第43話 四人目の勇者!?

 それがしは怒り狂うダンジョンの魔物たちに命を狙われた挙句、パシリに使われているでござる。

 あのバカな魔物たちは何もわかってないでござる。


 それがしは副ダンジョンマスターなのでござるぞ。

 そのそれがしをパシリに使うなど信じられないでござるよ。


 まぁ~とは言うものの、魅鬼殿の話ではユーリ殿は女郎街のチンピラにリベンジしに行ったらしく、ステータスオールFのユーリ殿を魔物たちが心配するのも無理のないことかもしれぬな。


 それに手紙を届ければ配達料が発生するのは極自然のことでござろう?

 ユーリ殿から深夜配達手数料を含めた料金、金貨1枚を請求するでござるよ。


 その金を持って今日は女郎街でオールナイトでござる……うふふ。

 それがしの体が持つでござろうか?


 と、スケベぇ~なことを考えていると、女郎街から次々に男たちが不満そうな表情で出てくるでござる。

 一体どうしたのでござろう?

 お楽しみの夜はこれからでござろう?


「なんだいなんだい、せっかく今日は楽しもうと思ってたのに全店店じまいだとよ!」

「ふざけんじゃねぇよ!」

「なんでもどこかのバカが女郎街のボスを襲撃したって話だぜ」

「余計なことすんじゃねぇーよな。女郎街がなくなったら俺たちの楽しみがなくなっちまうじゃねぇーか」

「まったくだ。とっとと殺されちまえ」


 なんと!?

 引き返して来た男たちが女郎街のボスが襲撃されたと口々にしているでござる。


 女郎街とは謂わばヤクザの巣窟みたいなところでござろう?

 そのドンに喧嘩を売るなんてとんでもなくイカれた奴もいたもんでござるな。


 ユーリ殿が下っ端のチンピラを相手にしているのが可愛く思えてくるでござるよ。

 それがしはすっかり静まり返った女郎街を一人歩き嘆息したでござる。


「これではユーリ殿から報酬を貰っても遊べないではござらんか……本当に余計なことをする奴がいるでござるな」


 しかし、ユーリ殿はどこでチンピラとリベンジマッチをしているのでござろうか?

 どこにも見当たらないではござらんか?


 それがしはユーリ殿を探し求めて女郎街を練り歩き、強面のむさくるしい連中が円形状に集まる場所を発見したでござる。


 まさかあの男たちの真ん中でチンピラと喧嘩している訳ではござらんよな?

 それがしは「ちょっと失礼するでござる」と声をかけて、男たちの肉壁を押しのけて先頭にやって来た。


「…………!?」


 それがしはそれを目にして驚愕に固まったでござる。


 何故ならそれがしの眼前には巨大な穴が開けられており。その穴の中には女郎街で最も目立っていた建物が上層部だけを残して、ぺしゃんこに潰れているでござる。


 男たちは皆ブチギレ、穴に何本もロープを垂らしてはそこからスルスルと穴の底へと下りて行っているのでござるよ。


 それがしはその穴を見て『不味い』と思い慌てて踵を返してこの場を後にする。


「まずいまずいまずいまずいっでござる!!」


 それがしはパニック寸前でござった。

 先ほどのあの穴はどう考えてもユーリ殿の仕業でござろう?

 ということはでござるっ!


 女郎街のドンを襲撃したという命知らずのバカはユーリ殿ということではござらんか!?

 冗談ではござらんっ!!


 なにを血迷ってヤクザなんぞに喧嘩を売ってるでござるか!?

 イカレてるでござる!!


 もしもそれがしがユーリ殿の仲間だと思われたら…………こうしては居れんでござるよ!

 直ちに退散でござる!


 それがしが足早に女郎街を後にしようと来た道を戻っていると、「明智……光秀?」とそれがしを呼ぶ可愛らしい声音が聞こえてきて、それがしは足を止めて声の方を見やったでござる。


 そこには、路地の一角に身を潜めるように固まるエロス……ではなく女子の集団が佇んでいたでござる。


 見覚えのある容姿。

 間違いなく同級生でござった。

 その中に最も記憶に残る者がいたでござる。


「ええと……確か立川ゆかり殿でござったか?」


 そう、確かユーリ殿の元カノで……ぷーくすくす、一瞬でユーリ殿を振ったナイスガールでござる。


 ナイスガールことゆかり殿は他の女子と顔を見合わせて頷き、それがしに訳の分からない事を口にしているでござる。


「明智……光秀、くんも……あたしたちを助けるために?」

「は……?」


 助けるとは何のことでござるか?

