第362話 次なるお悩み相談は
翌日、ドワーフの悩み事を無事に解決したケビンは、憩いの広場で次はどれに着手するべきか大いに悩んでおり、嫁たちと意見交換をしていた。
「私は種族的に世界樹を何とかして欲しいかな」
「それだとアビーは種族繁栄になるか……」
「ねぇケビン。1番危ないのは獣人族じゃない? 戦争を画策しているのでしょう?」
「それは一部の人族排斥主義の連中だな。多数は酷い目に合っている奴隷を解放したいだけらしい」
「ねぇ貴方。それなら私たちの時のように持ち主から奪ったらどう?」
「いや、それをやると見ず知らずの獣人族たちへ俺の転移魔法を知られてしまうことになる。あまり不確定要素は増やしたくないんだよ」
「奪ったらそのまま奴隷の主になればいいじゃない。酷い目に合ってるから助けたいのでしょ?」
「奴隷を助け出すだけじゃなくて解放が目的だからな。助けたあとは奴隷からの解放を要求してくるはずだ。そうなると主として縛ることはできなくなるし、仮にそれを無視すると人族排斥主義のやつらが調子づくだろうな」
「「「「「うーん……」」」」」
もうかれこれ1時間以上は話し合っているが、一向に話は進まない。そのような中でソフィーリアが爆弾とも言える案を投下する。
「あなた、ダークエルフの悩みは解決できるわよ?」
「ん? ソフィは下界に干渉できないんだろ?」
さも当たり前の如くソフィーリアが神の力を使って何かするのではと睨んでいたケビンだったが、ソフィーリアから返された言葉は思いもよらぬ方法である。
「私じゃないわよ。あなたが解決するの」
「いや、お見合いの仲人とか無理なんだけど……」
「違うわよ。あなたがダークエルフたちへ種付けすればいいのよ」
「「「「「えっ!?」」」」」
ソフィーリアのぶっ飛んだ提案に、その場にいた者たちは聞き間違いではないかとソフィーリアへ視線を向けるが、間違いではないことをすぐに知らされてしまう。
「あなた、原初神様にお願いして危険なスキルを手に入れたのでしょ?」
「……」
「え……危険なスキルって何?」
ケビンは自分のことなのでどのスキルのことを言われているのか察しはつくが、嫁たちはそうではなく危険なスキルと聞いてしまいただ事ではないとソフィーリアへ問い返すのだった。
「貴女たちも昨日、そのスキルが使われた対象を目にしたはずよ? まぁ、冒険者組に限って言えばだけど」
ソフィーリアから告げられた内容に、冒険者組は昨日のことを思い出し始める。昨日はケビンから言われて帝城で待機していたあとは、王都ギルドへ足を運んだくらいしかこれと言って纏まった行動はしていない。
ゆえに冒険者組の思考が行き着く先は王都ギルドへ集約される。
「もしかして……ゴブゾウ?」
真っ先にその解答へ行き着いたクリスがソフィーリアへ答え合わせするかのように尋ねると、正解と言わんばかりにソフィーリアは満面の笑みを浮かべるのである。
「ケビンが1番偉い神様にお願いして手に入れたスキルは【肉体構造変化】よ。あともう1つあるけど今回は関係ないわ」
「それがあるとどうなるの?」
「ゴブゾウを見たから理解できると思うけど、体を好きに作りかえることができるの」
「好きに?」
「そう、好きに。早い話がケビンの子種を人族からダークエルフ族のものに変えることができるのよ。もちろん見た目からダークエルフになることも可能よ」
ケビンが予想していた通りのことをソフィーリアが告げたため、ケビンは頭を抱えて悩みこんでいた。
「なぁソフィ……それをするくらいなら夫婦にして懐妊魔法をかけていった方が良くないか?」
ケビンが当初から考えていた解決法を提示するも、返ってくるのはそれではダメだということである。
「あなたもさっき言ったじゃない。お見合いの仲人は無理だって」
そう、ケビンやソフィーリアが言ったように、ダークエルフたちはそこからがスタート地点となるのである。
エルフと違って活動的なダークエルフは男女ともに社会(イグドラ限定)へ多く進出しており、婚姻率が下がっていく上に結婚したとしても『子作りより仕事』といった考え方が多く、出生率までもが下がっていったのだった。
