外法の村 七 捨て駒
夕方、日が暮れる前にユニたちは予定の野営地に降り立った。
密生した針葉樹が続く大森林の中に、ぽっかりと穴が開いたように小さな湖があり、その湖畔の草地に野営するという計画だった。
アランは何度かこの上空を飛んだ経験があるらしく、そうした降下可能な地点を頭に叩き込んでいると説明してくれた。
ロック鳥は籠を下ろすとすぐに飛び立ち、どこかに行ってしまった。
アランが気にしていないので、鳥は鳥で何か用事があるのだろう。
地面に籠が置かれると、オオカミたちは周囲の探索と自分たちの食糧探しに飛び出していく。
エディスは「お花を摘みに(トイレ)」小走りで茂みの中に入っていく。
エウリュアレは草地にぺたんと腰をおろし、冠をつくろうと本当に花を摘んでいた。
ユニは焚火を起こす準備を、ゴーマとアランは籠の中のテーブルで地図を広げ、目的地の〝あたり〟をつけているらしかった。
石で風よけをつくり、集めてきた枯れ木を井桁に組み、枯れた杉の葉をその中に入れる。
油分を含んだ杉の葉は着火剤として重宝するのだ。
杉の木片を薄く削いだ先に硫黄を塗り付けた〝
「あら、早かったのね。何かあった?」
『オークの臭いがする』
反射的にユニは腰のナガサに手をかけ、すばやく周囲を見回す。
しかし、ライガの報告に切羽詰まった感じがしないので、すぐに落ち着いて警戒のレベルを下げた。
「どんな感じ?」
『多分〝はぐれ〟だ。革鎧の臭いは感じなかった。
ここを水飲み場に使っているんじゃないかと思う。
どうする? 狩るか』
「そうね……。
あんまり余計なことしたくないけど、さすがに今日は安眠したいわね」
『わかった。
見つけたら、群れで追い込むいつもの手順だ。
この辺に誘導するから
「わかったわ。
あんたたちのことだからヘマはしないと思うけど、気をつけてね」
ライガは音もなく姿を消す。
三メートルを超す巨体で、どうやったらそんな芸当ができるのか不思議でならない。猫族の血でも入っているのだろうか。
ユニは中断していた焚火おこしを再開し、火がついたのを確認するとやかんを取りに籠の中に戻った。
ゴーマとアランは打ち合わせを終えたのか、たわいのない雑談に興じていた。
「えーと、……悪いんだけど、この辺にはぐれオークがいるみたいなの。
ちょっと始末するから、騒がしくするわね」
「へー、そりゃご苦労なこったな」
ゴーマはまったく動じない。
一方、アランは目をキラキラさせて興奮する。
「えー!
見たいです、見たいです!
僕、本物のオークってまだ見たことないんですよ!」
「いいけど、あんたは護身役の幻獣がいないから危ないわよ」
「えー、でもー……」
瞳をうるうるさせるアランに、ゴーマが「やれやれ」という顔で助け船を出した。
「しょうがねえな。じゃあ、俺が側についていてやるよ。
ユニ、それでいいだろ?」
ユニは焚火の前に戻り、汲んでおいた水を入れたやかんを火にかける。
ゴーマとアランも焚火にあたりながら、アランがこれまで行ってきたタブ大森林の測量任務の話をしている。
中央平野から東の東洋海までは、一応リスト王国の領土ということになっている。
しかしその大半を占めるタブ大森林は、ほとんど人が足を踏み入れることがなく、満足な地図すらなかった。
国境の北側を流れる大河であるボルゾ川沿いには、川を遡る船舶を曳く人足が住み着いていて、東洋海に出るまでの街道は確保されているので、森林地帯が顧みられることはなかったのだ。
ところが、数年前にアランがロック鳥を召喚したことから、軍部は空白部となっていた地図の作成に俄然情熱を燃やしだした。
そのため、特に任務がない限り、アランは頻繁にタブ大森林の上空を飛んで地図の作成にいそしんでいる。
今日の野営地に定めた湖のほとりも、そうした調査の賜物である。
やがてエディスも花摘みから手ぶらで戻ってきた。
焚火を囲む三人の横に腰を下ろすと、遊んでいたエリー(エウリュアレ)を呼び寄せ、膝の上に抱き上げる。
幼女は摘んだ花で花冠をせっせと編んでいた。
「ああ、エディスも聞いて。
この辺にオークがいるみたいなの。
今、うちのオオカミが狩りだしているから、ちょっとバタバタするわ」
エディスの反応もアランと大差がなかった。
「わー、私オークって初めて見ます!
