第420話 SS ネアのゲシュタルト崩壊

 面接会場を退室したあとは実技試験のある訓練場へと向かうため、別の女性騎士から案内をされて帝城の裏口らしき所から外に出ると、広々とした敷地にヘンテコな建物が見えた。


「あちらの他にも建物はありますが、機密保持のため結界によって見えなくなっております。ですから勝手にうろつくことのないようにお願いします」


 また結界……この帝城はどれだけの魔導具を使っているのだろう。それを考えただけでも相当な金額がかかっていると思われる。


 王侯貴族は金持ちだというのが相場だけど、いくらなんでも金持ちすぎない?


 そして私はヘンテコな建物の中へ誘導されて入ると、そこは広々とした訓練場だった。


「え……」


 外の見た目と中の広さが違うんじゃない? あれ……? え……?


 ポカンとしているであろう私が放心していると、訓練場にいた別の女性が私に声をかけてきた。


「いやーみんな同じ顔をするっスねー最初は面白かったけど、さすがに見飽きたっス」


 いや……人の顔を見て見飽きたって酷くないっ!?


「とりあえずやるっスか?」


「ニッキー、この人は冒険者みたいだよー楽しめるよー」


「マジっスか!?」


 ちょ、ちょっと、ハードル上げないでぇー! 私はありきたりなCランク冒険者なの! 戦闘狂ニッキーさんとは違うのっ!


 そんな私の心の叫びなどはニッキーさんに通じていないようで、そそくさと準備を終えた私は(プレッシャーに耐えられなかった)ニッキーさんと対峙することになる。


「好きに打ち込んできていいっスよー」


 かなり余裕があるのか、ニッキーさんは手持ちの短剣をクルクルと回して遊んでいる。


 ここまで挑発されては私も黙っていられない。私のありきたりパワーで1撃入れてやる。


 ニッキーさんが余裕をかましている間に、私は一気に間合いを詰めて袈裟斬りにした。


 だけど、ニッキーさんはクルクルと回していた短剣をいつの間にか握りしめていて、私の放った剣筋を反らせて難なく躱して見せた。


 まだまだぁっ!


 私は返す刀で横薙ぎを入れる。短剣ならこれを防げないはず!


 そう思っていた時期が私にもありました……


 そう……別に短剣で受ける必要はないよね。ニッキーさんはバックステップでの回避を選択していたのだ。


 そして剣を振り抜いた私のガラ空きなスペースへ、ニッキーさんが突っ込んで来た。


 ヤバいっ、斬られるっ!


 何とか躱せないか体をよじる私のデコに痛みが走る。


「1本取ったっスー」


 呆気に取られている私の視界には、ニッキーさんの伸びきった中指が見て取れた。


 デ……デコピン!?


 ニッキーさんが右手で握っていた短剣はいつの間にか左手で握りしめられており、空いた右手でデコピンを放ったのだと私は推測した。


「もう終わりっスか?」


「騎士なのに短剣を使うんですか?」


「ああ、これはサブ職用で鍛えてるところっス。メインは騎士らしく長剣っスよ」


 なっ!? 私は短剣術の熟練度を上げるための練習台にされていたの? そこまでの実力差なの?


「サブ職って何ですか?」


「ん? 冒険者のことっス」


 は……? 騎士なのに冒険者をしているの!? 仕事は? 騎士の仕事はどうしたの? それとも暇すぎて冒険者で暇つぶしをしているの!?


「ラ……ランクは……?」


 騎士をしている上に冒険者なんだから私より確実に上のランクなのは想像に難くないけど、私は聞かずにはいられなかった。


「Aランクっスねードラゴンに中々会えないからSランクの道のりは遠いっス。とは言っても、ドラゴンを倒すとか無理なんスけどねー」


 ニッキーさんはそうやってまた平然と短剣で遊び始めている。


 ……1撃入れたい。勝てなくても1撃をニッキーさんに入れたい。Cランク冒険者が何を無謀なと言われてしまいそうだけど、遥か高みにいるAランク冒険者へ1撃を入れてみたくなる。


 もし可能性があるとしたら冒険者として動き回るニッキーさんよりも、騎士として動くニッキーさんの方が与しやすいのでは……


「騎士としての動きでお相手をお願いできますでしょうか?」


「騎士っスかぁ?」


「一応これは騎士試験ですよね? 私も騎士としての動きをこの目で見て学んでみたいので」


「それもそうっスねー」


 ニッキーさんがそれまで着込んでいた軽鎧を脱いだら、ポーチから騎士鎧を取り出していた。


 えっ!? それ、マジックポーチなの!? 一般に売られているマジックポーチと全然見た目が違うんですけど! そんなカワイイ柄のマジックポーチなんて見たことない!


