第538話 皇帝VS帝王
無敵たちが休憩を取っている中で、
「ほう……それがお前本来の力か? 中々に魔王らしいではないか」
未だ余裕の表情を崩さない
「異世界の魔王のくせに刀……? しかも二刀流だと? 物干し竿は持っていないが、さながら俺は佐々木小次郎でお前は宮本武蔵と言うところか。まぁ歴史とは違い、勝つのは【帝王】であるこの俺だがな」
そう言う
そのような中で見学をしている嫁たちはケビンの心配をしていた。未だかつてケビンに対して重傷を負わせたのは、前皇帝の魔王しかいなかったからだ。
「やはり勇者というものは面倒よの。主殿が魔王でなければ不利な状況も生まれぬというのに」
「それに……あの勇者は侮れないようです。背後からの急襲……勇者らしくない行動であっても平気でそれを成し遂げるということは、目的のためには手段を選ばないということになりますね」
クララとアブリルがそのような感想をこぼしていると、
「
「アホよのう……選ばれし存在なら【帝王】ではなく【勇者】になっておろうに。【勇者】になれぬ時点で人間性に難ありと気づかぬのか?」
「私が思うに
「それ故に“自分は選ばれし存在”ということですか……全くもって嘆かわしい。両親は何を教育していたのでしょうか。帝王学ではなく主様ののびのび教育の方が、子供たちにとっては遥かにいい影響を与えています」
「それは言っても仕方のないことよ。家庭の数だけ子供への教育方針があると言っても過言ではないの。私にとってケビンは初めてちゃんと産むことができた子供だから、貴族の子息という窮屈さを与えないよう好きに生きてもらって、それで幸せになって欲しいというのが私の教育方針だったわ」
「ふむ……好きに生きた、と言うよりも生き続けている結果、嫁の数が凄いことになっておるがの」
「ふふっ、そうね……」
そのような中で
「して、サラ殿は大丈夫なのか? 思い切り火に飲み込まれておったであろう? あのような色の火は見たことがないぞ」
「ケビンが助けてくれたから私は大丈夫よ。ケビンが後ろから刺された時にそれを見てしまって、頭に血が上ってしまったから敵を襲いに行ったけど、結果的にケビンに迷惑をかけちゃって申し訳なかったわ」
「それにしてもあの火は面妖よのう……」
クララが
「私たちの元いた世界ではこの世界のように“魔法”ではなく、“科学”というのが発展している世界でした。その中に“化学”というものがあり、
「かがくはんのう……? よくわからぬ言葉よの」
クララがわからずに頭を捻っていると、
そのような時にふと思い出したのかサラが言葉を発する。
「そういえば……ニーナさんが言っていたけど、ケビンは赤色と白色と青色の火を扱えるらしいわ。それと同じなのかしら?」
「……いえ、多分違うと思います。赤と青だけなら
「うーん……確か……赤色から段々と色が変化して最終的に青色になったそうよ」
そう言うサラからの返答を聞いた
「そういえばニーナさんがその火を初めて見た時は、その火のせいでダンジョンが溶けてたって言ってたわね。ダンジョンの内部を溶かすなんてケビンは凄いわ」
「……今の言葉でわかりました。健兄がしたことは
それから
「核融合反応って……」
「星のエネルギーを魔法にしちゃうなんて……」
「それって考え方を変えれば核爆弾が作れるってことになるのか?」
「ヤ、ヤバすぎだろ!? 核攻撃なんか魔法でどうこうできるような代物じゃねぇぞ!」
「おにぃ……俺TUEEEEどころじゃない……」
「にぃ……
「にゃにゃ!? お兄さんは何を目指してるにゃ?」
「科学と魔法の融合……?」
「そのうち宇宙船とか作りそうですね」
そのようにして
「燃えろ、魔王! 《蒼炎球》」
「《
そして再び間合いを詰めた2人が剣戟を交わしていくが、二刀流のケビンの方が当然ながら手数が多く、
「物干し竿がなくて残念だったな。なんちゃって小次郎」
「帝王たるこの俺を侮辱するか!?」
