第594話 結末は……

 ふと気がつくと健はベッドの上で目を覚ました。


「知ってる天井だ……」


 健の見つめる天井は学校の天井そのものだった。周りを見ればカーテンで仕切りがされている。そこから予測されるのは保健室なのだが、何故自分が今ここにいるのか、寝起きで頭がよく働かず理解が追いつかない。


「あら、目を覚ましたのね」


 唐突にカーテンを開けて入ってきたのは、白衣を着たソフィーリアだった。


「え……ソフィ……?」


 状況についていけない健がそう呟くと、ベッド脇に腰掛けた乱入者ソフィーリアが健のおでこをツンとつつく。


「誰と間違えているのかな?」


「ソフィ……じゃない?」


「頭を打ったせいかしら、混乱しているのかも知れないわね。加藤くんは体育の授業中に、バレーボールが頭部に当たってそのまま気絶したの。覚えてる?」


「バレーボールって……俺ってそんなにひ弱だったか?」


「ひ弱かどうかは先生にはわからないけど、バレーボールは直接的な原因じゃないわよ。加藤くんが倒れたのは貧血のせいよ。ちゃんとレバーとか食べてるの? 女の子ならまだしも、男の子で貧血なんて珍しいわよ。あと、倒れた時に頭を打った可能性もあるけど、たんこぶができていなかったから、きっと倒れ方が良かったのかもね」


「……で、結局あなたは誰?」


「養護教諭のリアよ。自慢じゃないけど男子生徒からの人気は高い方だし、知らない人はいないと思ってたんだけど」


「リア……外人?」


 乱入者のソフィーリアが本来の姿で登場しているので、健はそういう設定なのだろうと口にしたのだが、ソフィーリアからまたおでこをツンとつつかれてしまう。


「こぉーら、先生を呼び捨てにしたらダメでしょ」


 いつもとは違うソフィーリアの雰囲気に健はドキドキしてしまうが、そのドキドキは雰囲気だけではなく、さっきからチラチラとブラウスの隙間から見えるソフィーリアの下着のせいでもある。


 目の前のソフィーリアはピシッとしたブラウスではなく、緩い感じのブラウスを着ているのだ。恐らくピシッとしたブラウスだと、自己主張の激しいけしからんおっぱいが窮屈なのだろう。


 当然のことながら健がそれに気づいてからは、ソフィーリアの顔など見ずに、ずっとその隙間を凝視していた。ついでにけしからんおっぱいの主張も。


「加藤くん、相手と会話する時は目を見て欲しいんだけどな」


 ソフィーリアが前かがみになって健の瞳を覗き込むのだが、健は前かがみになったソフィーリアが見せる谷間を見てしまう。よほど窮屈なのだろうか、ボタンが2個ほど止められていないのだ。これで見るなという方がおかしい。


「加藤くん? これは痴漢行為よ?」


 唐突にそう言うソフィーリアが指さす先には健の手があり、無意識のなせる技なのか健がソフィーリアの胸を揉んでいたのだ。だが、そこは腐っても健。真面目な顔つきになると、自論を披露する。もちろん、胸は揉んでいるままだが。


