第二の魔王と氷雪の魔女

83話

 セレヌの街から抜けカツオフィレ最初の街マナラに向かっている俺達の乗る馬車。

 いかにも直ぐに向かう様な顔つきのユカリ達だが、セレヌの街には五日間滞在していた。

 その理由は、まずコベソが武具開発で出てこなかった事。顔合わせ程度はしていたが、基本無口か小さく独り言をブツブツと呟いて周りから気持ち悪がられていた。

 そして、リフィーナが「魔王に対峙するなら」と意気揚々として俺とペルセポネ相手に特訓をしてきたこと。ユカリやフェルトもしくはミミンなら分かるが一番嫌がっていたリフィーナが、一声を上げるのに皆驚いていたのだ。

 そんな状況で、セレヌのギルドマスターと顔を合わせた際「お前らを次の日でも直ぐに向かう様な素振りをしていたのに何時出立するんだ?」など半分呆れた顔で口にしていたのを覚えている。

 コベソが、明るい笑顔で朝の挨拶をしてきた滞在五日目に俺達は、今に至る。

 ユカリ達が、コベソから貰った新しい武具を身につけている。


「うむ、いつ見ても我ながら良き出来栄えだ」

「ちょっと、なにジロジロ見てるの気持ち悪いっ」

「何言ってる。 自分がその格好にしているのが悪い、俺はその胸当てや防具に絶賛しているんだ」

「私の服がこれだからと、知っててやってるんでしょ。 ユカリやフェルトみたいに……なんで私だけ胸だけなの」

「エルフなんだから。 胸当てというのが俺としてはセオリーなんだが……というよりは部材が足んなかったのが本音だけどな」

「ふんっ。 本音なんて本当は逆なんじゃない!?エルフの真っ白な肌が見たかったんじゃ」

「おぇっ」

「何で吐くっ!!」

「もし見たくてもリフィーナっ、お前のは見たくないっ」

「ちぃっ。 こんなピチピチの肌見たくないなんてぇ」


 リフィーナは、少し筋肉がついた雪のような真っ白な肌を一回パチンと叩きコベソに見せつけている。

 ユカリやフェルトは、少し頭を下げ恥ずかしそうにリフィーナの姿を見ないようにしていた。


――――こうしてみるとエルフってのは羞恥心が無いのか?


「あるから。 この場のみんなだから出来るけど。 セレヌの時めっちゃくちゃ恥ずかしかったんだからね」

「俺、言ったか?」

「ハーデス。 あんた直視し過ぎ。 その目から私を卑下している気がするし」

「そうか。 俺の考えを無意識に口していたらすまんと思ってな」

「ちぃっ。 やはり思ってたんじゃ」


 頬を染めながら睨むリフィーナだが、それより横から立ち込める怒りのオーラが伝わり俺は、悪寒が走る。


「ハァァデェェスゥッ、どういう事ぉ?」

「ペルセポネ? どうした」

「こんな胸も無い、へそを出しても魅力も無い。 無い無い三拍子の女に色目使ったって事ぉぉっ?」


 まるで雷鳴が轟く程の歯ぎしりを車中に響かせる

ペルセポネの顔を平然とした顔で目を見つめる俺。


「何を言っている。 無い無い三拍子の女を見て哀れだと思っているんだが。 それがどうした?」

「あぁ……そうね。 無さすぎて確かに可哀想だわ。 あるのはハイエルフ……アホエルフの高貴な血と技量だけね」


 沈黙が走る車中。

 顔を真っ赤にして怒りに満ち溢れていたリフィーナだが、俺のペルセポネの会話を聞いた後今度は涙目となって震えている。


「酷くないぃぃ。 酷すぎるぅよぉぉ。 無い無いなんてコレでも女なのよ。 それにぃ無い無いと言うけど三拍子……三つじゃなくて二つだしぃぃ。 あとアホとか言い直さなくてもぉぉぉ」