楽しみだわー」
「ですよねー」
アランもニコニコしている。
いや、オークが怪物っていっても、人間に近いんだし、結構血なまぐさいんだけどなー。
そんな心配をしていると、ライガの通信が頭に入ってきた。
『ユニ、今そっちの方に追い立てている。
北側の茂みから出てくるはずだ。
武器は棍棒。
俺とハヤト、トキは先回りしてそっちに向かっている。
しくじるなよ!』
ユニは「どっこいしょ」と年寄りじみた掛け声とともに立ち上げる。
フクロナガサに棒を差し込んだ短槍(というより、イメージとしては
焚火から離れ、開けた湖畔の草原に立ってオークを待つ。
数分が経過し、突然ガサガサという物音とともに、北側の茂みの中から一体のオ-クが飛び出してきた。
オークはそのまま一瞬足を止める。
目の前、二十メートルも離れていないところに小柄な人間が立っていたからだ。
オークの単純な頭脳にカッと血が逆流する。
『人間だ!
女だ!
生意気に武器を持っているぞ!
殺す! 殺す! 殺す! 殺す!
犯してやる! 喰ってやる!
ぐちゃぐちゃにしてやる!』
正体のわからない獣に追われ、やっと開けた場所に出たという安心感もあった。
そしたら、目の前にいきなり弱い人間が立っている。
しかも女だ!
オークの頭の中は暴力と凌辱への欲望と食欲に完全に満たされていた。
「ガアァアアアアアーッ!」
オークはでたらめな喚き声をあげると、ユニに向かって突進する。
粗雑な棍棒を振り上げ、哀れな犠牲者を叩き潰す予感に歓喜する。
あと数メートルでオークの欲望は達成されるはずだった。
しかし、ユニが棍棒の間合いに入る前に、近くの茂みに潜んでいたライガが無音で跳躍し、オークの喉笛を咥えて引きずり倒す。
完全に目の前の人間に気を取られ、周囲の警戒など頭になかったオークは、あっさりとその攻撃を許してしまった。振り上げていた棍棒も、なんの役にも立たない。
オークが倒れると、すかさずハヤトとトキが続き、獲物の自由を奪って抑え込んだ。
ユニはゆっくりと頭の方からオークに近づく。
オークの身体にのしかかったまま、ライガは噛みつくのをやめて頭を起こす。
ユニはライガの牙の跡が残るオークの首にナガサを突き立てた。
ほとんど抵抗もなく
派手な噴水のように血が吹き出て、何度かピュウピュウと噴出を繰り返したが、やがてその勢いは弱まりオーガは絶命した。
ハヤトとトキが、オークの死骸を咥えて引きずっていく。
ここは森の中である。放置しておけば小動物や虫たちが、あっという間に始末してくれるだろう。
ユニは焚火のもとに戻り、腰をおろすとナガサを固定していた目釘を外し、棒を引き抜く。
刃の血と脂を丁寧にぬぐい、腰の鞘に戻した。刃は後で研がなくてはならない。
色白の首筋から右頬にかけてオークの返り血で濡れ、壮絶な有様となっているが、彼女は気にもとめないで作業を続けている。
「結構……迫力がありますね……」
「……そうね」
アランとエディスの表情は、さっきまでと打って変わり、笑顔は消え、心なしか青ざめていた。
大量の血を噴出させて
物語の世界では、勇者にバッタバッタと切り伏せられる怪物が、実際には呼吸をし、体温があり、赤い血が流れている現実に、二人はしばらくの間言葉を失っていた。
もっとも、ゴーマとユニにとっては、よくある日常の出来事に過ぎない。
それでも二人の若者の感情は理解できた。それはかつての自分の姿でもあったからだ。
* *
翌日の昼過ぎ、ロック鳥は目的の上空に近づいた。
サクヤ火山の西麓、溶岩の爪痕があちこちで森林を浸食している不毛の地だ。
まったく当てのない状況で、探すべき範囲は広大だった。
「これから高度を上げます。寒くなるのと空気が薄くなるので気をつけてください」
アランが防寒着のようなものを着込みながら注意をうながす。
「上から建物らしいものがないかを調べます。
十分に高度を取らないと、下から簡単に気づかれますから」
「そんな上空からで地上の様子が分かるの?」
アランに
「猛禽類の視力はすごいんですよ。
特にうちの幻獣はとびきり優秀ですから」
ロック鳥が力強く羽ばたきをはじめ、ぐんぐんと高度が上がっていくのが分かった。
次第に肌寒くなるとともに、息が苦しくなり頭痛がしてきた。
顔をしかめて耐える三人をよそにアランだけが平静を保っている。
十五分ほど飛び回ったころ、アランの声が響いた。
「見つけました!
