第280話 後始末、そして不安なクリスと

 翌朝になりケビンが目を覚ますと、隣ではスヤスヤと眠っているアリスの姿が目に映る。その寝顔を眺めては心が穏やかになっていくケビンだが、いつまでもそうしていたいのを我慢してアリスを起こすことにした。


「アリス、朝だよ」


「ん……んぅ……」


 微睡みの中から目覚めたアリスはケビンと目が合うと、はにかみながら朝の挨拶をする。


「おはようございます、ケビン様」


「おはよう、アリス」


 2人はそれから起き上がると一旦着替えるためにアリスは部屋へと戻り、ケビンはアリスが戻ってくるまでそのまま待機して、その後は一緒に食堂へと向かうのであった。


 そして、朝食を終えたケビンは1人で出かけると帝都を出て、人気のない森の中へと入って行く。


『サナ』


『はい、マスター』


『支援金を盗んだ奴の足取りを追えるか?』


『少々お待ち下さい――』


 ケビンはナナリーからの話を聞いて、スラムの盗人を粛清するつもりで森の中へと1人で来ていたのだった。


『――見つけました』


『ありがとう。今からそいつらを転移させる』


『ですが、家庭を築いている方もいらっしゃいます』


『盗んだ金で幸せを手にしたのか? ナナリーをあんな目に合わせておいて』


 いくら自分のせいでそうなってしまったとはいえ、ナナリーから盗んだ金で家庭を築いている盗人に、ケビンは怒りがふつふつと沸いてくるのであった。


『マスター、抑えてくださいよ?』


『わかってる』


『如何致しますか?』


『そいつの所には直接乗り込む』


 ケビンはサナから盗人の位置を【マップ】に記してもらうと、そこへ空を飛びながら超高速で移動するのであった。


 やがて辿りついた街でケビンは気配を消したまま物陰に着陸すると、そこから平然と1軒家を目指して歩き出す。


 そして到着した1軒家でノックもなしに中へと入ると、当然の如く家に住まう者から慌てた声が出される。


「こんな朝早くから誰だ、手前ぇは!」


 家の中には男が1人と女が1人で、ささやかな朝食を摂っているところであった。


「帝都、悪人の一掃、消えた支援金。こう言えばわかるか?」


「ッ!」


 男が黙り込んでいる中、女は何のことだかわからずにケビンへ当たり前のように言葉を投げかける。


「何なんですか、あなたはっ! 衛兵を呼びますよ!」


「好きに呼べばいい。そのかわり困るのは俺ではなくてそこの男だ」


「え……?」


 ケビンによる回答で女は困惑して男へ視線を向けるが、対する男は額から汗を流しているだけである。


『サナ、当時こいつが盗んだ額はいくらだ?』


『金貨30枚相当になります』


『およそ3軒分か……』


 ケビンは当時支援金として1軒当たり金貨10枚を贈っていたのである。サナが“相当”と言ったことにより、少し手をつけて減った支援金を盗んだのと同時に家を漁って他の金品も盗んだのだとケビンは推測した。