 私が驚きに包まれている中で、ニッキーさんは騎士装備へと着替え終わっていた。


 そして、試験が再開されたけど、結果から言うと惨敗……


 騎士となったニッキーさんはもの凄く守りが堅くなった。こっちの攻撃は全て盾で防がれてしまう。当然よね、今までは冒険者スタイルで短剣を持っているだけだったんだから。


 そして攻撃は苛烈になる。長剣へ持ち替えたニッキーさんの攻撃は短剣の時とは違いリーチが伸びた分、その危険度が増してしまった。


 うん、本職に対して勝てないにしろ1撃を入れようなんて、烏滸がましいにも程がある。


「いやぁ、中々楽しめたっスよ。合格っス!」


「へ……」


「相手が格上で強いとわかったにも関わらず、何とか1撃を入れたい気持ちがビンビン伝わってきたっス。意外と負けず嫌いみたいっス。熱意が伝わってきたっスよ」


 地べたで仰向けで倒れ込んでいる私にニッキーさんがそう伝えてくる。


「熱意……?」


「そう、熱意っス」


 私にも熱中できるものがあったんだ……ありきたりな私にも……


 それから呼吸を整えた私は立ち上がりお礼をニッキーさんに伝えると、そのあとニッキーさんが誰かを呼んだり、話したりと独り言を呟いていた。


 ニッキーさんって危ない人? 「妖精さんが見えるっス」とか言い出したりしないよね? 信じていいよね?


 と思っていたら、私をここへ連れてきた女性騎士が現れた。


 え……この人、地獄耳なの……?


「はは、またその顔に戻ったっスね!」


 呆気に取られている私を見たニッキーさんが腹を抱えて笑っていた。人の顔を見て笑うって……酷くない!?


「これは通信魔導具なんスよ。結婚指輪なんスけどねー」


 そう言って指輪をチラつかせるニッキーさんのドヤ顔に、私が拳を入れたくなったのは内緒である。


 私だっていつかかっこいい旦那様を見つけて見せるんだから!


「ニッキー、喋り過ぎだよーそれは秘密なんだからー」


「大丈夫っス。この子は合格っス! 先輩に確認も取ったっス」


「そうなんだーようこそ、騎士団へ」


「え……いや……実技試験に合格したってだけで、まだ採用が決まったわけでは……」


「面接も合格してるから問題ないよーニッキーが確認を取ったとさっき言ったしー」


 こうしてわけのわからないまま、私は騎士団の入団試験に合格したことを知らされてしまったのだった。


 この人たちって軽すぎない? 大丈夫なの、ここの騎士団?



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 試験に合格してからの私はすぐさま王都に戻り、実家に手紙を出してから引っ越しの荷物をまとめたら、そのままトンボ帰りをして帝都へ舞い戻ってきていた。


 帝都に戻ってきてからは暇だったこともあるので冒険者活動をしながら日々を過ごして、ここの周辺に棲息している魔物の狩りを行いつつお金を稼いだ。


 土地が変わると魔物も変わるみたいで、メジャーな魔物もいたけど初めて見るような魔物もいたから割かし楽しめた。


 それから翌月に入った5月のこと。私は指定された日にちに帝城へと再び歩き出した。


 私が帝城についたら待っていた先輩たちに案内をされて、ヘンテコな建物の隣にあるこれまたヘンテコな建物へと連れてこられた。


 道中では試験の日に隠されていたとされる他の建物も見ることができたけど……


 えっ……何でお城の敷地に農場があるの!? あのヘンテコな大きい建物は何っ!? 魔導具工場……? 隣のは家だよね? 【ナディアのアトリエ】……? え、これって家じゃないの!? ってゆーか、魔獣がいるんですけど!? あれは魔物図鑑で見たことがあるけど、もの凄く強い魔獣だよね!? 馬!? いやいや、魔獣ですから! 何ですか、その放牧場って!


