第479話 暗殺者が飲んだくれだった件

 ケビンを狙う暗殺者が飲んだくれになって更に1週間後、止まっていた事態が動き出す。新たな暗殺者が帝都へ足を踏み入れたのだ。


 その理由として、あまりにも任務達成の報告や定期連絡を1ヶ月も前から送って来ない毒蜂キラービーに対して、ドウェイン枢機卿が任務に失敗したのだと判断したら、新たな暗殺者を大急ぎで帝都に送り込んでいたのだ。


 実は毒蜂キラービー、任務を達成してから報告をして帳尻を合わせようとしていたため、お酒漁りが理由で道中をのんびりしながら向かっていたことを、ドウェイン枢機卿へ報告しなかったのである。


 そして、その毒蜂キラービーの代わりにやって来た暗殺者のコードネームは【糸師スパイダー】。金属を糸のように細く細く伸ばしたものを巧みに使い、ターゲットの首へ絡みつかせると声を挙げる暇もなく窒息へ追い込む暗殺術を得意とする。


「ったくよぉ、たかが1人やる任務に失敗してんじゃねぇよ」


 愚痴をこぼしながら宿屋へと歩いていく糸師スパイダーと酒代を得るために魔物を狩りに行く毒蜂キラービーが、偶然にもばったりと街中で出くわしてしまう。


「「あっ!?」」


 奇しくも出会ってしまった2人は同時に驚きの声を挙げてしまった。そして毒蜂キラービーはもの凄く気まずそうに、一方で糸師スパイダーはお化けでも見たかのように、お互いがお互いを見つめては言葉を失っている。