穴からは約四十キロメートル西方、建物が集合している平地があります」
アランの報告にゴーマが大声で応える。
「その近くに見つからずに降りられそうな場所はあるか?
距離は十キロも離れていれば十分だ!」
「北側に降りられる空き地があるようです。
目標との間に森林を挟んでいますから、見つからずに接近できそうです」
「よし! では北側に大きく迂回してアプローチさせろ」
ロック鳥は北側に進路を変え、十分に距離を取ってから高度を下げる。
さっきまでの苦しみが嘘のように消え去り、籠の中の人間と幻獣たちは安堵した。
極端な低空の滑空から数度の羽ばたきでブレーキをかけ、ロック鳥は見事な着陸をした。
降り立った場所は、火山の噴火による溶岩か土石流によって、樹木がなぎ倒されてできた場所のようだった。
所々で灌木や広葉樹の若木が育っているが、岩の隙間からやっと雑草が顔を出しているような荒野である。
「この籠には二週間分の食料と水が積んであります。
皆さんは一週間のうちに清新派の拠点を調査してください。私は一週間後にここに戻っています。
――その時に皆さんが何のメッセージも残さずにここにいない場合は、次の一日を上空からの捜索に当てます。
それでも皆さんの痕跡が発見できなかった場合は、籠ごと帰還するように命令されています」
アランの言葉は苦しそうだった。
一方、それに応えるゴーマの方は、落ち着いていてアランを力づけるかのような口調だった。
「それはアリストアから聞いている。
気にするな、一週間後に籠まで戻れなければ、必ず上空から見えるような合図を残す」
「はい、それを信じております」
アランはユニとエディスの方を見ると、魔導院時代に〝女殺し〟という物騒な渾名をつけられた微笑みを浮かべる。
この笑顔で上級生の女子院生がしでかした騒動は枚挙に暇がなく、学院の語り草になっていた。
「ユニ先輩もエディス先輩もお気をつけて」
ユニもエディスも笑ってうなずく。
エウリュアレはエディスの足にしがみつくようにして陰に隠れていたが、エディスの服の裾を引っ張って、何ごとかを伝えた。
「あー、アラン、ごめん。
エリーがロック鳥の名前を教えてほしいって」
「やだ、そういえば聞いてなかったわね」
ユニも気づいて少し顔を赤らめる。
「ピートといいます。穏やかで、いい子ですよ」
アランが優しげな目でロック鳥を見上げる。
「この子、昨日から何も食べていないようだけど、この体なのに大丈夫なの?」
ユニはついでだからと気になっていたことを聞いてみた。
「ああ、それなら気にしなくてもいいですよ。
普段もそうなんですが、僕は一日に一回、ピートの召喚を解いて幻獣界に帰しているんです。
一時間も経たずに戻しますけど、その間に食事を済ませてくるんですよ。
こっちで餌を調達できれば楽なんですけどね」
いったん契約を交わした召喚士は、原則として場所の制約なしに召喚の解除と再召喚ができる。
しかし召喚士と幻獣が別れるのは、短時間でも強いストレスを両者に与えることが知られている。
それでもロック鳥を幻獣界に帰す必要があるというのは、翼長三十メートルを超える巨鳥であることが関係するのだろう。
