第375話 どこの家庭も孫は可愛いもの

 しばらくしてサーシャの所から帰ってきたケビンたちはお昼時ということで、サーシャと入れ替わる予定のアリスよりも先にクリスの実家へ行くことにする。


「お昼時だから帰ってきてるはずだよな?」


「そうだね」


「間違いなくいますの」


 ケビンはクリスとアイリスに確認を取ると、バージニア家へ向けて出発するのである。


「ただいまぁ~」

「只今戻りましたの」

「お邪魔します」


 勝手知ったるやでクリスが家の中へ入りそれに続いてアイリスも入ると、ケビンは2人の後について行くとバージニア家の面々と再会を果たすのである。


「こ、これは陛下! この度は如何な御用向きで!?」


「お父さん、赤ちゃん生まれたよ。オルネラって言うの」


「お父様、ケビン様に娶っていただきましたの」


 ウィリアムがケビンへ問いかけているのにも関わらず、我関せずで報告をするクリスに続いて常識がケビンによって崩壊しつつあるアイリスも同じく報告するのだった。


「ケビン義兄さん、クリス姉さん、アイリス姉さん、おめでとうございます」


 ケントはそのような状況でもいち早く声をかけてお祝いするのである。


「オリーヴ……」


「あなた……」


 だが、状況についていけない夫婦を見かねてケビンが説明をすると、落ち着きを取り戻した夫婦は改めてケビンたちへお祝いの言葉をかけるのであった。


「それにしてもアイリスまでお娶りくださりありがとうございます」


「学院を卒業してから帝国へ向かったので、その地でいい人を見つけられるか心配だったのです」


「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありませんでした」


 その後は久々の家族団欒の中にケビンが加わり、みんなで昼食を摂っていく。


「義兄さん、とうとう今年に騎士の入団試験を受けることになりました」


「それは良かった。今は学院部の4年生だったかな?」


「はい」


「来年の今頃は騎士になっているわけか……」


「入団試験に合格すればですけど」


「ケントなら合格するよ」


「期待に添えられるよう頑張ります!」


 ケントが騎士になる意気込みを見せているとクリスやアイリスも応援して、益々落ちるわけにはいかないと入団試験へ向けて闘志を燃やすのであった。


 それからお昼が過ぎてケビンが午後1番に訪れたのは、アリスを連れて行くアリシテア王国王城である。


 安定のアリスはアレックスだけではなく、パンブーのリンとシャンまで一緒に連れて行くのだった。


「おお、孫じゃ。儂の孫じゃ」


「あなたったら、私の孫でもあるのですよ」


 予想通りライル大公はアリスの息子に対してデレデレになっており、マリーも同じようにデレデレしている。


 アリスが息子を連れてきたことを聞きつけたヴィクトールも執務を放り出しては、ローラとともに会いに来ていた。


「ローラ、私の甥っ子だぞ」


「可愛いですね」


「アレックスという名前です。人類の守護者って意味があるんですよ。ケビン様が付けてくれたんです」


「そうかそうか、アレックスはよい守護者になるじゃろうな」


「ケビン君譲りの強さになるのかしら」


「ふむ、人類の守護者か。ローラ、私たちも早く子供を作るぞ。アレックスに負けないような凄い名前をつけよう!」


「あなたったら……」


 ケビンそっちのけで盛り上がる5人を尻目に、ケビンはリンとシャンと仲良く1人と2匹でのんびり過ごすのであった。


「お前たちは連れてこられたのに放っておかれて可哀想だな」


「「クゥゥ……」」


 アレックスを中々解放してくれないアリシテアの王族たちで時間を取られてしまったケビンは、帝城へ戻るとスカーレットを連れて急いでミナーヴァ魔導王国王城へと転移する。


 ケビンたちがモニカへ会いに私室へ訪れると、初対面となる双子をスカーレットが紹介するのであった。


「双子のフェリシアとフェリシティです」


「まあ! 双子なの!?」


「名前の意味は幸運って言うんですよ」


「まさにそのとおりですね」


 それからモニカはスカーレットとともに双子を可愛がるのだが、いつまで経っても残りの2人を呼ばないためにケビンが尋ねてみると、双子の可愛さですっかり存在を忘れていたようであった。