「リア先生、俺は思うんです。登山家が何故山を登るのか。それは、そこに山があるからだと」


「それが先生の胸を揉むことと関係あるのかな? なかったら、お説教よ?」


「俺が何故先生の胸を揉むのか。それは、そこに胸があるからです」


「はぁぁ……男の子だからそういうことに興味を持つ年頃なのはわかるけど、これは立派な犯罪なのよ?」


「リア先生、こういう言葉があります。『犯罪はバレなきゃ犯罪じゃない』。かくして、完全犯罪なるものが世の言葉として広まったのだと思います」


「先生に気づかれた時点で完全犯罪じゃないわよね?」


「同意の上なら犯罪ではありません」


「先生は同意した覚えがないんだけど?」


「拒否をしない。つまり、裏を返せば同意したということです」


「それは先生が悲鳴をあげたら、加藤くんのこれからの人生がダメになるからよ。先生は先生だから、若人の未来を奪いたくなかったの」


「リア先生の優しさに感謝を。そして、お礼を」


 そこまで言った健はあろうことかソフィーリアを引っ張って、ベッドの中に引きずり込む。


「ちょっ、加藤くん!?」


 健は倒れていたとは思えないほどの力で、引っ張りこんだソフィーリアを押し倒す。


「あなた貧血じゃなかったの!? どこにこんな力が?!」


「リア先生を愛するがゆえです」


「愛って……ん……ま、待って……」


 ソフィーリアが何かを喋ろうとしても健がそれを阻むかのように唇を貪り、その間にブラウスのボタンをしれっと外してしまう。


「だ、ダメよ! これ以上はお説教じゃ済まされなくなるわ!」


 健のキス攻めからなんとか逃れたソフィーリアがそう言うと、健を制止させる。


「俺は先生を抱きたい」


「ダメよ。加藤くんだって、こんな乳牛みたいな体は気持ちが悪いでしょう」


 それから語れるのはソフィーリアが乳牛と馬鹿にされてきた過去であった。だが、健はそのようなことを気にせず、ソフィーリアを抱きたいと強く懇願する。


 すると、やがて健の熱意に押されたソフィーリアが口を開いた。


「加藤くんが先生のことを気持ち悪くないって言ってくれたから。エッチ過ぎるけど素直な好意を寄せられたのは初めてなの。だから、ちゃんと自分で納得した上で加藤くんに抱いて欲しいって思ったのよ」


「リア先生……」


「加藤くん、恋人みたいにキスからしてくれる?」


「『みたいに』じゃないです。リア先生を俺の彼女にします。好きです、リア先生。俺と付き合ってください」


 健の唐突な告白を聞いたソフィーリアは目を見開いて驚くが、すぐに元の表情に戻ると告白を受け入れられない理由を述べる。


「ダメよ。私たちは先生と生徒なんだから。だからね、今回限りの1回だけ。この思い出を私は大事にするから、恋人みたいに愛して」


「今はそうでも、終わる頃にはリア先生から離れたくないって言うくらいに、俺のことを好きにさせてみせます」


「ふふっ、自信家ね。そうならないように先生は割り切るわ」


 それから健はソフィーリアのことを恋人らしく「リア」と呼び、ソフィーリアもそれに合わせて「健くん」と呼ぶ。


 その2人は唇をついばみ、恋人のようなキスを重ね続けていくと、そこから健はソフィーリアの体をくまなく愛していくのであった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 夕日が辺りを照らし始める頃、健は帰りのHRで担任から居残りを命じられる。


「加藤くんはこの後、生徒指導室まで来るように」


「え……何故ですか?」


 不良行為などしていない健は身に覚えがないのか問い返すも、身に覚えがあることを突きつけられてしまう。


「授業をサボっていたと報告が上がっています」


「あ……」


 今日1日で健に思い当たることは、倒れて保健室に運ばれていたことを除けば、午前中は朔月さつきからこってりと搾られ、昼休みから屋上で陽炎ひなえとしっぽりと過ごし、やっとこさ参加した体育の授業では早々にリタイアで、まともに受けた授業がほぼないということだ。


 それらのことにより担任に言い返せるほどの事情がないため、健は素直に生徒指導室へ行くことを決意する。


「わかりました」


「では、後ほど来るように」


 その後、特に何もなく帰りのHRが終わると、健はカバンを持って生徒指導室へ向かう。その際に陽炎ひなえ朔月さつきに対して、帰りは遅くなるとメールすることを忘れない。


 やがて辿りついた生徒指導室のドアをノックすると、中から担任の許可が下りたので健はドアを開けて入室する。ちなみに、そのドアには【指導中】という表札がぶら下げられていた。


(せめて、【使用中】ならいいのに……悪いことをした感がひしひしと感じ取れる……)


 そのようなことを思いながらも健が入室すると、中では担任が立って待っていた。その指導室内には1番奥に窓があり下校時間とあってか、既にカーテンは閉められている。そしてその前にオフィスデスクが置かれ、手前にはテーブルを挟んで対面にソファがそれぞれ置かれていた。


 初めてここに入った健は指導室っぽくない内装に対して、『応接室に使えそう』という感想を抱いてしまう。


「そこにかけて」


 担任から手で誘導された健はソファに座ると、その対面には担任が腰を下ろす。


「で、何の用なの? 姉さん」


「こら。学校じゃ『先生』と呼びなさいって、いつも言ってるでしょ」


 そう。健を呼び出した担任は、何を隠そう姉である結愛ゆあなのだ。


「はいはい。それで、先生は何の用なの?」


 身内とあってか全く礼節を重んじることなく対応する健によって、結愛ゆあは溜息をこぼすと今回ここに呼び出した理由を語る。


「言わなくてもわかってるでしょ。どうして授業をサボったの? 何か嫌なことでもあった?」


 健は嫌なことと言われても、今日は良いことづくしなことしか体験していないので、どうにも答えようがない。


「嫌なことなんてないよ」


「じゃあ、他に何か悩みごとがあるの?」


「悩みごと……悩みごとねぇ……」


 健はこの場をさっさと切り上げて家に帰りたいがためか、納得してもらえるような悩みごとが何かないかと、今からそれを考え始めていた。


 その様子を眺めている結愛ゆあは、深刻な表情で考え込む健を見てしまい、迂闊に口にできないような大きな悩みごとでも抱えているんじゃないかと曲解してしまう。本人は全くそのようなことを考えてはいないのだが。