 それにしてもゆかり殿たちのスケベぇ~な格好を見るに女郎であるのでござろうな。

 うん、金に困って女郎になったのでござろう。


 今度遊びに来るときは彼女たちの助けになるために指名するでござるよ。うふふ。


「それで……ゆう君は?」

「それが聞いて欲しいでござるよ。ユーリ殿はどうやら血迷ったようで女郎街のドンに喧嘩を売って追いかけられているようなのでござる。正直ユーリ殿はこちらの世界に来てから頭が一層おかしくなっているでござるよ。これまではそれがしがオールFのユーリ殿の面倒を見てきてやったのでござるが……ハァ~、正直もう面倒見きれんでござるよ。ゆかり殿たちも関わらない方が懸命でござるな。それがしももうユーリ殿とはエンガチョッでござる」


 それがしの話しを聞いていたゆかり殿たちは悲壮な表情で、涙目になってしまったでござる。


「そんな!? あたしたちのせいよ!!」

「えっ!?」


 何を言ってるでござろうか?

 一体ユーリ殿が女郎街のドンに喧嘩を売るのとゆかり殿たちに、何の関係があると言うのでござろう?


「あたしたちのせいとはどういう意味でござるか?」

「聞いてないの? ゆう君から……」


 ゆかり殿は涙を拭い小首を傾げているでござるが、それがしが昼間から晩までここで遊んでいたなんて言ったら……印象が悪くなるかもしれんでござる。


 ひょっとしたらそれがしのかっこよさに気付き惚れてくれるかもしれないでござるし、ここは……。


「それがしは……弱いユーリ殿を養ってやるためにギルドで働いていたでござるよ。ユーリ殿は知っての通りオールFでござろう? だから頼りがいが有り、面倒見がよく、優しいそれがしが養ってあげてるでござるよ」


 それがしはかっこ良く髪を掻き上げて、『やれやれでござる』と言うように口元をにっと吊り上げたでござる。


 ゆかり殿は少し困惑の表情を浮かべながらもそれがしの話しを頷きながら聞き、気色の悪い血文字の紙切れを差し出して状況を説明してくれたでござるよ。


 それがしはそれを黙って「うんうん」と聞いていたのだが……聞けば聞くほどそれがしの体調は悪くなり、血の気がサッと引いていくでござる。


「つ、つまり……ユーリ殿はゆかり殿たちを助けるべく……その、ドンと戦っているでござるか……?」

「そうよ! だからお願い! ゆう君を助けてあげて! 明智君は強いのよね?」

「えっ……!? そっ、そそそ、そりゃー……つよ、いでござるよ」


 それがしは遠く彼方を見据え、考えたでござる。


 ここでユーリ殿を助けなければ眼前のゆかり殿たちから総スカンを喰らうでござる。

 なんたってユーリ殿は囚われている彼女たちを開放するために戦っているのでござるから。


 しかし……かと言って女郎街のドンにカチコミに行ったユーリ殿に手を貸せば……それがしまで異世界ヤクザに狙われるでござろう?

 参ったでござるな。


 と、その時。

 それがしは冬鬼殿から預かっていた手紙を思い出したでござる。


「わかったでござる! それがしが必ずユーリ殿を救い出し、ゆかり殿たちも救ってみせるでござるよ! な~に、心配はいらないでござる。ゆかり殿たちは知らんでござろうが、それがしは王国兵に選ばれ、王都を襲ったオークロードを討伐し、四人目の勇者に選ばれたんでござるよ」

「「「「「「すごい!!」」」」」」


 ゆかり殿たちは瞳を輝かせ、羨望の眼差しでそれがしを見ているでござる。


「ここだけの話し、それがしは国王から土下座されて、魔王を討伐して欲しいと懇願されたでござるよ。必ずやそれがしが麗しの乙女たちと、か弱く貧弱なユーリ殿を救って見せるでござる!」