「その……ピートは普段、何を食べているの?」
「クジラです」
「クジラって、あの海にいるクジラ?」
ユニも見たことはないが、話には聞いている。
海にはクジラという巨大な魚(当時の王国ではそういう認識だった)がいて、大きいものでは十メートル以上のものもいるという。
アランの話では、ピートの棲んでいた幻獣界は陸地が少なく、ほとんどが海に覆われているらしく、少し飛んだだけで体長数メートルのクジラ類を見つけることができるらしい。
アランは隅に取りつけられた二メートル四方ほどの小部屋と籠を連結する金具を外して中に入った。
小部屋の屋根の下に隙間が開いていて、そこにロック鳥の足爪を引っ掛けられるようになっている。
ピートは片足で小部屋を鷲掴みにすると、二、三度羽ばたくと舞い上がった。
エウリュアレは空を見上げて小さな手をぶんぶんと振っている。
ピートが見えなくなると、またエディスの足にしがみつく。
「なんか、この子ピートと遊びたかったみたい」
エディスはエウリュアレの髪の毛を優しく撫でている。
ゴルゴンの髪の毛は一本一本が蛇でできているともいわれるが、彼女のはきれいな黒髪で、背中までゆったりと伸び、先端がゆるくカールしている。
艶やかな輝きは、光の具合によって
エリーはエディスの手を逃れると、とことことユニの方に歩いてくる。
あら、今度はあたしに甘えるのかしらとユニが身構えていると、少女はユニを素通りして傍らのライガの方へ寄っていき、ライガの首にしがみつくとぶら下がって遊びだした。
『やめろって、俺は馬じゃないって、何回言ったら分かるんだ』
ライガの困ったような声が頭に響く。
「あら、ライガはこの子の言うことが分かるの?」
ユニは少し驚いて尋ねる。
エリーは笑い声をあげるものの、まったく喋らないからだ。
『ああ、めったにないが、言葉が通じる幻獣もいるんだ。
なんなら中継するか?』
「できるの?」
『多分。ほら、何か言ってみろ』
「えっ? ええ、こんにちは。
あたしはユニっていうの。よろしくね」
『知ってる。このモフモフ、お姉ちゃんのでしょ。
あたしのお馬さんにしてあげるって言ってるのに、言うこと聞かないの。
叱ってちょうだい』
いかにも小さな女の子らしい、舌足らずの甲高い声が頭の中で響いた。
「あー、えっとね、ライガはお馬さんじゃないのよ。
だけど明日は多分、誰かの背中に乗せてあげられるから、それまで我慢してね」
「あれ、ユニ先輩、この子と話ができるんですか?」
エディスが驚いた声をあげる。
「ライガの頭を通してだけどね。
でもまぁ、この子の相手はあなたに任せるわ。私には荷が重いみたい」
「とりあえず、明日の打ち合わせをするから、お前ら籠の中に入れ」
ゴーマが促してプレハブ住宅のような籠の中に集合する。
それぞれが椅子に腰掛けるが、固定されていることが災いして、どうにも落ち着かない。
「それにしても、アランはなんで帰ったのかしら?」
不満たらたらの顔でユニがつぶやく。
それをゴーマは面白そうに見ている。
「また迎えに来るんだから、帰ったっていいだろ?」
「だって、ここから王都に帰るのに二日、私たちを迎えにくるのにまた二日かけるのよ。
それって無駄じゃない?
