はソフィアも気にいってるので、目を輝かせて賛成してくれる。


「いいですね! また、部室でマッタリしたいデス!」


「うん、いこういこう!」


 これでお地蔵さんの前を離れたんだけど、角を曲がると〇丁目が変わって、別のお地蔵さんがあった。


「あれ?」


「今度は、なに(^_^;)?」


「ただの石デス!」


「うん?」


 お厨子の中に祀られていたのはラグビーボールほどの石に涎掛けがしてあるものだった。


「風化してしまったデスか?」


「いや……」


 一歩引いてお厨子の扉の上を見る。こういうところに額縁があって、ご本尊の名前とかが書いてあるからね。


「なんかありますデスか?」


「ああ、えと……」




 そこには『残念さん』とだけ書かれていて、わたしにも意味不だった(^_^;)。

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