第349話 ソフィーリアの爆弾発言
子供たちとの団欒がひと息ついたケビンはパメラを抱き上げて、クズミの正体をみんなに教え始めた。
「どこからどう見ても普通の人だったのに……」
「異世界人……?」
「ケビン君の元いた世界の人? でいいのかな?」
嫁たちが困惑している目の前ではクズミが狐の姿になって正体を明かしている姿があり、夢見亭のオーナーの真相を知って思い思いに衝撃を受けていたがクララで慣れてしまっているのか特段拒否感を示す者は現れなかった。
コンシェルジュたちは度肝を抜かれて言葉が出ないようであったが。
少しして女性たちが落ち着きを取り戻したところで、ケビンは今回戻ってきた本題を説明していく。
「――ということで、みんなでピクニックへ行こうかと思ってるんだけど」
「ドラゴン討伐がピクニックって……そんなこと言えるのはケビン君くらいだよ?」
「ピクニック……」
「ドラゴンかぁ……戦ってみようかな」
「ケビン、お姉ちゃん頑張るわ!」
「悪さをするドラゴンは成敗です!」
冒険者組が特段平気そうにしている中で、スカーレットが目を爛々とさせてケビンに詰め寄るとその話が嘘ではないことを再確認する。
「ケビン様! 私も行けるのですか!? ドラゴンを見れるのですか!?」
スカーレットの剣幕にタジタジとなってしまうケビンだったが、連れていくことを改めて伝えると大はしゃぎでアリスへ喜びを伝えていたのだった。
「旦那様、私も戦闘に参加してもよろしいですか?」
「え……戦うの?」
「はい。ギルド職員の特権でBランクのまま席が残っていますので、これを機に仕事を辞めたとしても凍結されないランクまで上げておきたいのです」
アビゲイルからの申し出に対してケビンは魔法によって1発妊娠させたことを伝えるわけにもいかず、在り来りな理由でガッツリ戦闘に参加しないように条件付きで許可を出すことにした。
「うーん……Bランクだし戦っているところを見たことがないから、後方からの魔法攻撃で無理をしない程度ならいいけど」
「ありがとうございます」
「私は戦えないから見学だわ」
嫁たち全員が行くことになると、今度はケイトたちへとケビンが話しかける。
「ケイトたちも連れていくからな」
「は? 正気なの? ドラゴン退治でしょ!?」
「一生に一度もない体験だろ? それに俺が守るから安心しろ。傷ひとつつけさせやしない」
「はぁぁ……貴方って本当に変わってるわ。ドラゴンなんて見たらみんな腰を抜かすわよ?」
「ちゃんと魔法でカバーするさ」
「……わかったわ。そのかわりちゃんと私たちを守ってよ?」
「ああ、大事な俺の嫁たちだからな」
「もうっ……みんな、聞いたわね? 明日は私たち家族全員でお出かけよ。明日のお昼は外で食べるから今のうちに調理組は仕込みをしておいて。それ以外の人で今日の晩ご飯を準備してちょうだい」
ケイトからの指示で奴隷たちはゾロゾロと動き始めて、調理の準備に取りかかるのであった。
「さて、人も増えたことだし城の改築でもするかな」
「貴方、それなら私たちの仕事部屋と子供たちの勉強部屋を作っておいて。それと個人部屋の最上階は今まで通り奥様方と貴方、下の階に一般の側妻、その下に奴隷たちの部屋を作って欲しいわ」
「もう俺の嫁にしたんだし、奴隷やめないか?」
「ダメ! それだけは絶対に譲れないわ。貴方の所有物であり続けることが私たちの幸せなの。これは総意よ」
「相変わらず奴隷関係だけは頑固だな。せめて子供たちだけはどうにかならないか? 将来は外で自由に働いたり、思い思いの目標に向かっていけるように」
「……わかったわ。子供たちは成人した時に本人へ意思確認をしましょう。それでいいわね?」
「成人なら奴隷から解放される節目としてはちょうどいいのかもな」
ケイトからの要望を聞き終えたケビンは玉座に座ると、パメラを膝上に乗せて城の改造へ取りかかろうとするのだが、その横にはお腹を重そうに抱えるソフィーリアがやって来たので、そのままでは玉座が固いと思ってクッションを敷いて座らせるのだった。
「あなた、手を握っててくれる?」
「可愛らしいお願いだな。お安い御用だ」
「ふふっ、落ち着くわ」