 こうなってしまえば毒蜂キラービーに逃げ道はなく、気まずい表情のまま乾いた声を出しながら、対面する糸師スパイダーへと話しかけた。


「は……はは、こんな所で会うなんて奇遇だな」


「生きてたのかよ、おめぇ」


「ま、まぁな。こんなとこじゃ積もる話もできねぇから、俺の使ってる宿屋へ行こうぜ。まだ空き部屋があったはずだ」


「そうだな。ちょうど宿屋へ行く途中だったんだ」


 こうして毒蜂キラービー先導のもと糸師スパイダーがそのあとを追い宿屋へ向かうと、糸師スパイダーは部屋を取ってから毒蜂キラービーの部屋で情報の交換をし始める。


「で、どういうことだ? 任務はどうなってる?」


「……やってねぇ」


「……は?」


「やれるわけがねぇだろ! 見ろよ、コレ! 【暗殺者殺し】に【必殺暗殺人】だぞ! 他にも【暗殺】シリーズがあるってのにやれるわけがねぇだろ!」


 毒蜂キラービーは任務そっちのけで酒浸りになっていたのを逆ギレして説明すると、糸師スパイダーは怒るどころか驚きで目を見開いていた。


「お前、1人でこんないい思いしていたのかよ! 俺にもわけろ!」


「好きなだけ飲め! ここはパラダイスだ!」


 こうして糸師スパイダー毒蜂キラービーと一緒に、初日を酒盛りという名の交流で終わらせてしまうのだった。


 その後、歴史は繰り返すと言われているように、糸師スパイダーもまた毒蜂キラービーと同じ運命を辿ってしまった。


 糸師スパイダーが帝都について数日後、ここ最近では毒蜂キラービーとともに魔物を適度に狩っては、その報酬を酒代へと消費していく。


「かぁー、やっぱひと仕事終えたあとの酒は最高だぜ!」


「この1杯のために仕事してるようなもんだしな」


 もう既に2人にとっては魔物を狩ることが仕事となっているようで、暗殺のことは頭からすっぽりと抜け落ちているようである。


「それにしても最近は、あまり帝都の周りじゃ魔物の姿を見なくなったな」


「ちと、酒代欲しさに狩りすぎたか?」


「他の冒険者たちもいるしな。次はちょっと遠出してみるか?」


「そうだな。俺と毒蜂キラービーがいれば倒せねぇ魔物はいねぇ!」


「そりゃそうだ。よし、次の狩りのためにパァーッと飲むか!」


「おう! 俺たちと【暗殺】シリーズとの出会いに!」


「「カンパーイ!」」



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「ケビン様~暗殺者はどうなったんですか~」


「……宿屋で酒盛りをしてる」


「……はい?」


 ケビンから告げられた内容を聞いたオフェリーは、素の口調に戻ってしまい唖然としている。


「酒盛りだよ、酒盛り!」


「え……えぇーっと、暗殺者が来てからもう半月以上経過していますよ?」


「だよなぁ……6月に1人目が来てから半月くらいで2人目が到着したら、それからずっと酒盛りしてる。あいつらって何しに来たんだろうな?」


「……酒盛り?」


「にしか思えねぇよな。せっかく歓迎会の準備をしたのに全然暗殺に来ないし……黒の騎士団ブラックナイツってあんなのばっかりなの?」


「……期待を裏切ってごめんなさいと言うしか……言い方は悪いですが、もっと真面目に暗殺をしていたと思うのですけれど……どうしたんでしょう……」


「んー……なんかあいつらは【暗殺】シリーズの酒がお気に入りらしいぞ。セレスティア皇国じゃ中々手に入らないからって、うちでガンガン消費していってる。で、金がなくなったら魔物狩りをして素材報酬を酒につぎ込む。その繰り返しで、俺としては魔物も減って金が回るから万々歳なんだが……なんだかなぁ……」


「えっ!? 帝都には【暗殺】シリーズが酒盛りできるほどあるんですか!?」


「そりゃあるだろ。作ってるのは俺だし」


「え……えぇぇぇぇっ!?」


 情報通のオフェリーはセレスティア皇国ではプレミアとなっている【暗殺】シリーズが、帝都では普通に売られていることに驚愕すると、そのオフェリーの驚き方を見たケビンが不思議に思い疑問を呈する。


「知らなかったのか? 城下の散策はしたんだろ? 酒屋で普通に売っているぞ」


「お、女の子が酒を探しに彼方此方の酒屋に入るとか、ちょっと勇気のいる行動でして……それにお城には備蓄のお酒があるから……」


「ああ、そういうことか……でも、案内板で検索すれば出るはずだけどな?」


「い、いや……案内板でもハードルが高いですよ。1人きりで見るわけでもないし、周りの人たちに一生懸命になって酒を探す姿なんて、いち女の子としては見られたくないもので……」


「結構女の子も大変なんだな」


 そしてオフェリーは【暗殺】シリーズをケビンが作ったものならば、もしや他のシリーズもケビンなのではないかと当たりをつけて、真実を知るべく質問をするのだった。


「ケビン様は他に何のシリーズを作っているのですか?」


「あとは【エール】、【果実】、【カクテル】、【冒険者】、【子供用】――」


 次々と挙がるケビンの作り出したシリーズは、オフェリーの知るお酒の中でも特にプレミアがついているもので、セレスティア皇国では滅多にお目にかかれない物ばかりであった。


「で、オフェリーが酒を買いたいなら俺の店に行けばいい。あそこは俺の嫁が店番をしてるし店の雰囲気も女性ウケするようにしてあるから、女性でも入りやすいぞ」


「ケビン様のお店があるんですか!?」


「俺が作るんだから俺の店に卸すだろ。まぁ、俺の作った酒を嫁たちが飲んで『いつでも飲めるようにお店を作って』って、言われたのがきっかけだけどな」


「そのお店の名前は!?」


「酒屋ガーデンだ。店奥には庭園が作ってあるから、そこで軽食を摂りながら飲むこともできるぞ。店の中や通りからは見えないし落ち着いて酒を飲めるから、女性たちの隠れた人気スポットらしい」


「ケビン様は天才ですか!?」


 まさかお酒を買うだけでなく、そのお店で通りを行き交う人やお店に来た客を気にせずお酒も飲めるとあって、試飲してからお酒を購入できる失敗のない方法に、オフェリーはこれ以上ないくらいの感激をしてしまう。