「おい、お前。俺が何をしに来たかわかってるか?」


「金は……ねぇ……」


「あなた、どういうことなの? お金って何? もしかして借金があったの?」


「昨日な、お前がやったかどうかは知らんが1組の親子に出会った」


 その時に男の体が僅かにビクッと反応したのをケビンは見逃さなかった。


「そうか……お前がナナリーとナターシャをあんな目に合わせた奴か」


「ナナリーって誰? ナターシャって誰なの? ねぇ、あなた」


 女からの質問に男は何も答えなかったが、ケビンが代わりにその答えを教えるのだった。


「奥さん、戦争があったのは知ってるだろ?」


「え、ええ、知ってるわ」


「皇帝が倒されたあと、この国の悪人どもの一掃が行われた」


「ええ、この街でも何人かの人が忽然と姿を消して、家族がいたところはお金と一緒に犯罪歴の書かれた手紙が代わりに置いてあったそうよ」


「そいつは元帝都のスラム出身だ」


「スラム……?」


「帝都、悪人の一掃、消えた支援金。もう奥さんにもわかるだろ?」


「え……まさか……」


 女は信じられずに否定して欲しいという願いとともに男の顔を見るが、男は下を向いて目を合わせなかった。


「そいつと同じように盗みに入って失敗した奴らは全て処刑された」


「ッ!」


 ケビンからの処刑されたという言葉で、女は息を呑んだ。


「そいつは成功したが本来の持ち主は病に倒れ、子供のために自分の食事を削り、子供は子供で母親の薬代を稼ごうと花を街角で売っていた。まだ年端も行かない子供がだっ」


 ケビンから滲み出る威圧に2人はガタガタと震え出す。


『マスター、抑えてください』


 怒りがふつふつと沸いていたケビンは、サナからの警告で一旦の落ち着きを取り戻すと滲み出ていた威圧もなくなったのだった。


「奥さん、衛兵を呼んでいいぞ」


「ま、待ってください! お金なら払います! ですから主人だけは」


「そいつが盗んだのは金貨30枚相当だ。払えるのか?」


「え……」


 ケビンの伝えた内容に、一般的な家庭からしたら途方もない金額を知らされてしまい、女は言葉に詰まる。


「そいつは3軒分の支援金とその他金品を盗んだんだ。つまり3家庭分を不幸にしたことになる。人数で言えば4人だ」


「そんな……」


「1軒分ならまだ魔が差したと言い訳もできるが、3回も繰り返したら魔が差したどころではない。それでも夫を見逃して欲しいのか? 病に倒れた母親は救わなければ死にそうな感じだったぞ」


「……」


「おい、選ばしてやる。衛兵に突き出されて死ぬか、俺に殺されて死ぬか好きな方を選べ」


 ケビンが男へ告げた最後通告に、やはり見逃して欲しい女が床に頭をつけてケビンへと懇願する。


「お願いします、お願いします。何十年かかってもお金は払います」


「悪いが見逃せない。それに、それだけの金額を稼ごうとしたら、奥さんは体を売ることになるぞ? この街の見知らぬ男性たちから抱かれる覚悟はあるのか? もしかしたら近所の知ってる男性から抱かれることもあるんだぞ?」