ここに残って待機するなり、私たちと行動を共にした方が効率的だと思うんだけど……」
ゴーマはすこぶる上機嫌で答える。
「そりゃあ、お前さん。軍の考え方を知らないって証拠だな」
「どういうことですか?」
「今回の作戦で、最重要の目的は何だ?」
「そりゃあ、清新派の拠点を発見することですよ」
ゴーマはもっともらしくうなずいた。
「正解だ。
だったら、アランとピートが上空から偵察して、それらしい拠点を発見した時点で最も優先すべき目的は達成された、違うか?」
「そりゃそうですけど、本当に清新派の拠点かどうかの確認はできていないし、そこがどうなっているかの詳しい情報もわかっていないじゃないですか」
「そうだな、じゃあそれを探るために行動する俺たちにアランが同行したとしよう。
敵と遭遇して戦闘になる場合だってあるだろうな。
場合によっては待ち伏せされて全員拘束されるといった最悪の状況も想定されるだろ?」
「まあ……そういうリスクはありますね」
「だから、そういうリスクを犯さずに、とりあえず相手の本拠地らしき村の位置だけでも先に本部に持ち帰る。
……極めて常識的な判断だろう?」
「……それはそうですけど。
それじゃあ、私たちのことを最初から信用していないみたいじゃないですか」
「みたい、じゃないぜ。
軍は最初から俺たちのことは信用してないんだよ」
「――いや、そんな……」
ユニは不満を露骨に顔に浮かべる。
ゴーマはそれが面白くてたまらないらしい。
「まあ、考えてみろよ。
軍としてはとりあえず敵の本境地の位置が掴めればいい。
場所がわかってさえいれば、軍の精鋭を送り込んで拠点を制圧することがいつでもできる。
――今回のことでわかるように、アランとピートのコンビは高高度からの強行偵察を行える王国唯一の戦力だ。
相手が帝国だろうがなんだろうが、反撃の手段がない。
そんな貴重な戦力を危険にさらすバカが参謀本部にいると思うか?
軍がアランを呼び戻すのは極めて当然の判断だ。
――ついでにいえば、一週間後に俺たちを迎えにくる任務は、重要度としては紙切れほどに軽い。
そして俺たちの任務の成功率は博打並みに低い。
一応迎えには来るが、落ち合う場所まで戻っていればラッキー、戻っていなければ残念でしたで、とっとと帰って来るように命令されているはずだ。
――何度も言うが、敵の本拠地の位置が分かれば十分な成果なんだよ。
その内情探索なんて、万に一つでも成功したら万々歳のついでの任務だ。
失敗してもどうせ二級召喚士が二人犠牲になるだけで、軍は痛くも痒くもないんだよ」
「でもでも……、だってこっちにはエディスだっているわけでしょ?
この
「それはそうだな。
だからエディスが同行するってことは、軍は俺たちを見捨てないっていう〝保障〟でもあるわけだ。
――ところがぎっちょん、多分エディスは参謀本部から因果を含められているはずだぜ。
〝絶対に無理をするな〟ってな。
一応は俺たちの作戦を支援することになっているが、危なくなったら躊躇なく俺たちを見捨てて逃げろ。
自分と幻獣の身の安全を第一にして、アランと合流して帰ってくるように。
……大方、そんなところだろうな」
それまで笑顔を浮かべてゴーマの話を聞いていたエディスは、すっと能面のような無表情に変わり、すぐさま笑顔の仮面を貼りつけ直す。
一瞬のことだったがユニには十分だった。
いろいろと〝察して〟しまったのだ。
「ユニ、お前には酷な話だが、これは軍の立場からすれば、何と言ったらいいのかな、つまり〝通常運転〟ってやつだ。
奴らにしたら当たり前の作戦を立てているだけで、少なくとも〝悪気はない〟のは確かなんだ。
その辺は分かってやれよ」
「……えーっと、それはアリストア先輩を恨むなってことですか?」
ゴーマはおかしそうにくっくっと笑っている。
「うん、まぁ……そういうことになるかな?
アランやエディスは始めから軍の意向が伝えられている。
俺は一応軍でそれなりの将校をやっていたから、その辺の狙いは簡単に読み取れる。
――だからアリストアとしては、お人好しのお前にだけは〝バレなければいいなぁ~〟と思っているんだろうな。
でも残念、俺がバラしちゃうんだよな」
「あー、もう分かった!
ここまで来たら覚悟は決めるわよ。
エディス、あんたもヤバくなったら逃げていいけど、ギリギリまでは手を貸しなさいよ!」
エディスは笑顔を浮かべたまま、「了解」と言うように黙って手を挙げた。
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