「早速フィアンマやメリッサ辺りを誘って……いやいや、メリッサはお酒が弱いんだった……」


「それなら大丈夫だ。【フェイク】シリーズはアルコールが入ってない酒だから気軽に飲めるぞ。その種類は【カクテル】シリーズのアルコール抜きがメインだ。見た目が綺麗だから女性人気が高いけど、店内専用メニューだから持ち帰りはできない」


「ありがとうございます。早速誘って行ってみようと思います」


「暗部とばったり出会わないようにな。あいつらの行きつけの店でもある」


「そういえば【暗殺】シリーズの虜になっているんでしたね」


「夕暮れ時を狙っていけばいい。あいつらは宅飲み専門だから夕暮れ前には補充して、そのまま帰って宿屋で酒盛りをやってる」


「度重なる情報提供ありがとうございます」


 こうしてオフェリーはセレスティア皇国ではお目にかかれない酒を飲みに行くため、元団長たちを誘いにそれぞれの仕事場へ向かうのであった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 その日の晩にも案の定暗殺者が来なかったので、『もし来なかったら部屋に来て欲しい』とオフェリーから夕食後に言われていたケビンは、言われた通りにオフェリーの部屋へと訪れた。


 そして迎え入れたオフェリーは、テーブルの上に戦利品なのかケビン作のお酒とグラスを2つ置いていて、「お酒をご一緒しましょう」と誘ってきたので、断る理由のないケビンはオフェリーとお酒を楽しむことにした。


「今日はケビン様のおかげでいい日になりました」


「大袈裟だな。いつもの喋り方はしないのか?」


「はい。ケビン様と2人きりですから、仮面を被る必要がないのです」


 オフェリーの仮面という言葉に反応するケビンだが、人間誰しも仮面を被っているので無理して聞く必要もないだろうと流すことにした。


「店はどうだった? 楽しめたか?」


「はい、そうはもう! フィアンマやメリッサもビックリしていたんですよ! セレスティア皇国では滅多にお目にかかれない幻のお酒とも言われている銘酒が、在庫ありきで軒並み売られているんですから!」


「まぁ、なくなりそうなら追加するしな。でも、何でセレスティア皇国にはあまり入っていないんだろうな。クリスと話した時には宗教の戒律か関税って予想をつけたんだけど、オフェリーは何か知っているか?」


「私もそのことを不思議に思い店員の奥様へ尋ねたら、良い商人か悪い商人かを見分けてから取引する相手を吟味していると答えられて、その方法が何やらステータスの一部を覗けるメガネをティナ様から借りているそうで……」


「…………あっ! そういえばそういうのを、ティナたちに作ってあげたことがあったな。懐かしいなぁ……俺が商売を始め出した頃じゃなかったかなぁ……」


 ケビンはミナーヴァ魔導学院の生徒の頃、ランタン作りに精を出していたことを思い出し、1人感慨に耽けっては懐かしの眼鏡姿だったティナたちを思い浮かべていた。


「その……恥ずかしい話ですが、セレスティア皇国ゆかりの商人には目利きは良くても、差別意識が高い者しかいませんので……」


 そこまで言ったオフェリーが少し言いにくそうにするが、ケビンが先を促して続きを口にする。


「それで商人ゆえか奥様方がしていらっしゃるチョーカーに目をつけたようで、売り場所を尋ねられた奥様が『これはご主人様にいただいた奴隷の証ですので、どこにも売っていません』とお答えしたら、不敬にも奥様方へ侮蔑の思考を抱いたようで……それを悪意としてメガネ越しに読み取ってしまい……」


「あぁぁ……そういうことか……」


「ええ、セレスティア皇国に入ってこないのは商人のせいだったということで、たまに流れてくるのは何とか手に入れた物だろうと予想しました。奥様方も商人に売るよりも地元民へ売る方を優先しているみたいで、商人が買う際には厳しく取り締まっているそうです」