 私がひっきりなしにニッキー先輩へ質問攻めをしていると、ニッキー先輩は笑いながら答えてくれた。この敷地を初めて見る人は漏れなく同じ反応をしてしまうのだとか。かくいうニッキー先輩も魔獣が放し飼いされていることには驚いたとか。


 そして更に私は目的地へ向けてニッキー先輩と歩いていく。


 わぁ、遊び場だー子供たちが楽しそうに遊んでるのを見ると和むなぁ。あ、見たことのある子がいるから孤児院の子たちかな。


 ……あれ? 私……目がおかしくなったのかな? 老眼になるにはまだまだ若いはずなんだけど……あれって……


「ブラッディパンブーっス。ちなみに双子っスよ」


 ちょおぉぉぉぉっ! 何であの凶暴なブラッディの名を冠する魔獣がいるんですか!? はあ? 子供が背に乗ってるし! 何、何なの、ここは!?


「通称【パンブーゾーン】って言われているアスレチック広場っス。双子たちの運動不足を解消する場所だったんスけど、子供たちがいつの間にか一緒に遊ぶようになったらしいっス」


 もうダメ……私の常識がゲシュタルト崩壊していく……もうこれ以上驚くことはないだろう。


 ……そう思っていた時期が私にもありました。


 高くそびえ立つヘンテコな建物を見た私は、それを見上げて首を痛めてしまった。


「あまり見上げると首を痛めるっスよ」


 それは先に言って……ニッキー先輩……


 それから中に入って更に驚き、転移ポータルなる物を使って魂が抜けていく感覚を覚えたら、ようやく私に宛がわれた部屋へと案内されたと思いきや、個室な上にトイレもついてて私はベッドに倒れ込むと考えることを放棄した。


 しばらくして元気を取り戻した私は荷物を解いて身辺整理を始めるが、部屋の彼方此方にある気になるものが目に入り苦労しながらも終わらせる。


 その後はとりあえず身辺整理中に気になって、私の作業を遅らせたあのヘンテコな箱を先ずは調べてみることにした。


 私の中の何かが触れてはいけないと警報を鳴らすけど、今更何が起ころうとも私の中の常識は壊れ去ってしまっているのだ。驚くことはもうない。


 いざ行かん、死地へ!


 そう覚悟を決めた私は縦長の箱についた持ち手の部分を握りしめて、何が起きても大丈夫なように心構えをして勢いよく開けてみた。


 ――ヒヤァ~


 箱の中から冷気がこぼれ出して私は何かの魔法を発動させてしまったのかと、冷気だけにヒヤヒヤしてしまう。


 ……はい、そこっ! 冷気だけに寒いとか言わない!


 いけないっ! 何かの力が働いて知らない誰かにツッコミを入れてしまった気がする。今は目の前のことに集中しないと。


 そこで私は中に紙が入っていることに気がついて、それを取り出したら目を通してみた。




 ~ 魔導冷凍冷蔵庫の取扱説明書 ~


 これは魔導具工房マジカルの裏商品である魔導冷凍冷蔵庫です。一般には出回っていません。我が国の騎士となった貴女へのささやかなるお祝いの備品です。


 この魔導具は空気中の魔素を取り入れるため魔力補給が必要のない、半永久的に稼働する魔導具となります。


 冷えたエールを飲んでみたくありませんか? ぬるいエールなんて時代遅れですよ。これからは冷えたエールを飲み終わったらこう言いましょう。


「ぷっはぁ~やっぱりエールは生に限る!」


 あとは、訓練後に冷えた水で喉を潤したくありませんか? 夏場のぬるい水なんて潤った気になりませんよね?


