第348話 ドタバタ劇場
その後、冒険者ギルドから屋敷に帰りついたケビンは早速みんなへ依頼の件を説明した。
「――というわけだから、明日はみんなでドラゴン退治になるけどクララはどうする? 同族を討伐することになるからクズミとお留守番しておくか?」
「留守番するくらいなら同行するぞ。それに集まっておるのは白龍ではないから気にせずともよい」
「てっきり同じ龍族だから気にすると思ったんだがな。それに白龍じゃないってわかるのか?」
「白龍たちには集落から出ぬように徹底させておる。下手に人里に飛んでいって狩られてしまっては、せっかく増やした個体数が減ってしまうからの。基本的に集落付近か人のいない区域で餌を見つけるようにさせておる」
「ちなみに4ヶ月前くらいにこの地に来てないよな?」
ケビンは大きな龍の姿を目撃されている件で、クララが以前に散歩がてらこの地の上空を飛んでいたという話を思い出していたため、一抹の不安を感じながらも問いただすのであった。
「4ヶ月前くらいは主殿とともにおったであろう。それに召喚される前は巣で寝ておったぞ」
「それが聞けてよかった。となると、留守番はクズミだけか」
「ケビン様、私もお供を致しますよ」
「え……」
ケビンはまさか商売人のクズミが同行するとは思わずに、聞き間違いではないのかとクズミを見つめてしまう。
「ケビン様をずっと感じていたいのです」
「ちょっとクエストに行くだけだぞ?」
「わかっておらぬな、主殿は。……よし、私がひと肌脱いでクズミの悩みを解決するかの」
「何をするつもりだ?」
「私と同じ契約を交わさせるだけなのだ」
「ああ、あれか……だが、主従関係はいらないぞ。別にクズミを従属させるつもりはないし」
「私と扱いが違うではないか」
「クララは敵意剥き出しで襲ってきただろ。その違いだ」
そしてクララの手ほどきでクズミがケビンと契約を結ぶことになり無事に完了すると、クズミは胸の奥でケビンを感じ取ることに成功するのである。
「ああ……ケビン様が胸の奥に……」
「じゃあそれでクズミはお留守番できるな」
「いえ、ついて行きますよ?」
「何で!? 留守番できるように契約を結んだんじゃないのか?」
「それとこれとは話が別です。それに勘違いされているようですが、私は商人であると同時に冒険者でもあるのですよ?」
「は……?」
「自分で倒した魔物を仲介を挟まずに売りさばく。貴重な素材を調べるには冒険者ギルドが適していましたので、もののついでで登録してあります」
「ちなみにランクは?」
「Aランクです。この度ドラゴンを倒せばSランクへ上がれますね」
クズミのどうしてもついてくる気満々な姿勢にケビンは深い溜息をつくが、クララがクズミの味方をしてケビンを追い詰めていく。
「主殿よ、クズミは単独でドラゴンを軽く捻れるほどの強さだぞ? 何を躊躇う必要がある? 手助けになっても足手まといにはならぬぞ?」
結局クララのこの言葉が決め手となって、ケビンはクズミをクエストへ同行させることに納得したのだった。
それからケビンはプリシラとライラの装備を新調するために、ドワンの元へ訪れようかと思ったがクララやクズミの武器をどうするか本人たちに確認を取ると、クララは今まで通り素手で殴りつけると言うのでケビンがグローブくらいはつけろと言って納得させようとしたが、魔力を纏うので問題ないと言い切って装備しないことになってしまった。
対するクズミは近接戦闘を行わないと言ったため、ケビンが尋ねたところ魔法が専門の後衛職であることがわかり、それならそれで杖等がいるのでは? とケビンの疑問を感じ取ったクズミは自前の扇子があればこと足りると告げて、結局2人に装備品等は新調しない方向性で話はまとまる。
その後、ケビンは当初の予定通りにプリシラやライラと一緒にドワンの店へ直接転移して装備品の新調を依頼すると、ゴワンに会ったことや手紙が役に立ったことを伝えてお礼を述べた。
普通ならイグドラの街から店へ訪れるケビンをドワンが怪訝に思うところではあるが、店をよく訪れることとケビンの面倒くさがりが相まって、ドワンには転移魔法が使えることを既に教えていたので、それからは店の中に客がいないことを確認してから直接転移するようになっていたのだ。
今回も帰り際に素材を卸すことにしたケビンは、【無限収納】の肥やしになっている中からドラゴンの素材1匹分をドワンヘ渡すのであった。