「何か凄いことしてんな」


「……ケビン様がそのような方だからと、私はお聞きしました」


「ん……俺?」


 自分が理由になっていることに見当もついていないケビンを見たオフェリーは、溜息混じりにその理由を述べるのだった。


 それは、ケビンがあまりにも商売に頓着しないことが理由としてあり、誰相手に売られようが知ったことではなく、『ただ商品があるから売る』という方針のために嫁たちが代わりに警戒心を強めて、ケビン印の商品を売る相手を選んでいるとのことだった。


「あぁぁ、ティナにも前に注意されたな。悪用されるから気をつけろって」


「反省を活かさないともお聞きしております」


「全く耳の痛い話で……」


 苦笑いしながら耳が痛いと言いつつも、ケビンが今後も変わることがなさそうなのは言わずもがな。


 ここ最近の付き合いでオフェリーも何となくそれを察してしまい、嫁たちの苦労を理解すると自分もその一員となっているので、今後もケビンのために尽くそうと心に強く誓うのである。


 その後もケビンとオフェリーの会話は弾み楽しい時間が過ぎていくと、ほろ酔いになったオフェリーが真剣な眼差しでケビンを見つめる。


「どうしたの?」


「実は本当に話したいことが別にありまして、素面だと勇気が出なくてお酒の力を借りることにしたのです。申しわけありません」


「今日のお酒に誘った理由か?」


「はい。実は私……教会の孤児院出身で自分の親が誰かもわからないのです」


「ん……? 別に俺は孤児院出身だろうと差別しないぞ? 差別主義なら孤児院なんて経営していないし、そんなに畏まって言うほどのものか?」


 ケビンはオフェリーが真剣な表情をしていたので何を言うのかと気構えていたら、孤児院出身だという特にケビンとしては気にも止めないことを言われてしまい、何だか拍子抜けするのだった。


「話はそれで終わりではなく、今の私ができあがる起源に関することです」


「それを俺に言っておきたいと? 特に俺は他人の過去に執着するような人間ではないぞ? 現に昔は人を殺しまくっていた元暗殺者の嫁もいるし、どんな過去を持っていても、現在を真っ当に生きて輝いているならそれでいいと思うからな」


「ケビン様がそのような方だからこそ、きちんと話しておきたいのです……いえ、そうではありませんね……本当は違うんです。私は自身の後ろめたい気持ちを消すために、ケビン様を利用しようとしているだけの狡賢い女です」


「別にいいけど」


「え……」


 ケビンのあっさりとした返答を聞いてしまったオフェリーは、一瞬思考が停止してしまうとその後再起動を果たすが、やはり理解できずに困惑してしまう。


「人なんてもんは持ちつ持たれつだろ。オフェリーが心に抱える不安を打ち消すために、俺を利用したところで別に構わない」


「でも……」


「じゃあ、ギブアンドテイクだ。オフェリーが俺を利用する代わりに、俺はオフェリーを利用する」


「ケビン様が私を……? 何でもできる凄い人なのに……?」


「何でもはできない。できることだけができるんだ。だからできないことをするためにオフェリーを利用する」


「ケビン様でもできないこと……」


「オフェリーと愛し合うことだ」


 ケビンの突拍子もない発言を聞いたオフェリーは、ビクッと反応してしまう。奇しくもそれはオフェリーが打ち明けようとした内容に関することと、似たようなものであるからだ。


「実はそのことでお話したいことが……」


 オフェリーは意を決して自らの起源である過去を語っていく。それは孤児院から引き抜かれて黒の騎士団ブラックナイツの団員となった時に、諜報員として様々な訓練を延々とやらされていたということだ。


 そしてその訓練の中には、情報を得るためなら体さえも武器にして使うことも含まれていた。諜報員として活動するために無理やり初めてを奪われた後は、慣れるためという名目で何人もの人に同じことをされ続けて、次第に精神が摩耗していくとどうでも良くなり、訓練を終了した際には体を使うことに対して忌避感がなくなっていたという。


 その頃からいつもの間延びした喋り方に変化したようであり、それはそういう役柄を演じきることで悲愴な出来事からの精神ダメージを軽減するため、必死に心を守ってきたのだろうとケビンは推測する。


