第383話 自重「ちょっと旅に出ます」
帝都大改造から1夜明けた翌日、ケビンは学院を作るだけ作って教員たちをどうするのか全く考えておらず、専門科は後回しにして普通科の教員確保をまずは考えることにした。
「ヤバい……先生がいない……」
ケイトに向かって大見得を切った手前、今更頼ることはできずに頭を抱えてしまうケビンである。
『マスター、普通科ならそれほど能力がなくてもいいのでは?』
『いやいや、普通科の先には専門科があるんだぞ? 適当なことはできないだろ』
『まず1年生だけを入れて、その子たちが進級するまでにきちんとした人材を探せばいいじゃないですか。それに4月の開校までに半年以上猶予があるんですよ?』
『そうか!』
『それにマスターは【スキル付与】をお持ちなんですから、対人関係が問題なく行える奴隷のお嫁さんたちに学問系のスキルを付与して、お手製の教師へ仕立てあげればいいじゃないですか。人件費削減に繋がりますよ?』
『素晴らしい! サナ君、その案は採用だ!』
サナからのアドバイスによって教員確保に目処がついたケビンは、次の業務へと移り出す。
ケビンが次の業務として選んだのは帝都内の簡易マップ作りである。以前の帝都とは様変わりしているので目的地を探す際に迷わないようマップを作って、帝都内の要所要所へ設置しようという考えだ。
これは比較的簡単な作業でケビンが【創造】で看板を作ったら帝都入口から始まり、ある程度の間隔を空けてぽんぽん設置していく予定である。
だがしかし、ただの看板だとつまらないと思い至ったケビンは自重なんてものはせずに、ハイテクなタッチパネル式の案内マップにしたのだった。
例えば探したいお店のカテゴリーを触ると帝都内にある同カテゴリーのお店がピックアップされて、何メートル先にあるのか道順を示したり、大人の徒歩で何分かかるのか、更にはそのお店の粗方の情報まで表示できるようにしてある。
そしてケビンが看板を設置しては近くの都民へ操作方法を説明して、他の都民たちへも口コミで広めるようにお願いするのだった。
これには都民たちも大喜びで、看板を設置していくたびに説明してはそのまわりへ都民たちが群がっていく。
その後、看板の設置が終わったケビンは帝城へ戻り、今度は執務用に帝都の地図作成に取りかかるのだが、自重が半永久的に休業しているケビンはここでも【創造】を駆使してタブレット端末を創り出してしまう。
その性能は帝都内のマップはもちろんのこと、帝都民の現人口や帝都内の誰が何処に住んでいるのかその家族構成に至るまでの個人情報、更には土地・建物の所有者等がリアルタイムで諸々更新されていく破格の性能となっている。
他には財政面の収支や雇用情報、備蓄品のリストから1年間の行事計画に至るまでありとあらゆる情報を網羅している。
そしてそれは帝都内に留まらず帝国内であれば同様の情報が手に入り、これさえあれば執務が滞りなくやれるような仕様となってしまった。
ケビンとサナの手によって……
だが、さすがにこれは危険な代物だとケビンが判断して、マスター権限で閲覧できる範囲や使用者登録した者しか扱えないように制限をかけると、とりあえずは執務を行う者たちだけを対象に使用者登録することにした。
そのお披露目をするためにケビンが執務をする者たちを集めて説明をすると、ケイトから呆れた視線を向けられるのだった。
「はぁぁ……確かに本気を出した貴方が凄いことは帝都の大改造を行った時点でわかったわ。だけど、だけどね……いくらなんでもこれはやり過ぎじゃない!?」
「そうか? これがあれば執務なんて楽勝だろ。必要な情報はこれで全て見れるんだし、わざわざ関連資料を見つけだす手間も暇も省いてくれるんだぞ。まさに1家に1台と言ったところだろ?」
「……その1家に1台が今、目の前に何台もあるのだけれど?」
「そりゃあ1家に1台しかなかったら1人しか使えないからだろ。みんなで効率良く仕事を回すのが理想なんだから」
