第592話 プロゲーマーの容赦ない攻撃
ケビンが最後の難関に二の足を踏んで早4日目。いつもは明るい朝食の場は、ブリザードが降り注いでいるかのような雰囲気だ。
「昨日は1日中お楽しみでしたね」
そう口にするのは、ケビンの前の席を陣取っている
「メイドプレイは楽しかった?」
「本場のメイドだもんね?」
そして、両隣からは
だが、何の策も思いつかないままのケビンであったら、今すぐこの場から逃げ出したくなるのであろうが、今は取っておきの秘密兵器を昨日のうちに創り出しているのだ。
今のケビンに死角はない。
「ああ、プリシラは最高のメイドであり妻だ。俺の要望にも余すことなく応えてくれて、最高の夜を過ごせた」
火に油を注ぐような発言をしたケビンによって、一部の嫁たちはギョッとしてしまいケビンを見つめてしまう。それを聞いた
「へぇーそうですか」
「最高だったんだ」
「それは良かったね」
周りにいる一部の嫁たちは気が気ではない。まさにここは朝食の場ではなく、戦場へと化そうとしているのだ。
そのような場で、とある1角に座るニコルは隣にいるプリシラの脇をつんつんとつつき、ボソボソと話しかけた。
「お、おい、プリシラ。これを何とかしろ。お前がケビン様を独占していたから、デートに誘われると思っていた
「全てはケビン様の幸福のもとに」
「――ッ! それは【ケビン様を慕う会】の格言!?」
「わかったのなら、黙って成り行きを見守りなさい。沈黙は金です」
全くもってプリシラの言わんとすることの1ミリたりとて、それを言われたニコルは理解していないのだが、
「今日は誰と一緒に過ごすのかな?」
「メイドが昨日なら今日は秘書かな?」
「それとも新しいお嫁さんを増やす?」
ケビンを攻撃する手を休める気はないのか、
だが、今のケビンに死角はないのだ。
「今日は
「へぇーそれはそれは……」
「中々に強気な発言だね」
「それほどに凄いイベントを?」
「まぁ、朝食後のお楽しみだな。ここでネタバレするわけがないだろ」
こうしてブリザードが降り注ぐ中で、エレフセリア家の朝食は終わりを迎えるのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「さぁ、今から遊ぶぞ!」
朝食後にケビンの寝室へと連れ込まれた
「なに、エッチでご機嫌取り?」
「気持ちよさで誤魔化すの?」
「騙されない」
それを聞いたケビンは、“ケビンの寝室=エッチ”という固定観念がある
そして、ケビンが【無限収納】から大型モニターやゲーム機を設置していくと、それを見てしまった
「それって……」
「まさか……」
「うそ……」
「どうだ。これが昨日1日かけて創っていた俺の努力の成果だ」
ケビンはプリシラに口止めしていることをいいことに、まさかのゲーム機製作で1日を費やしていたと法螺を吹く。だが、ここに真実を知るプリシラはいない。さりとて、ソフィーリアにしてもわざわざケビンが嘘をついていると、ここに言いに来ることもない。
今まさに、時代はケビンのために動いている。
「だって、プリシラさんと一緒に……」
そのような中でも
「へばった俺を回復するお手伝いをしてもらっていたんだ。サポートにかけてはプリシラの右に出る者はいないからな。もちろん、その後はお礼にプリシラを抱いたが」
話す内容の全てが真実ではないにしても、嘘も言っていないことからケビンは堂々とした雰囲気で発言をし、その堂々としたケビンの佇まいは、パターンを知り尽くす
「ごめんなさい健兄……私、誤解してた」
「ごめんなさいおにぃ。てっきりプリシラさんとエッチ三昧かと思ってた」
「にぃ、ごめんなさい。にぃに酷いこと言った」
『イエスっ!』
『地獄に落ちますよ、マスター……』
《落ちればいいのよ》
ケビンの心の中でのガッツポーズにサナが呆れていると、しれっとシステムが悪態をつく。
だが、波に乗っているケビンが、そのような些細なことを気にするはずもない。この波を活かすべく、さっさと
「これって、配管工兄弟!?」