 それがしは乙女たちにハートが飛び出してしまうほどのウインクをプレゼントしたでござる。


「「「「「「う゛ぅ゛……キモッ」」」」」」


 案の定、それがしの魅力に気付いた乙女たちは目がハートになり、それがしを王子様だと勘違いしている様子でござった。


「さて、ユーリ殿を助けてやるでござるか!」


 乙女たちの期待を胸に、今それがしは大きく一歩踏み出すのでござった。




 ◆




「フィーネア、大丈夫か?」

「ユ……リ、もう……しわけ、ありま……せん」

「喋らなくていい。わかってる。俺のために戦ってくれたんだろ? 謝ることなんて何もない」


 傷だらけのフィーネアに、俺はそっと再生薬を飲ませた。

 フィーネアの体は燐光に包まれて徐々に傷が塞がっていく。


 だが、傷は治れど失った体力と血は元には戻らない。

 フィーネアはもう戦えそうにない。


 俺はフィーネアを担いで無数に穴を掘り、探知ダガーで敵が近付いてきていないことを確認してから、この場でフィーネアを下ろした。


 しかし、不味いことになったな。

 このまま穴を掘り街を離脱してもいいのだが……ゆかりたちが心配だ。

 それに……確実にゆかりたちの呪いを解くにはマムシに解かせる必要もある。


 それと……先ほど見た二人の少女……。

 彼女たちのことは知らないが、間違いなくゆかりたちと同じ状況なんだろう。


 俺は正義の味方ではないが……見捨てる訳にもいかない。

 ひょっとしたらこの女郎街に居る女たちは皆同じ状況下にいるのかもしれないしな。


 だとしたらなおさらマムシを見過ごす訳にはいかないだろう。

 あいつを放っておけば第二第三の被害者が生まれる。


 もう二度とゆかりたちのような悲しい思いをする人を出しちゃいけない。

 男になるんだ月影遊理!

 ここまで来てビビっていたってだらしねぇ!

 やる時はやってやるぜ!


「ユーリ」

「フィーネア!」


 どうやらフィーネアの傷が癒えたようだ。

 だが、やはり辛そうだ。


「その……」

「謝らなくたっていい。それよりこれからどうやってマムシを倒すかだな」

「違うのです」

「ん? なにが違うんだ?」


 俺が『ん?』と眉を上げると、フィーネアはスっと舌を見せてきた。

 そこには見覚えのある五芒星が描かれている。


「フィーネア!?」

「申し訳ありません!」


 フィーネアが悔しそうに頭を下げた。同時に拳に力が入ってしまう。


 だけど……慌てる事はない。

 こうなった以上六人も七人も同じなのだから。


 俺はフィーネアにもう一度舌を出すよういい。

 メアちゃんにフィーネアの舌を食べさせた。


 幻魔獣ナイトメア――メアちゃんは悪夢や苦痛を食べる。

 しかし、食べられた者の体からは一滴も血が流れることはなく、痛みもないという。


 ヴァッサーゴ曰く、メアちゃんに舌を食べさせた後、再生薬で舌を再生させればいいと言っていた。

 そうすることで呪印は消える。


 ただし、それは完全に呪いが消えたことにはならない。

 呪印は飽くまで術を施したという証明のようなもの。


 マムシの呪いがどの程度強力かわからない以上、油断は出来ないと言っていた。

 と言うのも。

 強力な呪いであった場合、呪印を消しても魂に深く刻まれているのだという。


 その場合、やはり女郎街から一歩足を踏み出したら舌は爆発してしまう。

 安全を考えたらマムシに術を解かせる必要がある。


「よくやったぞメアちゃん」


 俺はメアちゃんの頭をモフモフしながらフィーネアに最後の再生薬を渡した。

 フィーネアの舌が再生されるまでの約10分間は話ができないだろう。


「さて、これからどうするかな」


 悩む俺の元に鼓膜を揺らす無数の足音が聞こえてきた。


「まさか……手下が下りてきたのか!?」


 俺は慌てて後方に穴を開けようとしたのだが、


「ガキと女がいたぞ!」

「クソッ!」


 バレちまった。

 どうすりゃいいんだよ!

 フィーネアはもう戦えるわけないし……。


 その時――


 武器を掲げ無数に駆けてくるゴロツキ共に向かって、メアちゃんが俺の肩から飛び出した。



「メアちゃん!?」

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