第15話 初めての共闘 後編



「あんたエルフか。いや大変だったな。怪我はないか?」


 大剣を収めてこっちに来た彼が、チラリと私の尖った耳を見て言った。


 ーーあ、そうでした。


 先ほどの戦闘で、フードなんかもうすっかり取れちゃってましたよ。でもバレた相手が狼人族さんなのでまあいいとする。


「ええ、大丈夫です。もうダメかもと思いましたが……助けていただき、本当にありがとうございました」


「いやこっちもちょうど行く道筋だったからな。間に合ってよかったよ。これから向こうの村に知り合いを訪ねて行く途中だったんだ」


 それってさっきまでいた村の事?


「……もしかして狼人族の冒険者さんがいる村ですか?」

 

「そうだけど、あんた知ってんのか?」


 あの時見た獣人さんのことだよね多分、ジーンさんが村専属の冒険者だと言ってた人。


「先程立ち寄ったばかりですが、出張所で少し聞いたんです」


「ああ、ジーンさんからか。そうだよそいつに会いに行く途中でな。それよりこれどうする? 山分けでいいか」


 二人とも周囲を警戒しつつも、魔石を取る手を止めずに話していたのだが、彼はこちらに有利すぎるそんな提案をしてきてくれた。いい人。


「いやいやそれは悪いです。危ないところを助けて頂いた上に、ほとんど貴方に倒してもらったのに」


「でもあんたも魔法で援護してくれただろ。あれ助かったよ。それに俺が加勢する前、あんた一人で倒してたのも随分あるだろ? だからあんたにも権利が……って名前がないと呼びにくいな、俺は狼人族のラグナードだ。あんたの名も聞いてもいいか?」


 この人名前も格好いいんだ……とっても似合ってる。


 それに比べて私のって、ベタで派手な偽名だよね。名乗るの恥ずかしいなぁ、もう。


 だ、だって、私は薔薇ですって自己紹介するようなもんじゃない!?


 ……安易に決め過ぎたかなぁ。人に名乗る時の事まで考えてなかったや。自意識過剰なのは分かっているけど、やっぱり恥ずかしいです!


 でも他に名乗る名もないしね……はあぁ、仕方ない。




「エルフのローザです」


「ローザさんか。ともかくローザさんにも権利があるから魔石を集めて早くここを離れよう。さっきの奴らが戻ってこないとも限らないしな」


「確かにそうですね。急ぎましょう。あ、名前、呼び捨てでいいです」


「分かった。俺も呼び捨てでいいし敬語もいらない。……そういえば村から来る時、ここ以外で魔物に遭遇したか?」


「いえ、一度もなかったけどラグナードは?」


「そうだな、俺も町からここまではなにも遭遇しなかった。元々ここらは伐採が追い付いてない場所で、たまに街道まで魔物が出ることもあるんだよ。今回はローザがいたから楽に倒せたけどな」


「私もちょうどよくラグナードが通りかかってくれなかったら危なかった。ありがとう」


「いいってことさ。冒険者同士、助け合わないとな」




 それから魔石を均等割りし、その後、死骸を一か所に集めた。ラグナードが土魔法で掘ってくれた穴に奴らを捨ててから焼却し、手早く後始末を終える。


 二人ですると、時間もかからずあっという間だったよ。よかった。


「じゃあ俺は予定通り村に行くよ。こっから町までだと森もどんどん拓けていくし、あれだけ魔法が使えるなら一人でも大丈夫だと思うぞ。ボトルゴードの町を拠点にするなら会うこともあるだろ。またな」


「うん、色々ありがと。またね」


 お互い進む方向が逆なので、ここであっさりと別れることになった。




 なんか私、今日はこの世界の人達に助けられてばかりだ。


 欲しい情報をこうやって教えてくれるのって、とっても助かる。本当ありがたいよね。



 町まであと半分ちょっと、気をつけていこう。




 ◇ ◇ ◇




 ――いやぁ、それにしてもさっきは助かった……。


 ゴブリンの集団にじわじわと包囲網を狭められちゃった時はもうダメかと思ったから。


 ナイスなタイミングで助けに来てくれてなければ、下手したら念願の町に入る前に死んじゃってたよこれ。危うく天国に召されるところだった。


 ラグナードには感謝しかない。


 また会えるといいな……特にあの素敵なケモ耳と尻尾に!! あのふわふわでふさふさの魅惑のケモ耳……出来ることならモフりたかった!