「こっちは滑らんかーだよ!」
「金垢の塔まである!」
「フハハハハ! どうだっ! 家族用計算機だけでなく、超家族用計算機や、最近の遊び承り所まで創ったんだぞ! なんとっ、VR付きだ!」
「これ、生物危険性のやつだ!」
「こっちは最後にならない想像世界!」
「魔物駆逐者まである!」
「俺が本気を出せばこのくらいお茶の子さいさいなのだ!」
「「「凄いっ!!」」」
こうして鼻高々となったケビンは、興奮絶頂の
「…………勝てない」
「にぃ、弱い」
「も、もう1回だ、もう1回!」
「ふぅ……仕方ないなぁ、にぃは」
そう。ケビンの鼻をへし折ったのは、子供の頃からゲームの上達が三姉妹の中で1番だった
「ちょ……まっ……嘘だろ!?」
ケビンは開始早々に
――『K.O.』
やがて大型モニターから聞かされた終わりを告げる声に、ケビンはコントローラーを落としてしまう。
「何故だ……」
画面の中では勝利のポーズをとるキャラと、無惨にも地べたに倒れているキャラの相対的な光景が映し出されている。もちろん、
そのような理由でガチへこみしているケビンの肩に、そっと
「健兄……
「スポンサー……?」
「海外じゃよくあるでしょ? 優勝者や上位ランカー、ファンからの人気がある人にスポンサーが付いてチームに所属したりとか。当然のことながら、当時は中学生だったから契約は両親が代わりにしたし、近場の大会には大学生の私が保護者代理で付き添ってたりしたのよ」
「
ケビンが
「だからね、諦めよう? たとえ健兄が無類のゲーマーだったとしても、プロには勝てないんだよ」
「そうそう。私も
「…………断る。俺の辞書に『退く』という文字はない」
「無理だよ……」
「ムリ、ムリ……」
意気込むケビンに対して、
「
「私に得がない」
「明日の朝までに俺が勝てなかったら、1日中
そのようにして
「受けてたつ」
「
「私は別にいいけど……時間の無駄だよ? 相手は
「勝負になったら
「フッ……骨は拾ってくれ」
かくして、勝負を挑んだケビンは格闘ゲームという相手の土俵に立ち、プロ格闘ゲーマーの
そして、それからの対戦はケビンにとって悲惨なものだった。
本気を出した
(何が気分転換だよっ! これガチのやつじゃないか、チクショー!)
ケビンは今まで以上に手も足も出ないまま呆気なく倒されてしまい、最初はガードしようとコントローラーをカチャカチャと動かしていたが、どうにもこうにもならなくなると手を動かすのをやめ、体力ゲージが無くなるまで画面を見続ける観客と化していた。
――『K.O.』
「ね、無駄だったでしょ?」
「
1試合目から心をへし折られそうになってしまうケビンだったが、勝ったあとのことを考えては消えそうになった闘志の炎に薪を焚べて、再びごうごうと燃やし始める。
「つ、次の試合だ!」
「私に勝つのは天地がひっくり返っても無理。隠しキャラを出してあげようか? そのキャラなら強いよ?」
「なっ!?」
ケビンは
(ふざけるなよ……地球ならまだしも、ここは異世界。女神に愛されし俺に『不可能』の文字はないはず! ソフィ、俺はお前の愛を信じるぞ!)
だが、その意気込みの炎も2試合目には再び鎮火寸前にまで至る。
「何故だ……何故勝てない……」
「相手はプロだし……」
「大会連覇者だし……」
「にぃと1日中2人きり……フフフ……」
ケビンが勝てない理由。それは、勝利報酬の“ケビンと2人きり”だけでなく、この勝負が始まってからというもの、必殺技を使わなかった
つまり、
ちなみに試合をしている時間さえも、手加減をしてもらっていた時よりも格段に減っている。
その間にケビンができることと言えば、ガードするかパンチやキックといった簡単な操作でしかない。たまにキャラの技を発動するも、その初動を見切っているのか簡単に躱されてしまい、代わりにカウンターによるコンボに繋げられてしまうのだ。
そして、幾度となくケビンが負け続けていき、
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