 何かを冷やすなら今貴女が勇気を出して開けたこの場所へ物を置いておくだけで、ある程度の時間が経てば置いた物が冷えます。ここが冷蔵室です。


 すぐ下についている引き出しの左を開けてみればそこには氷が入っています。急速に飲み物等を冷やすなら使ってみてください。ここが製氷室です。


 ちなみにジュース類なら特に気にはなりませんが、エールにはオススメできません。何故なら氷というものは元々は水でありますからエールが薄くなります。氷が溶ける前に一気飲みをするのであれば問題ありませんが、あまり一気飲みをして体を壊さないように注意が必要です。


 初回のみ氷を既に作っておりますが、次回からは自分でお水を補給してください。補給用タンクは冷蔵庫の中にある左下の容器です。取っ手がついていますので引っ張れば容器が引き出せます。目盛りをつけていますので、そこまでお水を入れたら元に戻してください。


 次に製氷室の隣にある右の引き出しは小型冷凍室です。何か小さなものを凍らせる時はここへ入れてください。


 そして下についている大きい引き出しは冷凍室です。肉類は1度冷凍させるとある程度は日持ちします。


 以上が、魔導冷凍冷蔵庫の使用方法になります。


~ あなたの生活を快適なものに 魔導具工房マジカル ~




「なんじゃこりゃあぁぁぁぁっ!」


 私は驚きのあまり叫んでいた。驚かないつもりだったのに、過ぎてみれば驚きの連続だ。冷えたエールって何っ!? そんなもの飲んだことないわよ!


 それからも私はこの魔導冷凍冷蔵庫以外にも、気になっていた物を次々と物色した。


 結局は全て魔導具工房マジカルの製品で、お水をお湯にしてしまう魔導ケトル、中に入れた飲み物の温度を一定に保つ魔導水筒、箱みたいな形で中に入れた物を温めたり解凍したりする魔導レンジ、極めつけは竈の代わりとして使える魔導IHなる物だった。


 これらの魔導具のケトルと水筒以外は、一般には出回っていない商品だと取扱説明書には記載されていた。


 魔導具工房マジカル……恐るべし……伊達に魔導具の最先端を行く大商会と言われてないわね。


 こうして私の1日目は終わるのだが、この建物中で驚きの叫び声が彼方此方で響いていたことに、私と同じような仲間がいたことを感じてしまい安心感を覚えてしまうのだった。


「よかった……やっぱりこの建物の設備は非常識よね」


 そのあとウキウキ気分で利用するために行った浴場で、私が再び発狂してしまったのは言うまでもないことだろう。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 翌日の朝、私はロビーに集合という声が変な箱から聞こえてきたので急いで向かった。


 ロビーに向かうと団長たちがいたので、誰かが並び出したら他の者たちも自然と整列してしまう。


 そして聞かれたのは身辺整理が終わっているかどうかだった。どうやらみんな終わらせていたようで、団長は宛てが外れたのか困り顔になっていた。


 そのような時に村人?がロビーに現れた。


(えっ……何でここに村人が?)


 どうやらその人は団長の知り合いみたいだ。上からの物言いに団長はすぐさま跪いて非礼を詫びていた。意外と偉い人なんだろうか?


 そしてその偉い村人が団長を揶揄っていたことが判明したら、団長の口調が変わって普通の女の子みたいになる。団長ってカワイイな。


 その後は偉い村人の指示で各班と班長、副班長が指名されていき、質問タイムとなる。


「他に質問はないかね?」


 団長が質問した後にそう告げられたので、私はずっと気になっていたことを質問してみる。


「そこの君」


「あの……ずっと疑問に思っていたのですが、貴方はどなたなのでしょうか? 団長たちが従っているところを鑑みると将軍閣下でしょうか?」


「ほう……将軍か……それをしてみるのも面白そうではあるな」


「将軍閣下ではないとしたら……」


「さぁ、ここで問題だ。私の正体を見事言い当てたら1ポイント進呈しよう」


 え……1ポイントって何……? あと偉い役職を挙げるとしたら……


「……宰相閣下でしょうか?」


「ファイナルアンサー!?」


 ふぁいなるあんさー? 何それ!? この人、意味がわからない。


「まだライフラインでオーディエンスとフィフティ・フィフティとトークが残されているが使うかね?」


「え……らいふらいん? ……お、おーでえんす?」


 次から次へと知らない言葉が耳に入ってきて、私は困惑してしまう。


「先ずはオーディエンスからか……ではその結果を教えよう。宰相は10人、近衛騎士団長が10人、宮廷魔術師長が15人、村人A?が14人だ。不投票が5人ほどいるな……」


 いや、おーでえんすを選んだわけじゃないから! 聞き返しただけだから! はぁはぁ……とりあえず落ち着こう。


「宮廷魔術師長が1番多い……宰相じゃないの……? ってゆーか、何で村人A!?」


 偉い村人だと思っていたら村人A?だし、村長さんですらない!?