 その後は現場に出て仕事をするようになると、任務に支障をきたさないためにも、避妊魔法が使えるようになる魔導具を装備していたため、情報と引き換えに何人もの男どもの精を中へと受け入れ続けていた。


「この体はもう穢れきってしまっているのです。正確な数がわからないほどの人数の相手をし、時には複数人をいっぺんに相手にすることもあり、ケビン様に愛していただけるほどの価値がない体です」


 オフェリーは過去話から気丈に振舞って喋ってはいるが、瞳には涙を溜め込んでいて今にもこぼれそうである。


「ケビン様に『守ってやる』と言われてからどんどん好きな気持ちが大きくなっていく度に、私の心身は穢れたものだと再認識する機会も多くなりました。こんな気持ちになるくらいなら教団で召し抱えられる話が上がった時に、嬉しくてホイホイついて行くんじゃなかった……」


「オフェリー……」


「ケビン様は愛し合うのに私を利用すると申されました。こんな穢れた体に愛を込める必要はありません。性欲処理のみの道具としてお使いください。他の男に抱かれて情報を取ってこいというのなら、喜んでそうさせていただきます。ですから――」


 いつの間にか涙をポロリと流しながら業務連絡のように淡々と語っていくオフェリーに、とうとう我慢ができなかったケビンが声を荒らげた。


「オフェリーっ!」


 ケビンから力強く名前を呼ばれたオフェリーは、ビクッと体を震わせると喋るのをやめてケビンを見つめる。


「お前はどうしたい? お前はこれから先どうなりたい? お前の望む願いは何だ? 建前じゃなく本音で語れ、それ以外は許さない」


「わた、私は……私は……」


「さぁ、言ってみるんだ。ここにはもうお前を縛りつける教団や黒の騎士団ブラックナイツはない。お前はもう自由なんだ、いい加減わがままを言ってもいいだろ? オフェリーのわがままを俺に教えてくれ」


 ケビンの語りかけによってオフェリーは堰を切ったようにボロボロと涙を流し始めて、表には出さず隠して溜め込んでいたもの吐き出した。


「私……私はケビン様に愛されたい……こんな体でも好きだよって言って欲しい。もうこんな体は嫌っ! ケビン様に綺麗なままで出会いたかった! カトレアみたいに普通に恋して、ケビン様に抱かれて初めてをあげたかった……みんなズルい、フィアンマもメリッサもカトレアも綺麗なままでケビン様に抱かれる……私だけが汚いまま……もうヤダよぉ……なんで私ばかり……好きでこうなったわけじゃないのに……」


 ケビンは席を立つとオフェリーへ近づく。手を添えてポロポロと涙を流し続け泣きじゃくるオフェリーの顔を上げると、そっと口づけをした。


「ん……」


 やがて唇を離したケビンがオフェリーへ気持ちを伝えるために、正直な想いを言葉にしていく。


「俺はオフェリーが過去に体を使って仕事をしていたと知っても好きだぞ。不特定多数の男どもから体を貪られたあとだと知っても、オフェリーがそのことで穢れきっていると言うその体を抱ける。何故かわかるか?」


「……私の体がエロくて男ウケする体だから? 性欲を掻き立てるから?」


「はぁぁ……こりゃ重症だな……」


 今まで自分の体を武器として使った仕事をしてきたためか、客観的に見た自分の体を評価する思考が染み付いており、それはケビンの望む答えではなくケビンはオフェリーの心のダメージの深刻さを知る。


「わかった。その身に忘れられないほど刻みつける」


「使うの……ですか……?」


 この場においてオフェリーの『使う』という表現は、自身を道具扱いしているのがありありと見て取れる単語であり、ケビンは徹底的に忘れさせようとして一計を案じると、オフェリーを立たせたらベッドへと連れていく。


