第160話『リボンとかネクタイとか』


せやさかい・160


『リボンとかネクタイとか』頼子  






 中高生の胸元はリボンかネクタイと決まっている。




 例外は、今どき少数派の学生服。


 詰襟だから胸元の飾りようがない。


 それ以外は男女中高生の胸元にはリボンかネクタイ。


 ところが、このネクタイとリボンは結ぶのが難しい。ヤマセンブルグのメイドや執事は採用された時に徹底的に身だしなみの訓練を受けて、ネクタイとリボンもこれでもかっていうくらい練習させられる。


 メイド長のイザベラ(エディンバラのヒルウッドに居たでしょ)は、毎朝メイドたちの身だしなみチェックが生甲斐であったりして、リボンの結び方が二ミリズレているだけで雷を落としたりしている。


 ヤマセンブルグやエディンバラに居る時は、リボンのある服装はしないようにしている。イザベラのチェックは王女(暫定だけど)のわたしにも容赦は無くって、二ミリズレてると「殿下」と声をかけて直させられるんだよ。そのくせ、お祖母ちゃんの女王に注意したことは一度もない。それを指摘すると「女王の着こなしパターンは47種類あります。陛下は、そのパターンをしっかり守られているのであって、けしてルーズにされているのではありません」と言う。


 なんかえこひいき。


 小声で文句を言うと「ヨリコも女王になれば47種類のバリエーションが楽しめるわよ」とお祖母ちゃん。


 わたしは、まだ日本との二重国籍で正式な王女ではない。


 ヤマセンブルグに居る時は完全に王女の扱いで、99%の国民の人たちも正式な王女だと思っている。天皇陛下にお会いした時も皇居の宮殿まで連れていかれて、それがテレビ中継されて、国内外ともに、ほとんど正式な王女の認識。


 でもね、日本の宮内庁は、そういうとこはしっかりしていて、お祖母ちゃんが天皇陛下と正式に対面する時には外されて控えの部屋で待たされた。


 オシ!


 人知れずガッツポーズしたんだけど、そういうところはNHKもYTB(読売じゃなくてヤマセンブルクテレビ)も伝えない。


 自衛隊が、海外ではジャパンアーミー(日本軍)と呼ばれる。だれもジャパンディフェンスホースなどという長ったらしい正式名称なんて使わない。


 いつだったか、海上自衛隊の哨戒機が韓国の軍艦にレーダー照射されたときも、哨戒機の機長は「ディスイズジャパンネービー」って呼びかけてたでしょ。英語で海上自衛隊はJapan Maritime Self‐Defense Force。長ったらしくて、とっさには理解されないんでJapan Navyと言う。


 これはお祖母ちゃんの説明なんだけど「だから、暫定的ヤマセンブルグ王女尊称を保持するミス・ヨリコとは呼ばないのよ」という説明は、ちょっと違うと思うんだけどね。




「殿下、話が横っちょにいっているようですが……」




 え?


 あ、ああ、中高生の胸元だったわよね。


「はい、クス」


 あ、なんかおかしい?


「いいえ」


 だから、ネクタイとリボンよ。中高生には結ぶのが難しいから、最初から結んであって、ストラップが付いていて、それを首に引っかけるだけになっているのよ。


 安泰中学も同じで、そうなってるわけ。ま、なんちゃってリボンなんちゃってネクタイなわけです。


「なんちゃっての始まりは御存じですか?」


 始まり? そりゃ、こういうアイデアは日本の文科省とかじゃないの?


「いいえ、ニューヨーク市警から始まったんです」


 え? ニューヨークの警察官てネクタイも結べないほどブキッチョなの?


「いえいえ、ネクタイで首を絞められないようにするためです。なんちゃっては強く引っ張れば取れてしまいますから」


 なるほどね、さすがは女王陛下のソフィアね。てか、ニューヨーク市警にも研修に行ってた?


 あ、なんで胸元の話かっていうと、文芸部の新入部員の夏目銀之助くんなのよ。


 スカイプでしか見たことないんだけど、夏目くんのネクタイは、なんちゃってじゃなくて、きちんと結ぶやつ。ニューヨークのお巡りさんなら絞殺されかねないアナログなのよ。


 なんか、とっても珍しい男の子でしょ!


 だから、こんど現物を見に行くって話をしている。


 で、ソフィア、なんでニヤニヤしてるわけ?


「はい、だって殿下、わたしたちの制服もリボンはありませんよ」


 え……あ、ほんとだ。


 うちはミッションスクールである聖真理愛女学院の制服にリボンはないのだ。


 なんでなの?


「それはお昼ご飯の後にしましょう、食堂一杯になってしまいますよ」


 あ、はやく行かなきゃ、ランチ無くなる(^_^;)!


 


 

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