第188話 ダンジョン攻略④

 ケビンたちと鮮血の傭兵団のすれ違いが続く中、ケビンたちは60階層まで足を運んでいた。


「ここも終わりって感じがしないね」


「一体どこまで続くのかしら?」


「100?」


「確かに、キリのいい数字ではありますね」


「とりあえず中に入ってみる?」


「そうね」


 ケビンたちが中へ入るとボス部屋で待ち構えていたのは、2体の全く同一に見えるゴーレムであった。


「ゴーレムだね」


「見た目は普通のゴーレムね」


「何かある……」


「特殊な攻撃でもしてくるのでしょうか?」


 それぞれの感想をこぼしていく最中、ケビンたちとゴーレムの戦闘は始まった。


 ケビンはパーティーにバフを掛けて後方待機すると、ティナたちはいつも通りの定石で戦闘を繰り広げるが、ケビンがおかしなことに気づく。


 ルルの攻撃を受けているゴーレムにニーナが魔法を当てようとすると、その斜線上にもう1体のゴーレムが割り込み、代わりに攻撃を受けているのだった。


 逆にそのゴーレムへの物理攻撃を繰り出そうとすると、今度はルルの相手をしていたゴーレムが代わりにその攻撃を受けるのだ。


 ゴーレムの割に素早さが高いのか巧みに入れ代わりをやってのけて、未だにダメージというダメージを与えられずにいた。


 しかも、見た目が同じなゴーレムたちが素早く入れ代わりを行っているので、近くで戦闘しているティナたちではどっちがどっちだか判断がつきにくくなっている。


 後方から観察するということでそのおかしな点に気づいたケビンは、ティナたちでは荷が重いことを感じて戦闘に介入することを決めると、指揮をとっていたティナに声をかけた。


「ティナさん、そのゴーレムの特殊能力は物理耐性と魔法耐性の特化型だよ。物理攻撃は物理耐性の高いゴーレムが担当して、魔法攻撃は魔法耐性の高いゴーレムが担当している」


「そんなの反則じゃない!」


「しかも見た目が同じだから入れ代わりを続けられると、ターゲットを見失う可能性もあるね」


「もう既になってるわよ! どっちがどっちだかわからないもの!」


 このまま闇雲に攻撃をしてもティナたちが疲弊する一方で、そのうち体力が尽きることになるだろう。


 そう思ったケビンはニーナの魔法に合わせて剣閃を飛ばすことにして、ニーナの魔法をその身に受けている魔法耐性ゴーレムに向かい、黒焰と白寂を抜き放つ。


「《紫電一閃・デュアル》」


 二対の放たれた剣閃は、瞬く間に魔法耐性ゴーレムへと迫りその胸部へと飛来する。


 その恐るべき速さから物理耐性ゴーレムは入れ代わりが間に合わず、むざむざと魔法耐性ゴーレムへと攻撃を許してしまう。


 魔法耐性ゴーレムの胸部へと飛来した剣閃が、その身を削り大きなバツ印を作って魔法耐性ゴーレムを怯ませる。


「ティナさん、そいつが魔法耐性特化型のゴーレムだよ。印を付けておいたから見失わないでしょ?」


「わかりやすくなったのはいいけど、倒せないのは変わらないわよ」


「ニーナさんはアロー系で攻撃して。ティナさんはその中に物理の矢を加えて攻撃して。同時に攻撃すれば入れ代わりが起きても、物理か魔法かのどちらかはダメージが入るから。ルルはこっちに来て」


 ケビンはティナたちに指示を出すと、ティナとニーナは2人で同時攻撃をするために、タイミングを合わせ始めた。一方でケビンに呼ばれたルルは、すぐさま近くまで駆けつけるとケビンからの指示待ちをする。