これはひとえに長寿であることが起因していて、『別に子供は今でなくてもいい』とか『今は仕事に専念したい』とかの意見が多数を占めているのだ。
それに当てはまらない一部のダークエルフたちが結婚をした上に子供がいる一般的な家庭を築いていたり、他には結婚をしたくても相手がいない婚活者や、結婚はせずに子供だけが欲しいなどの考えを持っている者がいて、今回ソフィーリアが目をつけたのは子供だけを欲している女性である。
「にしてもなぁ……嫁さんたちに悪いだろ? ソフィは平気なのか?」
「私はもちろん平気よ。それに種の存続がかかっているんだもの。神の立場からしてみればもしあなたが行動に移すなら尊敬するし、応援もするわよ」
「今すぐってわけでもないだろうが、種の存続がかかってるのにソフィは干渉しちゃダメなのか? ダークエルフ族を創造して増やすとか」
「例えば人種が全て滅びそうな案件なら干渉できるわよ。だけどダークエルフ族1種が自分たちの選んだ生き方で滅びを迎えるのなら干渉できないわ。アビーには悪いけど私からすれば自業自得なのよ。種の存続よりも自分たちの都合を優先しているのだから」
「私のことはお気になさらないでください。神であるソフィ様がそう判断されたならそれが全てですから。悪いのは危機感の足りない一部のダークエルフ族です」
「アビーはドライだな……」
「旦那様はあまりにも近くて忘れていらっしゃるのか、そもそもそういう思想をお持ちでないのかはわかりませんが、私たちにとって神とは至高の尊き御方であり、このようにして言葉を交わすなど本来は恐れ多いことなのです。国王に対して言う恐れ多いとは次元が違うのです。目にすることすら叶わない存在である神からのお言葉なのですよ? これは本来聖女の担うべき神託と同じです。神であるソフィ様こそがこの世界の絶対的主なのですから」
こと神に関して猛威を奮うアビゲイルの弁舌に対して、ケビンは戸惑ってしまいタジタジとなってしまう。
アビゲイルから指摘された通り、ケビンにとっての神信仰など転生する前は全くと言っていいほどなく、子供の頃は育ての親に連れられて初詣で参拝していたが大人になるにつれてその頻度は減っていたからだ。
自立してからは初詣で参拝した回数など数える程にしかない。ほとんどは仕事で正月を過ごすか休みがあったとしてもゴロゴロしているかのどちらかだった。
転生してからもそれは変わらず、お礼を伝える時など必要な時には祈りを捧げるが、日頃から教会へ足繁く通って祈りを捧げることなどしてはいないのだ。
ケビンに限らずこの世界の住人でも毎日足繁く通っているのはごく一部の者たちだけだが、それでも神という存在に対しては崇高的な存在だと認識しており、ケビンよりも信仰心があるのでどちらかと言えばマシだと言える。
そのようなケビンにとってソフィーリアは神と言うよりも嫁という身近な存在で、確かに神ではあるのだが神というものを数ある職種の中の1つとして認識しており、『神は至高の尊き存在』というよりも前世で会うことがなかった社長や会長といった役職と同じ程度の凄さしか感じていないのだ。
早い話が信仰心をこの世界の住人ほど持ち合わせておらず、それは創唱宗教を持たない日本や、信教の自由が認められている社会で生きてきた弊害とも言えた。
「えぇっと……アビーはこう言ってるけど、みんなはどう?」
「神様について? それともケビン君のすることについて?」
「……俺のすることっていうかするかどうかはまだ決めてないけど、そのことについてどう思うか知りたい」
「私はちょっと嫌かな。でも種族が滅びるのはもっと嫌。それが同じエルフならなおさらそういう気持ちが強くなる」
「私はケビン君の決めたことに従うよ。ただ最後にはちゃんと帰ってきて欲しいかな」
「私は嫌かな。種族が滅びそうなのはその人たちのせいなんだから、意識を変えないと今後も同じことになるわ」
「私はケビン様の決めたことならどういう結果でも受け入れます。私にとってはケビン様が全てですから」
「私も受け入れるよ。今回のは道を外れるわけじゃないから止めないよ」
「私もアリスと同じです。ケビン様がお決めになったことに否はありません」
