第536話 オタク無双
魔王サイドがのんびりと過ごしている中で、戦場では勇者たちがお互いに相対していた。その者たちは片や継続的に思考誘導を受けてしまった教団サイドの勇者たち、片や継続的に思考誘導を受けず自らの意思で戦おうとしている魔王サイドの勇者たちである。
「生徒会長、貴女ともあろう御方が何故魔王に与するんですの?」
「そこにミートソーススパゲティがあるからだ」
合理主義の
「
「私は
「私は智ね」
「私はしーくん」
「私は宗くん♡」
副委員長である剣持が
「
「小生の選択肢においてルート分岐してしまい、勢力チェンジルートに突入したら魔王サイドの一員だった件。そちら側に属さない決め手は、やはりプリシラ氏による【アキバのメイド道】ですが、何か?」
「萌え萌えキュンでごわす」
「プリシラ殿のメイド道は神の如しですぞ」
「完璧なるメイドでござるな」
「そんなことを言ったところで、
「小生が今まで何もしていなかったとでも? 何故イグドラに小生が留まり続けたのか……それは彼の国にはドワーフ族が住んでいるからであります。小生にとってイグドラとは、趣味と実益を兼ねる二重の意味で聖地なのであります」
「某もイグドラに住むエルフ族が師に当たるでごわす。賢者の石はまだ作れずとも、錬金術師としては最高峰に至れると自負しているでごわす」
「賢者の石……? 賢者の不死原さんがいるのに石が欲しいのかい? それなら不死原さんに頼んで、そこら辺にある石を拾ってもらえばいい。1度彼女が手にしたのなら、それはもう賢者である不死原さんの石。つまり賢者の石だろ?」
「能登氏が何もわかっていない件」
「錬金術師のロマンを踏み躙られたでごわす」
「不死原さんの石……それはそれで欲しいですぞ」
「ネーミング的に現幽石はいかがでござろうか? 不死原殿の氏名から生き死にの曖昧さを表現してみたでござる」
「「「「……欲しい!」」」」
奇しくもただの石ころという話から
そして、クラスメートであるゆえか中々進まない勇者たちの戦いは、空気を読まない【
「まどろっこしい! 《
生徒会長がケビンの与えた魔法のステッキを振ると、空からスパゲティ並の細さの闇の線が降り注ぐ。
「フッ……【帝王】たるこの俺にそのような子供騙しは通用せん」
「なっ!? 生徒会長は【武聖】で、魔法が使えないはずではなかったんですの?!」
「みんなを護って……《ホーリーシールド》」
「おいおい、生徒会長って無茶苦茶だな。職業縛りナシかよ」
「士太郎は【英雄】だろ? 何か対抗策とかねぇの?」
「どっちかって言うと護りなら、【僧正】やってる大輝の仕事だろ」
生徒会長からの急な攻撃に対して
「うひょー! 【
「まさに魔法少女でごわす!」
「【
「では、拙者たちも始めるでござるか」
猿飛の掛け声に
「引いてくれないんだね……仕方がない、少しだけ痛い思いをして見学者になるといいよ」
そう言う能登が腰にぶら下げている剣を抜き放つと、その剣は神々しい光を発し、それに反応した
「まさかそれはっ?!」
「この決戦のために教団から与えられた聖剣だよ」
「エ、エクスカリバーでありますか?!」
「ん……なんだい、その名称は?」
「せっかくの聖剣がエクスカリバーでない件……」
「ならば、エクスカリパーでごわす」
「エクスカリハーの線もあるですぞ」
「残念でござる……魔王様なら有名な魔剣を持っていそうでござるが、教団はお約束というのを理解してござらん」
能登の抜き放った聖剣に
「もしかしてそれはっ?!」
「私も能登君と同じで聖剣を携えし者なのです」
「今度こそエクスカリバーなのっ?!」
「え……そのような名前ではありませんよ」
「ないわぁ……異世界にきてエクスカリバーじゃないなんて、執事喫茶に執事がいなくてメイドがいるくらいないわぁ……」
「所詮は教団のオモチャということよ」
「晶ちゃん残念だったね」
「やっぱり魔王様の方が教団よりもオタク文化に造詣があるね」
能登に引き続き剣持まで聖剣を抜き放ったというのに、オタクたちの悲愴感ではなくガッカリ感は途方もなく膨れ上がる。そして、ガッカリ感を少しでも打ち消そうと
「魔王様が配下、デスナイツが1人。深淵の底を覗きし小生に打てぬ装備なし。【
「同じく、某の求むるは知識の深淵。【
「同じく、槍術においては通常の3倍のスピード。【
「同じく、忍びの技は奥深き虚実なり。【
「なっ!? 上位職へのクラスチェンジが終わっているのか!?
