第190話 更に続くすれ違い

 更に数日が経過した頃、ケビンたちを追いかける鮮血の傭兵団は、目的の55階層に到達していた。


 ケビンたちが先行する状態でちんたら攻略していては追いつけないと、鮮血の傭兵団の総戦力で攻略を始めた結果だった。


「ようやく55階層か……」


「ここにはおらんだろうな」


「そやつらがここを攻略したのは1週間以上前だろう?」


「俺っちたちが本気を出せばすぐに追いつくっしょ!」


「行くぞ」


 団長の一声で攻略を再開して、鮮血の傭兵団は更なる階下へと足を踏み入れていくのだった……



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 一方で追われているとは露知らずのケビンたちは、ルルの二刀流への試みのために武器を増やそうと、一旦ドワンの所に赴いて武器の作成を依頼していた。


 その時に、素材の話となりダンジョン産のものが溜まりに溜まっていたので、ドワンにも見てもらい必要なものがあれば提供すると言うが、頑なにお金を支払おうとするドワンに、ケビンは1つの提案をする。


「それじゃあ、ルルの新装備の支払いと俺たちの装備品のメンテナンスで、相殺する形ではどうですか?」


「そうしても、こっちが得する部分がかなり大きいぞ? ダンジョンの深層の素材なんて出回らねぇからな」


「どこかのダンジョンは、65階層までは攻略済みでしたよね? 今なら80階層辺りくらい行っているんじゃないですか?」


「それでも80階層台だろ? ケビンが持ち込んだのは90階層台までの素材だ。価値が全然違うんだよ」


「んー……では俺以外の装備品を、提供する素材を使って新調してみるってのはどうですか? 俺はこの刀が気に入っているのでこのままがいいですから」


「しかしなぁ……」


「これも新しいことへのチャレンジですよ。ドワンさんが扱ったことのない深層の素材で、全く新しい装備品を作り出す。飽くなき探究心こそが人を成長させるのでしょう?」


「……そうだな……そこまで言われちゃあ、断るわけにもいかねえ。この素材を使って立派な装備品を作ってみせるぞ」


「よろしくお願いします」


「出来上がりはしばらく待っててくれ。満足のいく結果で、完成品を作り出したいからな」


「では、とりあえずメンテナンスからお願いします」


「おう! そっちは明日までには仕上げておこう。明日、また取りに来てくれ」


「わかりました。では残りの素材はギルドへ買い取らせますので、失礼しますね」


「またな」


 ケビンたちはドワンの店を後にすると、路地裏から王都へと転移した。素材の価値が貴重だと言われて、ダンジョン都市よりもお世話になった王都のギルドへ買取を依頼しようと思った結果だ。


 ケビンたちはギルドへ顔を出すと、受付までやってきて事務処理を行っているサーシャに声をかけた。


「こんにちは、サーシャさん。元気にしてた?」


「ケビン君!」


 サーシャは満面の笑みを浮かべると受付から外へ出てきて、ケビンに抱きついた。


「会いたかった……」


「あまり来れなくてごめんね? ダンジョン攻略が楽しくてかかりっきりだったんだよ」


「聞いてるわ。最新到達階層を更新したみたいね」


「それでね、行きつけの鍛冶屋さんに素材を見せたら貴重だって聞いたから、お世話になっているここで卸そうかなって持ってきたんだよ」


「そうなの? それはありがたいわ。いつもは、ダンジョン都市のギルドが独占販売しているから、こっちまではあまり回ってこないのよ」


 ケビンたちはサーシャとともに解体場まで訪れると、顔見知りの職員に声をかけた。


「ライアットさーん!」


「おお! ケビンじゃねえか。どうしたんだ? 久しぶりだな」


「お久しぶりです。今日は買取の依頼に来ました」


「ってぇことは、山ほど素材が出てくるわけか……」


「ライアットさん、聞いて驚くわよ! ケビン君が持ってきたのはダンジョンの素材なの!」


「ダ、ダンジョンだと!? ここで買い取ってもいいのか? ダンジョン都市にもギルドがあるだろ?」


「俺のものだからどこで売っても問題ないですよ。それと解体して剥ぎ取ってあるので、ライアットさんには品質を仕分けて欲しいんです」


「へぇー解体できるようになったのか。そいつは見ものだな」


「上手く解体できていればいいんですけど……ダメなものは、ダンジョン都市のギルドに買い取らせますので、遠慮なく言ってくださいね」


 そう言ってケビンは収納からどんどん素材を出しては、種類別に積み上げていく。


 以前のように魔物ごと持ち込んではいないので、その時ほど場所は取ってないがそれでも種類と数が多くて、解体場は結局ケビンの持ち込んだもので埋め尽くされていく。


「おいおい……こりゃあ凄いな」


「肉関係はどうしますか? 出したら鮮度が落ちていくのですが」


「そいつは1種類ずつ出しておいてくれ。1個の買取価格を総数で掛けて金額を出すから。品質に関しては買い取る分が決まれば、こっちで管理するから問題ない」


「了解です」


 最後に肉関係の物を並べていき、ケビンは一通りの作業を終えた。買取手続きはモノがモノなので1週間は最低でも掛かるようであり、順次素材の価値を決めていくそうだ。ケビンは1週間後にまた来ることにして受付へと戻ってきていた。