 それからモニカが使用人を呼びつけては2人へ知らせるように言うと、引き続き双子を可愛がる。


 やがて訪れたエムリスとミラに構いもせず双子に夢中なモニカの代わりにケビンが説明すると、2人も我先にと言わんばかりに双子の元へ歩いて行く。


「おい、ケビン。双子を養子にくれ!」


「は? 何言ってんの?」


「スカーレットをお前に嫁がせただろうが。代わりに双子を養子にくれ!」


「お父様、フェリシアとフェリシティは私が育てます! お父様なんてお呼びじゃないです!」


「グハッ……あんなに可愛かったスカーレットが……不良娘に……」


「エムリス、諦めなさい」


「そうです。そんなことをすればケビン君に国を滅ぼされますよ」


「そんなに女の子が欲しいなら子供を作ればいいだろ?」


「そんなに上手いこと女の子を授かれるわけないだろ。うちの家系を見てみろ、男ばかりじゃないか。せっかく生まれて大事に育てたスカーレットはお前が攫っていくし……」


「女の子なんだからいつかは嫁ぐだろ」


「お前だって将来は双子を嫁に出すんだぞ! 俺の気持ちがわかるはずだ」


「俺の子を嫁に欲しければ俺を倒せと言うだろうな」


「お前、そんなの無理難題じゃないか! ずるいぞ、そのやり方は!」


「弱っちい奴に俺の大事な娘を嫁にやれるわけないだろ。仮に不幸にでも合ってみろ、悔やむにも悔やみきれないぞ」


 その後もエムリスとケビンの娘談義は続いていき、そんな2人を尻目に女性たちはほのぼのと双子を可愛がるのである。


 それからしばらくしてようやく落ち着いたケビンとエムリスは、ガッチリと握手を交わしていた。


「ケビン、お前は俺の中で歴代最高の息子だ」


「あとは自分の頑張り次第だからな。健闘を祈る」


 こうして密かに交わされた男2人の会話は誰に聞かれることもなく、2人だけの秘密となるのであった。


 ミナーヴァから戻ったケビンが次に赴くのは自身の実家である。全員を連れて実家を訪れたケビンは家族へ出産の報告をした。


「お母様! ケビンとの子供でシーヴァって言うのよ、勝利って意味なの」


「あらあら、シーラったら嬉しそうね」


「予想通り初孫はケビンが1番か。それにしても可愛いな」


「絶対誰にも負けない男の子に育てるわ! 負けたら勝利じゃなくなるもの」


「それは無理よ。いくらその子が強くなってもケビンには勝てないわ」


「あ……ケ、ケビンは別よ! 父親だもの。他人に負けない男の子にするわ!」


「それなら大丈夫そうね。ケビンの家族は強者揃いだから家族は対象から外しておかないとダメよ」


 サラから的を射たことを言われたシーラは家族と親戚を除く、他の人たちに負けないように育てようと決意したら、そこへ更にお祝いの言葉をかけにアインとカインがやってくる。


「シーラ、おめでとう」


「ありがとう、お兄様。お兄様も早く婚約者を決めた方がいいわよ。選り取りみどりなんでしょう?」


「はは、これは耳が痛いね」


「結婚していないのはお兄様だけなんだもの」


「この家を継ぐものとして適当な相手を選ぶわけにもいかないからね。ぼちぼち考えておくよ」


「シーラ、男の子だからってケビンの時みたいに追いかけ回すなよ」


「母親なんだから我が子を追いかけてもいいでしょ!」


「はぁぁ……お前ってやつは……」


 シーラが自分の家族へ報告している所と違う場所では、ティナがルージュへ報告していた。


「ティナ、良かったわね」


「ありがとう、姉さん」


「ねぇティナ……あなた大きくなってない?」


「何が?」


「……胸よ」


「赤ちゃんできたら大きくなったわよ。前以上に肩がこっちゃうの」


「くっ……羨ましい……」


 その後は時間もちょうどいいということで、ケビンたちはそのまま夕飯をご馳走になりゆっくりとした家族団欒を過ごすのであった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 ケビンがコンシェルジュたちを抱いていたある日のこと、既に何回戦も終えているケビンたちがひと休憩を入れていてゆったりとしながらピロートークをしていたときに、ケイラから唐突に仕事に関しての話を切り出される。


「ケビン様、こういう時に言うのもなんですが、少しご相談させてください」


「ん? 何かあった?」


「私たちの仕事は基本的に執務の補助ですが、この帝都で過ごしていくうちに気になる点をいくつか見つけ出していたので、そのことについてケビン様へお伺いを立てようかと……」