「フッ……言ったはずだ。僕たちが何もしてこなかったと思っているのか? キリッ!」
「既に
「ついでに僕も創世に至りし槍聖……キリッ!」
「忍法に果てなし、宗主に至ろうとも未だ限界なく……キリッ!」
4人が4人とも決まったとばかりにキリ顔を見せつけると、
「……やるのね、
「……はぁぁ……智ったら……」
「しーくんみたいにカッコよく」
「宗くん見ててね♡」
「デスナイトガールズが1人、私のくっ殺はまーくんだけのもの。【
「同じく、智のおかげで深淵に至りし我が大魔導。【
「同じく、しーくんのためならバーサクヒーラーにだってなれる。【
「同じく、宗くんと同じ頂きに辿りつくため磨いた忍術。【
「あ、貴女たちも上位職へとクラスチェンジが終わっていると言うの!?」
「フッ……いつまでも彼氏の後を追う女だとは思わないことだ……キリッ!」
「私たち全員はマスタークラス……キリッ!」
「バーサクヒーラーの極みを見せてあげる……キリッ!」
「2人の愛と忍法に果てなし……キリッ!」
奇しくも途中からノリノリとなってしまった
「だが、僕たちだって漫然と過ごしていたわけではない! 勇者の中の勇者として、君たちを止めて正気に戻してみせる!」
「そうよ! 私も勇者として貴女たちを止めてみせる!」
「それにいくらマスタークラスとなろうとも、
そう言う能登はいくらマスタークラスの職業に至っていようとも、
「こんなこともあろうかと……」
その決まり文句と同時に
「な……何だそれは……」
「何だかんだと聞かれたらっ!」
「答えてあげるが世の情けっ!」
「「ドヤっ!」」
ノリノリで能登の言葉に反応した
「小生と
そう、
そして、その話を聞いたケビンが現物を見たらハリボテだった物を実際に使えるように改造を施し、【耐衝撃】、【耐反動】、【冷却放熱】、【耐久力増加】、【軽量化】と実現可能なあらゆる処置を追加付与している化け物兵器と化してしまった。
「この【
「き、君たちは異世界に来ていったい何を……」
「異世界……それはオタクのオタクによるオタクのための世界……キリッ!」
「その世界において趣味に走ることこそ、オタクの本懐……キリッ!」
「現代社会では制約により実現不可能なことも……キリッ!」
「こと異世界においては実現可能であることもしばしば……キリッ!」
「そんな彼氏たちを支える……キリッ!」
「私たちの内助の功……キリッ!」
「オタクと馬鹿にされようとも……キリッ!」
「彼氏と分かち合えれば彼女の本懐……キリッ!」
「「「「これぞ!」」」」
「「「「オタク道!」」」」
「「「「ドヤっ!」」」」
「「「「ドヤっ!」」」」
一斉に『キマった!』と言わんばかりのドヤ顔を見せていたが、相対する勇者たちはそれどころではなかった。まさか異世界に来てまで殺傷能力の高い近代兵器が出てくるとは思わなかったのだ。そのような唖然としている能登たちに対して、立場的なところで優位に立った
「小生の聞き間違いでなければ取りようによっては、小生と
「それは……」
「既に小生たちは魔王サイド。敵となった貴方たちにはもはやかけるべき情けなし」
「なっ!? 学友であるクラスメートの僕たちを殺すというのかっ!」
「はて、小生の耳はおかしくなったでありますか? オタクと蔑む者、蔑んでいない者は代わりに無視を決め込む。クラスカースト最下位であった小生たちを貴方は『学友』と言う。小生の記憶が確かならば、クラスカーストを気にせず話しかけてきたのは、今はここにいない九鬼氏であります」
そう言う
「それなら何故
「フッ……剣持氏は所詮ノーマルということ。オタクを理解していないであります」
「どういうことよ!」
「オタクはオタクの匂いを嗅ぎ分けるのであります。小生たちは
「ちょっ、
「それでは萌え萌えキュンの恩を返すであります」
「ッ! みんな散開しろ!」
「【
「某も撃つでごわす!」
そして、【
「ぐあぁぁぁぁ!」
「いでぇぇぇぇ!」
「何でっ!? 不死原さんの結界で防げてない!」
そして、その2人がその場に倒れ込むと、今度は同じグループの【重騎士】というタンク役である
「素晴らしい! 最高のショーであります!」
「見ろ! まるで人がゴミのようでごわす!」
ノリノリで撃ち続ける
「幸せそうね、
「智ったら……はしゃぎすぎよ……」
そのような中でも他の者たちは黙って見ているだけではなく、【勇者】能登や同じく【勇者】剣持は
「やらせはせん、やらせはせんでござる!」
「宗くんと一緒なら私の戦闘力は53万よ!」
「くっ! 猿飛君は2人の暴挙を止めなくていいのか! 人殺しをしているんだぞ!」