「残るライフラインは2つ。フィフティ・フィフティとトーク……」


「ふぇ、ふぇふてぇ・ふぇふっ……つぅー……舌噛んだっ、言いにくい!」


「挑戦者はフィフティ・フィフティへ望みを託すが……その結果は…………じゃん! 宮廷魔術師長と村人A?が残ったぁ! 頼みの綱の宰相がここで消えてしまったぁ!」


 ウソぉー!? 宰相が消えたの!? どうすんのよ、コレ! もうあとは宮廷魔術師長しかないじゃない!


「そんな……宰相じゃなかったなんて……それなら宮廷魔術師長を選ぶべきなの……? 宮廷魔術師長の方が人数多かったし……」


「これで残るライフラインはトークのみとなったぁ!」


「つ、使います!」


 この際、どんどん使うしかない。意味がわからないけどそれしか1ポイントを手に入れることができない。


「さぁ、最後のライフラインをここで使ってきた挑戦者! そのトークのお相手は……第1班のメンバーだ! 制限時間は1分、よーいスタート!」


 いや、説明してよっ! とーくって何!? しかも第1班って団長たちの班だし。えっ、1分しか時間がないの!?


「さぁ、早く話さないと制限時間がどんどん減ってしまうぞ」


 無茶ぶりキター! 団長たちに話しかけるなんて緊張するけど、背に腹はかえられない。


「だ、団長、助けてください!」


「えぇーと……これってどう答えればいいんだろ……」

「素直に答えればいいのでは?」

「でも、微妙な数字っスよ」

「不投票が5人だからねー」

「私たちのせいですか!?」


 えぇー! 不投票って団長たちのせいなの!? 確かに5票と5人で数は合ってるし。


「残り30秒……」


 もう30経ったの!? 早過ぎない!?


「団長! 時間が、時間が!」


「よ、よく言われてるのは村人Aだよ!」

「でも選択肢は“村人A?”ですよ」

「“?”がキモっスね!」

「実は村人Bだったりとかー?」

「ケビンさんなら村人Kが妥当かと」


「残り10秒……」


 待って、残り10秒って、団長たち今更話し合わないでぇー残り時間が失くなるぅー!


「団長、早くぅぅっ!」


「え、えっと……」


「残り5秒……」


「だ、団長!」


「……が、頑張って! てへっ」


 可愛い過ぎるぅぅぅぅっ! 何この生き物!? あざとい、あざといよ、団長ぉぉぉぉっ!


「ターイムオーバー!」


 団長に見蕩れてたら時間が失くなったぁぁぁぁっ!


「さぁ、答えをどうぞ! さぁ、さぁ!」


 あ、焦るから急かさないでっ! た、確か……団長たちが言ってたのは最終的にはこれだったはず! 村人Bじゃなくて……


「む、村人Kで!」


「ファイナルアンサー!?」


「ふぁいなるあんさー!」


 もうどうにでもなれっ! 団長のカワイイところが見れて私は満足だ!


「ん、んー…………」


「引っ張るねーケビン君……」

「新人が可哀想ではありますね」

「焦らしプレイがパないっス!」

「夜も焦らす時あるよねー」

「でも、そのあとは飛ぶような気持ちよさです」


 ヤバい……さすがにここまで延ばされたら落ち着かないんだけど。何か言いそうで口が動いたと思ったら何も言わないし……


「……あの……答えは……?」


「…………んー……残念っ!」


「そんな……」


 あんなに引っ張っておいて不正解だったなんて……


「ということで、今まで貯めたポイントは全て没収となる」


 しかも貯めたポイントまで全部没収されるなんて……ああ、殺生な……


「元々0ポイントだよね?」

「そこは触れてはいけません」

「自分も参加してみたいっス!」

「ポイント貯まると何かあるのかなー?」

「1日デート権とかがいいです」


 ん? そういえばそうだ、私って元々はポイントを持ってなかったよね。正解したら1ポイントをもらえるとは聞いたけど……騙された……?


 あっ、しかも村人Kがいなくなった。ちょ、ちょっと、答えは? 答えを教えてもらってないんですけどぉぉぉぉっ!

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