そしてケビンが素材代は依頼から引くようにお願いすると、明らかにお釣りが出ると言われてしまい、その分はこれからもメンテナンスをお願いするから気にしないように伝えるのだった。
ドワンの元から夢見亭へ戻ったあと、のんびり過ごしていたケビンにプリシラがとある懸念を伝える。
「ケビン様、私たちが奥様方よりも先にSランクへ昇格してもよろしいのでしょうか? それが私たちとしてはとても申し訳なくて……」
「んー……そこまで気にしないと思うけど。誰もそんなことは気にしないよ。今はランクよりも子供の方が気になってるだろうし」
「あの……身重ではありますがご一緒することはできないでしょうか? 私たちが万全の体制でサポートを致しますので、どうか……」
プリシラの懇願にケビンは熟考すると、あくまでも嫁たちを立ててサポートに徹するというプリシラたちの姿勢に感化され、意図を汲んで結論を出すのである。
「……たまには気晴らしも必要かな」
「ではっ……!」
「嫁たち全員を連れてピクニックと洒落こもうか?」
「ありがとうございます!」
ケビンとプリシラのやり取りをひと通り見ていた他のメイドたちも、プリシラと同様に頭を下げて感謝を伝えるのだった。
それからケビンたちはダンジョン都市の夢見亭へ転移してコンシェルジュたちを呼び出すと、オーナーと話がついたことを説明して引っ越しの身支度をするように伝えたら、コンシェルジュたちはケビンからマジックポーチを受け取ってそれぞれの準備のためその場を後にする。
そして少ししたらケビンたちがのんびり待っているところに、マヒナがいち早く戻ってきたのだった。
「早いな……」
「ケビン様を見送ったあと、既に身辺整理は終わらせておいたので」
相変わらずなマヒナの行動力を目の当たりにしたケビンは、ルルへジト目を向けるもその視線はルルにとってご褒美にしかならなかった。
「あぁん、ケビン様からの視線……ゾクゾクします」
ルルとのやり取りからしばらくすると、コンシェルジュたちが全員準備を終えて揃ったので最後の目的地である帝城へとケビンたちは転移した。
憩いの広場へ大人数で現れたケビンに女性たちは驚きを隠せないが、見知った面々がいたためか驚いていたのは面識のない女性たちだけである。
そしてケビンはコンシェルジュたちを紹介して、次にクズミを嫁として迎え入れたことを報告するのだった。
「えっ!? オーナーと結婚したんですか!?」
ケビンの報告で真っ先に反応したのは嫁たちよりも、クズミの雇用員であったコンシェルジュたちだ。
「オーナー、抜け駆けなんてズルいです!」
ケビン教信者であるマヒナがクズミヘ物申すと、生きてきた年数と経験がマヒナとかけ離れているクズミはサラリと躱してしまう。
「マヒナ、抜け駆けも何も貴女がケビン様へ恋慕していることなんて私は知らないのですよ? それに私からはアプローチをしていませんし、逆に欲情したケビン様に襲われたのですよ? 何かを言うならケビン様へ伝えてください」
クズミがケビンとの馴れ初めを暴露してしまったことで、女性たちの視線がケビンへ一斉に集まる。
「……襲ったの?」
誰とはなしに尋ねられた言葉に対して、ケビンは包み隠さずことの経緯を説明しだした。それを聞いた女性たちはガードが緩すぎるクズミもそうだが、性欲が強すぎるケビンのことも少しは我慢ができなかったのかと呆れ果ててしまう。
何とも言えない空気が漂う中でその場にいきなり現れたのは、仕事をしていてここにはいないはずのソフィーリアである。
「ふふっ、見させてもらったわよ。中々の面白い状況になっているわね」
いきなりのソフィーリア登場で女性たちが面食らっていると、ソフィーリアを知らない面々は誰なのかが全くわからないが、ケビンと同じ転移をしてきたことで只者ではないことだけは理解ができた。
「クララ、貴女とは初めましてね。クズミやコンシェルジュたちもだけど」
名乗ってもないのに名前を呼ばれたクララは警戒心を強くするが、特に強そうにも感じない柔らかい微笑みを浮かべた女性に対して、何故か本能的に絶対逆らってはいけない相手だと頭の中で警鐘が鳴り響く。
「何故私の名前を知っているのだ? その名は主殿がつけてくれた名だ。ここにおる者たち以外は知らぬはずだぞ」
「このお腹を見ても見当がつかない?」
クララの見るソフィーリアのお腹はぽっこりと膨らんでいて、明らかに身篭っていることが誰の目にも明らかだった。その姿を見て周りにも同じようにお腹を膨らませている嫁がいたのでクララは予想を口にする。
「……主殿の嫁か?」
「そうよ、私がケビンの