「……ソフィママ……おなか、おおきい……」
「凄いでしょう? お腹の中に赤ちゃんがいるの」
「……あかちゃん……」
「そうよ、パメラに弟か妹ができるのよ。生まれたらパメラはお姉ちゃんね」
「……おねえちゃん……」
パメラが不思議そうにソフィーリアのお腹を眺めていると、ソフィーリアが誘導してパメラへ膝枕をする。
「パメラ、お腹に耳を当ててごらんなさい」
ソフィーリアの言う通りに、しばらく耳を当てていたパメラが驚きで目を見開いた。
「……おと……した……」
「赤ちゃんが動いているのよ。パパに似てヤンチャなの」
「……すごい……」
それからずっとソフィーリアへ張りついているパメラを他所に、ケビンは着々と改造工事を進めていた。
まず初めに6階建てに空間を拡張したら4階にあったケビンたちのフロアを6階へと移して、2階の奴隷たちのフロアを4階へ移動させ、空いた2階フロアには新たに仕事部屋や子供たちの勉強部屋を作った。
その後、5階のフロアには新たに奴隷以外の個室を設けて、外観は変わらず中身だけが6階建ての城を完成させる。
そして階数が多くなってしまったので転移ポータルを設置することにして憩いの広場から出て行くと、元々つけてあった魔導エレベーターを撤去したあとに転移ポータルを設置したら、残りの転移ポータルも設置していった。
転移ポータルを全部設置し終わると、ケビンは帝城の外へ出てアルフレッドに声をかけるのだが、いないはずのケビンがいきなり出てきたことで驚いていたようであり面食らっていた。
その様子を見たケビンは、笑いながら明日のお出かけイベントにアルフレッド隊も連れていく旨を伝えるのであった。
「あ、あの……私どもは主不在の城を守りますので」
「実際、守りなんかいらないことはアルフレッドだってわかっているだろ?」
「しかし……」
「皇帝命令だ。たまには違う土地の空気でも吸って羽を休めろ」
「……わかりました。それにしてもケビン様は本当に皇帝らしくない。兵を休ませるのに勅命を使うとは」
ケビンの強権発動に呆れてしまうアルフレッドだが、今回が初めてではなく皇帝になった初っ端から必要以上に畏まることを禁止して、ある程度は気安く接するように命令したりもしていたのだった。
「そうでもしないと、お前たちは働き過ぎるだろ」
「返しきれないほどにご恩がありますから」
「気にしなくてもいいのに律儀なやつだ」
ケビンとアルフレッドが会話をしている中で、他の衛兵から声がかかる。
「あ、あの!」
「ん? どうした、ビリー?」
「あの……その……」
「言いたいことがあるなら構わず言ってくれ。不敬罪にしたりしないから」
「……では……大変厚かましいお願いで失礼だとは思うのですが、明日の外出に知人を連れて行きたく!」
「知人?」
「あの、街中で見かけて声をかけてからは遊ぶようになったりもしまして……」
「……彼女か?」
「――ッ!」
ケビンのズバリな指摘にビリーは男ながらに顔を赤らめてしまう。
「青春だな……連れてきて構わないぞ。お前たちも俺にとっては家族みたいなものだしな」
「陛下のか、家族などと恐れ多い!」
「お前たちの幸せも俺の中での幸せに含まれているんだ。気にするな。家族ついでだが、帝城の女性たちを全員嫁にしたから好みだとしても手は出すなよ?」
「ははっ、元より彼女たちのことは恋愛対象から外していますよ。彼女たちの瞳にはケビン様しか映っていませんし、私たち同様に待遇が悪かった過去があり男を避けていましたからね」
そのようなことは起こらないと思っているケビンの冗談めいた言葉に、アルフレッドも軽く笑い返答するのであった。
「ビリー、明日は朝食後少ししてから出発だからな? 今のうちに彼女へ伝えてこい。遅れたら気まずくなるだろ? アルフレッドも彼女がいるなら伝えてこいよ? ついでに非番の者たちにも伝達してくればいい」
「ですが、勤務中ですので……」
「皇帝命令」
「全くケビン様ときたら……敵いませんよ。では、お言葉に甘えて勤務からしばしの間外れさせていただきます」
街中へと向けてかけていく2人を見送ったケビンは、帝城の中へ戻るとその日の残り時間はのんびりと過ごすのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
