第143話『留美とさくらの誓い』


せやさかい・143


『留美とさくらの誓い』  






 もう一か月もお母さんに会ってない。




 お母さんは大阪市内の病院でナースをやっている。


 ごりょうさん(仁徳天皇陵)の側にあった女子高(いまは廃校)の出身。


 この女子高は、大阪でただ一校だけの府立の女子高で、衛生看護科しかなかった。つまりナースを養成する高校だった。卒業すると准看護婦(あ、今は准看護師)の資格がとれて、即現場で働ける。


 その後、がんばって正看護師の資格をとって、いまは三つ目の病院。


 二つ目の病院に勤めている時に結婚して、わたしを産んでくれた(^▽^)/


 いまは書けないけど、お父さんはいない。いない理由も含めて、いまは言いたくない。


 お母さんの病院はコロナウィルスの患者さんを引き受けて大変なんだ。


 だから、家の事はわたし一人でやっている。


「大丈夫だよ、もう中学二年なんだし!」


 そう言うと「そうだね、がんばれ!」と笑顔で出勤していったのが四月の三日。


 一度だけ帰ってきたんだけど、無念にも熟睡していたので気づかなかった(;^_^A


 


 先週の生協にはビビった。いくつかの品物が抽選になって、外れてしまったんだ。


 仕方なく、近所のスーパーに買い出し。


 ついてないと思ったんだけど、いいこともあった。


 なんと、お店の前でさくらちゃんと一緒になったんだ!


 さくらちゃんも生協の抽選に外れたものがあって、買い出し。


 ほんとは、ハグしたり、ピョンピョンしたかったんだけど、コロナのことがあるので辛抱。


 でも、そこは十三歳の女子中学生、ソーシャルディスタンスをとっているんだけど、ついつい近寄ってしまう。




 必要は発明の母!




 どっちが言い出したわけでもないんだけど、お互い持ってきたクリアファイルを顔の前に持ってきて防護面にした。


 さくらちゃんは、数少ない友だちだ。


 クラスが一緒だし、あ、正確には一緒だった。二年になってからは学校に行けていないから、まだクラス分からないしね。


 スカイプでは何度も話してるんだけどね、やっぱリアルに会って話すのは格別だ。


 買い物終わったあとも、近くの公園で二十分も喋ってしまったよ(o^―^o)ニコ


 文芸部の事や、頼子先輩のこと、それに子ネコのダミアのこととか。友だちといっしょに同じ空気吸って話をするって、とっても嬉しい。


 いしょに文芸部に入ってから分かったんだけど、さくらちゃんもお父さんが居ない。


 失踪したんだそうだ。失踪して七年もたつので失踪宣告(法律的に死んだことになる)して、苗字もお母さんのになって、中学にあがると同時にお母さんの実家であるお寺に引っ越してきた。


 スカイプで「お父さんのお葬式をやった」と言った時は、ちょっと胸が塞がった。でも「これでけじめついた(^▽^)/」と明るく言うので、わたしも「よかったね」と返した。


 わたしもさくらちゃんも、口には出さないけど、たいていのことは前向きに捉えようって生き方。




『もおおおおおおおおおおおおおおお、カビが生えそうよ!』


 ご機嫌斜めなのが頼子さん。




 こないだは、聖真理愛女学院の制服姿の写真を送ってきてくれたりして、実にアグレッシブな心意気を見せてくれた頼子さんだけど、ずっと缶詰の生活で爆発寸前。


 聖真理愛女学院の入学にはぜったい間に合わせたいし、日本が恋しくてならない頼子さんは女王陛下のお婆さまを説き伏せて、領事館での二週間に及ぶ隔離生活にも耐えた。


 でも今度は日本が非常事態宣言。「解除されるまではお出ましになってはなりません」と女王陛下の命を受けた領事によって缶詰が続いている。


 頼子さんはヤマセンブルグの王位継承者なのだ。


 頼子さんに出会うまでは、王族とか皇族とかは、おとぎ話の世界の人間で、自由に気楽に生きているんだと漠然と思っていた。


 でも、去年の夏休み、エディンバラとヤマセンブルグに同行して大変さ加減が分かった。


 頼子さんは、日本語 英語 それにヤマセンブルグの公用語であるドイツ語に堪能だ。


 でも、頼子さんが、いちばん自由に話せるのは日本語。エディンバラやヤマセンブルグで英語、ドイツ語を喋る頼子さんもすぐそばで同席したけど、CA(キャビンアテンダント)のようによそよそしい。


「じかには会われへんやろけど、なんか、頼子さんのストレスを和らげるようなことを考えてみようよ!」


 児童公園のベンチ、クリアファイルの防護面越しに誓い合う留美とさくらでありました。


 


 


 

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