第423話 DEATHとキラッ☆とブルータス

 ある日の夏のこと、子供たちが学園から帰ってくるとケビンへ駆け寄って、今日の学園での生活を語りかけていく。


「今日は終業式だったんだよ」

「夏の暑さに負けないでって言われた」

「夏休みだー!」

「パパ、旅行に行きたい!」

「友達はリゾート地に行くんだって」

「ロナちゃんと旅行!」


「ダメよ、貴女たち。パパだってお仕事があるんだから」


 学園の普通科へ通い始めてからというもの、子供たちはメキメキと成長していき社交性まで身につけて、友好関係が広がっているようだった。


 今現在子供たちの面倒を見ているのは専門科に通うセレニティから代わり、12歳のエフィがその役目を担っている。他の子供たちの年齢はアズとベルが11歳となり、カーラとダニエラ、ナターシャとプリモが10歳となる。


 全員が同じ年に入学したため学年こそ一緒だが、2年生となった今でも変わりなく子供内の関係性が見て取れた。そこへ同じく学園の終業式を終えた専門科に通っているセレニティが登場する。


「ただいま、お義父さん」


「おかえり、セレニティ」


 ケビンを襲った日からというものセレニティは一皮剥けたようで、大人の女性としての落ち着きを纏っている。あの日からケビンを襲うというものにハマりこんで、タイミングを見計らっては夜這いをして襲うのを繰り返していた。


「「パパ」」


 そこへ現れたのはロナを連れたパメラで、ロナが歩けるようになってからはずっとパメラが手を繋いで一緒に過ごしていることが多い。そのパメラは今年で11歳となりロナは9歳となる。


「ロナが遊びに行きたいって」

「行きたい」


「じゃあ、みんなで海にでも行くか」


 ケビンが海水浴を提案するも海隣接地で育った者が皆無で、“海とは何か”からケビンは説明していく。


 元貴族や冒険者組は知識としては海を知っているものの、実際に見たことがなくてケビンの語る海水浴に興味津々となっていく。


「あなた、女性たちの水着は私が担当するわ。あなたが作ってはダメよ」


「……企んでるだろ?」


「ふふっ、どの水着を着るか事前にわかったら面白くないでしょう?」


 ソフィーリアの謀略が確実となる中で、ケビンは色々な水着を着ている女性たちを想像してはソフィーリアへ水着製作を任せるのだった。


 そして翌日、ケビンは家族旅行のための準備に取り掛かる。ケビンがまず向かったのは帝都の東にある山岳地帯だった。


 帝都というのは帝国領の真ん中に位置するわけではなく東に位置していて、帝国とはそこから西へ向けて伸びていくような横長の国となっている。そして帝国領の東の果ての皇帝直轄地である帝都周辺は、周囲が山岳に囲まれた天然の要塞なのだ。


 いくら帝都が山岳に囲まれているとはいえ、それは西を除く3方向だけであり帝都の守りと言えば西に気をつけるだけでいいものとなっている。それ故にケビンはまず東の山を越えて海へと出たのだった。


 何気に今まで海へ出たことのなかったケビンは初めて見る広大な海を見て、いったいどこまで続いているのか気になってしまう。


 ソフィーリアに聞けば答えは簡単に教えてもらえるだろうが、それでは負けた気分にケビンはなってしまうので、そのうち他の大陸探しをするのも面白そうだと1人考え込んでいた。


 そして眼下には砂浜が広がっており誰も辿りつけそうにない場所なので、これならばプライベートビーチとして使えそうだとケビンは安堵する。


 それから砂浜へ下りたケビンは子供が怪我をしそうな物が落ちてないか、1人で浜辺の清掃作業に取り掛かる。


 その作業は地道に目で探していくのではなくて、便利スキルと化している【マップ】を使ったら怪我をしそうな物を検索して、手抜きと言われそうなお手軽作業へと変えてしまうのだった。


「さすがに割れたガラス瓶の欠片とかはないか……手紙入りの瓶とかあったら浪漫なのにな……」


 そして砂浜の清掃作業が終わったケビンは、子供たち用の遊具を創り出しては【無限収納】の中へと仕舞っていく。


 その遊具はビーチボールだったり、ゴムボートだったり、砂のお城作成キットだったりと、思いつく品をどんどん創り出していた。


「嫁たち用にものんびりできるやつがいるな」


 子供たちの遊具製作が終わると、今度は嫁たち用にビーチパラソルやサマーベッドなどを創り出しては【無限収納】の中へと仕舞っていった。そしてある程度創り終えたケビンは海の家をどうするか考え始めることにした。