「そ、それは……」


「こいつのことは見捨てろ。元より犯罪者だ。俺の国で情状酌量の余地がない犯罪は許さない」


「……俺の……国……?」


「言ってなかったな、前皇帝を殺したのは俺だ。まだ戴冠式を済ませてないから暫定的なものだが、その地位に就いている」


「皇帝……陛……下……」


 女は目の前の人物が皇帝だと名乗ったが、よもや雲の上の存在が目の前にいることが理解できずに呆けてしまうのであった。


「さぁ、選べ。他の奴らも捕まえに行くんだ。お前だけに時間を取るわけにもいかない」


「……衛兵に突き出してくれ」


 男は浅はかにも『もしかしたら』という、自分の命が助かる確率が高い方に賭けたのだった。


「あなたっ!」


「いいんだ。この人の言ったことは本当の話だ。それにお金はもうほとんど使っちまった。人の金を盗んで遊びまくったんだ。これはその報いだ」


「あなた……」


「すまねぇ。騙すつもりはなかったんだ。ただ犯罪者だと知られたら結婚してもらえねぇと思ってな。言えなかったんだ」


「お願いします! 私の体を売りますので主人を見逃してください!」


「それはやめておいた方がいい。最初は良くてもそのうちその男は奥さんの前から姿を消すぞ」


「そんなことはありません!」


「あるんだよ。《ヒプノシス》」


 ケビンは女に現実を突きつけるために、あまり使わない【闇魔法】を使って男を催眠状態にした。


「奥さん、そいつに2人しか知らないような質問をしてみろ。今のそいつは嘘のつけない状態だ。それで俺が操ってないともわかるだろ」


 ケビンの魔法にかかっている呆けた男に向かって、女は困惑しながらも質問を投げかけた。


「あなた、私たちが初めて出会った場所はどこ?」


「……街の外にある花畑で初めて出会った……」


「当たってるのか?」


「はい」


「よし、お前は奥さんが体を売って金を稼いできても、耐え続けて夫婦でいられるか?」


「……誰にでも股を開くような売女なんか願い下げだ……」


「――ッ! そんな……」


「わかったか? これが現実だ。今から魔法を解くから同じ質問をしてみるといい。そいつが誠実な男かどうかわかるぞ」


 そしてケビンが魔法を解くと男は今までのことがなかったかのように、しんみりとした表情へ戻るのだった。


「ねぇ、あなた。見逃してもらえたら私が体を売ってお金を稼ぐから、これまでのように一緒に暮らしていきましょう?」


「もし見逃してもらえるなら、お前にだけ苦労は背負わせられない。俺だって返金の足しになるように必死で働いて、お前と一緒に頑張ってずっと暮らしていきたい」


「……」


「奥さん、どうする?」


「連れていってください」


 男の本心がわかってしまった女は、百年の愛も冷めると言わんばかりに手のひらを返して男をすんなりと見捨てるのであった。


「すまねぇ……愛してる」


「そういうの結構ですので」


「とりあえず、これからは男を見る目を養うといい。これはその応援費用だ」


 ケビンは女に金貨を10枚渡すと女は驚きで目を見開いたが、ケビンは気にせず男を眠らせてその場を立ち去ると一旦帝都へ移動した。


 そして衛兵詰所へと足を運ぶ。


「責任者はいるか?」


 寝ている男を連れたケビンの来訪に衛兵は驚きで言葉を失ってしまうが、ケビンから催促され慌てて隊長を呼びに行くのであった。


「へ、陛下!?」


「久しぶりだな。で、用件はこの男を預かってもらいたいんだ」


 現れた隊長もケビンの姿を見て驚いてしまう。この隊長がケビンと初めて出会ったのは皇帝を殺したあとケビンが城から出てきた時に、貴族からの通報で衛兵たちを引き連れて城へ駆けつけていた時に鉢合わせしたのだ。


 その場で捕まえようとしていたら皇帝の死体を見せられて、実力至上主義であるこの国で育った彼は、新しい皇帝としてケビンを認めたのだった。


「その男は何ですか?」


「戦後の支援金を盗んだスラムの奴だ。盗まれた人と昨日巡り会ってな、ムカついたから見つけて捕まえてきた」


「――ッ!?」


 どれほど捜しても足取りを掴めなかったのに、昨日の今日で事情を知って犯人を見つけ出したケビンの能力に隊長は戦慄を覚えてしまった。


「あと2人捕まえてくる。こいつらは俺が殺しても良かったが、今後のためにも見せしめとして公開処刑してくれ」


「わ、わかりました!」


「じゃ、こいつのことは頼んだ」


 ケビンは詰所を後にすると人気のない森の中へと行き、さっさと犯人を転移させて同じように詰所へと連れて行ったのだった。


 大した時間も空けずに男を2人連れて戻って来たケビンに、隊長は驚きを通り越して逆に冷静になってしまい、淡々と処理を済ませるのであった。


 後日、捕まえられた犯人たちは広場で罪状を読み上げられ、公開処刑となるのである。


 ケビンは支援金を盗まれてしまった人たちに、手紙にお詫びを書いてお金と一緒に転移させて、迷宮入りしていたこの事件を終息させるのであった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 その日の夜、ケビンはクリスとともにクリスのベッドでのんびり過ごしていた。


