第476話 信じていたものの崩壊

 撤収準備の指示出しを終わらせたケビンはサラたちに保護した女性たちを見てもらっている間に、クララとアブリルを連れてケビンパレスへと転移する。


 そしてパレスへと到着したケビンは殺された子ドラゴンの墓をどの場所に設置するか考えた結果、空に近く母ドラゴンがいつでもお参りできるように、森林地帯ではなく山脈の頂上に設置することにした。


 頂上付近を一気に消滅させたケビンはドラゴンでも降りられるように充分な広さを確保すると、そこへ母ドラゴンを呼び寄せて穴を掘り終えたら、遺骸を埋葬し慰霊碑を建てつつ話しかける。


「(やっぱりドラゴンだからな。地上よりも空の近いここがいいだろうと思ってお墓を作った)」


「(我が王、ありがとうございます。あの子たちもきっと感謝をしているでしょう)」


 それからケビンは慰霊碑に花を添えるとドラゴン体に変身したら、上空へ向けてドラゴンブレス(笑)の弔砲を放つ。どこまでも伸びていく光線は雲を突き抜け大穴を開けると、遥か彼方の宙へと消えていく。


 それを見届けるパレスのドラゴンたちは一斉に咆哮を挙げて、命を落とした同族の死を見送るのだった。


「主殿はやはり器が違う」


「心より仕えたいと思える人です」


 クララやアブリルもまた、ケビンによる葬送の儀を目にしながら命を落とした同族の死を追悼し、安らかに眠れるよう願うのであった。


 葬送の儀を終えたケビンが人間体に戻ると、ずっと気になってはいたがついつい忘れてしまい、今また思い出したのでそれを確認するべくクララに尋ねる。


「なぁ、ドラゴンたちから『我が王』って呼ばれてるんだが、それは何だ?」


「ほほ、それはのう、主殿を【白種の王】とみんなで決めたようでな、我らの王となったのだ」


「えっ……!?」


「以前、私たちがご寵愛を賜った時に主様がお帰りになられたあと、パレスの者たちで話し合ったのです。偉大なる主様のお立場を明確にするために」


「マジか……」


「嫌ならやめさせるぞ?」


「いや、呼ばれ方は特に気にしないからいいんだけど、称号がなぁ……これ絶対に入ってるよ……はぁぁ……」


「ああ、主殿が唯一へこむ称号か。それは仕方がないの、確認はせぬのか?」


「見たくないものまで見なきゃいけなくなるから、へこんでも支障のない時にする。まだ仕事が残ってるから後回しだ」


「その時は嫁たちを集めてみんなで癒してやるからの」


 こうしてケビンは新たに付いたであろう称号を認識してしまい、若干鬱になりながらもまだマシな称号だろうと気持ちを切り替えて、ドラゴンたちに別れを言うと野営地へと戻るのだった。


 それから野営地へ戻ったケビンは携帯ハウスに向かい、サラたちや保護した女性たちを連れて憩いの広場へと転移する。


「お帰りケビン君。相変わらず出かける度にお嫁さんを捕まえてくるね」


 ティナの揶揄いなどもう慣れたもので、ケビンは軽くあしらうと女性たちへその場にいた嫁たちを紹介する。


「ここにいる人、全てがお嫁さんなんですか?」


「そうだね。他にも仕事に出かけたりしている嫁もいるけど」


 ケビンは女性たちのお世話をしてもらうためアブリルを筆頭にあとのことを任せると、再び携帯ハウスへと転移した。


 それから外に出て携帯ハウスを回収したら、今度は待たせている捕虜たちの所へと向かう。


「よし、みんな外に整列だ。今から帝都に移動するぞ」


 ケビンの号令によって捕虜たちがゾロゾロとテントから出ては、各団長の指揮の元で整列をしていき点呼を取り始める。


 そしてフィアンマがそれを一括してケビンへと報告した。


「皇帝陛下、あたしたち4人を除く捕虜100名、整列が完了したぜ。居残りや忘れ物はナシだ」


「わかった」


 ケビンがテントを【無限収納】へ回収すると、これからの注意事項を説明する。


「今から帝都の外に転移する。そこから整列して帝都の中へと入るから、帝都の街並みを見てくれ。後日、落ち着いたら自由行動にして散策へ出られるようにする」


「「「「「はいっ!」」」」」


 そして説明を終えたケビンは全員を引連れて帝都の外へと転移したら、いきなり風景の変わったことに対して捕虜たちからざわめきが起こるが、視界に入った帝都の迫力に呑み込まれていた。