ソフィーリアは軽く牽制を入れてくるが、クララはそのことよりも重大で見過ごせない事実の方が頭を支配していたことで、そのことが無意識に口からこぼれ出してしまう。
「……神……」
そしてクララはケビンから口外禁止とまで言われた女神が今目の前にいることで、先程の警鐘が本物であったことを知るのだった。
「ふふっ、そんなに固くならなくても取って食べたりはしないわよ? あ、でもドラゴンの肉って美味しいのよね。古代龍になると格別なのかしら?」
ソフィーリアがぺろりと舌なめずりをすると、クララはゾクリと背筋を這う言い表せない感覚に襲われて冷や汗を流すが、誰も入り込めない空気を作り出している2人のやり取りの中へ意に介さずケビンは口を挟む。
「ソフィ、揶揄うのはそのくらいでいいだろ。クララがマジビビリしてるじゃないか」
「あら、あなた? 私はこれでも怒っているのよ?」
「クララが何かしたのか?」
「魂の契約を結んだでしょう? クズミとも」
今まで蚊帳の外にいたクズミがいきなり名前を呼ばれたことで、ビクリと反応してしまう。
「何かいけなかったのか?」
「あなたの魂を勝手に束縛したのよ? あなたが許せても私が許せるわけないじゃない」
「あぁぁ……そういうことか……それならその時に現れて言えば良かったじゃないか」
「だって……嫉妬深いって思われたくなかったんだもん」
口をとがらせてイジけるソフィーリアに対して、ケビンは言い表しようのない可愛さを感じて抱きしめるのだった。
「あまり一緒にいてやれなくてゴメンな」
「ううん、私も嫉妬してゴメンね。何だか最近、心が落ち着かないの」
「それなら今日は一緒に寝よう。明日はみんなでピクニックだからな、ソフィも当然連れていくぞ」
「うん、愛してる」
「俺も愛してるよ、ソフィ」
いきなり始まった2人のラブラブな展開に周りの者は唖然としてしまう。先程までの緊張感はいったい何だったのだろうかと、当事者であるクララは理解が追いつかない。
しばらくソフィーリアと2人の世界へ旅立っていたケビンが戻ってくると、新たに仲間入りしたメンバーへソフィーリアのことを説明しだした。
当然いつもの如く説明された者は理解が追いつかないが、今に始まったことではないのでケビンは以前から考えていたことを今回のことがきっかけとなり、決意を胸にそれを実行へと移すのだった。
「今回、既婚者に対して未婚者が嫉妬する場面があった。俺は万能ではないからみんなが何を考えているかは口にしてくれないとわからない。今後も同じことがあるかもしれないし、もしかしたらないのかもしれない。でも、現状を放っておいてみんなの関係がギクシャクするのは俺の望むところではない」
ケビンは大きく深呼吸をすると、みんなを見渡してから続きの言葉を発した。
「よって、ここにいるみんなを全員嫁に迎える」
ケビンが言い終わると憩いの広場はシーンと静まり返る。子供たちでさえケビンが何か話し始めた時点で騒ぐのをやめていたからだ。
「あ、あの……ケビン様……今、なんと……?」
嫁への道を諦めてサポートへ回る決意をしていたメイドたちの代弁をするかのようにプリシラが尋ねると、ケビンはプリシラに向いて同じことを伝えるのだった。
「プリシラ、君を妻にする。プリシラだけじゃない、ここにいる女性全てだ」
「貴方、それは私たち奴隷もってこと?」
「当たり前だろ。奴隷だろうがケイトも一緒だ。そして他の奴隷たちも同じように妻にする」
「ケビンさん、私は?」
「一般人であるナナリーもだ。バツイチで子持ちだろうが関係ない」
「お義兄様……」
「アイリスもだ」
「ケビン様……」
「ケイラたちも当然妻にする」
未だケビンと結婚をしていない、むしろその線は諦めていた使用人や一般人、そもそもそんな夢物語など描いてもいない奴隷たちはその場で泣き崩れてしまう。
「今まで宙ぶらりんにしていて悪かった」
ケビンはそう言うと【創造】を使って空中に数多の指輪を作り上げるが、その形を見たプリシラが待ったをかける。
「ケビン様、私たちの指輪は奥様方の婚約指輪と同じもので構いません」
「何でだ?」
「結婚していただけるのは至上の喜びですが、だからと言って皇后の立場にはなれません。あくまでも私たちメイドはサポートに徹しますので正妻ではなく側妻としてお娶りいただければと」
「貴方、私たち奴隷もそうよ。今までの妾としての立場でも充分なのに正妻にはなれないわ。だからプリシラたちと同じく側妻として娶って欲しい」