 やがて、健が考え込む仕草をやめて結愛ゆあに顔を向けると、結愛ゆあは不意に構えてしまい、何を言われても親身になって相談に乗ろうと決意する。


 だが、その決意は脆くも崩れ去る。


「先生が魅力的過ぎるのが悩みです」


「…………は?」


「先生が色っぽいから、男子たちの間では人気なんです。この歳の男子なんだから、色々な妄想を膨らませた話をよく聞きます。放課後に残って個人補習をしたいだとか、体育教師だったら夏場に水着姿が見れるのにとか、他にも色々と」


 結愛ゆあはいったい何を言われているのか理解できなかった。健が口を開いたかと思えば、その口から出てきた言葉は悩みごとではなく、よくある男子の欲求話をだったのだ。


「か、加藤くん? 悩みごとは……?」


 そう答えるのに精一杯だった結愛ゆあに対して、健は変わらずに主張する。


「だから、先生の魅力が悩みの種なんです」


「み、魅力って……私、そんなにモテた試しがないよ?」


「本当にそう思ってるんですか?」


「だって……校舎裏に呼び出されて告白されたこともないし……下駄箱の中の手紙っていうイベントもなかったし……机の中も探したけど手紙は1通も入ってなかったし……」


 結愛ゆあの学生時代の願望なのだろうか。数々のイベントを口にしては、それらがなかったと告白してしまう。それを聞かされる健は、溜息をつくと1つ1つ例に上げていく。


「まず、教師ならスーツの上着をちゃんと着ましょう。何でブラウスのまま人前に出ているんですか。しかも、ボタンを外しているし。誘ってると思われても仕方がないですよ?」


「え……だって、会うのは弟だし……」


「2つ目、何故男子の前で足を組んで、それを組みかえる動作をするんですか。誘ってるんですか?」


「そ、それも……弟の前だし……」


「3つ目、放課後の誰も来ない生徒指導室で、それらの行為をしてしまうなんて無防備過ぎます。襲いますよ?」


「お、おとぅ……と……」


 どんどんと尻すぼみになっていく結愛ゆあの返答により、どちらが指導を受けているのだと言わんばかりである。


「わかりましたか?」


 最後に念押ししてくる健によって、とうとう結愛ゆあは逆ギレしてしまう。


「指導するのは私なの! 健ちゃんは私の言うことを聞いていればいいの! 健ちゃんの前だから気を抜いたっていいじゃない! 健ちゃんのケチ!」


 駄々っ子のように言ってくる姉に対して、健は頭を抱えてしまった。学校では“先生”として接するように口酸っぱく言ってくるのに、自分では弟の前だから気を抜くという本末転倒な言葉によって、健はお仕置きを決意する。


「姉さんがどれだけ危なっかしいか、身をもって教えてあげるよ」


「教えるのは私なの! 先生なんだよ!」


 まだ言い返してくる結愛ゆあを無視して、健は立ち上がると結愛ゆあの隣に腰を下ろした。


「健ちゃんはあっちの席で――っ??!!」


 まだ何かを言おうとした結愛ゆあの口を健が唇で塞ぐと、結愛ゆあは目を白黒させて驚きを隠せない。だが、すぐにハッとすると健を離すため手で押そうとするが、健からギュッと抱きしめられてしまい、されるがままになってしまう。


「健ちゃ……ダメ……」


「ぷはぁ……」


「健ちゃん……どうして……」


 ポーっと健を見つめる結愛ゆあがそう問いかけると、健は悪びれもなく答えた。


「姉さんが誘うのが悪い」


「え……」


 結愛ゆあとしては全くその気はなかったのだが、朔月さつきに嬲られ童貞を卒業し、続く陽炎ひなえで自信をつけ、乱入者リアにより経験を積んだ健に、もはや結愛ゆあの行動は襲ってくださいと言っているようなものだったのだ。もちろん、健の中限定で。