「こ、これが帝都……」


 誰とはなしに呟く声が聞こえて捕虜たちが呆然と立ち尽くしていると、ケビンは声をかけてから街門の所まで誘導する。


「なぁ、皇帝陛下なのに列に並ぶのか?」


「そりゃそうだろ。割り込み禁止だ」


 そのような会話をケビンとフィアンマがしていると、異様な集団を見かけた衛兵が門から駆け寄ってきて、ケビンの姿を認めたら納得した表情で落ち着くのだった。


「陛下でしたか……武装集団が現れてこっちは驚きましたよ」


「それは悪かったな。彼女たちは捕虜でいきなり街中へ入れるわけにもいかないから、きっちり門を通して中へ入れようと思ったんだ。身元は俺が保証する」


「ということは、戦争は予想通り勝ったので?」


「ああ、敵に勝って今日解散したところだ」


「今日はお祭りになりそうですね」


「まぁ、都民たちの好きにさせるさ」


「では、そのまま素通りください」


「ん? 割り込みはダメだろ」


「陛下がここにいるとそちらの方々もここにいることになるので、他の者たちへ余計な不安を与えないためです。ぶっちゃけてしまうと、行商人たちがビビっているんですよ」


 門兵からの言葉でケビンが視線を列に向けると、遠巻きにこちらの様子を窺っている馬車の列があり、苦笑いしたケビンは門兵の指示通りに割り込みで先に街の中へ入ることにした。


「それじゃあ、4列に並んで行こうか? 先頭は各団長にカトレアだ」


 そしてケビンの指示により隊列を組みなおした捕虜たちは、そのままケビンの後ろについて帝都の中へと入っていく。


 それから街の中へと入った女性たちは、帝都の街並みや賑わいを見て呆然とした。大きく道幅を取られたメインストリートに並ぶ数々のお店、脇道を見ても乱れのない区画整理、それに加えて戦争をしていたというのにそれを全く感じさせない民たち。


 全てが皇都セレスティアを上回っており、今まで皇都の都会ぶりに馴染んでいた女性たちはここに来て本物の都会というものを体験する。


「何だこりゃあ……」

「ありえないね~」

「これが帝都ですか……」

「ケビン君の治める都……」


「ほら、あとからでも見れるんだから先に進むよ」


 呆然と立ち尽くす女性たちへケビンが声をかけて正気に戻すと、先頭で引率しながら帝城へ向かって歩いていく。


「おっ、陛下じゃねぇか! また嫁さんを攫ってきたのか?」


 ケビンを目にした店先の店主が声をかけると、ケビンがそれを否定する。


「人聞きの悪いことを言うなよ! 俺が誘拐犯みたいじゃないか!」


「なんだ、違うのか? それならうちの倅にでも紹介してくれよ」


「そのうち彼女たちが出歩くから、その倅にナンパするように言っとけ!」


 店主との会話が終われば、また別の者からケビンは声をかけられてしまう。


「陛下、うちの子も攫っとくれよ。いい歳して店の手伝いばかりするんだから。私としては嬉しいんだけど、そろそろ……ねぇ?」


「お、お母さん?!」


「ほら、親バカじゃないけどうちの子も可愛いだろ? 陛下の嫁さんにピッタリじゃないか」


「そうだな。確かに可愛いけど本人にその気がなければ嫁にはできんぞ? おかみさんも無理やり男の嫁にしたくはないだろ?」


「陛下だから言ってんのさ。優しいのはここに住むみんなが知っていることだからね。あわよくば陛下の嫁にって母親連中があとを絶たないのさ」


「何でそうなってんだ? いい男ならそこら辺にでも転がってるだろ?」


「これから先はいい男ってだけじゃ生きていけないさね。平和になった以上これからの男は武力のみじゃなくて、全体的な甲斐性がなくちゃね。いい男でも甲斐性がなくちゃ、親からしてみれば娘が可哀想ってもんだろ。その点陛下はバッチリだ! 把握できないほどの嫁さんばかりだからね!」