「侮辱なんてするわけがないだろ。お前は侮辱するに値しない帝王未満の人間なんだからな。なんちゃって帝王君?」
「貴様ぁぁぁぁっ!」
ケビンの挑発にまんまと乗せられた
「詫びを入れるなら許さないこともないぞ? なんちゃって君」
「くっ……帝王たるこの俺が進むは王の道……魔王ごときに退いてなるものか……貴様に媚びるなど言語道断! 王の進行を邪魔する者は何人たりとて許さん!」
『キター! なんちゃって帝王の退かぬ、媚びぬ、反省してないから省みぬぅぅぅぅ!』
《サナちゃん……》
ケビンの言葉がプライドを刺激したのか怒り狂った
そして、次々と雨あられのごとく押し寄せる
「ぐっ……」
「燃えろ! 《蒼炎柱》」
ケビンを斬りつけた
それからも攻撃の手を休めることのない
「《蒼炎嵐》」
その魔法により蒼炎の嵐が吹き荒れてしまい、ケビンの姿は既に傍目ではどうなっているのかわからないほどになってしまうと、そこにきてようやく
「はぁはぁ……帝王たるこの俺を下に見た報いだ……後悔の中で死ぬがいい……」
未だ吹き荒れる蒼炎を見つめながら勝利を確信している
やがて吹き荒れる蒼炎が収まると、そこには刀の代わりに魔剣を携えたケビンの姿があった。その手に持つ魔剣はゆらゆらと漆黒の魔力を放ち、それを見た無敵たちは経験者とあってか、ケビンが大した手傷を負わずに立っている理由がすぐさまわかってしまう。
「……なん……だと……」
「《魔剣封印》戻れ、ヴァティファシオン。いでよ、第3の魔剣……アドウェルサス」
「《魔剣解放》反転せよ、アドウェルサス」
ケビンの言葉により魔剣の柄部にある青石が光を放つと、それを見た無敵はその魔剣の効果を推測し始める。
「反転……反対……? いったいあの魔剣はどんな能力を持っているんだ……」
「逆ってことか?」
「逆って意味わかんないし」
「逆ぅぅ?」
「何にせよ、厄介よ。あれで3本の魔剣を所持してるってことになるわ」
無敵たちが色々と思考する中で、ケビンと相対する
「《蒼炎球》!」
困惑する
「なっ!?」
その状況に慌てた
「反射? いや、それなら今までの流れから『反射せよ』と言うはず……反転……反転……」
「方向が逆になるってことじゃないのか? 現に
「それってヤバくね? うちらの攻撃がそのまま自分に返ってくるってことじゃん」
「ピンチぃぃぃぃ!」
「まだ確定するには情報が足りないわね」
そして再び
「《反転結界》」
それによりケビンの周りに半球状の結界が構築されて、
「くそっ!」
自分の撃ち放った魔法がそのまま戻ってきたことで、同じ数だけ更に作り出しては迎撃していく
「《蒼炎柱》!」
だが、本来ならケビンの足元から火柱が噴き出すその魔法は全く反応を見せず、ケビンはその場で立ったままである。
「《蒼炎嵐》!」
そして、火柱が駄目なら火嵐でと言わんばかりに
すると、
その瞬間に
「そういうことか……」
「わかったのか?」
「最初は魔法のみに働く反射に近いものだと思っていたが、あれはまさしく反転している」
「いや、それだけだとうちはわかんないし」
「力、方向、速度……それらが全てあの魔剣に触れた時、真逆に向かう」
「なるほどな……」
「そういうことね……」
「千代……わかる?」
「なんか難しい……私、理数系は苦手……」
「無敵ぃ……うちにもわかるように言ってよーポイントカードの時みたいにさー」
「はぁぁ……つまりな、
「うんうん」
「それをあの魔剣は同じペースで後ろに歩かせることができるんだ」
「う……ん?」
「
「……それって行きたい所に行けなくなるじゃん! トイレに行きたくなったらどうすんの?! うち、お漏らしとか絶対ヤダしヤバいっしょ!?」
「……はぁぁ……別に魔剣に触らなければいいだけだ。魔王も
「それなら問題ないし、魔王って意外と良い奴じゃん!」
無敵の説明により
「――ということで、あれはベクトルの反転よ」
「うわぁ……おにぃの好きそうな能力……」
「ベクトル操作最強説……」