もうあとは寝るだけとなったケビンは、ソフィーリアと一緒にベッドで世間話を繰り広げていた。
「ソフィと寝るのも久しぶりだな」
「そうね、旅に出る前以来かしら」
「大きくなったよな」
「産まれる時はもちろん傍にいてくれるのよね?」
「立ち会っても大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。それにあなたがいないと誰が子供を取り上げるの?」
「……は?」
「ふふっ、私のお産はあなたが介助するのよ?」
「いやいや、俺にそんな知識はないし無理だろ」
「サナ、健の頭にお産のいろはを流して」
『了解です』
「ふえっ!?」
ソフィーリアの言葉によって行動したサナが無遠慮にケビンの頭の中へと情報を流し込むと、不意打ちを食らったケビンは変な声を出してしまうのだった。
その声を聞いたソフィーリアは、ケビンの様子を眺めながらニコニコと微笑んでいる。
『――完了しました。ソフィーリア様』
「ありがと、サナ」
「……マジかよ……」
「これであなたも立派なお医者様よ。お産限定だけど」
「はぁぁ……何だか2人にレイプされた気分だ」
ソフィーリアとサナによって強引な手段で助産師もどきとされてしまったケビンは、諦めとともに遠い目をするのである。
「あなた、考えてもみて? 私の体をどこかの男に見られてもいいの?」
「いや、相手はお医者様だろ?」
「それでも男よ? あなた以外の男に大事なところを見せるなんて私は嫌だわ」
「この時代なら産婆だけでやったりもできるんじゃないのか?」
「できるわよ」
「それなら――」
「あなたと私の大事な子供を、あなた自身に取り上げて欲しいっていう女心がわからないの?」
「……わかりませんでした」
ソフィーリアからの責めるような視線にケビンは早々と白旗を上げて、女心がわからない自分を認めるのである。
「その潔さに免じて許してあげるわ。だからお産はあなたが子供を取り上げるのよ」
「はい。頑張ります」
「ふふっ、大丈夫よ。誰にでも初めてはつきものなのだから」
「誠心誠意努めさせていただきます」
ソフィーリアのお産話がひと段落すると、思い出したかのように大事なことをケビンへと伝えるが、そのケビンはお産話と同様に唖然としてしまう。
「お産話で思い出したのだけれど、あなたに伝えなきゃいけないことがあったの」
「忘れるくらいなら大した話じゃないんだろ?」
「天界でお仕事を再開した時に、お義母さんの不妊を治療しといたわよ」
「……は?」
「ついでにお義父さんのEDも」
「いやいや、待て待て。今なんて?」
「お義父さんの方はいきなり治るとあなたが絡んでると勘ぐるだろうから、徐々に回復するようにしたわ」
「さっぱり意味がわからん」
次から次へとソフィーリアから齎される情報にケビンは混乱をきたしていたが、続く言葉で自分の不甲斐なさを思い知らされるのである。
「あなたがなんだかんだでお義母さんとの関係を気にしていたでしょう? 実家に戻ってからは1度も抱いてないのだし。だからお義母さんの欲求が少しでも満たせるようにお義父さんを治療したのよ」
「ええっと、つまり?」
「あなたが気にしているのをお義母さんは気づいてて、あなたを呼び出すことは我慢していたの。だからお義父さんを治療して昔のように体もラブラブしてもらってるわけよ。2人ともお互いに引け目を感じていたから解消するにはもってこいの解決法なわけ」
「そっか……母さんに気を使わせていたのか……」
「母親なんだからお見通しよ」
「ありがとう、ソフィ」
「でも、あなたがお義母さんの体を開発しまくっていたから、恐らく心は満たされても体は満たされないわよ」
「俺の感動と感謝を返してくれ」
「嫌よ。あなたにもらったものは返さないわ。私の宝物になるんだから」
それからも2人は他愛ない会話を続けながらも、久しぶりの充実感を味わいつつ眠りにつくのであった。
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