「うーん……プリシラたちが給仕をするからあった方がいいかもな」


 遊びに来たと言っても恐らく給仕をしてしまうであろうメイド隊のために、ケビンは機能性を重視した海の家を造ることにする。


 とは言っても、外観が海の家っぽくなっているだけで、中身はいつもの家造りと大して変わりはなかった。


 いつもと違いがあるとすれば寝室をなくして、着替えるための更衣室を代わりに設置したくらいである。あとは変わらずキッチンや風呂、トイレが備え付けられている。


 そこまで仕上げたケビンは、家族旅行をするための本格的な作業へと取り掛かる。それは庶民的な海水浴だけでなく、海外の富裕層がしていそうな豪華客船を使ったサマーバカンスだ。


 そのためにケビンは大量のマナポーションを用意していた。しかもキンキンに冷やしたあとの夏仕様バージョンである。


 それからケビンは誰もいない砂浜に大量の素材をばら撒いては、豪華客船製作という名の過酷なマナポーション地獄に入る。


 ケビンが予定しているのは家族全員が乗れる船であるため、クルーザー級と言うよりも本当に客船となる大きさの物だった。


 船内だけでいいのなら空間魔法で拡張した小型のクルーザーでも良かったのだが、甲板でも子供たちを遊ばせるためのプールを造ろうと構想を練っているので、外観からして大きなものと必然的になってしまう。


 結界を巧みに使って艤装ドックを作り出すと、砂浜の上で作業を始めてしまうのだった。


「先ずはキールとなる部分からだな。竜骨キールなだけに、これはドラゴンの骨を材料にしよう」


『親父ギャグ……』


 ケビンはサナの協力の元で竜骨キールを造ると、助骨の部分も同じくドラゴンの骨で賄った。


 骨格となる部分だけでかなりの大きさとなった客船は、ケビンの想像を遥かに超えたものとなってしまう。


「で……でかい……」


『当たり前です。子供を含めて家族が何人……いえ、何十人いると思っているんですか?』


「百人はもう超えたかな」


『友達は百人作れなかったくせに……』


「昔の古傷を抉るな」


『懐かしいですねぇ……ピカピカの1年生で【友達100人できるかな?】作戦と言っていたあの日……結局友達らしい友達はカトレアだけなのでは?』


「そういえばあいつ何してんだろ?」


『SAN』


「値?」


『直葬……って違いますよっ! そういえばあいつ何してんだろです!』


「それならちゃんとエスエーエヌってルビを振っとけよ。おかげで無駄に“値”って返しちまったじゃねぇか」


『メタ発言は禁止ですよ。おかげで私も無駄に“直葬”って返してしまったじゃないですか』


「まぁ、それはともかく。木造船と鋼鉄船のどっちにすべきだと思う?」


『もう龍骨を使っている時点で龍船ですよ。むしろ木造で豪華客船を造ろうとするマスターの思考回路に驚きですけどね』


「いや、【創造】を使えば意外とどうとでもなるだろ?」


 あーだこーだと言いながらもケビンはサナからの指摘で、木材や鉄鋼を使わずにドラゴンの素材を使用して外装を仕上げていく。


 だが、そのまま使用していたのでは鱗だらけの豪華客船(笑)になってしまうので、ドラゴンの素材でもそれを素に加工を施して豪華客船(笑)になることだけは防ぐことに成功する。


 こうしてケビンは豪華客船(予定)の途中まで造り、胃が限界となってしまってこの日の作業は終了するのだった。ちなみにこの日のケビンのお昼ご飯はマナポーションのみとなる。これは明日以降もそうなるであろうことが想像に難くない。


