第459話 粛清の結末
ヘイスティングスの処刑が続いている中でケビンは纏っていた魔力を収めると、保護した女の子たちに近づいて声をかけた。
「大丈夫? もうあいつらには手を出させないから安心していいよ」
ケビンの声かけに対して、精神状態が割かしまともな服を着ている女の子が疑問を投げかける。
「あのドラゴンは……?」
「君たちと同じであいつらに恨みがあってね。復讐をしているんだよ」
「そうですか……」
「詳しい事情とか話せるかな? 君たちを村へ送りたいんだけど」
「私は偉い人に献上すると言われて手を出されませんでした。だけど他の女の子たちは散々嬲られてしまい、中にはおかしくなって奴隷商に売られてしまった子たちもいます」
「奴隷商か……あいつらは救いようがないな……」
「それと中には家族を殺された人もいます。女の子たちを連れ去る時に家族へ手切れ金で金貨を渡していたのですが、中にはそれでも手離したくないと抵抗した家族もいて……殺されてそのあと魔物の餌にしたと……」
「詳しいね」
「あいつらが自慢げに語って脅すように喋っていたので。『お前らも従わなければ餌にする』って……」
「そうか……君の村はどこ? 家まで送るよ」
「私の家は……もう……」
「壊されたりしたの?」
「……魔物の餌に……みんな殺したって……」
静かに泣き出した女の子を見たケビンはふつふつと怒りが再燃し始めるが、他の女の子たちのことも気になったので声をかけてみる。
「君たちは大丈夫かな?」
「ぐずっ……もう怖いのはヤダ……」
「痛くされるのはもう嫌……」
「お腹空いてない? 温かいスープとか飲める?」
ケビンはあまり刺激しないように優しく声をかけると、スープを取り出しては女の子たちに配って飲むように促していく。女の子たちは恐る恐るそれを受け取りながらもケビンの様子を窺い、ケビンが「食べてもいいよ」と声をかけたら少しづつだが口に運んでいく。
その間にケビンはアリシテア王国内からヘイスティングスたちが売りに出した女の子を検索すると、何件かヒットしたので金貨と引き換えにこの場へ転移させた。
そして転移させられた女の子たちは顔に覇気がなく呼びかけても反応が薄かったので、ケビンは女の子たちから隷属の首輪を外すと処刑を見学していたクララとアブリルを呼んで、女の子たちの世話を頼むのだった。
「任せよ、この者たちは主殿の花嫁になるのだしの」
「そうなのですか? では主様のためにも、この子たちは私めが責任を持ってお世話をさせていただきます」
「おい、クララ。余計なことを言うからアブリルが勘違いをしただろ」
「違うのか? 今までの主殿は酷い目にあったおなごたちを助けたあとは、もれなく嫁にしておるではないか」
「ぐっ……そ、それはだな……色々と理由があって……」
「よいよい、今更言い訳をしたところで事実は変わりはせん」
「ち、違う! 嫁にしていない子だってちゃんといるんだぞ」
「はて……そのような者はおったかのう……」
「獣人族の奴隷は故郷へ帰しただろ! 最後に奴隷からも解放したし!」
「おお、そういえばそういう活動をしておったの。ふむ、それは面目ない。しかし、そういえばあの時に奴隷を買って嫁にしておらんかったか? リーチェやらヴァレリアやら……フィオナ、ジゼル、ヘレンの3人に至っては酷い目にあっておったよの?」
「くっ……薮蛇だったか……」
「くくくっ、主殿はカワイイの。ソフィ殿が揶揄う気持ちもわかるというものよ」
「長はズルいです。主様とじゃれあうなら私めも混ぜてください」
処刑の現場とは思えないほど和気あいあいと会話するケビンたちは、傍から見れば場違いなほど浮いていた。
そしてそのような時に、満足のいったドラゴンがケビンへと報告する。
「(我が王よ、ありがとうございます。だいぶ気持ちが晴れました)」
「(そうか。復讐をしたところで失ったものは取り返せないけど、復讐は何も生まないって戯れ言を言うつもりもないしな。満足したのならその復讐は価値のあるものだ)」
「(我が王に最大の感謝を)」
「(これからどうする? 帰るか?)」
「(はい。パレスに戻ってことの経緯を報告しておきます)」
「(わかった。あとで行くからみんなにもよろしく伝えておいてくれ)」
ケビンはそう伝えるとドラゴンをパレスへと転移させて、ひと足先に帰らせるのであった。
そしてケビンは最後の仕上げをするために、ヘイスティングスの元へ近づくと声をかける。
「よう、気分はどうだ? 腐れ騎士団長殿」
「ま……魔王……」
何度も死ぬほどの経験をしたためか、最初の頃のような威勢の良さは陰りを見せて、ヘイスティングスのその表情は疲れ果てていた。