「へぇーやっぱり親ってもんは色々と考えてんだな」


「当たり前だろう。我が子の幸せが何よりもの幸せだよ! ってことで陛下、うちの娘をよろしく頼むよ!」


「君はどうなの?」


 ケビンが蚊帳の外にされている娘に声をかけると、その娘はしどろもどろになりながらもケビンへ返答した。


「わた、わたしゅは……その……お母さんのお手伝いができたらそれで……お、お嫁さんもいいけど……お母さんが大事だから……」


「親思いのいい娘さんじゃないか。しばらくは様子を見たらどうだ? まだ焦る年頃でもないだろ?」


「ったく、涙がちょちょぎれるってもんさね。だけど、嫁の話は考えておいてくれよ?」


「お母さんってば!」


「君がその気になったら帝城へ遊びにおいで。お茶でもしながらお喋りしようか?」


「へ、へいきゃ?!」


 そして戸惑う娘を他所にケビンは母親へ挨拶すると先へ進むのだった。それからも道行く人に声をかけられては世間話を始めてしまい、ケビンの凱旋は長い時間をかけてようやく敷地内へとその足を踏み入れる。


「皇帝陛下って慕われてんだな」

「不敬って何なんだろうね~」

「民との距離が近いゆえに得るものもあるかと」

「『みんな仲良く幸せに』ですね」


 4人の会話を聞く他の女性たちもセレスティア皇国とは違う有り様に、何故このような帝国の皇帝が魔王認定を受けたのか、甚だ疑問を感じるのであった。


 それからケビンは帝城裏にある騎士用マンションの隣へ引率すると、新たに仮住まい用マンションを建ててしまう。


 高くそびえ立つマンションを見た女性たちは唖然とし、更に訓練場からそれを見てしまった騎士たちがケビンの帰りを感じ取り、全員でその場所へやってくる。


「ケビン君!」


 ターニャがケビンの姿を認めたら走って駆け寄り、その勢いのままケビンへと抱きついた。


「おっと……」


 ケビンは若干『鎧なしの方が良かった……』と思いながらも、ターニャを抱きとめて帰還の挨拶をする。


「戦争は? 勝ったんだよね?」


「俺が負けると思ってたのか?」


「それはないけど、心配だったんだよ?」


「戦争は俺たちの勝ちだ」


 その言葉を聞いたあとから追いついた騎士たちは、一斉に喜びの声を挙げてケビンへ労いの言葉を口々にしていくと、ターニャはケビンの後ろにいる女性たちのことを尋ねるのだった。


「で、後ろの人たちはなんですの? 新しいお嫁さんかしら?」


「一部嫁も混じってるけど、敵国の捕虜だ。カトレアのことは覚えているか?」


 それからケビンはお嬢様口調に戻ったターニャへカトレアのことを説明すると、ターニャは思い出したかのように手をポンっと叩いてカトレアと挨拶を交わす。そして他の者たちのことも紹介したら、ケビンはフィアンマに女性騎士団のことを説明した。


「しばらくはここに住まわせるから、訓練とかの見学をさせてやってくれ」


「別にいいですわよ。希望者は新しく雇っていいのかしら?」


「んー……まぁ本人がそれを望むなら。それとフィアンマは確定だ。騎士になりたいって言ってたしな」


「では、フィアンマさんを新しい班長にしますわ。セレスティア皇国では団長をしていらしたとのことですから、まとめ役には最適ですわね」


「おいおい、あたしをいきなり責任のある役にしても大丈夫なのか? 敵国の兵だったんだから余計な不和を生むぞ?」


「大丈夫ですわ。ケビン君がここに連れてきた時点で、貴女たちが悪い人じゃないのは全員わかっていますから。敷地に入る時は壁にぶつかってないでしょう?」


「……壁? 壁ってなんだ?」


 ターニャはフィアンマたちへ帝城の敷地を覆う見えない壁という名の結界の話をすると、それを聞いたフィアンマたちがありえないような視線をケビンへと向ける。


「……本当かよ?」


「あれにぶつかった人は、門番で立ってるアルフレッドたちに捕まってしまいますの。いやらしいことに道は範囲外ですから、門番の目の前で中に入れないことを晒してしまうわけですわ」