 翌日、ケビンは作業場へ到着すると造りかけの船を取り出して、外板まで終わらせた続きの作業を再開した。


「一応、フィンスタでもつけておくか?」


『その方がいいでしょうね。船に乗った経験のない人しかいませんから』


 それからケビンは中へと入ってから船の動力をどうするか悩み始める。


「うーん……蒸気タービンよりも魔力タービンが無難か?」


『発電システムは要らないので魔力供給システムを作りましょう』


「発電機ならぬ発魔機か?」


『船内の魔導具へ供給するためですよ。動力システムへ横流しもできますから』


「なんかどんどん普通の船とはかけ離れていくな」


『ドラゴンの素材を使った時点で普通じゃないです』


 そしてケビンは全ての大元となる発魔機を創り出すと、空気中の魔素を取り込み魔力へと変換するようにした。


 それから推進力を得るための魔力タービンも創り出しては設置して、軸によって可変ピッチプロペラへ直結していく。


 その後大型発魔機は4台、魔力タービンは8台となってしまい、理論上では時速100キロを超えることになってしまった。


「やり過ぎじゃないか?」


『備えあれば憂いなしです。魔物から襲われたらどうするんですか? スピードが出ないと逃げ切れませんよ』


「いや、倒せばいいだろ」


『海の中へ飛び込んで? 陸地ではないのですから敵は海の中ですよ』


「それもそうか……」


『魚雷とミサイル、主砲や機銃があれば子供たちも安全ですね』


「……でもなぁ……豪華客船なのにやり過ぎのような気もするが……」


 ケビンの能力を持ってすればたとえ海の中だろうと問題ないのだが、自重を廃棄処分したサナにのせられて、ケビンはのちに豪華客船へありえない装備を搭載することとなっていく。


 そして下甲板から上甲板へ向けて内部をどんどん造り上げては、その都度内装も施していった。


 それから1週間が経過して、とうとうケビンは豪華客船を造り上げることに成功する。


「長かった……」


『今回は大型船建造ですからね。試運転は日を改めますか?』


「いや、このままやろう」


 試運転を行うためにケビンは艤装ドックを海に沈みこませると、結界内へ徐々に海水を注入していき、豪華客船が浮上するのを見守っていた。


「進水は済ませていたけど、やっぱりこの瞬間は緊張するな」


『私がサポートしたんですから、進水で浸水なんてするわけないです!』


「なんだろう……夏なのに寒い……」


 サナの親父ギャグ?が炸裂したあと、ケビンは着水した豪華客船の艦橋に入っていく。


 そして艦長席に座ると、そこでケビンは遠未来的なシステムの起動を行うのである。


「マスターコード:ソフィーリア、システム起動。試運転を行う」


 ケビンがパネルに手を置いてシステムを起動させると、無機質な声が返答する。


[生体認証及びマスターコードを確認しました。システムを起動します]


 ブォンとディスプレイに電源が入って、起動シークエンスが開始されていく。


 予備魔力……異常なし

 発魔機起動……異常なし

 船内への供給開始……異常なし

 軸解放……確認

 魔力タービン起動……異常なし

 可変ピッチプロペラ……0度

 軸固定……異常なし

 武器作動確認……異常なし

 各種レーダー作動確認……異常なし


[システムオールグリーン。これよりメインシステムの起動後、試運転を行います。なお、メインシステムの起動後は、本擬似システムはメインシステムへとデータの移行を行いデリートされます。起動しますか?]


「それをしないとどうなるんだ?」


 ケビンはメインシステムが起動されると、今まで度々作動確認をさせていたシステムが消えるとあってか、バグったらどうしようと不安に駆られてしまう。


[メインシステムなしでは十全な機能が使えず、本船は全能発揮できません]


「えっ!? それ、いま初めて聞いたんだけど……」


[聞かれていませんからお答えしようがありません]


「くっ……融通の効かない……」


[起動しますか? Y/N]


「仕方がない……イエスだ」


[これよりメインシステムの起動と引き継ぎを行います]


 ケビンは引き継ぎにしばらくかかるだろうと予想をつけたら、お茶とお菓子を【無限収納】から取り出してリラックスタイムに入るのだった。


 しばらくした後、のんびりと過ごしてリラックスしていたケビンが窓から見える前方の景色を眺めていると、艦橋内にいきなり現れた女性に対して思考が停止してしまう。


 その女性は薄い紫色のロングストレートヘアをなびかせながら、右眼が金色に対して左眼は銀色で左右の目の色が違うオッドアイだった。


 そして服装は白を基調とした上着に青色のスカートとなるセーラー服を着こなしており、セーラー服に合わせたのか白と青のしましまニーソックスを履いていた。


「いつもニコニコあなたの脳内に這いよる美少女、サナたそ、DEATH! キラッ☆」


「ぶっふぅぅぅぅっ!」


 ケビンは予想だにしていない、いや……むしろ誰が予想できただろうか。その者の登場により、飲んでいたお茶を盛大に噴き出すのだった。


「マスター、き・た・な・い・ゾ☆」


「誰だよ、お前っ!?」


「マスターラブな、サ・ナ・た・そ、DEATH。キラッ☆」


 あまりにもテンションのおかしい目の前の不審人物?に対して、ケビンは混乱をきたしてサナへと助けを求める。


『サナぁぁぁぁっ!』


『はい、マスター』


『お前の偽物がいきなり現れたぞ! 何なんだあいつはっ!?』


『サナDEATHよ。キラッ☆』


『ブルータス、お前もかぁぁぁぁっ!』


 その後、混乱して興奮するケビンを何とか宥めたサナがケビンへ状況を伝えると、早い話がシステムを作っていた段階でサナのコピーを組み込んだシステムをケビンは知らされずに作り出していたということだ。