 そのようなことを知らない結愛ゆあは困惑のさなか、健によって押し倒されてしまう。


「け、健ちゃんダメよ。お姉ちゃん、そんな育て方はしてないわよ」


「人は成長するもんだよ」


 それらしく言ってのける健だが、手は既に結愛ゆあのブラウスのボタンをテキパキと外しており、両側にバッと開いてブラに包まれた胸を晒した。


 その行為に結愛ゆあは両手でバッと胸を隠したのだが、健は上が隠されたなら下だと言わんばかりに、タイトスカートを脱がせてしまう。


「ちょ……健ちゃん!?」


 あれよあれよの間に半裸状態にされてしまった結愛ゆあは、頭の中でグルグルと色々な思考が混ぜ合わさり、混乱中のさなかに為す術なく健の手練を受けてしまう。


「っ……健ちゃん……ダメ……」


「姉さんは誰にも渡さない。俺だけのものだ」


 結愛ゆあはいつもとは違う“姉さん”という呼び名と、それに続く言葉でゾクゾクとしてしまうが、それをおくびにも出さず役柄を演じきる。


「健ちゃん、今ならお姉ちゃんも怒らないから……」


 数々の経験を積んできた健は止まらない。


「健ちゃん……うそ、嘘よね? お姉ちゃんたち姉弟なんだよ?」


「関係ない。大好きな姉さんはずっと俺だけのものだ」


 そう言い切るや否や、健は結愛ゆあを強引に抱いた。


「やっと姉さんと1つになれた。もう他の男子たちの入り込む隙間はない」


「健ちゃん……そこまでお姉ちゃんのことが好きだったの?」


「『だった』じゃない。好きなんだ。ずっとずっと好きなままで、いくら他の女子を好きになろうと思っても、姉さんのことが忘れられないんだ」


「そう……だったのね……」


 結愛ゆあは健からの告白を聞き、優しく微笑むと健を抱きしめた。


「ごめんね。お姉ちゃん、両親の代わりにしっかりしなきゃって思ってたのに、健ちゃんのことをちゃんと見れてなかったね」


 実は設定上、健たちの両親は不幸な事故により他界しているのだ。それからは保険金や遺族年金でやりくりし、結愛ゆあが1番年上ということもあり、安定した職に就いてからは嫁入りも一切せずに家庭を守っていたのである。


 当然のことながら健たち弟妹は、家の手伝いなどをして結愛ゆあの負担を減らし、健は妹2人の面倒を見ていたことから妹2人に懐かれ過ぎるぐらいに懐かれ、健は健で結愛ゆあが理想の女性として映っていたのだ。


 そのような背景があったため健はシスコンとなり、陽炎ひなえ朔月さつきはブラコンとなってしまった。


 ――閑話休題


「いいよ。健ちゃんの想いを受け止めるね。お姉ちゃんの初めてを健ちゃんにあげる」


「姉さん……」


「もう奪われたあとだけどね」


 そう言ってペロッと舌を出す結愛ゆあにクラクラとした健は、もう強引な愛し方ではなく、ゆっくりと愛していく。


 やがて、2人の逢瀬が終わると結愛ゆあが口を開いた。


「健ちゃん、満足した?」


「足りない……家でもしていい?」


「……こっそりね?」


 それから後始末を終えた2人は、結愛ゆあの車にて自宅へと仲良く帰るのであった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「え……何で……?」


 自宅に帰りついて、結愛ゆあとともに玄関からリビングへと入った健の第一声がこれだった。


「おかえりなさい、健くん」


「おかえり、おにぃ」

「おかえり、にぃ」


 そこには居て当然の妹たち2人がいるのは気にしないのだが、何故か養護教諭のリアことソフィーリアまでくつろいでいたのだ。


「リア先生!?」


 ソフィーリアがいることに驚きを隠せない結愛ゆあが名前を呼ぶと、ソフィーリアはニッコリと微笑みを浮かべる。


「私、健くんの彼女になったのよ。加藤先生」


「何ですとっ!?」


 いきなり宣言されたぶっ飛んだ内容を聞いた結愛ゆあが、驚きを隠せないまま健に視線を向けると、健は頭を掻きながら頷いて見せた。それに対して結愛ゆあは、つい先程まで告白された上での逢瀬はいったい何だったのかと問いただしたくなる。


