第86話『マリーアントワネットの呪い・2』 

せやさかい・086

『マリーアントワネットの呪い・2』 





 ダミアの涙が止まらへん。



 パリオリンピックで、ご主人様のマリーアントワネットのお迎えがくるとか話したせいやろか。


 マリーアントワネットの飼い猫は、ダミアと同じメインクーン(ダミアはメインクーン系の雑種やけど)。


 伝説では、マリーアントワネットの亡命に備えてアメリカのメイン州に引っ越しさせられたネコが、マリーアントワネットを恋しがるあまり、その子孫のネコたちに思いが伝わるというか、生まれかわってというか、ご主人様の復活を二百年以上も待っている。


 はたまた、マリーアントワネットはギロチンに掛けられたあと、蝋人形にするために首が持ち去られたという話を聞いて、ネコの身ではありながら、ご主人様の不幸に涙が止まらんくなったか。


 とくに、蝋人形の話は、言い出しべえの留美ちゃんが、たいへん気にしてる。


 頼子さんも気にしてる。マリーアントワネットと飼い猫の話をし出したのは頼子さんやったから。


 ほんで、なによりもマリーアントワネットの夢みて騒ぎ出したんはあたしやし。



 これは、お祓いやろか!? 動物病院やろか?



 そら、動物病院やろ。お祖父ちゃんが、あっさりと決めた。



 さすがは、浄土真宗の坊主!


 浄土真宗では、生き物は死んだら阿弥陀さんのお迎えでお浄土に行くことになってる。せやから、マリーアントワネットがパリオリンピックで復活するなんてお笑い種。


 これが、テイ兄ちゃんとかやったら信じひん。同じ坊さん言うても大学出たてのエキストラみたいなんに言われたらありがたみが無い。


 というわけで、今日は文芸部の三人揃て動物病院を目指す。


 堺東の方の動物病院なんで、テイ兄ちゃんがダミアをケージに入れて、学校の前まで車を出してくれる。


 助手席には頼子さんが乗ってる。


 ほんまは、身内のあたしが助手席やねんけど、車がくる寸前に校内放送で呼び出されたんで、頼子さんが最後に乗り込むことになって、助手席というわけ。


「なんやったんですか(校内放送)?」


「お祖母ちゃんが、学校に電話かけてきたの。急いでるから、またあとでってことにした」


「「ああ」」


 留美ちゃんと声が揃う。頼子さんのお祖母ちゃんといえばヤマセンブルグの女王様。ま、テイ兄ちゃんは知らんでもええ話なんで、そのままスルーしとく。


 車でやったら目と鼻の先の堺東やねんけど、道路工事やら、ふだん通らへん一通の道やらで、けっこう時間がかかる。


「ちょっと、大阪市を経由するでえ」


 なんでか、いったん大和川を渡る。大丈夫なんかいなテイ兄ちゃんの運転。


 そうこうしてる間に、助手席の頼子さんがウトウトし始める。ほんで、テイ兄ちゃんの方に体が傾いて……むろんシートベルトしてるから、頼子さんの髪の毛がソヨソヨとテイ兄ちゃんに掛かったりする程度やねんけど、左折した時には、数秒間テイ兄ちゃんの肩にもたれかかってしもた。


 テイ兄ちゃんは、ポーカーフェイスで運転しとったけど、たぶん嬉しかったんやと思う(o^―^o)。


 まあ、車も出してくれたことやし、このくらいの役得はええでしょ。



 三十分かかって動物病院へ。



「よう、酒井、ボンさんのナリが板についてきたなあ」


 開口一番、ドクターにからかわれるテイ兄ちゃん。学校の先輩かなんかやろか。


 流行ってるみたいで、待ってる人とペットが五組ほど居てた。普通の医院やったら待たされるんやろけど、予約制のためか、二番目に診てもらえる。


 連れてこられてるペットたちが大人しい待ってるのにもびっくり。


 診てもらった結果は、マリーアントワネットの呪いではなくて、アレルギーちゃうかいうことやった。アレルゲンの特定と薬の量を決めるのに、もう一度行くことになる。


「あ、そうですか」


 返事するテイ兄ちゃんは、かすかに嬉しそう。


 次回の助手席は、あたしが乗ると決心した。


 


 


 

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