「まぁ、あれだけのことをされて狂ってないところは褒めてやる。お前の部下たちはそうでもないようだが」
ケビンの向ける視線の先には、歯をガチガチとさせながら震えている団員たちの姿があった。
「死にたくねぇ、死にたくねぇ……」
「もう嫌だ……死なせてくれ……」
「ざまぁないな。自分たちのしてきたことが、そのまま返ってきただけだというのに」
「魔王っ! ヘイスティングスたちを今すぐ解放しなさい!」
ケビンとヘイスティングスの会話に横から割り込んできたのは、見えない壁を叩いているガブリエルだった。
「仰せのままに、総団長殿」
ガブリエルへ素直にそう答えたケビンは黒い魔力を纏うと、ヘイスティングスの部下の1人を魔力で吊し上げた。
「やっていることが違います! 私が言ったのは解放です!」
「だからこの世から解放してやってんだ! 少しは黙って見てろ、あやつり人形が!」
「んなっ!?」
ケビンの物言いに対してガブリエルが唖然とする中で、ケビンは吊し上げた男を結界外へ出すと力を行使する。そうするとブルブルと震えているだけだった男に変化が訪れた。
「あ……あっ……うわあぁぁぁぁっ!」
吊し上げられた男の体はみるみるうちに干からびていき、四肢の末端から朽ちていくとボロボロと崩れ落ちては、風とともに粉塵がサーッと流されていく。
「――ッ!」
あまりにも壮絶な光景を目の当たりにするセレスティア皇国軍は、誰しもが息を飲む。遠くに位置する者は何が起きているのかわからなくとも、本陣にいる
遠くにいた者でそうなのだ。状況が把握できる比較的近くにいる者や目の前にいるガブリエルたちは、想像を絶する処刑方法に何もできずに立ち尽くすばかりであった。
やがて防具すらも朽ち果てて風に攫われていく中で、吊し上げられた男は同じようにサラサラと風とともにこの場から存在が消えていく。それを見ていた当事者である
「い……嫌だぁぁぁぁっ! た、助けてくれぇぇぇぇっ!」
この場から逃げさろうとなりふり構わず走り出した錯乱する団員は、見えない壁にぶつかると必死の形相でその壁を殴り壊そうとするが、ケビンの作り出した結界がその程度で壊れるはずもなく、後ろから伸びてきたケビンの魔力によって絡め取られてしまう。
「ひぃっ! だ、団長、総団長! た、助けてっ! 死にたくない、死にたくない!」
団員の助けを呼ぶ声で我に返ったガブリエルがケビンへ怒鳴りつけるが、ケビンは無視してその男に対しても処刑を開始する。
そしてケビンは女の子たちの所へ行くと、これからの処刑についてどうするのかを問いかけていく。
「あとはあいつらを殺したら終わりだけど、殺す? それとも生かす?」
ケビンのその問いかけに1人の女の子が気になることを問いかけた。
「生かしたらどうなるの?」
「死ぬまで酷い目に合ってもらう」
その答えを聞いた女の子は生かす方を選ぶと、周りにいた女の子たちも同様の選択をしていく。
「わかった。それじゃあ、あいつらは死ぬその時まで苦しみ抜いてもらおう」
そしてケビンが団員たちの所へ向かうと、その団員たちは見るに堪えない散々な状況を作り出しているが、その団員たちへケビンが声をかけた。
「女の子たちからの要望でお前らを生かすことにした」
ケビンの言葉を聞いた団員たちは安堵し、それを同じく聞いていた
そのような団員たちのことなど知ったことではないケビンは、団員たちの体を女性へと変換すると、それを見ていた周りの者たちはおろか団員たちですら唖然としてしまう。
そしてケビンは団員たちの身につけている鎧を《煉獄》によって燃やし尽くすと、処刑用の首輪を転移によって取り付けたらその効果を淡々と説明していき、いつものようにゴブリンやオークの巣へ送り込んでいった。
そして次々と喚き散らす団員たちを転移させては、わざとそうしているかのようにモニターを表示させて知らしめるのである。
「お、お願いです! お願いします、もうやめてください!」
ガブリエルが無力感から涙を流しながらケビンへ頭を下げると、無視を続けていたケビンはガブリエルへと語りかけた。
「おい、魔王相手に頭を下げるとは、それでも栄えある
ケビンはガブリエルへそう告げると、
「や、やめろっ! 女たちを攫ったのは謝る。そ、そうだ、賠償金も払う! だからやめろ!」
「処刑前までの流暢な言葉遣いはどうしたんだ? 化けの皮が剥がれてるぞ?」
ヘイスティングスをじわじわとなぶるようにケビンが時間をかけて揺らしていると、更にケビンを止める声が
「もうやめて! ケビン君!」
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