「よくわかんないにゃん」
「まだ習ってないし……」
「お兄さんは凄いですねー」
「無理……頭がパンクしそう……」
「うぅぅ……勉強やだぁ……」
「やべぇ……今テスト受けたら確実に赤点取る自信がある」
「心配するな、俺もだ」
だが、オタクならまだしも普通の生徒は習う前に異世界へ来たため、ケビンの行ったベクトル操作の凄さはわからず、ただただ勉強が嫌ということを再確認しただけである。
そのようなことが繰り広げられている中で、
「もう終わりか、愚帝王?」
「貴様……どこまで馬鹿にすれば……」
「お前が日頃から他人に対してやっていることだろ? 力を得て図に乗りすぎなんだよ。なにが『帝王たるこの俺』だ。お前なんかただの俗物だろ。これからは『俗物たるこの俺』もしくは『愚帝王たるこの俺』と言いかえろ。負け犬街道まっしぐらのお前にはお似合いだな。ああ、『負け犬たるこの俺』もいいな」
「クソがぁぁぁぁっ!」
ケビンにより散々馬鹿にされた
「やられたことはやり返す」
『百倍返しだ! ざまぁ!』
《やっと終わりね》
「がはっ……」
「母さんに手を出したことを後悔するがいい」
それからケビンは魔剣を引き抜くと
「自身の技で燃えろ。《蒼炎柱》」
ケビンがそう告げると、
「あぢぃぃぃぃ!」
「うるさい」
「このままでは
「お主は馬鹿か? あやつが主殿とサラ殿に何をしたのか忘れたのか? 主殿は剣を刺され、サラ殿は燃やされたのだぞ? 今2人が生きているのはひとえに主殿の力によるもの。それがなければ2人は死んでおる」
「貴女は何か勘違いをなさっているようですけど、彼は私たちを殺しに来た者ですよ。それは彼の行動から見て取れるでしょう? 彼が私たちを殺すのはよくても、私たちが彼を殺すのはよくないと言うつもりですか?」
「それは……」
クララとアブリルに咎められた
「
「え……」
「あれは死ねない拷問なの。ケビンがやめるまで延々と苦しみを受け続ける処罰よ。魔王様に手をかけたんだもの。本来なら即刻打首よ。
サラからの問いかけに対して
しかしながら
そしてここは異世界である。裁判所などあるわけもなく、処罰の采配は国の方針やトップに委ねられることが多い。その異世界においてサラたちの言っていることが常識であり、
今更ながらに
そしてケビンは
「見ているのが辛いなら見なければいい」
「健兄……彼はどうなるの? 殺すの?」
「あいつを殺すのは簡単だが、それをしたらそこで終わってしまう。地獄の苦しみを味わわせるには生きたままの方が何かと都合がいい。調子に乗ったガキの鼻っ柱を折るにはもってこいだろ」
ケビンが
「主殿よ、あそこにおるやつらはどうするのだ?」
「ああ、無敵たちか……魔剣を使いまくってだいぶ魔力を消費したから、少し休憩したあとで相手をすることにしよう」
「健兄……無敵君たちも処罰するの? 魔王を襲いに来たから」
「無敵たちは遊んで終わりだな。無敵自身は魔王を殺すと言うよりも、ただ単に魔王に勝負を挑んで勝ちたいということを優先させている。俺に勝って九鬼に再度挑みたいんだろ。良かったなラクシャス、無敵にモテモテだぞ?」
「勘弁してくださいよ。あいつ、本当に執拗いんですから、面白くなって育てたりしないでくださいよ」
「それは思いつかなかったな……そうか、無敵を育てて九鬼の成長に繋げるのもアリか……」
「全然アリじゃないですよ!」
「学友と切磋琢磨して己を高めていく。まさに学生時代にしかできない青春じゃないか」
「既に学生じゃないですよ! もう18ですよ、18っ! 一般的な高卒の年齢ですよ!」
「それなら2人でうちの学園に入学するか? 専門科なら年齢制限なしだぞ」
そのようなケビンのからかいによって九鬼が声を荒らげていると、ほどよく休憩ができたのか、ケビンは席を立って無敵たちの所へと向かうのであった。
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