「さすがは至高の御方、ケビン様です。このマヒナ、感服しました」
「ケビン様は凄いです! アレックスもそう思いますよね」
ケイトが呆れた感情を通り越して諦めの感情を手にしている中で、ケビン擁護派はこれでもかと言うほど褒め称えるのである。
そしてケビンは帝都大改造が終わってしまうと、ヴァレリアを連れて世界樹攻略へと向かうのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
森の中を歩いているケビンとヴァレリアは散歩のような雰囲気を出しつつ、のんびり会話をしながら魔物の探索を行っていた。
「最初の頃と比べてヴァリーはここ1ヶ月ほどでだいぶ成長したよな」
「まぁな、俺は優れた大人だからな」
「それにしても先が長いよなぁ」
「ケビンが回りくどいやり方してるからだろ。真っ直ぐ突っ込めばいいのに面倒くさいことするからだぞ」
ヴァレリアの発言通りでケビンがやっているのは、世界樹を囲む森林地帯の端から蚊取り線香を燃やすかの如く、中心へ向かってぐるぐると範囲を狭めていく方法である。
そして攻略の終わった区域に踏み込んだ魔物は、戻るのが面倒くさいケビンによって自動追尾の魔法を放たれて瞬殺されていく。
「仕方がないだろ。真っ直ぐ突っ込んだところでヴァリーがやられるだけだ。こういうのは中心へ近づけば近づくほど強い魔物が出てくると相場が決まってんだよ」
「くそー、早く強くなりてぇな」
「何事も積み重ねが大事だからな、辛抱強く鍛錬するしかない。それともペンペン猿の時みたいになりたいのか?」
「ぐっ……もうあの時みたいに馬鹿にはされないぞ、俺の方が強いんだからな!」
ケビンとヴァレリアが歩みを進めながら会話をしていると、ケビンの気配探知に魔物が引っかかったことを口にした。
「次の獲物だな」
「楽勝でぶっ倒してやる」
フォレストモンキー戦の苦い記憶を思い出させられたヴァレリアが意気込みを見せるのだが、ケビンは内心でその言葉をフラグ成立だなと思ってしまう。
そして魔物の所までサクサク進んでいった2人が目にしたのは、餌を探して彷徨いていたトロールだった。
「何だあいつ。ぶくぶく太ってるな」
「怪力自慢の魔物だから攻撃を受け止めようとするなよ。ヴァリー程度なら吹っ飛ばされて終わりだ」
「俺が強いってところを見せてやる」
またもや懲りずにフラグを立ててしまうヴァレリアは、トロールへ突っ込むと戦闘を開始する。
間合いを詰めたヴァレリアが拳をトロールの腹部へ突き入れるのだが、分厚い脂肪に阻まれてめり込むだけめり込んだらボヨンっと跳ね返されてしまう。
「何だそれ!?」
「へぇーヴァリーの打撃だとそうなるのか……」
ヴァレリアがトロールのお腹に驚いている中でケビンはのんびりと見学をしながら感想をこぼしていたが、トロールはヴァレリアの攻撃など意に介さず代わりにお手製の棍棒を振り下ろす。
すかさず後退したヴァレリアがいた所はトロールの攻撃によって大きなクレーターができてしまい、それを見たヴァレリアがまたもや驚くのである。
「馬鹿力かよ!?」
「気をつけろよー当たったら痛いぞー」
「あんなのに当たりたくもねぇよ!」
ケビンのアドバイスとも言えないアドバイスを受けたヴァレリアは、自身のフットワークを活かして殴りかかっては離れるといった戦法を取るのだが、相も変わらずお腹を殴ってはボヨンっと跳ね返されるのであった。
「だぁぁぁぁっ! 何だこいつ、全然攻撃が効いてねぇぞ」
「腹ばっかり殴るからだろ。何で効かないとわかってて腹を殴る?」
「効かないなんてムカつくじゃねぇか!」
「無鉄砲だけじゃこの先はやっていけないぞ。大人なら柔軟に対応してみせろ」
「くぅぅぅぅ……」
悔しがるヴァレリアを他所にトロールの攻撃はなおも続いていて傍から見ているケビンからしてみれば、ひょこひょこ動き回るヴァレリアを叩こうとするトロールの絵面はまるでモグラ叩きのようである。
そしてモグラ役のヴァレリアが苦渋の決断をするとお腹への攻撃を諦めて、トロールの脚に対して蹴りを放つのであった。