 お風呂から上がったあとに、クリスが「どのみち夜には一緒になるから今から一緒にのんびりしよう」とケビンを引き連れて自分の部屋に連れ込んだのだ。


 ケビンも自分の部屋ではなくクリスの部屋でのんびりするのは新鮮で、クリスと楽しく会話をして穏やかな時間を過ごしていた。


「ねぇ、ケビン君」


「何?」


「私って凄い年上だったけど良かったの?」


 クリスはベッドに座った状態でケビンを後ろから抱いて、自分の胸を枕代わりに提供した格好でケビンに尋ねていた。


「全く気にならないけど?」


「変わってるね」


「俺の基準は歳じゃなくて好きか嫌いかの2つに1つだから」


「ふふっ、ケビン君に好かれて良かった」


 そう言ったクリスの手は僅かに震えていた。ケビンの胸の辺りで両手を組んでいたが、目の前にあるのでケビンが気づかないわけがない。


「緊張してる?」


「……私……初めてだから……精一杯明るく振舞おうとしてみても、やっぱり少しだけ不安になるの。私の体に欲情してくれるのかな、年上だけど嫌じゃなかったのかなって」


「クリス……」


 元気なく答えていくクリスにケビンは体をひるがえして、その唇を奪った。


「ん……」


 やがて唇が離れるとケビンがクリスに想っていることを伝える。


「俺はクリスが好きだよ。年上とか気にしないって言っただろ? それにクリスの体に欲情しないわけがない」


「ケビン君……」


「クリスを抱きたい」


「うん……私の全てを貴方に捧げます」


 扇情的なクリスのネグリジェをケビンが脱がせると、ネグリジェの下からたわわな膨らみが顕となる。


「ケビン君、明かり……消そう?」


「ダメ、クリスの体を隅々まで見るから」


「うぅ……恥ずかしい……私の体……変じゃない?」


「凄く綺麗だ」


 ケビンは恥ずかしがるクリスの口を塞ぐとそのまま押し倒して、寝たままでも存在感のあるたわわな膨らみに手を伸ばしていく。


 クリスはお風呂で洗ってもらう時に触られたことがあるが、こういう雰囲気の中で触られたことはもちろん初めてなので、ケビンの手をいつも以上に敏感に感じてしまい反応するのだった。


 そのような中、ケビンは優しくキスをしながらクリスの緊張を解していく。


「ん……」


 クリスの緊張がだいぶ解れたところで、ケビンは胸への愛撫を本格的に始めだした。


 やがて主張するかのようにぷくりと固くなった蕾を、ケビンは甘噛みしたり転がしたり指で摘んだりして攻めていく。


「ケビンくん……ケビンくん……」


 ケビンからの執拗な攻めでクリスは絶頂へ導かれてしまい、荒く呼吸を繰り返していた。


「はぁはぁ……」


 クリスが絶頂の余韻に浸る中で、ショーツに手をかけると抵抗もなくスルりと脱がしてしまったケビンは、クリスの脚を開いて立てて攻めるのだった。


 ケビンから休む間もなく再び絶頂へ導かれてしまい、クリスは先程よりも大きく体をビクッと跳ねさせて小刻みに痙攣を続ける。


 ケビンはクリスの反応を見ながら少しずつ進めていき、誰も受け入れたことのない部分を押し広げていく。


「あ……あ……」


 クリスは絶頂からまだ戻って来れないのか、痛みを感じているような雰囲気はなく、とうとうケビンのものは全て飲み込まれてしまった。


 そのままストロークを始めるケビンを感じ取り、クリスが再び声を出す。


 クリスが平気なようだったのでケビンのストロークも激しさを増していき、それに合わせてクリスも激しく反応していく。


「ケビンくん……ケビンくん……」


 例えクリスが絶頂してもケビンは打ちつけるのをやめず、自らも達するために一心不乱にストロークを繰り返した。


「ぁ……ぁ……」


 やがてケビンも迫り来る感覚をそのまま吐き出すかのように、思い切り打ちつけてクリスへの想いを出しきる。


「ぁ……ぁ……ぁ――ッ!」


 クリスはケビンから吐き出される想いで更に絶頂してしまい、ビクビクと激しく痙攣してそのまま意識を手放してしまった。


「はぁはぁはぁ……」


 ケビンはクリスの惨状を見て申し訳なく思ってしまうが、朝方の男の1件以来フラストレーションが溜まったままで、その想いをクリスにぶつけてしまったのだった。


 そして、ケビンはクリスを抱き寄せるとそのまま深い眠りへとつくのであった。

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