「お姉ちゃんはケビンを支持するわよ。だけどニーナの言う通りちゃんと帰ってきてね。女遊びにハマって帰ってこなくなるのは悲しくなるからやめてね」
「私は何とも思わぬ。強いオスにメスが群がるのは当然だからの。主殿ならなおさらそういうことになろう。強いオスの子を産むのはメスとしての誉れだからの」
「私はケビン様が私のことを愛してくださるならそれだけで充分です。他の女性を抱くことに異議を唱えるなら、今この現状でも異議を唱えなければならなくなりますから」
「私たちはその件に関しては何も言えないわ。否定してしまえば私たちと貴方との関係を否定することになるんだもの。種族は違えど私たちだって本来は奥様方からしたら今回の件と似たようなものなのだから」
「私はケビンさんが他の女性を抱いても構いませんよ。今となんら変わらないことですし、娘共々甘えさせてくれるならそれで充分です」
「私はお義兄様の決定を受け入れますの。お義兄様のすることを陰ながら支えるのが私のすることだと思っていますの」
「私たちメイド隊はケビン様の行うことに異を唱えることはありません」
「私たちコンシェルジュ隊は雇って頂くだけでなく、妻としても傍に置いてくださったケビン様の意思を尊重します」
あらかた嫁たちの意見が出終わってしまうと、許容する意見ばかりでケビンは更に頭を悩ませる。
「……とりあえずダークエルフの件は保留として、他の2種族の悩みを考えていこう」
「それなら獣人族について考えてみる? 私は世界樹をどうにかして欲しいけど難しいのは目に見えて明らかだし……」
「獣人族かぁ……ねぇ、ジェシカたちは何か知ってる? 人族排斥主義者たちのこと」
獣人族の悩みごとへ話が移ると、クリスは同じ獣人族であるジェシカたちに意見を求めるのだった。
「私が知っているのは同じ獣人族でもあまり近づく者たちはおらず、その人たちは孤立しているってことくらいです」
「孤立しているの?」
「そうだにゃ。過激派だから怖いのにゃ」
「意外と武力で黙らせたりできないかな?」
「反感買うだけで終わるだろ? それよりも奴隷をどうにかした方が落ち着くんじゃないか?」
「ケビン君、今の段階で酷い目に合っている獣人族がどこにいるかわかる?」
「帝国内はさすがにいないから他国だな」
「うわぁ……面倒くさくなりそうだね」
「そうだな……自国なら強権発動で何とでもなったが、他国となると身バレしたら国際問題に発展しかねない」
「「「「「うーん……」」」」」
振り出しに戻りみんなが悩む中、アリスが思いついた提案をケビンへ伝える。
「ケビン様、お兄様にお願いしたら何とかなりませんか?」
「ヴィクト義兄さんか……即位してまだ半年だし、些細なことで地盤固めを揺るがすわけにもいかないからなぁ……そう考えると帝国は実力至上主義で助かったな」
「ことのあらましを説明して黙認してもらえば、お兄様にも迷惑がかからないのでは? 奴隷たちはこっそり現地へ赴いて助け出すという方法を取れば、表立ってお兄様が動くわけでもありませんからそれほど迷惑はかからないかと」
「相談だけでもしてみるか」
「ケビン様、それなら私の母国もついでにやってしまいましょう。アリスの実家と違って代替わりしていませんからやりやすいと思いますよ」
「あの2人に会うのか……」
「ミラお母様はわかりませんが、私のお母様はケビン様に会いたがっていますよ。妊娠したことをお手紙で教えたら喜んでいましたし」
「ちゃんと手紙は書いているんだな。クリスと違って偉いぞ」
「ちょっと、ケビン君! 私も今は書くようになったんだよ。妊娠したことをこの前は手紙に書いて送ったし」
「私も書いています! この前はリンちゃんとシャンちゃんのことを書いて送りました」
アリスが負けじと対抗してくると、他の嫁たちも手紙を書いていることをケビンへアピールするのだった。
そして獣人族の問題は、とりあえずのところ友好国である2国へ相談してみるという形で終息するのであった。
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