それが奇しくもラッキーヒットとなって膝裏へ命中したことにより、トロールは片脚ではあるが膝カックンされてしまい体勢を崩してしまう。
それを好機と捉えたヴァレリアがすかさず飛び蹴りを頭部へ命中させると、初めてダメージらしいダメージを与えたことによってトロールがうめき声を上げる。
「よっしゃぁぁぁぁっ!」
だが、トロールの持つ自己再生によってヴァレリアから与えられたダメージが回復すると、ヴァレリアに対して棍棒を振り下ろすのだった。
その攻撃にハッとしたヴァレリアが避けようとするが、地面を破壊するトロールの攻撃の余波を受けて吹き飛ばされてしまう。
「油断大敵だぞ」
「くそー……ケビン、何かヒントくれよ」
「んーヒントかぁ……今のヴァリーじゃ倒せないってのがヒントだな」
「それヒントじゃねぇよ、答えじゃねぇか!」
「まぁそうとも言うな。……そいつ、倒したいか?」
「当たり前だろ」
「ちょっとこっちに来い」
ケビンはトロールを結界で閉じ込めて身動きを封じ込めると、ヴァレリアを呼び寄せて武器のバージョンアップを施していく。
今回ケビンが行ったのは魔法の使えないヴァレリアに対して、ターナボッタが開発した武器に属性を持たせる効果だ。
そしてターナボッタの魔導武器とは違いケビン印であるが故に、性能差はそれと比べて段違いになってはいるがケビンは全く気にせず、ヴァレリアの場合はターナボッタの剣とは違って装備がグローブとなるのでヴァレリア自身へダメージが通らないように、使用者保護の付与効果でそれを改善するのだった。
その後ヴァレリアへ使い方の説明を行って、再度トロール戦へ挑ませるとトロールへ施しておいた結界を解除した。
「調子に乗ってMP切れになるなよー」
「任せろ!」
「任せられないから言ってるんだけどな」
ケビンのボヤキを他所にヴァレリアは新しくなった武器を手にトロールへと突っ込んでいくと、早速その効果を試すのである。
「えぇーと、確か念じればいいんだよな?」
『火ぃ出ろ、火ぃ出ろ』
火を武器に纏わせようとしたヴァレリアはうろ覚えなケビンの説明通り実行して火を想像してみると、たちまち両手が炎に包まれて自分でしておきながら驚くのだった。
「うぎゃー! 火が出たーっ!」
「そりゃ出るだろう……」
驚いているヴァレリアを見てほとほと呆れているケビンを他所に、トロールがドスンドスンと詰め寄っては棍棒を振りかざすとヴァレリアへ向かって叩きつけた。
「危ねっ!」
いくら驚いていてもちゃんとトロールの攻撃を見ていたヴァレリアは、余裕を持ってヒョイっと避けてしまう。
『んー……雷出ろ、雷出ろ』
今度は事前に心構えができていたのか、ヴァレリアは火をやめて雷を武器に纏わせるとそのままトロールへ殴りかかった。
相も変わらずお腹への攻撃をしてしまうヴァレリアだが今までとは違いヴァレリアの拳がトロールのお腹に触れると、纏わせていた電撃が体躯を駆け巡って痺れてしまったトロールは思わず膝をつくのであった。
「すげぇー!」
絶好のチャンスだと言うのにヴァレリアは感嘆しているだけで動こうとはせず、そこへケビンから指摘が入ると思い出したかのようにトロールへ攻撃を加えていく。
「次は風だ!」
今度は風を纏わせてヴァレリアが殴りかかるとトロールへダメージを与えることには成功するのだが、纏わせた風がトロールの肉体を削るように抉ってしまいヴァレリアは返り血をもろに浴びるのだった。
「うげっ!」
トロールの返り血を浴びてしまい全身血塗れとなってしまったヴァレリアは、汚れてしまったのならもうどうでもいいという考えの元でトロールに対して攻撃を繰り返してようやく戦闘が終わりを迎える。
そしてケビンによって体を綺麗にされたヴァレリアは、新しい武器の効果で意気揚々として魔物殲滅を続けていくのであった。
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