第268話 不名誉な称号

 ある日のこと、ケビンは川辺で釣竿を放ったらかしソフィーリアの膝枕を堪能しつつ寝転がっていた。ケビンの体の上には小動物が寝転がったりじゃれあったりしている。


「はぁぁ……」


「あなた、どうしたの?」


「いや、皇帝を倒した時にあいつの欲が自動的に俺のものになるって言ってたから、ステータスを確認しようかと思うんだけど何か見るのが嫌でさ……」


「それなら手に入っているわよ」


「おぅ……まさかのネタバレ……」


「だって私は女神よ? あなたのステータスくらい見れるわ」


「そりゃそうか」


「だから、あなたがどんどんお嫁さんを作ってしまうのも、称号を見てわかっているわよ」


「そこは申し訳ないとしか言いようがない」


「別にいいのよ。あなたの中のランキングで私が1番を取れていれば問題ないわ」


「理解のあるお嫁さんで助かるよ。ちなみにソフィが2番になっているのは好きな人だけだから」


「あら、1番は誰?」


「母さんだよ。愛している人はソフィが1番で母さんが2番」


「お義母さんなら仕方ないわね。あなたを産んでくれたのだから」


「感謝してもしきれない存在だから」


「それで、ステータスの確認はしないの? あるのは教えたんだし悩む必要がなくなったでしょ?」


「そうだね、ネタバレされて悩みを解決されるとは思わなかったけど……ステータス オープン」




ケビン・エレフセリア

男性 16歳 種族:人間

身長:175cm 体重:65kg

職業:Aランク冒険者、商業ギルドゴールド会員

   侯爵家当主(アリシテア王国、ミナーヴァ魔導王国)

   ダンジョンマスター

   マジカル商会オーナー兼魔導具製作者

   名誉教授(ミナーヴァ魔導学院)

   皇帝?(カゴン帝国)、奴隷の主

クラン:Sランク【ウロボロス】リーダー

ダンジョン:K’sダンジョン(本店、2号店)

奴隷:多数

状態:ソフィと小動物に癒され中


Lv.85

HP:2800

MP:2730

筋力:1480

耐久:1320

魔力:1420

精神:1310

敏捷:1100


スキル

【言語理解】【創造】【センス】

【隠蔽】【偽装】【千里眼】

【完全鑑定】【剣術適性】【魔法適性】

【体力増大】【魔力増大】【無限収納】

【無詠唱】【並列詠唱】【並列思考】

【マップ】【集中】【複製】

【胆力 Lv.EX】【模倣 Lv.5】【解体 Lv.EX】

【指導 Lv.8】【格闘術 Lv.2】【剣術 Lv.7】

【刀剣術 Lv.EX】【二刀流 Lv.EX】

【身体強化 Lv.EX】【属性強化 Lv.EX】

【完全探知 Lv.EX】【生命隠蔽 Lv.EX】

【状態異常無効】【魔力操作 Lv.EX】


魔法系統

【火魔法 Lv.EX】【水魔法 Lv.8】

【雷魔法 Lv.EX】【土魔法 Lv.EX】

【風魔法 Lv.EX】【光魔法 Lv.8】

【闇魔法 Lv.2】【生活魔法 Lv.EX】

【時空魔法 Lv.EX】【付与魔法 Lv.EX】

【無属性魔法 Lv.3】


加護

女神の大寵愛

原初神の祝福

商業神の加護

農業神の加護


称号

アキバの魔法使い     女神の伴侶

ゴロゴロの同志(祝)   舐めプの達人

逃走者          DIY好き

天然ジゴロ(凄腕)    年上キラー(極)

抱かれマイスター(極)  嫁製造機

バトルジャンキー     魔物の天敵

ダンジョン制覇者     ダンジョンマスター

ランタン狂い       勤勉

魔導具マイスター     絶対王者

無敗の帝王        パーフェクトプロフェッサー

連覇王          熱き友情を育みし者

戦場の殺戮者       闇に堕ちかけし者

憤怒の王         怠惰

強欲           三大罪所持者

ヒモ           日めくりボウズ

動物と戯れる者      農作業に勤しむ者

もふもふマイスター




 ケビンはステータスを表示させると、久しぶりに見たその中身に歓喜した。


「よっしゃー! 身長が170cm超えてる!」


「ふふっ、嬉しそうね」


「170cmを超えるのが目標だったからな。前世だとギリギリ足りなくて169cmだったんだ。1cmくらいオマケしてくれてもいいと思うんだが、世知辛い世の中だった……」