「ケビン君、ギルドカードを提出して。今も階層を更新し続けているのでしょ?」


「そうだね」


 ケビンは言われるがままに、サーシャにギルドカードを手渡して手続きをしてもらう。


「……」


「どうしたの?」


「ケビン君? ここに95階層って記されているんだけど?」


「ん? そうだよ。そこまでは攻略が済んでるし」


「……最新到達階層は、55階層じゃなかった?」


「それは、1週間以上前くらいの話だね」


「それからギルドには行ってないの?」


「ギルドのことは忘れてたからね。行ってないよ」


「……はぁぁ……相変わらずなのね。ギルドマスターに確認するわ」


 サーシャは呆れた視線をケビンに向けると、ギルドマスターへ確認を取るために一旦受付を後にするが、ケビンはサーシャがいなくなったことで暇になったので、クエストでも見て回ることにした。


「ケビン君、クエストでも受けるの?」


 クエストを物色していると、ティナが話しかけてきた。


「そうだねぇ……ドワンさんの作品が仕上がるまでは、攻略を一旦中止してクエストに切り替えるのもありかもね」


「それなら、しばらく実家でゆっくりする?」


「折角最上階の部屋があるんだし、やっぱり夜はあそこで過ごさないと」


「となると、転移?」


「それが1番妥当だろうね。ダンジョンは、多分100階層で終わりだと思うから、新装備の慣らしに96階層目からは取っておこうか?」


「それがいいわね。今の装備ならクエストくらい楽勝でこなせるだろうし」


 ケビンたちが話し込んでいると、サーシャがギルドマスターの元から戻ってきてケビンに声をかける。


「ケビン君、続きをするわよ」


 サーシャに呼ばれて受付まで戻ると、ケビンは続きの説明を受けることにした。


「今回の功績で、ケビン君のクランはAランクに昇格したわ」


「そんなにポンポン昇格させていいの?」


「ケビン君……自分のしでかしたことを、きちんと認識していないでしょ?」


「そんなに凄いこと?」


「凄いわね。今までで他のダンジョンも含めて、最新到達階層は70階層だったのよ?」


「あれ? 全然進んでないじゃん。80階層辺りくらいは行っていると思ってたのに。攻略サボってんの?」


「他のクランはケビン君みたいにサクサク進まないの。ある程度進んだら休息を設けて、次の攻略のための準備をするんだから。装備のメンテナンスだって必要でしょ?」


「そりゃあ必要だけど、そんなに敵の攻撃を受けてるわけ? 酷すぎない?」


「普通はそうなのよ」


「でも、ティナさんたちは70階層までは3人で攻略してたよ? メンテナンスだって今日初めて出したくらいだし、そいつら弱すぎなんじゃない? 大丈夫なの?」


 そんなケビンの言葉に、サーシャは唖然とする。


「へ? ……3人?」


「そうだよ。ねえ、ティナさん?」


「そうね、所々ケビン君からアドバイスや手伝って貰いながら、ほとんど3人で攻略したわね」


「スパルタ」


「それもケビン様の愛です」


「ケビン君、ひょっとして……ここにいる人たちだけがクランメンバーなの?」


「そうだよ、4人だけ。ギルドカードに載っているんじゃないの?」


「ギルドカードに載るのは、クラン名とランクだけよ。詳細は魔導具を通さないと見れないわ」


「あぁ……討伐履歴みたいなもの?」


「そうよ。それで、何で4人だけで攻略してるの? 他のメンバーは集めないの?」


「特に必要ないし、いたところで足手纏いになりそうだし。信用にたる人物が、ダンジョン都市にはいなかったってのが事実だね」


「今後もずっと4人だけのパーティーでやるの?」


「先のことはわからないよ」


「そう。まぁ、ケビン君なら心配ないでしょうけど、その内ちゃんと増やすのよ? 優秀な人材はいて困ることがないんだから」


「そのうちね」


 ケビンは手続きを済ませると、その日はもう夢見亭へと帰っていった。部屋についたら、ケイナたちにクランがAランクに昇格したことを伝えて、プチパーティーを開催するとその日の晩は楽しく過ごすのであった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 その頃、ダンジョン内では今も無駄にケビンを捜し回っている、鮮血の傭兵団が攻略を進めていた。


「全っ然、見当たらねぇ……」


「そろそろ60階層か……」


「この様子だと、ダンジョンにいないのではないか? 4人パーティーなのだろう?」


「俺っちもそれ考えてた。ここは一旦補給のために、外へ出るべきじゃない? 情報収集も兼ねて」


「とりあえず60階層までは進むぞ。そこで帰ればいいだろう」


 鮮血の傭兵団は、ケビンたちの進行速度を知らず一般的な進行速度と当てはめてしまい、深層へ辿り着いているとは知らずに、ダンジョン内にはいないだろうという選択をしてしまうのであった。


 奇しくもそれは的を得ており、実際ケビンたちは新装備が出来るまでは、ダンジョン攻略を一旦中止する判断を下している。


 そんなことを知らない鮮血の傭兵団は、当たらずとも遠からずな判断で攻略を進めながら、60階層を目指すのであった。

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