「貴方たちは友だちじゃないの?! 道を踏み外したのを止めるのが友だちでしょ!」
「敵の無力化は戦術において必須事項でござる!」
「早ければ早いほどなおよしなのよ!」
能登の相手を猿飛が受け持ち剣持の相手を服部がしている中で、他にも動き出している者たちがいた。
「
「【剣聖】である
「俺の相手はお前か
「しーくんのいる所が私のいる所。【魔導剣豪】の
そして、未だに【
「くっ……当たらなければどうということはない!」
「不死原さんの計算が厄介ね。伊達にⅠQが高いわけじゃない」
「うほほー魔法という弾幕の中で撃ち放つ【
「こちらの弾幕もかなりのものでごわす!」
「ちょっと、
「智、遊んでる暇があるなら終わらせて」
「小生、【重騎士】の
「
「仕方がないわねぇ……」
「まったく智ったら……」
それから
「いででででで――っ!」
「フッ……またつまらぬものを撃ってしまった……キリッ!」
「
「あーちゃんが厳しい件……しょぼん……」
「2人きりじゃない時に『あーちゃん』って言うなー!」
「理不尽なり……
「言ってたでごわす」
「言ったわね」
「くっ……」
「くるでありますか!?」
「くるでごわす!?」
「言っちゃうの?!」
「殺す!」
「キタコレー!」
「もう既にテンプレと化しているでごわす」
「晶子は照れ屋ね」
【重騎士】の
「よし、
「小生、女子を攻撃する手段を持っていない件」
「某も同じでごわす」
「ヤバいコレ、楽しぃぃぃぃ! ちょー濡れるっ!!」
【
「小生の彼女が豹変した件……」
「銃を持たせたらダメなタイプでごわす……」
「晶子……」
そして、
そのような2人は
その後、【
「ちょっと晶子ちゃん! 私まで巻き込むってどういうことよ!」
「コレ楽しいんだって! 翡翠も撃ってみなよ。そこに1丁残ってるから」
「そういうことじゃなくて、ねぇ! 聞いてる?!」
服部が異議申し立てを一生懸命にするも、
「ふぁいあぁぁぁぁっ!」
「……
「小生……自分の彼女がここまでサバゲーにハマるとは思っていなかった件……」
「どこにもサバイバル要素がないんだけど……」
「一応、魔王様主催のゲームであるからにして、弾丸も非殺傷性の物で【微麻痺】が付与されたものでして……一方的なサバゲー「違うよね?」……もとい、リアルシューティングゲームという拡大解釈のもと、小生も楽しんでいた部分があり
そう言う
「
そう、この場へ次にやってきたのは、服部と同じようにして《空蝉の術》で難を逃れた猿飛である。そして、その猿飛に対しても
「
「うぅぅ……危うく蜂の巣にされちゃうところだったよ……でも、しーくんにお姫様抱っこしてもらっちゃった♡」
先程まで
そして、次の標的となっていた
「的っ! 的はどこ?!」
そしてまだ興奮冷めやらぬ
すると、
「あーちゃん、もう近くに敵はいないよ。今のあーちゃんもカワイイけど、僕はいつものあーちゃんの方が好きかな」
「――ッ! ま、まま、まーくん??」
「いきなり抱きついてごめんね」
「そ、そそそ、そんなことないよ。まーくんだったら私も嬉しいし……」
「はは、初めて抱きしめたからちょっと手が震えてて格好悪いね」
初めて女子に抱きつくという偉業を達成した
「まーくん、ドキドキしてる?」
「うん。大好きなあーちゃんに抱きついてるからね」
「私もドキドキしてる。大好きなまーくんに包まれてるから」
「ドキドキカップルだね」
「うん……」
「あーちゃん、もうそれは収納してもいいかな? 次の機会は魔物相手に使わせてあげるから」
「ごめんね……迷惑かけちゃったよね?」
「ううん、迷惑じゃないよ。あーちゃんが楽しんでくれて僕も嬉しいよ。それにみんなはもう許してくれてるし、元気なあーちゃんが1番だよ」
「まーくん……大好き♡」
「僕もあーちゃんが世界中の誰よりも大好きだよ」
「
「智だって不意にドキッとさせられる男になるわよ」
「
「ほら、ドキッとさせられた。私も大好きよ、智♡」
「拙僧もみこちゃんをお姫様抱っこした時はドキドキしたですぞ」
「私もしーくんにお姫様抱っこされてドキドキしちゃった」
「大好きだよ、みこちゃん」
「私も大好き、しーくん♡」
「みんな両想いで良いでござるな」
「私たちみたいだね」
「では、僕も……翡翠ちゃん、大好き」
「うん。私も宗くんが大好き♡」
こうして【オクタ】と勇者グループや居残り組の戦いは、途中までは戦いらしい戦いをしていたのだが、
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