第119話『大仙高校訪問記・1』


せやさかい・119


『大仙高校訪問記・1』 






 火事の話題は今回の方がよかった……そやかて119回目やし。




 まあ、世の中、そうそう都合よくは出来てへん。


 都合よくできてへん世の中で、うちの文芸部は、かなり都合よくやってきた。


 そうでしょ?


 ほんまは五人以上居てんと部活の扱いしてもらわれへんねんけど、頼子さんの奮闘のお蔭とは言え、三人で実質的に部活の扱いにしてもろてる。


 部室かて、図書館の分室を使ってただけでもすごいのに、今は、うちの本堂裏の座敷を使ってる。


 校外での恒常的な部活は認められない! 学校は、そない言う。


「部活の後に生徒の家に集まることまで規制するんですか!」


 頼子さんは、そない主張して押し通してきた。じっさい頼子さんはうちの「部室」に来る前に、必ず学校の部室に寄ってくる。とにかく行き届いた先輩です。




「それが、今回ばかりはダメなのよ」




 めずらしく泣き言を言う頼子さん。


 で、うちらは半年ぶりに自転車に乗ってご陵さんを目指してる。


 仁徳天皇陵の見学でも中央図書館に本を借りに行くんでもない。


 行先は、大阪府立大仙高校。


 昔は大阪府立大仙中学校というたらしい。中学校いうても今の中学とちごて旧制中学。戦後の学制改革で高校になった。


 その大仙高校の創立百周年記念に安泰中学の代表として自転車をかっ飛ばしてるというわけですわ。


「さ、さくらちゃん、丈夫になったわねえ(;゜Д゜)」


 留美ちゃんが喘ぎながら言う。


「そやかて、もうちょっとでしょ。あの角曲がったら坂道しまいやし(;^_^A」


 意味は分かってる、半年前は、この坂道でアゴ出てたもんなあ。


 丈夫というより健康になったんやと思う。去年の三月、酒井の家に引き取られるまでは……いま思たら不健康な生活やった。あ、あかん、これ思い出したら平常心を失う。


 前方に見えてきた中央図書館を横目に殺して左折する。


 山のようなご陵さんを背景にして文化財みたいな校舎が見えてくる。


 大きな四階建てが本館、その向こうの古ぼけた三階建て、それが旧制中学のころから使われてる校舎で、今は記念館というらしい(事前にネットで調べた知識)、その記念館の中で記念行事の地元中学校との交流会が開かれる。よう分からへんけど、五月に行われる本式典の記念行事の一つらしい。


 本館の校舎が近づいてくると、窓から覗いてる生徒が多いのに気付く。


 高校生やから騒ぎ立てることはないけど、あきらかにうちらに注目してる。事情を知らんかったら、おめでたく手ぇ振ってるとこや。


 分かるわよね。


 みんな頼子さんに注目してるんや。セーラー服の襟にブロンドのロン毛をなびかせて、それだけでも絵になるのに、頼子さんはヤマセンブルグ公国の王位継承者の王女様いうのが知れ渡ってる。去年の暮れにお婆さまの女王陛下と皇居にご挨拶に行ったのは全国ネットで流れたしね。


 えと、長なりそうなんで、次回に続きます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る