「ケビンさん、私も側妻でお願いします。命を救っていただいて新しい生活まで用意していただいたのに、これ以上望むことはできません」
「お義兄様、私も側妻で構いません。正妻としての立場や責務はお姉様にお任せします」
「ケビン様、私たちコンシェルジュも同様の扱いでお願いします。正妻は元オーナーであるクズミ様へお任せ致します」
「わかった。みんながそれを望むなら俺は無理強いせずそれを叶えるだけだ」
ケビンは作り出していた指輪のうち、結婚指輪の方を嫁たちがしている物から婚約指輪と同じシンプルなデザインにすると、材質だけは変えて婚約指輪と同じシルバーではなくゴールドにして作り直した。
それを1人ずつ左右の薬指へ言葉をかけながらはめていくと、指輪をはめられた女性たちはまた泣き出してしまい、各々の幸せを噛み締めていた。
そして全員終わると指輪の効果を説明して、嫁たちと同様に通信機能を付けていることを伝えたのだった。
そのようなことをしていたケビンの所へ、集まっていた子供たちがやってくる。
「パパはパパになったの?」
「パパはパパ?」
ケビンは言葉の意図が瞬時に理解できずつい聞き返してしまったが、アズはその意味をわかっていないケビンへ拙いながらも教えるのである。
「ママがパパはパパじゃなくて本当はご主人様って呼ばなきゃダメって言ってたの。パパと結婚できないからパパじゃないのよって。でもパパはママをお嫁さんにするって言ったから結婚したんだよね? だからご主人様じゃなくてパパって呼んでもいいよね?」
「ああ、そういうことね。もちろんパパって呼んでいいよ」
「ケビンお兄ちゃん、私もパパって呼んでいい?」
「いいよ。ナナリーと結婚したからナターシャは俺の娘だよ」
「私は私は?」
「私もパパって呼びたい!」
「私も!」
「私もいいですか?」
「もちろんベルやカーラ、ダニエラやエフィも呼んでいいよ」
子供たちが矢継ぎ早にケビンへ許可を求めていると、離れた所で1人様子を窺っている子供にケビンが気づく。
「セレニティ、おいで」
ケビンからの呼びかけで静かに近づいてきたセレニティは、恥ずかしげにケビンへ視線を向ける。
「セレニティも呼びたければ呼んでいいんだよ?」
「あの……私は子供たちの年長者としてお手本を見せないといけないから……それにお母さんがいるわけでもないので」
ケビンへそう告げるセレニティにはパメラと同じく母親がおらず、今となっては11歳だが助け出した当時から他の子供たちの面倒を見ていてた面がある。
元々の性格である物静かで控えめな部分によって何かと遠慮をしていた経緯があり、ケビンとしては他の子供たちと同様に甘やかしてあげたい気持ちが昔から満々であったのだ。
未だ遠慮をしてしまうセレニティをケビンが抱きかかえると、セレニティはいきなりのことでワタワタとしてしまうのだった。
「ご、ご主人様!?」
「パパって言ってごらん?」
「……」
「セレニティ?」
「……パ……パパ……」
恥ずかしさのあまり顔を赤らめてしまうセレニティであったが、ケビンはそのようなセレニティへ言葉をかける。
「俺はセレニティからパパって呼ばれたいけど、セレニティが嫌なら強制はしないよ」
「その言い方はズルいです……ご主人様が望んでいるのに奴隷の私が否定するなんてやってはいけないって教わってるのです」
「そこは気にしなくてもいい。俺はね、セレニティが子供たちの面倒を見たり、何かの役に立とうと勉強を頑張っているところが好きだよ。だけど、年相応のセレニティも見てみたいんだ」
「す……好きだなんて……」
「セレニティはパパのことが嫌いか?」
「……ズルい……ズルいです……それに、私がパ……パパのことを嫌いになるわけがありません」
「それは良かった。将来、『パパなんて大っ嫌い!』て言われたらガチ凹みで寝込む自信があるからね」
ケビンが寝込むと言った言葉に驚いたセレニティはオロオロしてしまって、ついお姉さんっぽく振舞っていたキャラが崩れて素の部分をさらけ出してしまう。
「……パパ、心配しないで。私はパパのこと大好きだから。ずっと好きだから嫌いになったりしないよ」
セレニティの言葉に反応した周りにいる子供たちも次々とケビンの体にしがみついては、「パパ、好き!」と言ってセレニティへ対抗するのであったが、うっかり「大好き」と言ってしまったセレニティはそのことを思い出してか益々顔を赤らめてしまうのであった。
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