「嫁たちの頼みだ。俺のできる範囲なら何でも言ってくれて構わないよ」


「では、まず1つ目として学院を設立して頂きたく」


「学院?」


「はい。帝都にある学院は以前の名残が色濃く残っていまして、学力よりも武力が優先されているのです」


「あぁぁ……実力至上主義か……」


「今現在の教育方針は、ケビン様の望まれている多方面での実力至上主義とはそぐわない形だと思われるのです」


 ケイラの告げた内容に他の者たちも頷き返しているのだった。


「ケビン様、ボクが思ったのはあの学院だと孤児院の子たちは入れないよ。お金はないし、学力があるわけでもないし、そもそも戦い方を知らない」


 フォティアの付け加えた点にマヒナやネロも同意見のようで、ケビンに対して報告していく。


「ケビン様、至高の御方にこういうのはなんですが、孤児院の子たちに限らず一般家庭の子たちでさえも中々入学するのは難しいかと」


「ああ、それは私も思ったかなぁ。あの学院ってぇハードルがちょっと高いと思うのぉ」


「新しく作るか大きな変革が必要」


 シーロがそう告げるとアウルムとラウストもそれに続いた。


「ケビン様なら新しく作った方が早いのでは? そうすればケビン様の望む教育が施せると思いますわよ」


「私もそう思います。今ある学院を変えるのにはそれ相応の期間が必要だと思われます」


「コンシェルジュたちが優秀すぎる……」


「ケビン様、よろしければ私たちの総称を変えていただければと。もう私たちは夢見亭を辞めたのでコンシェルジュではございませんから」


「ケイラの言う通りだな……うーん……秘書みたいだから秘書隊とかどう? 仕事着姿なんか美人秘書って感じだし」


「美人だなんて……そんな……」


「俺専属の美人秘書隊……なんかいいかも……よし、これからはコンシェルジュ改め秘書隊ってことにする」


 コンシェルジュたちの呼び方が秘書隊へ定まると、次なる相談へ話は進む。


 ケイラが語った次の相談は、各領主からケビンが整備した街道のタイルが欲しいとのことだった。


「今頃? 遅すぎじゃないか?」


 ケビンが街道整備をしたのは、かれこれ1年以上も前のことで今更感が半端ないのである。


 それに対するケイラの回答は、各領主がケビンに認めてもらうがため各々が自分たちのやり方で街道整備を行って頑張っていたとのことで、ケビンとしてもそれは好感が持てる話であった。


 だが結局のところチートっぷりを発揮しているケビンの街道とでは差があり過ぎて、整備してみたところで月日が経てば元に戻ってしまったらしく泣く泣くケビンへ縋ることになったのだ。


「よってタイルを欲しがる領主には適正価格で売ろうかと思いまして」


「タダでも別にいいんだけど」


「それによって得た資金を学院運営に回したく」


「さっきの話か……」


 1つ目の相談事であった学院の新規設立へと繋がることをケイラが指し示すと、タイルもケビンが設置した劣化しないものではなく劣化してしまうタイルが欲しいとのことだった。


 それにもちゃんとした理由があり継続的に資金を確保することと劣化の具合を見て領主がタイルを発注してくることで、その土地土地の環境次第で劣化の誤差が出てしまうのは致し方ないとしても、国内の交通量をある程度は把握できるのではないかということである。


「新しくするにしても今ある学院って帝立だろ? 帝都に帝立が2校あることになるぞ」


「いえ、今ある学院は帝立ではございません」


「え? どういうこと?」


 ケイラがケビンへ告げたのは戦争後の混乱で政が一時的に麻痺したことと、ケビンが財務を担当する者たちと学院の上層部を悪人指定で処分していたことが原因で運営がままならず、潰れてしまう前に大富豪へ払い下げられる処置が取られたということだった。


「ですので、学院を変革するには運営者の許可が必要不可欠になるということです。私としては手っ取り早く新しく設立されることをお薦めします」


「俺のやったことって自覚はあったけど結構迷惑かけてた?」


「国のトップが受け継ぐ形ではない方法で変わったのです。一時的に乱れるのは致し方ありません」


 それからもケビンたちは話し合いを続けていき、あらかた今後の課題について話し終わると再びハッスルタイムへと移行するのであった。

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