 これはひとえにサナをサポーターにして、スキルや魔法の補助を一部許可しているのが原因でもある。


 例えるなら【創造】の発動自体はケビンでも、そのスキルを発動して創り出すイメージは、ケビンがわからない部分を相方のサナが補助するといった形の内容である。


 そして今までケビンのお手伝いをしていた擬似システムはカムフラージュで、メインシステムを起動するとサナシステムが起動されてしまう上に、今後は擬似システムではなく、ずっとサナシステムがシステムの管理を行うことになる。


「……なぁ、前から思ってたことがあるんだ」


「何ですか? それともナンですか? キラッ☆」


「1回でいいからハリセンで頭を叩かせてくれ、頼む……」


「それは無理でーす。サナはホログラムなので触れませーん。お触り禁止ですよ、エッチなマスター♡」


「くっ……叩きたい……」


『それは無理なご相談でーす』


「ウザさが2倍に……」


『「マスターが早くサナの体を創ってくれないからですよ」』


「うわっ、バイノーラルを超える臨場感が……」


 ウザさが当社比2倍(※ケビン調べ)となったサナの暴走にケビンはどっと疲れを感じながらも、運航を続けて豪華客船の試運転を行っていく。


「武器はどうしますか? 適当な海の魔物相手に試しますか?」


「そうだな、それで頼む」


「了解。索敵フィールドを展開します。目標捕捉まで原速にて航行」


 今から戦闘訓練をするとあってか、サナは真面目モードとなりて作業を進ませる。やがて適当な魔物を見つけたのか、サナからの報告が挙がる。


「目標捕捉しました」


「第1種戦闘配置」


「了解。本艦はこれより第1種戦闘配置とします」


「本船だろ?」


「これだけの火力を搭載していたら、もう客船ではなくて戦闘艦ですよ。豪華客船に扮した偽装艦ですね」


「いや、扮しているんじゃなくて実際に豪華客船だから」


 ケビンが戦闘艦であることを否定してあくまでも豪華客船へのこだわりを見せたが、そのようなケビンに対してサナは淡々と報告していき、艦橋には大型モニターが出現し色々な情報が表示されていく。


「目標まで距離10000」


「対潜ミサイル1番、2番発射用意」


「了解。対潜ミサイル1番、2番発射用意」


 着々と準備を進めていくサナは適宜敵との距離が縮まると、その距離をケビンへと報告する。


「対潜ミサイル1番、2番発射用意よし」


 そして距離が8000を切るとケビンが次の指示を出す。


「対潜ミサイル1番を発射。2番は1番発射30秒後に続けて発射。カウント始め」


「了解。対潜ミサイル1番、カウントを始めます。10、9、8――」


 サナのカウントダウンが始まり、ケビンは意外にもノリノリで戦闘艦の艦長気分でその時を待つ。


「5秒前……よーい……ってぇー!」


 ボシュゥッと音が鳴り響いたかと思えば、大型モニターにはミサイル発射の瞬間が表示されており、問題なく作動したことが見て取れた。


「対潜ミサイル、目標まで飛行中。約15後に減速し弾頭を切り離します」


「目標着弾までは?」


「弾頭着水後、およそ10秒です」


「2番発射後くらいか……1発で死んだら無駄撃ちになるな」


「目標を変えますか?」


「そうだな、他の魔物にしてくれ」


 それからサナは2番の目標設定を変更して、別の魔物へ向けて発射する。その後、1番の目標である魔物は木っ端微塵となって、続く2番の目標である魔物も後を追うことになった。


 そして試運転を無事に終えたケビンはプライベートビーチ沖へ船を進めると、気になることをサナへ尋ねるのだった。


「なぁ、この船を回収したらホログラムサナはどうなるんだ?」


「私はこの船のシステムなので待機モードに移行したら、マスターの【無限収納】の中でお寝んねです。寝込みを襲ってくださいよ?」


「そこは「襲わないでください」だろ! どっちみちホログラムは襲えねぇよ!」


「そうでした……サナはスカスカのホログラム……こうなったらフルダイブシステムを作るしか……」


 何やら物騒なことをブツブツと呟き始めたサナへケビンが釘を刺すと、システムを待機モードへ移行して【無限収納】の中へ船を回収してから帝城へ帰ったのであった。

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