「それにしても健くん、妹たちにも手を出していたのね」


「な、何ですとっ!?」


 再び健を見る結愛ゆあだったが、健の対応は先程と同じものだった。


「健ちゃん! お姉ちゃんのことが好きなんじゃないの?!」


 とうとう我慢しきれなくなった結愛ゆあがそう問いただすと、健はキリ顔で答える。


「もちろん、大好きだ!」


「じゃあ、何で他の人に手を出してるの!」


朔月さつきには襲われた」


「はい!?」


「にぃの童貞は朔月さつきのもの。縛っての逆レは鉄板!」


「なに言って……ってか、何してんの!?」


陽炎ひなえはパンツを見せてきて、ムラムラしたから抱いた」


「はあ!?」


「おにぃが喜ぶかなって……屋上ってドキドキするね」


「何処でやってんのっ!?」


「リア先生は自分じゃ魅力的じゃないって自虐に走ってたから、わからせるために抱いた」


「おかしくないっ!?」


「健くんったら保健室で何度も何度も私を抱くのよ。もう健くんなしじゃ生きていけないの」


「持ち場でなにやってんだ!?」


「で、姉さんのことは大好きだから、誰にも取られたくなくて抱いた」


「聞いた! 生徒指導室で聞いたけどさっ!」


 ツッコミ疲れする結愛ゆあが、思わずポロッとこぼした言葉をソフィーリアが拾い指摘する。


「加藤先生だって、生徒指導室でやるなんてどういう指導内容なの? 性教育?」


「それはっ――!」


「にぃ、結局ここにいるみんなとやったんだね」


「そうだな」


「じゃあ、これからはコソコソせずにやれるね」


「それもそうか」


「『それもそうか』じゃなぁぁぁぁい!」


 既にツッコミ役として定着してしまったのか、結愛ゆあが声を上げると、健はそれをとりあえず落ち着かせてから、ソフィーリアがここにいる経緯を聞く。


「健くんと結婚を前提にお付き合いをしてるから、同棲するために来たの」


「あぁ、それで」


「納得するなぁぁぁぁ! リア先生、実家で同棲も何もないでしょ!」


「これは加藤先生にとってもいい話と思うわよ?」


「え……」


 ソフィーリアがいきなり『いい話』と持ちかけてきたことにより、結愛ゆあは人の家に上がり込む人のどこがいい話なのか理解不能だった。


「私と健くんは普通に結婚できる。でも、加藤先生たちは結婚できないでしょう? そして、私は理解のある妻になるつもりよ」


「それが何?」


陽炎ひなえちゃんや朔月さつきちゃんは同意してくれたわよ」


 妹たちが同棲に同意したと聞いた結愛ゆあが視線を向けると、妹たちはそれぞれ頷いて見せる。


「リア先生は愛人関係オッケーな人」

「結婚したあともおにぃと一緒にいれる」


「――ッ!」


「わかったようね。つまり、結婚できる私が隠れ蓑になって、ここにいる5人で幸せになりましょうって話よ」


「リア、グッジョブ!」


「ふふっ、ありがとう健くん。で、加藤先生はどう? 賛成してくれるの?」


「わ、私は……」


 結愛ゆあがこれから先のことを色々と考え込むと、最終的には健のことが頭に浮かび、肉体関係を持ったことで更に愛情が深まったのか、ソフィーリアの申し出を受けることになる。


「良かった。断られたらどうしようかと思っちゃたわ」


「もし、断ってたら……?」


「加藤先生だけが除け者で、私たち4人で幸せになるだけよ」


「うっ……」


「断らなくて良かったね、おねぇ」

「これでみんな仲良し」


 それから話が纏まってしまうと夜ご飯となり、本格的なリアのお引っ越しは先にしても、とりあえずの歓迎会を開いていつもより豪華な内容となった。


 そして、それぞれがお風呂も終わりくつろぎ始めた頃、朔月さつきの一言によりまたもや騒がしくなってしまう。


「にぃ、エッチしよ」


「「「――ッ!」」」


 開けっぴろげに言ってしまった朔月さつきによって、残り3人の女性たちが素早い反応を見せる。


「健くん!」

「健ちゃん!」

「おにぃ!」


 その後のことは言わずもがな。健のベッドに限らず誰のベッドでも狭いということで、客室にて仕舞い込んでいた客布団を引っ張り出してきて、そこでくんずほぐれつが開催される。


 それは翌朝まで続き体力が底をついてしまうと、5人揃って仮病を使って学校や仕事を休むことになる。


 そして休んでしまえば何も気になることはないと言わんばかりに、情欲にただれた休日を5人で延々と過ごすのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る