「まだまだ若いから伸びそうね」


「そうか? 成長期ってボチボチ終わりじゃないか?」


「まだいけるわよ。そしたら180cmも目指せるのじゃない?」


「はぁ……夢のような数値だな……」


 だが、そんなケビンの気分を害するステータスの続きを見て、ゲンナリしてしまう。


「はぁぁ……やっぱりとんでもないことになってる……」


「改めて見ると凄いわね……色々と……」


「これ人間辞めてないか?」


「種族が人間だからまだ大丈夫よ」


 ケビンは止まらぬため息をつきつつ、中身の確認作業に入るのであった。




【集中】

 集中力が増して効率が上昇する


【複製】

 あらゆるものを複製する




「これは学院生時代のものだな」


「勉強と魔導具製作を頑張っていたものね」




【無属性魔法 Lv.3】

 どの系統にも属さない魔法




「これは何だ?」


「あなたがイメージだけでオリジナル魔法を作ったから覚えたのよ。戦争中にどんどん使っていたでしょ?」


「ああ、あの光線のやつか。本当は星降りをしたかったけど地形が変わりそうだったからやめたんだよな」


「落とす場所を完全に隔離すれば関係なく使えるわよ? 空間魔法の結界があるでしょう?」


「そうか、あれを地面にも展開すれば良かったのか。逃げないように囲い込むことしか考えていなかった」


 ソフィーリアの何気ないアドバイスで、ケビンは今更ながら結界を地面にも張ることへの有用性に気づくのであった。




女神の大寵愛

 ソフィーリアから愛され過ぎている者。万能空間へのアクセス権を持つ。成長時にステータス補正(大)がつく。


原初神の祝福

 原初の神様からの祝福。レベル判定のあるもの全てが限界突破可能。他は詳細不明。メッセージ付き。


商業神の加護

 商業に関係することにおいて失敗することが少なくなる。


農業神の加護

 作物を育てると通常よりも美味しく成長させることができる。




「ソフィからの愛で溢れてるな」


「私の愛は今のところあなただけのものだから」


「今のところ?」


「子供ができたらその子にも分け与えるわ」


「そうだな。ソフィの子供だからきっと可愛いだろうな……」


「あなたに似てヤンチャな子かもしれないわ」


 ケビンとソフィーリアはまだ見ぬ子供のことを想像して、自然と笑みをこぼすのである。


「原初神様のは加護から祝福になってるな」


「メッセージがあるわね」


「何だろ……?」




 ――ケビンへ


 結婚おめでとう。ソフィーリアのことを大事にするのじゃぞ。


 儂からの結婚祝いで称号をパワーアップさせておいた。あとはお主のレベル上限も解放しておいたぞ。これで鍛えた分だけ強くなれるからな。また闇に手を出してソフィーリアを悲しませるでないぞ。


 では、またな。




「結婚祝いだってさ」


「良かったわね」


「今度教会に行ったらお礼を伝えよう」


「他の神からも加護が貰えてるわね」


「商売をしていたのと、ここで農作業していたからかな」


 そして、ケビンにとってはここからが本番となる。称号に変なものが付いてないか確認するだけでも気が滅入る作業となるのであった。




ゴロゴロの同志(祝)