「孤児院周りはどうなんだ? あそこも敷地内なんだろ? 門からじゃ遠くて逃げられるじゃねぇか」


「確かに敷地内は結界に覆われていますけど、ぶつかった時点でアルフレッドたちの目の前に転移する仕組みなのですわ」


「端から逃げ道はねぇってことか……」


「そうですわ。しかもぶつかった人はビリビリして麻痺するそうですの。ですから、アルフレッドたちよりも強い人が来ても意味がないのですわ」


 初めて知るケビンの防犯体制に、フィアンマたちは空いた口が塞がらなかった。そのような防犯体制を敷くケビンに、魔王認定をしてまで聖戦を挑んだフィリア教の上層部に対しても空いた口が塞がらない。


「とりあえず明日からは自由行動だ。この建物の部屋割りは自由に決めてくれ。それとターニャたち騎士団は明日からしばらくの間、彼女たちの世話係として帝都の街並みを案内してやってくれ。で、フィアンマたちは俺と一緒に帝城へ来てもらう」


 その後は女性たちの世話をターニャたちへ引き継いで、ケビンはフィアンマたち4人を連れて憩いの広場へと向かった。


「あっ! また新しいお嫁さん!? 今日だけで何人連れてくるの!?」


 ケビンが女性を連れてくると途端に騒ぐティナを他所に、ケビンは嫁たちへフィアンマたちを紹介していく。そして都合よくソフィーリアがいたことによって、ケビンは悪戯心が芽生えてフィアンマたちへソフィーリアを紹介するのだった。


「さて、俺が女神フィリアとフィリア教をコケにしたことは覚えているか?」


「ああ、ヘイスティングスの処刑の時だな。さすがにあれは酷いぞ。いくら敵国のことが癪に障っても、女神フィリア様はこの世の女神だぞ? あの発言は畏れ多いことこの上ねぇもんだ」


 ケビンとフィアンマたちが会話しているのを見たソフィーリアは、ケビンが何をしようとしているのか察したようで、笑いをこらえるために口元がニヤニヤとしている。


 それは周りにいた嫁たちも同様でケビンの悪戯心に対してソフィーリア同様に笑いをこらえる者や、ケビンの行動に対して呆れ果てている者と様々であった。


「ドSの鬼畜」


 そしてニーナがボソッと呟いた言葉に対しては同意の意を示すかのように、嫁たち一同頷きを持って返事をするのだった。


「ここにいるのは俺の1番目の嫁であり、1番大切な人でもある第1夫人のソフィーリアだ」


「は……ぷふっ……はじめまして、皆さん……くくっ……わ、私はケビンの妻の……ソ、ソフィーリアよ」


 笑いを堪えながらする自己紹介にフィアンマたちは怪訝な表情を浮かべるが、一応の礼儀として挨拶を返すとケビンが続きを話し始める。


「あの時に言ったけど、俺の信じる女神はここにいるソフィだ」


「まぁ、自分の奥さんを女神に例えるのはよくある話だが、さすがに女神フィリア様とでは比べようがねぇだろ。神と人とじゃ話になんねぇ、そもそも比べること自体が烏滸がましい」


「まぁ、落ち着け……ソフィーリアの名前から“ソ”と伸ばす部分を引いて読んでみろ」


「ん? んー……“フィリア”か? もしかして名前が似てるから女神だなんて安直な考えに至ってるのか? 妻に対してその気持ちはわからなくもねぇけど、安直すぎんだろ?」


「くくっ……ソフィ……くくくっ……お前の名前は安直なんだとさ」


「ぷぷっ……ケ、ケビン……も、もう……くくっ……耐えられそうにない……話しかけないで……ぷくくっ……」


 2人して笑いを堪えながら会話をしているのを見せられているフィアンマたちは、いったい何がしたいのか理解不能になってしまい、フィアンマに至っては何だか馬鹿にされてるような気分になる。