 ……だって本人には言えなかったけど、すごく感情に素直にピコピコ揺れてるんだもん!


 お礼を言ったら本人はクールに返事してるのに、尻尾はブンブン振れてるし。


 カッコよく決めてたし、本人もこれ言われたくないだろうけど……でも敢えて言おう、めちゃくちゃ可愛かったとっ。


 とってもとってもモフってみたかったけど、親しい人以外が触るのはマナー違反だからちゃんと我慢したよ!




 ちなみに異世界事情としてアレ的なことで言えば、他人種にとって獣人族や竜人族ほど安全な種族はいない。


 種族特性として発情しない人達だから。そんな彼らだから、番を見つけるのが大変だっていう悩みはあるみたいだけどね。長寿種族故に繁殖力も低いし。


 それにこの世界では、異種族婚については獣人族に限らず、他の長寿種族にも言えることだけど、する人はほとんどいないらしい。


 全くいないわけではないけれども種族ごとに寿命が大きく違うのと、生まれてくる子の寿命が短くなるのが大きな理由かな。大抵、親より弱く早く死ぬから。


 この世界の人族の平均寿命は六十才、獣人族だと人の四倍、エルフやドワーフだと人の五倍は生きる。


 過去には人族が、長寿を羨んで寿命を伸ばしたいが為だけに、様々な長寿種族を大々的に狩りまくって生体実験をしたこともあったようだけど、結果は全て失敗に終わった。


 ハーフすら生まれず、すべて人族が生まれてきたのだ。それも寿命が通常の人族の更に半分の長さになるという、理想とは程遠い最悪の結果で。


 このことは他人族との共存共栄を謳う人族の一派によって広く公表され、神を冒涜する行為として強く批判を受けたため、大規模な異種族狩りは表面的には中止された。


 しかし今も密かに王侯貴族や大商人の間で実験され、研究が続けられているという。むしろ地下に潜った事で、実験には狂気性が増し、寿命を伸ばす他にもその高い能力だけでも受け継げないものかと、色々口に出せないような非道をしているらしい。人の欲望には果てがないというか……人族怖い。




 長寿の種族から人族が恨まれているのは、こうした歴史があるからなんだよね。


 その時期に大幅に減ってしまった人口は、随分経った今でもまだ、そこから増やせないでいるらしい……人族と違って繁殖期が短いから。


 対して人族は、寿命が短い代わりに年中発情できるので、人災や天災さえなければ爆発的に増えるらしいけど。


 直接の加害者である人族達が死んで何世代か経ったあとも、当事者の長寿種族は長く生きる故に、そのことを覚えている大人たちがまだまだ健在で、子供たちに直接体験談を教え続けている。


 小さい内から、死ぬより辛い目にあいたくなければ人族の権力者には近づかないこれ絶対っと教えられて育つらしい。


 さっきの村の人族みたいに普通の庶民はほぼ問題なく友好的なんだけど、害意を持つ人が誰かとかいちいち判断つかないからさ。これから人族の街で暮らす予定なんだし、ほんと気をつけないとね。


 今の私がエルフだっていうこともついつい忘れそうになっちゃうけど、常に意識しとかないと。




 ――さて、ここまで来ればもう安全かな?


 念のため、だいぶ本気でゴブリン達との戦闘の場から『俊足』スキルを活かして離れたし……。



 その後の町までの道のりは、聞いていた通りで順調で、魔物に遭遇したのは結局あの一回だけだったよ。


 予定外の討伐があったにもかかわらず、予定通り昼前には隣町に着くことができた。





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