 原初の神が理解者がいた事による嬉しさで押し付けた称号。ゴロゴロするだけで回復量が増す。(祝)ゴロゴロせずとも通常の回復量が増加。ゴロゴロすれば更に増加する。


ダンジョン制覇者

 ダンジョンを制覇した者の証。


ダンジョンマスター

 ダンジョンを制覇したあとコアへ登録してダンジョンの管理者になった者。


ランタン狂い

 周りから狂人扱いされようとも気にせず、寝ても覚めてもランタンを作り続け、もはやランタンにおいては並ぶ者なしとまで言わしめるほど高い技術力を誇る者。


勤勉

 仕事や勉学に励むとその効率や身につく速度が上昇する


魔導具マイスター

 魔導具製作においてその粋を極めんと作り続け、その技術力が昇華され製作において他の追随を許さぬほどの職人へ達した者。魔導具製作において完成度が高くなる。


絶対王者

 親善試合において圧倒的な力で勝利してついた二つ名。


無敗の帝王

 親善試合において1度も負けることなく勝ち続けてついた二つ名。


連覇王

 親善試合と魔導具祭において連覇を成し続けてついた二つ名。


パーフェクトプロフェッサー

 ミナーヴァ魔導学院の全科目を修得し、教授よりも頼りになると生徒たちの間で話題となってついた二つ名。


熱き友情を育みし者

 国の垣根を越え、年齢の垣根を越えて熱き友情を育んだ者。「俺たちに言葉はいらない……全てはこの想いで伝わるのさ……」


戦場の殺戮者

 戦争において無慈悲に殺戮を繰り返した者。対人戦においてステータスに補正がかかる。


闇に堕ちかけし者

 心の闇に手を出して呑み込まれそうになった者。自分の意思で闇に手を出すことが可能だが制御は難しい。


憤怒の王

 怒りが天元突破してしまい王として覚醒した者。怒りの密度によってステータスの上昇値が変動する。


怠惰

 ダラダラしているとき限定でステータスに補正がかかり回復量が増す。


強欲

 飽くなき欲求を貪欲に求め続けた皇帝から押しつけられた称号。求めれば求めるほどステータスに補正がかかる。


三大罪所持者

 3種類の大罪を所持する者。相乗効果でそれぞれの効果上昇値が上がる。


ヒモ

 女性を働かせ自身は遊んでいる堕落しきった生活を送った不名誉な証。


日めくりボウズ

 日が変わるごとに釣りに行ったはずなのに全く釣れなかった残念な者の証。決して魚がいなかったわけではない。


動物と戯れし者

 数多の小動物と穏やかな時間を共に過ごし戯れ、無自覚に癒しの空間を作り出した者。傍から見る者や周りにいる者を癒す効果がある。


農作業に勤しむ者

 『ヒモのままではダメだ』と美味しい野菜作りを目指して、日々土にまみれながら研究に勤しんだ者。その手で作り上げた土壌は作物の旨味を上げて成長速度を早める。


もふもふマイスター

 いつしか小動物の毛並みに惹かれて触り始めると、フワフワした肌触りの虜になってしまいモフりだして癒された者。その指先のテクニックは既に昇華され、モフられる対象にも安らぎを与えるウィン・ウィンの関係となる。




「やっぱり欲しくないものが多いな」


「付いてしまったものは仕方ないわ」


「俺が【強欲】を持ってても大丈夫なのか? 皇帝みたいになるんじゃ……」


「皇帝が持っていた称号は【強欲の魔王】よ」


「俺のは【憤怒の王】だな」


「あなたは闇堕ちする前に間に合ったから王のままなの。あと自分で魔王とも名乗っていないから」


「闇堕ちしていたら皇帝みたいになっていたのか?」


「あの皇帝は自我を充分に保っていたし闇堕ちではなくて覚醒した状態よ。自称【魔王】でも力が強く、あなたや周りにいた者たちがそれを認知してしまったから、称号も【強欲の魔王】になったの。その前までは皇帝と名乗っていたから、恐らく称号も【強欲の皇帝】だったはずよ。ちなみにあなたが闇堕ちしてしまうと【憤怒の死神】になってて、その名の通りあなたの闇が望むのは全てのものの死よ」


「え……」


 ソフィーリアからの思いもしない言葉の内容に、ケビンはキョトンとしてしまうのであった。


「あなたの闇の中にある感情は怒りから始まり、怨みの末に憎悪を抱いてその先にあるのが全てのものの死なの。それがあなたの前世での封印された絶望よ。そして憤怒はあなたの心の闇と相性が良すぎるのよ。子供の純粋な感情がそのまま全て負へと転換されてしまったから、膨大で濃密な怒りの感情を糧に爆発的な力を得てしまって、心の闇に呑み込まれたら神以外の誰にも止められないわ」