「結局なにが言いてぇんだよ! 笑いすぎだぞ!」


「す、すまん……くくっ……実はな、種明かしするとソフィがこの世の女神であって、フィリア教が崇めるフィリアってのが偽物であり、あいつらが勝手に作った紛い物だ」


「いや、意味わかんねぇよ! そもそも神がここにいるわけねぇだろ。神ってのは誰も会うことのできねぇ神聖な存在だぞ」


「まぁ、一般的にはそうだろうな。この世界を管理しているのはソフィーリアであって、フィリアではない。何度も言うがフィリアなんて女神はこの世界にいないんだよ。もしかしたら神界を捜せばフィリア様って女神はいそうだけど……そこら辺どうなの?」


「んー……フィリア、フィリア……いたような、いなかったような……覚えていないからどうでもいい存在ね」


「ということだ」


「『ということだ』じゃねぇよ! 女神フィリア様がいないなんてありえねぇ!」


「強情だな。どうすれば目の前のソフィが神だって信じるんだ? ぶっちゃけお前たちの言葉で言うと、女神であるソフィを否定するなんて不敬も甚だしいぞ?」


「ぐっ……それなら神なんだから生き物くらい簡単に作れるだろ? 人間には絶対できねぇことだ」


「だってさ。小動物を創ってくれるか? それならあとは【万能空間】に放し飼いできるし」


「いいわよ、はい」


 フィアンマが提案した神ならではの御業に対してケビンがソフィーリアへ要望を出すと、ソフィーリアは返事をしたらその流れで簡単に小動物を創造してしまうのだった。


「「「「……」」」」


 フィアンマたちは目の前で光とともに現れたウサギを見ては、何度も目をこすっている。


「これでわかったな?」


「いやいやいや、皇帝陛下だって転移で色々と移動できんだろ! その転移を使ったイカサマかもしれねぇじゃねぇか」


「ふむ、それも一理あるな。それならソフィ、ゆっくりと創造してくれるか? いっぺんにじゃなくて生き物を創っている段階を言い逃れできないように、これでもかってくらい見せつける感じで」


「それってグロいわよ?」


 ソフィーリアの言葉を聞いたケビンは、嫁たちに見たくない者は合図を出すまで他所を向くか目をつむるように指示を出して、フィアンマたちへは責任問題として最初から最後まで見るように指示を出す。


 それから始まったソフィーリアのウサギさん創造は受精卵からの細胞分裂に始まり、じわじわと各組織が創り出されていく光景を期間短縮で早送りにしているものだった。


 それは見る人によっては生命の誕生という神秘的な光景だが、リアルな創造過程を見させられているフィアンマたちは、グロテスクな身体構造構築を見せつけられており、剥き出しの眼球ができた時にはキョロキョロと動いていて、その眼球と目が合ってしまい「ひっ!」と揃って口にするほどだった。


 やがてウサギさんが成長して動き出すとピョンピョンと跳ねて、先に創造されたウサギの所へと向かう。


「どうだ? 要望通りの生物創造だぞ?」


「……本当に女神なのか?」


「くどいな」


「だって仕方がねぇだろ! 神なんて会いたくても会えるような存在じゃねぇんだぞ! それが何でここでこうして皇帝陛下の嫁さんとかしてるんだよ!」


「それは俺が口説いて結婚を申し込んだからだな」


「ありえねぇよ! 色々とありえねぇよ!」


「で、どうする? ソフィを否定してフィリアを崇めるか? まぁ、それはそれでいいんだけどな。ソフィだって気にしないだろうし」


「えっ……神なのに気にしねぇのか?」


「神だから気にしないんだよ。神からしてみれば地上に住んでる俺たちなんて、ちっぽけな虫みたいなもんだ。それを研究する学者とかは別として、フィアンマはそこら辺にいるような虫を一々気にして生活するか? 今日はこの虫がここに移動したとか、あの虫が見当たらないとか」


「……しねぇ」


「つまりだ。フィアンマたちがフィリア教を信じたままでも、ソフィにとってはどうでもいいことなんだよ。ムカついたら神の裁きでセレスティア皇国を消してしまえばいいだけなんだからな」