 そしてベッドへ寝かせたオフェリーへキスをして言葉を紡ぐ。


「愛してる、オフェリー」


「んっ……」


 耳元でそう囁かれたオフェリーはそれだけでゾクゾクとしてしまい、ビクンと体を震わせてケビンの言葉を頭の中でリフレインしていた。


「穢れきっていますけど、どうぞご随意に」


「はぁぁ……まだ言うか。オフェリー、今から丁寧な言葉は一切禁止だ。あと、俺のことはケビンと呼べ。敬称をつけることは許さない」


「そんな……ケビン様に対して不敬です……」


「命令だ。命令違反は不敬じゃないのか?」


「す、すみません!」


「言葉遣い」


「ごめんな……ご、ごめん」


「そうだ、それでいい。まずはクソどもが使い込んだオフェリーの体を、俺が使って上書きしてやる。言っとくが俺をそこら辺の男どもと同じだと比べてたら後悔するからな?」


「ケビンさ……ケ、ケビンが凄いのは聞いているから」


「聞くのと体験するのとでは違うぞ」


 それからケビンはオフェリーの体を抱き続けていき、対するオフェリーはケビンによってくたくたにされてしまう。


「どうだった? 中々凄かっただろ?」


「ケビンが鬼畜って言われてるのがわかったわ。あんなのは経験したことがないよ」


「最後の仕上げだ」


「――ッ! ま、まだするの……」


「荒療治は終わりだ。ここからはラブラブに移行して、オフェリーの心を癒す治療になる」


「私を愛してくれるの? 綺麗な体をあげたいけど、もう無理なのに……」


「ちょっと待ってろ」


 ケビンはスキルや魔法を使うと、オフェリーの体をまっさらな状態に戻してから再び声をかけた。


「今、オフェリーの体を生娘の状態まで戻した」


「ああ、奥様方が言ってたやつよね? 結局私だと初めてしかあげられないね」


「いや、それは違う。その方法は経験済みでも改めて初めてを俺に捧げたい人や、俺が欲しいと思った人の処置だ。オフェリーに施したのは不本意に穢された人たち用で、完全にまっさらな状態まで戻してる」


「どう違うの?」


 ケビンが実体験をさせるためにオフェリーの体を少し触る。


「ん……」


「今、気持ちいいと感じたか?」


「……あれ……? そういえば……」


「つまり体の全てが元通りで開発前の状態だ」


「……う……そ……」


「嘘じゃないのは証明しただろ。今からオフェリーが願ってた綺麗なままの体で、俺とラブラブするぞ」


「……ケビン……ケビンっ……」


 涙を流すオフェリーにそっと口づけをしたケビンは、始めた時のように再びオフェリーの耳元で囁く。


「愛してるよ、オフェリー。今から君の初めてをもらう。これからは俺がオフェリーの体をエッチに開発していくからな。もう他の男たちには抱かせない。これから先もずっとオフェリーを守り続けていく」


「うん……私の初めてを奪って……ケビン色にこの体を染め上げて……ずっとずっと一緒にラブラブしよ」


「ああ、いっぱいラブラブしような」


 ケビンはそれから時間をかけてオフェリーへ快感を教えこんでいき、オフェリーは記憶には感じ方を知っているのに、体が反応していないという不思議な感覚で困惑してしまうが、ケビンの愛撫に身を委ねては次第に気持ちよさというものを取り戻していく。


「愛してる人に初めての体を触られるのがこんなに気持ちいいなんて……幸せに満たされてるよ……」


「もっと幸せを感じてくれ」


 その後、ケビンはオフェリーへ宣言通りにラブラブしたら、終わったあとにオフェリーがケビンへ感想を尋ねた。


「ケビン、気持ちよくなれた?」


「当たり前だろ」


「ふふっ、嬉しい。もっとしよ? 朝までコースを体験させて? 一緒に幸せでいっぱい満たされようね」


「覚悟しろよ? 俺の愛は底なしだぞ?」


「私の体もケビンの愛を受け入れるのに関しては底なしだよ」


 こうしてケビンはオフェリーの願い通りに朝までコースを続けて、翌朝はお姫様抱っこで幸せそうな顔を浮かべているオフェリーを、朝食を摂るために食堂まで運ぶのであった。

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