 ケビンは闇堕ちすれば神以外に対抗できないと知り、そこまでの力が隠されていたのかと思うと、言葉を上手く出せずに沈黙してしまう。


「だから心の闇には手を出して欲しくないの。全てを殺したあとに世界で残されるのはあなた1人よ。そうなると次に起こるのは別世界に行って、そこでも同じように全てに死を与えるわ。そんなことを繰り返せば必ず神が動いてあなたを殺すわ」


 自身の闇が求める全てのものの死に対して、ケビンは神が殺しに動くほどのスケールの大きさに現実感が沸かなかった。


「そこまでのものか……?」


「あの時のことを思い出せばわかるでしょ? 私が神力で抑え込もうとしてもあなたが拒絶しただけで上手くいかなかったのだから。あの時点であなたの力は私よりも一時的に勝っていたのよ」


「それはないだろ? ソフィは神で俺は人間だぞ?」


「私の力の方が上だったらあなたの気持ちを無視して力を抑え込むことができていたけど、あなたに拒絶されただけできなかったのよ? その時点で闇堕ちしていなかったのにそれだけの力が一時的に出た証明でもあるわ。それに私は武神ではないから戦いの神たちに比べたら力も弱いわ」


「なんか信じられないな……やっぱり人間をやめてるような……」


「今回は私が悪かったの。あなたのことを気遣い過ぎて教えなかったから、中身がわからないあなたは手を出してしまった。そこに求める力があると感じ取って。結果的に堕ちる前に間に合ったから良かったけど、そのままだったら感情のないただ死を撒き散らすだけの者になっていたわ」


「そうか……ソフィには感謝してもしきれないくらいの恩ができたな」


 ソフィーリアの説明によりどれほど危険なものでそれを必死に止めようとしていたのかがわかると、ケビンは自身の中にある心の闇に対して2度とその力に頼るようなことが起きないように己を高めようと決意するのであった。


「これ、3大罪ってことは残りは4種類あるよな?」


「そうね、でもあなたには取れないわよ」


「ん? 別に欲しくはないが何でだ?」


 ケビンは特に欲しくもないが自分には取れないと聞かされ疑問に思うのだったが、ソフィーリアの説明により納得してしまう。


「あなたって嫉妬をあまりしないでしょ? 暴飲暴食もしないでしょ? 色欲はエッチだけど一般的な範囲内だし、貴族なのに傲慢さはほとんどないわ」


「なるほど……」


「皇帝を殺さなければ強欲すら持っていなかったのよ。あなたは前世のせいで怒りの質が強いだけで、日々をダラダラと過ごしたいと願っているだけだから、持っていたとしても憤怒と怠惰だけだったのよ」


「それだけでもありえないよな?」


「まぁ、普通はね。憤怒は仕方ないにしろ、怠惰を取っちゃうとは思わなかったわ。下界では冒険者や商人の仕事はしてたし勉強だって頑張っていたもの。しかも相反する勤勉まで持ってるじゃない? 不思議よねぇ……」


「うーん……たまにダラダラした生活が良くなかったのか? ここに来た当初もダラダラしてたしな」


「願望と行動の積み重ねかもね。でも王とかにならなければ大丈夫よ。それ自体は結構持っている人はいるんだから」


「やっぱり王は不味いのか?」


「王でも闇堕ちしなければ大丈夫よ。でも怠惰の王になっちゃったらひたすらダラダラと生き続けるわね。無害といえば無害だけど養う人が大変ね」


「それは嫌だな。ヒモを極めてしまいそうだ」


「もし闇堕ちなんかしたら周りが大変よ。あそこを滅ぼしてこいとか言って、自分では動かないんだから。ひたすら自分はダラダラして全て周りの人にさせるから」


 さすがにそれは嫌だとケビンは思い、怠惰の王には絶対ならないように決意するのである。


 こうしてケビンは、その後もソフィーリアとのんびり会話を楽しみながら、ゆるりとした時間を過ごすのであった。

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