「消されるのか、セレスティア皇国は?」


 フィアンマの抱いた疑問に対して、黙っていたソフィーリアが口を開いた。


「もし、ケビンが遊び好きじゃなかったら消していたわね」


「「「「――ッ!」」」」


「だってそうでしょ? 愛する夫を魔王呼ばわりしたのよ? 貴女たちが生きていられたのは、ひとえに遊び好きなケビンのおかげよ? 教皇たちが悪巧みしている時点で私にはわかるんだから、戦争が起こる前にセレスティア皇国は消えていたわよ」


「皇帝陛下のおかげ……」


「そう。ケビンは楽しいことが大好きだから、見逃してあげたの。体験させた方が楽しめるだろうしね。それに私が動かなくてもお義母さんが動くわね。でも、お義母さんも結局のところケビン優先だから、ケビンが遊ぶつもりならそれに従うわ」


 ソフィーリアの言葉を聞いたフィアンマたちは、創造されたウサギたちと戯れているサラへ視線を移すと、ニッコリと笑って微笑みを返される。そしてソフィーリアが続きを話し始めた。


「私たちの行動基準は全て愛するケビンが中心なのよ。それだけは覚えておきなさい。ケビンを蔑ろにした人は私の裁きが下るわよ?」


「ソフィ、あんまり脅すなよ。血の気が失せてるじゃないか」


 ソフィーリアから告げられたことによって顔面蒼白のフィアンマたちは、改めてケビンを囲む人々の凄まじさを知り、それを御しているケビンの凄まじさも感じ取ってしまう。


「ということでだ、本来の目的はフィアンマたちを脅したいんじゃなくて、神が目の前にいるってことを教えて揶揄いたかっただけだ。女神フィリアを信じている信徒にソフィを紹介して、それを知って右往左往する姿を笑うだけの話だったんだけどな」


「すみませんでした、女神ソフィーリア様!」

「フィリア教なんて邪教は捨てます~」

「これからは女神ソフィーリア様を信仰します!」

「ソフィーリア様、どうかお許しを!」


 口々に謝罪を口にしては4人が4人ともソフィーリアに対して、頭を下げまくってひれ伏した。そしてそれを見たソフィーリアはなんてことのないように、4人に対して口を開く。


「私が求めるのはただ1つよ。ケビンを愛してケビンの幸せを願うの」


「ソフィ、それって2つじゃないか?」


「あなた?」


「……ごめん」


 かっこよく決めたと思っていたソフィーリアに対して、ケビンが余計な口を挟むとギロりと睨まれてしまい、ケビンは早々に白旗を上げてしまう。


「こほんっ、そういうわけだから、貴女たちを新しいお嫁さんとして歓迎するわね」


「あっ、メリッサはまだ嫁じゃないから。彼女だから」


 ケビンがメリッサの立ち位置を教えると、それを聞いていたティナが猛抗議する。


「ずるい! 私も彼女になりたい!」


「ティナは婚約期間があったから、その期間が彼女だろ?」


「あっ……」


「ティナのあんぽんたん」


「ちょっ、ニーナ!」


「あらあら、ティナさんは元気ねぇ」


「私とサラっていきなり結婚だから、彼女の期間がないわね」


「私は別にケビンが愛してくれるなら、立場なんてどうでもいいもの」


「でも、恋人みたいなデートってしてみたくない?」


「……ケビン、今度お母さんとデートしましょう?」


「私ともしてくれる?」


 サラとマリアンヌが恋人みたいなデートをケビンに要望すると、恋人期間のない嫁たちからも次々とデートのお誘いが舞い込んでくる。


「わかった。みんなとデートするから、落ち着けって。とりあえずフィアンマたちに言っておくけど、ソフィーリアのことは他言無用だからな」


「わ、わかった」

「わかりました~」

「命にかえても口外しません」

「私も秘密を守る」


 こうしてケビンによって本来の神の存在を教えられた4人は、これからどうやってソフィーリアと付き合っていけばいいのかと、思いのほか深刻な悩みを抱えてしまうのであった。

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