「ルル、魔力操作は出来るね?」


「はい」


「武器に纏わせることは?」


「出来ます」


「属性付与は?」


「まだ出来ません」


「じゃあ、俺が代わりに纏わせるから」


 ケビンは剣を持つルルの手を握ると一瞬ビクッと反応するが、ルルはケビンにその身を委ねた。


 その後、ケビンがルルの体内から魔力を引き出すと、その剣に纏わせて安定させる。


 ルルはケビンによって、体内から魔力を引き出されていく感覚に身を悶えさせるが、ケビンは更に属性を付与させて即席の魔法剣に仕立て上げる。


 魔法剣の状態が安定したところで、ケビンはルルに声をかけた。


「風属性を付与したから斬れ味は向上している。どちらのゴーレムにも効くはずだから、ルルは気にせず斬っていくだけでいいからね?」


「……はい……ケビン様……」


 先程の行為で上気してしまったルルの頬には赤みが差しており、ケビンを見つめる瞳もどこか恍惚としていた。


「あとは、纏っている状態をいつもの感覚で維持してて。解除したらなくなっちゃうからね?」


「ケビン様にして頂いた纏いを、ケビン様の許可なく解除するなんて出来ません!」


「じゃあ、見ていてあげるから頑張っておいで」


「はい!」


 ルルは颯爽と戦場へ駆け出して行って、ゴーレムに対して流れるように斬りつけ、対するゴーレムの攻撃はひらりと躱し、軽くステップを踏みながら敵を翻弄して歓喜の表情を浮かべながらその身を踊らせる姿は、まさに舞闘姫と言ったところであった。


 ゴーレムもただやられているわけではなく、入れ代わりが意味をなさなくなってからは、その身を使いショルダータックルや殴りつけなど、様々な攻撃を繰り出してはティナとニーナの連携を打ち崩していく。


 ルルと相対しているゴーレムも当たらずとも攻撃を繰り返し、一方的にやられてしまうのを防いでは、殴りつけなどで牽制していた。


 ゴーレムたちの殴りつけによって、地面は彼方此方がボコボコとなっており、足を使って戦うルルにしてみれば最悪の環境となってしまうが、ケビンから見られていることを意識すると、まだ使える足場を探しては攻撃に絡めて反撃を行っていた。


 一方でティナたちも距離を詰められては引き離して、動きながらでも攻撃と詠唱を繰り返すと、その練度が少しずつだが向上していく。


 ケビンはその様子を観察しながら、一時期はティナたちには荷が重すぎると判断していたが、ちょっとしたサポートだけで形勢を逆転させる3人の実力に感嘆としていた。


 そんな中、ルルと相対していたゴーレムが倒れて光の粒子へと変わっていくと、ラストスパートとばかりにティナが声を上げた。


「ニーナは攻撃を中止! ルルは私と一緒にこいつを倒すわよ!」


 残るゴーレムは魔法耐性特化型のゴーレムだったので、ニーナに攻撃を中止させ無駄な魔力消費を抑えさせて、物理攻撃が出来るティナとルルで相手をすることにしたようである。


 そこからは一方的な戦いとなりゴーレムの攻撃はルルには一切当たらず、ルルの攻撃の合間にティナが矢を放つことで、先程以上のスピードでダメージを積み重ねていくことになったゴーレムは、やがてその身を倒すこととなり光の粒子となって消えていった。


「おつかれ。上手いこと倒せて良かったね」


「ケビン君のサポートがなかったら無理だったわ」


「ありがとう」


「ケビン様は素晴らしいです!」


「ルル、纏いはもう解いていいよ」


 ルルは有言実行と言わんばかりに、ケビンに施してもらった擬似魔法剣を解除せずにいたのだった。


 そんな様子のルルにケビンは苦笑いであるが、解除することを伝えると名残惜しそうに眺めながら解除するその姿に、ケビンは笑みがこぼれるのであった。


 こうして、無事に60階層を攻略し終えたケビンたちは、更なる階下へと向かい攻略を進めていく。


 徐々に強くなり始める魔物たちにケビンも所々で手を出すようになり、本格的に参戦するのも間近となりつつあるダンジョン攻略に、ケビンは胸を踊らせていた。


 ティナたちもそんなケビンの様子を見て、ようやく一緒に戦えるレベルの敵が出てくることに、不安半分期待半分で待ち望んでいるのであった。

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