 泣き崩れるリフィーナは、ゆっくりと席に戻りフェルトが抱き締めて慰めていたが、そのフェルトは、小刻みに震え笑いを堪えていた。


「フェルトも、泣いてくれてぇぇ」

「う、うん。 いぃっ良いのよぉっ。 ぷっ」

「ん……笑ったぁの?」

「一緒に悲しんでいるんだよぉ」


 沈黙が走るこの車中出なく笑いに堪えている車中であった。

 何度か魔物と遭遇しユカリ達が、倒してマナラに向かっているのだが、馬車の足取りが遅く速度がのらないらしい。ゆっくりと進む中コベソが、前方を確認し御者に伝える。


「マナラには入らず。 微かに街が見える程度に離れてるように停めてくれ」

「どうしてよ。 このままマナラに入った方が楽じゃん」

「マナラは、アンデッドか魔族どっちか、もしくは両方わんさかいるだろうよ。 そんな中何も考えなしに入れというのか?」

「私、そんな事言ってないわよ。 そのままマナラを突っ着ればアンデッド一網打尽しやすいんじゃ?」

「はぁ、まぁそうだな……。 どんだけの数がいるとか分からんのに入るのか?」


 言い合いになるコベソとリフィーナを他所に馬車は、マナラの街が捉えられる程の離れた所で停車する。


「ここぐらいですかね。 会頭?」

「もう少し近づけないか? よく分からん」


 御者の後ろからマナラの街を眺めるコベソとトンドは細目になっている。ゆっくりと前進する馬車は、一台分の距離を進んだところでコベソは御者に合図をすると馬車を停めその場に留まる。


「おい、あれなんだ」

「あぁ……。 あっ」


 目を薄青く光らせながら、遠くを眺めている顔が険しい物に変わる。目を丸くし口を軽く開けたまま動かない。

 それを見たユカリもコベソとトンドの視線の方向を視線を送り鑑識眼を使う。ユカリもまた目を薄青く光らせてる。


「何があった?」

「コベソにトンド、ユカリも黙ってないで答えてくれても良いのでわ?」


 無言のままマナラの街を凝視する三人の後ろから不安そうな声で状況を確認するフェルトとリフィーナは、自らも前のめりになり遠くを見回す。


「人ですね……。 鎧を着てる」

「あぁ、あれ魔族になった騎士と同じ」

「魔族になったってこの前言ってたヤツか。 カツオフィレの騎士団の団長が魔族に変わっちまったと言う」


 ユカリにトンド、コベソも淡々と話しているのを聞いて俺もだが、ペルセポネもミミンも見える所から遠くのマナラの街を眺める。


「まるで騎士団……いや軍隊だな」

「スケルトンソルジャーとかスケルトンナイトとか。 まだまだいるな」

「グール? グールファイター? 武器持ちとかいますね」

「何? 何? 変なのいるの?」

「ちょっともう少し詳しく教えて欲しいですわ」


 頭を動かして見回すリフィーナは、フェルトと共に三人の言葉が更に気になり出す。


「よし、このまま進む。 あれだ向こうさんは待ち構えてくれてるからな」

「どういうこと?」

「騎士の団長さんが二人。 その周囲に骨の戦士やらがわんさかいるって思ってくれ」

「なによ。 わんさかって」

「あの黒く見えるの、あれが全部アンデッド」

「げっ」


 コベソとトンドは、側面に避けると前方が良く見える。すると、マナラの街の前には黒い人集りが有り、それがアンデッドだとコベソは、言う。


――――鑑識眼を使用してみたい。このスキルは鑑定のスキル。やはり、ファンタジーの世界に来たなら使用出来たらどんなに良いだろうと今更ながら考えてしまうな。


 動き出す馬車は、ゆっくりとマナラの街に向かいユカリは、フェルトにリフィーナ、そしてミミンに目配りをして武器に手を掛けた。

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